Interview|三船雅也&岡田拓郎(ROTH BART BARON)前編:新たなギター表現を求めて。 Interview|三船雅也&岡田拓郎(ROTH BART BARON)前編:新たなギター表現を求めて。

Interview|三船雅也&岡田拓郎(ROTH BART BARON)
前編:新たなギター表現を求めて。

時代を描くフォーク・オーケストラ=ROTH BART BARONが、最新アルバム『無限のHAKU』を完成させた。コロナ禍の憂いに対して真摯に音で向き合うことで生まれた11の楽曲を収録。今回、中心人物であるフロントマンの三船雅也、バンドの表現に欠かせないギタリストである岡田拓郎の2人に、作品制作について話を聞いた。前編と後編の2回に分けて、お届けしよう。

取材:尾藤雅哉(Sow Sweet Publishing

ギターと僕は“溶け合ってる”感覚に近い(三船)

資料を読むと、今作『無限のHAKU』は“11章の物語”というコンセプチュアルな内容とのことですが、いつ頃から制作を始めたのですか?

三船雅也 2020年末に行なっためぐろパーシモン大ホール公演の真裏では、ちょっとずつ制作を始めていました。それで、その次のツアーの合間とかに“作らなきゃな”って漠然と思いながらギターをポロポロ弾き出す、みたいなことをやってました。

作曲はギターで?

三船 曲によりますね。おもむろに録音したギター音をループさせたり、あえてギターのコードをほかの楽器に直してみたりして。たまにイレギュラーで、全然違う、よくわかんないサンプルのループから曲作りを始めたりすることもありますけど。

岡田さんはどういう形で制作に関わっているのですか?

岡田拓郎 いつも録音の前に急にパッと呼ばれて、“こういう曲やるよ”って一気に10曲くらい一緒に演奏して、2回目にスタジオに入るときには録り始めてる、みたいな感じ。デモとかも送られてこないことが多いし……今回は送られてきたか(笑)。

三船 前作、今作はちゃんと送ってます(笑)。けっこう前もって送ってます。初めてレコーディングに参加した時のトラウマが強過ぎて、いまだにずっと言われる(笑)。

それはギタリストとしての岡田さんの瞬発的な表現力が素晴らしいから、というところもあったりするわけですか?

三船 岡田くんとはかれこれもう10年近い仲なんですけど、出会った時から、こんなに奥深い人間は東京のバンド・シーンにいなかったし、全国を回るようになってもこんな人なかなかいない。

 全部知ってるわけじゃないですけど、彼が作ってきた音楽やクリエイティブを見てる中で、出てきたものっていうものに、けっこう信頼をしているっていうのがすごいあって。全然説明しなくても、1言えば10わかってくれるっていうか。さすがに昔に突然呼び出して何曲もやらせたのはひどいなと反省しています(笑)。

岡田 ROTH BART BARONの曲って、僕はすごくアプローチしやすいんですよ。音源では複雑に聴こえるかもしれないけど、本当にシンプルなフォーク・ソングのフォーマットで、アコギ1本で弾き語れるような曲がシンプルな1本の線で描かれてることが多くて。煩わしいテンション・コードの指定も、取って付けたような装飾的なコードもなくて、ギタリスト的には、遊べる空間をいつも作ってくれる、実験場みたいな感じになってますね。

 ビートやテクスチャーは作品ごとに変化し続けてきましたが、シンプルに、“マイクがなくても、ギター1本でどこで歌ってもいい曲”っていうのは、初めて会った時からずっと変わっていないところです。

ロットの楽曲は弦楽器を始め、いろんな楽器が鳴り響いていますが、その中でギターの役割をどう意識していますか?

岡田 ロットの時は、僕はいつも“頭真っ白”がテーマで弾いてる。だってロットってさ、全員やりたい放題だよね? “ここはソロ”とか決めてなくても、勝手にそういうふうになってるし。だから頭が真っ白な状態でも音楽に入っていける。だから、毎回、ライブも録音も演奏が違う(笑)。曲にそういう余白があるっていうか、根っこがしっかりしてるから、ギタリストとしてはどうにでも遊べる。

三船雅也(vo,g)
三船雅也(vo,g)

三船さんは、ギターの役割についてどう考えていますか?

三船 “この曲にはそぐわないな”って時にはギターが入っていない曲もありますけど、多くの曲をアコギで作ってるので、ギターはマスト・アイテムっちゃマスト・アイテムなんですよね。

 今はラップトップでいろんなことがデザインできるけど、ギターがコアとして中心にあって、そこからほかの音の鳴らし方を組み立てていくのがいつもの方法なので。役割っていうと……“俺が弾かないでどうするの?”みたいな感じはありますよね(笑)。

岡田 あははは(笑)。

三船 楽器の特性としては、和音とコード感が同時に出て、ポロポロ弾けて、パーカッシブにリズムが刻めるみたいなところはありますけど、観念的に言うと、ギターと僕は“溶け合ってる”感覚に近いんですよね。だから、“触ってなくても弾いてる”……って、仙人めいた話になっちゃうんですけど(笑)。

 とりあえずロットの楽曲は、ギターがコアになっています。それがないとほかの楽器が破綻する土台……って言うとちょっとおかしいけど、コアなんだと思います。そいつがなくなるとほかの楽曲もバタバタバタってなっちゃうっていうか……そういう感じがしますね。

作る音楽に関しては、
今の時代に何ができるかという
意識は持っていたい(岡田)

ギター的な話でいうと、ロットの楽曲は、わかりやすいリフや、メロディのあるソロがある感じではないですよね。

三船 弾いていて楽しくない楽曲ではあると思う(笑)。

いや、没入感もあるし、どんなアプローチをしてもいい余地があるので、すごく楽しいと思います。

岡田 でもそれ、ロットの音楽が特殊なわけじゃなくて……何が普通かとかはわからないけど、僕たちが聴いてきたアメリカの音楽って、みんなこんなもんだよ(笑)。

三船 リフとかって、すでに発明されているものじゃないですか。だから“The リフ”みたいなことを作るとなると、コカ・コーラやペプシ・コーラの3rdウェーブを作るみたいな気持ちになっちゃうっていうか。なんで今、真似する必要があるのかって。リフっていう概念、アイデアを楽曲に取り入れた時点で、70年代の人たちのアイデアに勝てない気がしててるんです。よほど超える何かがないと、自分はやる気が起きない。

 本作の「みず / うみ」のアルペジオのところはリフとも言えるかもしれないけれど、“リフの概念を超えたい”という意識もありました。せっかくギターで、ロック・ミュージックやフォーク・ミュージックをやるのであれば、今まで誰もやっていないギターのサウンドやアプローチを発明しないと、先人たちに恩返しできない。だから既成のクラシカルな、いわゆる“ギター”ってサウンドが欲しい人なら、ほかの楽曲を聴いてくれっていうか。それは難しいんですよ。僕らも含め、今の人たちは半歩先のことをやろうとしてるわけだから。

岡田 クリームとか、レッド・ツェッペリンとか出てきた時って、たぶん“あんなギター奏法間違ってる”とか……。

三船 絶対言ってるよね(笑)。

岡田 ロックって70年代に形ができ過ぎているんですよね。もしくはロックにおけるギター奏法はこういうものだ!と無意識に植えつけられてしまったのかもしれない。ニューウェイヴの時に面白い奏法はあったけど、それはいわゆるギター・キッズには響かないものだったかもしれない。

 でも、ギターの奏法の歴史とロックの歴史って超密接していて。そのうえで、2020年代に音楽を作るのであれば、50年前のクリームの、ああいう雰囲気をまたやるかって言ったら……僕はめちゃくちゃ好きだけど、あまりに敬意がないって思っちゃう。コピる素晴らしさもあるし、楽しさもあるけどね。2人とも古い音楽が好きだけど、作る音楽は今の時代に何ができるかということにある程度意識は持っていたいよね。

エレキ・ギターは100年近く前に作られて、ほぼ仕様は変わっていないけれども、いまだに表現者のアプローチの仕方によって可能性がある楽器でもあります。2人がアプローチしているのは、表現方法を前に進めることなんですね。

岡田 この3、4年、ギター、超弾きたくなかったじゃん? 僕たちって(笑)。

三船 そう、すごく弾きたくなかったんですよ。僕ら。

岡田 やっぱりトラックっぽい曲が中心の世界になったところで、ギターってなんて古臭い楽器なんだって思って。ネオ・ソウル的な、スティーヴ・レイシーみたいな新しさはあるかもしれないけど、僕はときめかなかった。三船くんとも、ロットの前作3作くらいは同じような話をしていたと思う。ここ1、2年というか、コロナ以降、自分の中でいろんな価値観が変わったおかげで、ストレートにギターを弾くのは楽しいなっていうモードにはなってきているんです。今回はそれが詰まった感じもしていて。

三船 確かに“ギターって、なんで50年進化しなくて、みんな同じことやってんだろう?”みたいなことは思っていた。

岡田 エフェクターひとつとってみても、ほんの数年前までもっと種類は限られていたし、ハンドメイド系のものも“ジミヘンのファズを再現しました”みたいなものか、もしくはもっとオーディオ・マニアの測定器信仰的な……なんというかギター弾くのは好きだけど音楽のことは興味なさそうとでもいうのか……音楽的な創作欲を擽られるような視点のものは少なかったよね。

三船 そうそう。それでいて、ビート・ミュージック全盛の世界で、どうやったらギターって新しくなるんだろうみたいな。それがすごくむず痒い。ギターを弾いてる自分が、すごい取り残されちゃった感じがして、しばらく弾けなかったんです。

 でも、ようやく自分もまたギターを弾く喜びみたいなのが湧いてきたんです。エレクトロニックなものは、電気がシャット・ダウンしたりとか、世界が大変なことになっちゃった時は使えなくなっちゃうけど、ギターはマイクがなくてもできるし、すごくオーガニックなものだなって。ただフレットに弦が6つ並んでいて、それを弾いて、僕の場合は一緒に歌うとか。

 1年ずつアルバムを作っているけれど、今回の作品はギターを新しく弾く喜びが詰まっている。岡田くんと会うたびに“どうやったら俺たち新しくなれるだろう?”と話していたことが、少し形になっていると思います。

岡田拓郎(g)
岡田拓郎(g)

絵描きで言えば印象派です、僕は(笑)
(岡田)

譜面化しづらいアプローチが多いと思いますが、よく聴くとすごくギター・アルバムだとも思います。「みず / うみ」は、ギターの歪みが音像の背景にもなっているが、包み込んでいるような感じもある。アームを使ったりして、黒鍵と白鍵で区切られていないところをギターで表現するような、ギターにしかできないようなことを模索されるようにも思います。岡田さんの歪みのアプローチも、すごく細かいところまで考え抜かれているように感じますし。

岡田 そうですね。絵描きで言えば印象派です、僕は(笑)。

三船 かなり(笑)。印象派にしては音がソリッドだけど。いい音してる。

岡田 歪み、めちゃくちゃセンスが問われるし、いいギタリストって、個性的な歪みを持ってる。めっちゃいい曲でも、歪みが惜しいって思うとそればかり気になっちゃう。ロットの時は、足下で5段階ブーストできるようにしているんです。歪みこそギター特有の表現方法というか。だってよく考えたら、ゲイン突っ込んで歪ませるって……事故ですもんね(笑)。ポスプロ的にやることはあっても。

三船 ずっと事故が鳴ってる。

岡田 だからロットくらいのスケールじゃないと、こういう5段階ブーストをさせる必要がないことが多いけど、ロットの曲はその5段階ブーストをやっても崩れ落ちないくらい強度があるよね。sus4、9thが連続する曲に、そこまでザラザラの解像度をシビアにコントロールするところまで神経が回らないし必要もない(笑)。

歪ませると、コード感が出づらくなりますからね。ちなみにそれは、“森は生きている”(岡田が在籍していたバンド。2015年に解散)の頃はそういうアプローチではなく?

岡田 三船くんもよく覚えてると思うけど、森は生きているの時は、ノー・エフェクターでやってしました。“エフェクターを全部川に捨ててやる”みたいな感じで、ライブの時にギター・ソロになったらTWIN REVERBのボリュームを10にして、ギター・ソロが終わったら3に戻すみたいな。でもロットでは、いわゆるギターっていうよりは、ギタリストとしての質感だったりを求められているんだろうなって思って、それから歪みの濃淡だとか、エコーの質感だとかにハマり始めて。

 もともと僕、スーパー・アナログ主義、ビンテージ主義だったけど、今のようにデジタルとアナログの両方を意識するようになったのは、自分にとってすごい大きな変革だったかな、改めて。一気にペダル増えたもんね(笑)。ライブ前に買いに行ったりとかして。

三船 会う度に増えていく。カール・コードでフェンダーのアンプにSGを直でつないで、ソロの時はうしろを振り向いてアンプをコントロールしていた岡田くんが、こんなに変化するなんて思わなかった。今は会う度に、“このエフェクターがいいんだよね”、“あ、これすごいね”みたいに情報交換をしながら、お互い勉強して。前に、カナダのアレ……ナントカ&ナントカ……あの黒い、すげえ良い音がするやつ。

岡田 UNION Tube & Transistorだね。最高の名前だよね(笑)。

三船 ジャック・ホワイトとかのテックをやってた人のメーカーなんだよね。そのハンド・メイド・エフェクターの音のよさに、2人で“おおっ!”って感動したりして。好奇心のまま2人でいろんなものを夢中で食べて、一緒に成長してきた3、4年でした。誰も使いこなせていないようなとんでもない空間系のペダルを買って、“これ、どうやったら使えるんだろうね?”みたいなのを話しながらお互い成長していったし、それによってすごく変わっていく自分もいました。

 たぶん僕ら、好奇心が強くて。アナログが好きな面も持ってるんですけど、お互いギタリストとしてなにかを変えようとした結果、今の感じになっているんだと思います。

作品データ

『無限のHAKU』
ROTH BART BARON

SPACE SHOWER MUSIC/PECF-1187/2021年12月1日リリース

―Track List―

01. Ubugoe
02. BLUE SOULS
03. あくま
04. みず/うみ
05. Helpa
06. HAKU
07. Eternal
08. EDEN
09. 霓と虹
10. 月光
11. 鳳と凰
12. 霓と虹 (Rostam Remix)

―Guitarists―

岡田拓郎、三船雅也

INFORMATION

■ROTH BART BARON Tour 2021-2022『無限のHAKU』

2022年1月29日(土)石川 金沢 ARTGUMMI【公演延期】
1月30日(日)静岡 磐田 BARN TABLE【公演延期】
2月5日(土)札幌 モエレ沼公園”ガラスのピラミッド”
2月6日(日)札幌 ペニーレーン24
2月11日(金)福岡 BEAT STATION
2月12日(土)熊本 早川倉庫
2月13日(日)鹿児島 SR Hall
2月18日(金)大阪 梅田 CLUB QUATTRO
2月19日(土)香川 高松 DIME
2月20日(日)広島 CLUB QUATTRO
2月25日(金) 名古屋 THE BOTTOM LINE
2月26日(土)仙台 darwin
<Tour Final>
4月9日(土)東京 国際フォーラム ホールC

TICKETS NOW ON SALE
https://www.rothbartbaron.com