ロックやR&B、レゲエなど多様なジャンルを独自のスタイルで奏でる4ピース・バンド、SPiCYSOL。今年初めにメジャー・デビューした彼らが、1stアルバム『From the C』を発表した。これまでの音楽性は健在に、バンドのポップな面に一層磨きのかかった楽曲が揃っている。その理由の1つに、バンド・サウンドの中でのギターの立ち位置に変化があったというAKUN(g)。ギター・フレーズ自体は減らしつつも、キャッチーなリフを聴かせたり、音色に絶妙なニュアンスを付けるなど、その存在感は増している。新作でのプレイにどんな変化があったのか、そして今作での使用ギターについて、熱く語ってもらった。
取材:編集部
少ない音数の中で
“自分らしいギター”を鳴らす
メジャー1stアルバム『From the C』は、前作の『The U-KiMAMA’N’i』(2020年)と比べて、全体的にギターがすごく前に出ている印象です。バンド・アンサンブルの中で、ギターという楽器の立ち位置が変わったように感じました。
アレンジの変化という意味では、先行配信シングルの「So What」くらいから段々と音数を減らしていったんです。それで、たぶん音数が一番少ないのが「Cry No More」ですね。この曲は僕が制作をリードしていたんですけど、あえて音数を極力減らす方向で作りました。それでもボーカルに熱量があるから、音圧は低くない。すごく良いバランスに仕上がったと思います。
音数を減らしていく方針を採ったことに、きっかけはあるのですか?
以前、ある作品のマスタリングをしていた時に、同じ音域内で楽器が被っていて、上げたい音を上げられなかったことがあって。今回はなるべく音域を被らせず、極力少ない音数でアンサンブルを作ることを最大のコンセプトにしたんです。それで参考にしたのが、LAの3人組シンセ・ポップ・バンド、LANYの楽曲でした。彼らの楽曲って音数が少ないんですよ。ギターはずっと鳴っているわけではなく、ホントにおいしいところで入ってくるんですよね。
ほかに前作から変わったことは、指でも弾くようになったことですかね。「Cry No More」のイントロはピックですけど、サビのフレーズは指で弦をハジいていて。ぶっちゃけジョン・メイヤーっぽいトーンが出したかったんです。そのイメージを表現するために、自分なりに工夫してアプローチしたのがポイントですね。だから「Cry No More」は、ジョン・メイヤーとLANYの影響が上手く重なってできた楽曲です。
「THE SHOW feat. Def Tech」を始め、ギターは全体的に“泣きのメロ”が多くなった気がしました。前作でも「Blue Moon」のイントロなどで聴けたアプローチですが、音色のニュアンスが少し変化したように感じました。
ギタリストとしての自分のアイデンティティを探していく中で、音色に関してはかなりこだわって研究していきました。というのも、聴いた人が一発で“これ、SPiCYSOLの音だ”って思ってもらえるサウンドを目指していたんです。僕はギタリストとして、速弾きなどを駆使してテクニカルに弾きまくるよりは、白玉一発の伸びた音や、チョーキング一発だけで魅せるプレイのほうがカッコいいと思うタイプなんです。なので、リード・パートはシンプルなラインなんですけど、ユニゾンだけではなくオクターブの上と下で同じフレーズを重ねて弾いてみました。
リードのサウンドは、アーニー・アイズレーのような1980年代のファンクやディスコ系の歪みにも聴こえました。
リードの音は……たぶんファズですね。前作のレコーディング終盤くらいから使うようになって。今はJHS PedalsのMuffulettaをライブとレコーディングで使い分けているんですけど、それも大きな変化です。この曲のレコーディングの時、Def TechのMicroくんが“ホント、国籍がわかんないギター弾くね”、“サンタナじゃん、これ”と言ってくれたんですよ。それがすごく嬉しかったです。枯れてるけど潤ってる……言葉でうまく表現するのが難しいんですけど、自分なりに良いニュアンスを表現することができました。そういったワールドワイドな音を出すことって、僕にとってすごく大事なことというか……1人のプレイヤーとして目標にしていきたいことですね。
あと、以前と圧倒的に変わったことと言えば、歌詞や曲の世界観をより意識して弾くようになったこと。ギターのフレーズに歌詞なんかないんですけど、その歌詞に合ってるようなフレーズを弾くように心がけています。「THE SHOW」もそうですね。ガンガン行くのではなくて、Def Techというキャリアを積んだアーティストと、もう8年やってきてスタイルが確立したSPiCYSOLが共鳴できる音楽になるよう意識しながらアプローチしました。渋いけど新しいというか……そういう感じになったと思います。
Nash Guitarsから
声がかからないかな(笑)
使用ギターについて伺っていきます。「ONLY ONE」のPVでは箱モノのギターを手にしていますよね。
はい。GrecoのES-335タイプです。
レコーディングでも使ったのですか?
レコーディングではNash Guitarsの赤いSTタイプを使ったと思います。でも、Grecoはほかの曲で使っていますよ。72年か73年製なんですけど、いい感じに歪んでくれてすごく気に入っています。それこそ前作の「Blue Moon」はこのギターで録ったし、「LIFE feat. 槙野智章」のパワー・コードでも使っています。
「THE SHOW」のMVではグレッチを使っていました。
MVで持っているのは、黒のブライアン・セッツァー・モデルですね。レコーディングで使ったのは、たしかNash Guitarsです。裏打ちのパートではフェンダーの69年製のストラトも使ったかな。冒頭の白玉はジャズマスターですね。レコーディング前にある程度“あのギターで弾きたいな”って決めるんですけど、そのギターがマッチしなかったは、大体Nashのギターでカバーしちゃいますね。結局それで全部録れちゃう(笑)。
そのほかにアルバムで使用したギターについて教えて下さい。
「So What」はジャズマスター。歪みパートは、ギター・テックさんから借りたグレッチのWhite Penguin。「NAISYO」や「From the C」は、1969年製のストラトです。
「From the C」ではアコースティック・ギターのサウンドも耳に残りました。
使ったのはBreedlove Guitarsのアコギで、チューニングを変えて弾いています。エレアコなんですけど、ちっちゃいボディなのにすごく乾いたいい感じの音だったので、生音をそのままマイクで録っちゃいました。それと、「LIFE」ではアコギのボディを叩いてる音や、オープン・チューニングでハーモニクスを鳴らして弾いたりした音も入れていますね。オーケストラチックな曲なので、「白玉でジャーンと弾くよりは、ハジくような音がいいんじゃないか」って思ったんです。その時に『奇跡のシンフォニー』という映画で、小さい男の子がアコギを叩いて演奏するシーンをふと思い出して……“あの感じが合うかな”って。
ライブの映像で、オレンジ色のテレマスターを持って映っているものがありますね。レコーディングでは使っていますか?
収録では使ってないんです。ちなみに、あれが初めて手に入れたNash Guitarsなんですよ。インディーズの1枚目のミニ・アルバム『To the C』のレコーディングで使ってから、ずっとメインでしたね。それでNash熱が出て、いろんなモデルを買うようになっていったんです。今でもけっこうライブで使っているんですよね。最近育ってきたから“またレコーディングでも使っていいかな”と思っているところで……僕、めっちゃNash持ってるでしょ? マジでNashから声がかからないかなと思ってます(笑)。
現在のメイン・ギターはダコタレッドのNash Guitars製STタイプですが、ピックアップ・ポジションはけっこう変えますか?
基本的に使うのはフロントのみですね。リアもハーフ・トーンも使わないです。ピックもずっと同じオニギリ型。アコギのストロークではいろんなピックを試したりしますけど、右手でニュアンスを変えて弾くようにしています。
弾くフレーズは減らしても
プレイヤーとしての
役割は増えた
本当に右手のタッチのニュアンスで変化を付けているのですね。
ここ1、2年で、カッティングの感じやピッキングした時の力の入れ方とか、右手の使い方が変わってきたんですよ。より気持ちが乗るような演奏ができているのは、たぶん宅レコでいろんなフレーズを弾くようになって、音色の出方やミックス具合も自然と意識するようになってきたからだと思っています。以前はシンセとユニゾンすることが多かったから“馴染むギター”ということを考えていたんですけど、できるだけ少ない音数の中で、主役になり得るフレーズ作りを突き詰めていった時に、自ずと右手の使い方の重要性に気づいたんですよね。やっぱりギタリストの特徴が出るポイントって、スライドとチョーキングと……右手のタッチだと思うんです。つまり、“歌わせ方”。より一層ギターで歌うような演奏になるよう意識しています。宅レコでいろいろと試行錯誤してるうちに、右手が鍛えられた感じですね。
具体的に言うと、強弱や当て方などですか?
全部ですね。強弱もそうだし、ピックの角度もそうだし、ミュートの具合もそう。特にミュートに関しては、空間系のエフェクトが引き立つように聴かせることもできます。セッティングを変えなくても、“ここはあまりリバーブ感を出したくない/出したい”というのを、右手でコントロールできるようになった気がします。だから僕はライブで、カッティングも単音のフレーズもリバーブを同じ設定にして、ずっとかけっぱなしにしているんですよ。それで、“もうちょっと歪ませたいな”と思ったら、音色を変えずに指弾きに変えてみて、ちょっと歪んだ感じを演出してみたり……という感じでやっていますね。指弾きに関しては、もっといろんな表現方法を追求していきたいと思っています。
コロナ禍だった1年半、家でギターを弾いて、録ってという作業をくり返していたのですか?
そうですね。ステイホーム期間中、宅レコのおかげで以前に比べて、曲全体を見られるようになりました。自分でも“こういう風に録りたい”というイメージを具体的に提案できるようにもなったし、曲によって誰を主役にするのかということを、より一層考えられるようになりましたね。それによって、各パートの目立たせ方もちょっとわかってきました。例えば、トランペット/キーボードのPETEが鍵盤を弾くのか、トランペットを吹くのかで、僕がやることも変わる。なのでギターに関しては、“弾くフレーズ自体は減っているけど、プレイヤーとしての役割は増えた”という感じになってきました。
最後に、今後の予定をお願いします。
久しぶりの全国ツアーを絶賛回っているところで、残すは大阪と名古屋の2本です。自分で言うのも変なんですけど、かなりいい仕上がりになっているので、どのギターを使っているのかも含め、お楽しみに! 会場でお待ちしてます。
作品データ
『From the C』
SPiCYSOL
ワーナー/WPZL-31908/9/2021年10月6日リリース
―Track List―
【CD】
01.So What
02.かくれんぼ
03.Cry No More
04.THE SHOW feat. Def Tech
05.LIFE feat.槙野智章
06.NAISYO
07.あの街まで
08.From the C
09.ONLY ONE
10.かくれんぼ(Stay Home ver.)
【DVD】
<2020.11.23 SPiCYSOL One Man Live “From the C” @茅ヶ崎市⺠⽂化会館>
01.Itʼs Time
02.Traffic Jam
03.Honey Flavor
04.The Night Is Still Young
<2021.3.5 SPiCYSOL QUATTRO TOUR 2021 @渋⾕CLUB QUATTRO>
01.Coral
02.Mellow Yellow
03.ONLY ONE
04.After Tonight
05.AWAKE
―Guitarist―
AKUN