パット・マルティーノが提唱する“マイナー・コンバージョン”とはどんなアプローチ手法なのか。ギタリストならではの発想と言えるこの考え方について、詳しく紹介していこう。
文/譜例作成=久保木靖
マイナー・コンバージョンとは一体どんなメソッド!?
マイナー・コンバージョンとは、“あらゆるコードをマイナー・コードと想定してスケール選択をする”というもの。例えば[Dm7-G7-C△7]というコード進行の場合、一般的なジャズのアプローチではDm7でDドリアン、G7でGミクソリディアン(もしくはオルタードなど)、C△7でCイオニアンとスケール選択をする。
ところがマイナー・コンバージョンを使うと、これは一例だが、Dm7でDドリアン、G7でもDドリアン、C△7でAドリアンといった具合に、ドリアン・スケールのポジションをずらして弾いていくことが可能となるのだ。
ギターという楽器の構造上の特徴を踏まえると、これは手癖的なフレーズをあらゆる場面でくり出すことができるということにほかならず、ギタリストにとっては最大限のメリットがある。
マイナー・スケールの選択に関しては、ドリアンのほかにもメロディック・マイナーやハーモニック・マイナーなどの可能性もあるが、ここではマルティーノが最も多用するドリアンに絞って説明していく。
定番のポジション&頻出ライン
図1はAドリアンを弾く際のマルティーノの定番ポジション。そして、このポジションでのフレーズ例がEx-1だ。クロマチック・ノートが挟み込まれるために少々わかりにくいが、実際に「Sunny」や「Days Of Wine And Roses」ほか、それこそあらゆる曲で何度も登場する、いわば“黄金フレーズ”である。もちろん、このドリアン・フレーズは、コンバージョンの必要のない、例えば「Impressions」のようなモーダル・チューンにも使われる。
図1は1弦にルートを見ているが、ほかにも2弦や3弦にルートを見るポジションもあり(図2、図3)、それぞれに頻出ラインがあることを付け加えておく(Ex-2、Ex-3)。
スケール選択とその工夫
使用スケールをドリアンだけに絞った場合、Key of Cの各ダイアトニック・コードに対するマルティーノのスケール選択は以下のようになる。
コード | スケール |
---|---|
C△7 | Aドリアン、Dドリアン |
Dm7 | Dドリアン |
Em7 | Eドリアン |
F△7 | Dドリアン |
G7 | Dドリアン、Fドリアン、A♭ドリアン |
Am7 | Aドリアン |
Bm7(♭5) | Dドリアン |
なぜこのようなスケール想定が可能なのか。一部を説明すると……
C△7では、Cイオニアンと同じ音列(始点が違うだけ)であるDドリアンはもちろんのこと、代理コードであるAm7と見なすことでAドリアンも選択できる。
G7は[Dm7-G7]とツー・ファイブに分割することができるため、G7そのものをDm7と見なし、Dドリアンが使用可能。また、G7をCのサブドミナント・マイナーFmと想定してFドリアンを弾く場面も多々あり、こうすることで結果的にG7に対して[♭9,♯9,11,♭13]というテンション感を与えることができる。さらに、A♭ドリアンを選択すると、G7に対して[♭9,♯9,♯11,♭13, M7]という全オルタード・テンション+M7thという極めてアウト感の強い響きが得られる。
……という具合。ちなみに、Em7では本来Eフリジアンだが、Eドリアンを選択することもある。一部スケール・アウトする音が含まれるが、その強引さがまた“スタイル”として個を際立たせているわけだ。煩雑になってしまうため、ほかの説明については割愛させていただく。
実際のコード進行での活用法
Ex-4は「Days Of Wine And Roses」の前半部分をマイナー・コンバージョンした例。試しに、Ex-1〜3のフレーズを適宜ポジション選択して弾いてみてほしい。さすがに“流れ”としては無理があるが、十分に機能することがおわかりいただけるはずだ。
ただ、誤解しないでいただきたいのは、マルティーノは常にマイナー・コンバージョンをしているわけではないということ。コード分散、オルタードやコンディミによるバップ・フレーズ、フリジアンやリディアンの節回し、ブルージィな音使い……そういったさまざまなアプローチの中で使われているからこそ効果的なのである。アドリブのアイディアのひとつとして取り入れてみてはいかがだろうか?
『ギター・マガジン2022年1月号』
特集:もしもペダル3台でボードを組むなら? Vol.2
ギター・マガジン2022年1月号では、パット・マルティーノの追悼特集として『両手に神が宿った瞬間。〜1970年代のミューズ期作品に酔いしれる〜』を掲載。絶頂期の1つである1970年代のミューズ・レーベル時代を振り返りながら、ジャズ・ギター・ジャイアントを偲びたい。ぜひギタマガWEBの特集とともに読んでみてほしい。