追悼 ジミー・ジョンソン 遺作『Every Day of Your Life』インタビュー 追悼 ジミー・ジョンソン 遺作『Every Day of Your Life』インタビュー

追悼 ジミー・ジョンソン
遺作『Every Day of Your Life』インタビュー

2022年1月31日、シカゴ・ブルースの伝説がまた1人、この世から旅立った。ジミー・ジョンソン、享年93。また、弟でありシカゴ・ソウル/ブルースの重鎮=シル・ジョンソンも2月6日にあとを追うように天国へと帰っていった。

この2人の追悼企画として、まずはジミー・ジョンソンの遺作『Every Day of Your Live』についてのインタビュー記事を公開しよう。

当時すでに91歳でありながらも、エネルギーに満ちたギター・プレイを届けてくれたジミー。その若さの秘訣、シカゴ・ブルース黎明期の記憶、そしてブルースという音楽の魅力について語ってくれた。

彼の音楽を聴きながら、その貴重な言葉の数々を噛み締めてほしい。

取材=福崎敬太 翻訳=トミー・モリー 協力=ケヴィン・ジョンソン(デルマーク・レコード)
Photo by Timothy Hiatt/Getty Images
※本記事はギター・マガジン2020年6月号から抜粋/再編集したものです。

マジック・サムはご近所さんで
とてもグレイトな男だった

91歳での最新作『Every Day of Your Life』は素晴らしいブルース・アルバムですね。まず始めに、こんなにも若々しいボーカル、燻銀のギター・プレイを保ち続ける秘訣を教えてもらえますか?

 僕のプレイと歌が若々しいのは今でもずっと演奏し続けているからで、家でも常にギターの練習をしているんだ。あと、ギターやボーカルに限らず自分をこうも若く保っていられる一番の理由は、おそらく私が誰に対しても親切に接しているからだと思う。誰かに親切にすることは、自分自身をさらに素晴らしいところに連れていってくれるものだ。それともちろん、ヘルシーな食生活を送ること、ドラッグやアルコールといった危険なものから距離を取ること、そして十分な休息と適度な運動も若さを保つためには大切だ。

金言をありがとうございます! あなたはマット・ギター・マーフィーと幼い頃から交流があったそうですね。

 マット・マーフィーと私はとても仲の良い間柄で、ミシシッピ州のホリー・スプリングスでともに育った。私たちは一緒に野球をしたりして、マットは一塁手として活躍し、とにかく打ちまくっていた。彼はボクサーやレスラーとしても良い筋をしていたよ。まだ私たちが幼かった頃、ジョージとベティー・テリーという老夫婦が地元の子供たちに解放していた“Down in the Bottom”と呼ばれる場所があったんだ。その場所があったおかげで子供たちは何のトラブルもなく、安心して音楽をプレイしたり遊ぶことができたのさ。

当時のアメリカで子供たちが安心できる場所があったのは素晴らしいですね。マジック・サムもあなたや弟のシルとマックと幼い頃からの顔馴染みだと思いますが、彼との思い出も教えて下さい。

 マジック・サムはご近所さんで、とてもグレイトな男だった。まだ彼がスターになる前、家で弦を1本だけ張ったギターをプレイしていたのを見たんだ。それじゃ可哀想だと思って私が残りのギターの弦をあげたところ、彼は実にうまくプレイしていたよ。

あなたがギターを始めたのもマジック・サムの影響があったそうですね?

 私が初めてギターを手に入れたのは1950年代で、それはビリー・ボーイ・アーノルドから譲ってもらったものだった。当時私はシカゴで10年ほど溶接工をやっていて、稼ぎもよかったから特にギタリストになろうとも思っていなかったんだ。でもある時、シカゴからちょっと離れたインディアナ州のゲーリーという街のF&Jラウンジというクラブで、マジック・サムのライブを観に行った。あの時は本当に驚かされたよ。だってクラブ中の女性が目をハートにして彼を観ていたんだから! そこで“ひょっとしたら私にもできるんじゃないか?”、“彼と同じくらいの成功は手に入れられるのでは?”と思ったし、特に女性にモテるっていう点がポイントだったんだ(笑)。マジック・サムの人気は高まっていき、「All Your Love」でヒットを飛ばした。確実に彼から影響を受け、私は音楽をもっと真剣に取り組むようになったんだ。だから本当にギターをプレイするようになったのは29歳になってからなんだよ。

ギターを初めた頃はどういった曲をコピーしたんですか?

 私が初めて学んだブルースの曲はジュニア・パーカー(sax)のヒット曲「Next Time You See Me」だね。たしかパット・ヘアー(註:ハウリン・ウルフやマディ・ウォーターズらとも共演したブルース・ギタリスト)のプレイだ。

フレディ・キングが
ES-335を貸してくれたんだ

あなたのギターはダウンホームな雰囲気のシカゴ・ブルースじゃなく、R&Bやジャズも入った洗練されたスタイルだと感じます。音楽的な勉強はどのようにしていったんですか?

 ボストン・ミュージック・カレッジというシカゴにあった音楽学校に週2回通い、そこで基礎的な部分を学んだ。ポルカやワルツといったものをどうやってプレイするのか学んだよ。しかし私が本当に学びたかったのはジャズで、レジー・ボイド(編注:チェス作品で多くのギターを弾いたレジェンド)の家に通ってさまざまなコードやメロディの理論を教えてもらった。彼のレッスンで学んだことや影響は大きくて、それをブルース・ギターに取り入れていく中で私のプレイ・スタイルができあがっていったんだ。

レジー・ボイドがレッスンをやっていんたんですか?

 レジーはギターの先生としてかなり影響力が大きくて、たくさんの有名なギタリストたちを教えていたよ。その中にはマット・マーフィーとフェントン・ロビンソン、ルーサー・タッカー、レイシー・ギブソン、ルイス・マイヤーズ、ジェームズ・ウィラー、デイヴ・スペクター、ここでは書ききれないほどたくさんの人たちがいた。レジーはレコーディング・ミュージシャンでもあって、チェス・レコードでのレコーディングにも数多く参加していた。彼はチャック・ベリーの「Johnny B. Goode」で、当初あの有名なギター・リックを録音する予定だったくらいの人物だからね!

レジーのほかにはどんなギタリストから影響を受けてきましたか?

 最も影響を受けたギタリストは、B.B.キング、T-ボーン・ウォーカー、アーサー・“ビッグ・ボーイ”・クルーダップ、そしてオーティス・ラッシュだね。クルーダップとジョン・リー・フッカーは私が初めて耳にしたブルース・ギタリストだったと思う。特にB.B.には大きく影響されていて、メンフィスに住んでいた時はWDIA(メンフィスのラジオ局)で彼が担当していた番組を聴きながら歌ったり、ペプチコン(編注:番組スポンサーだった滋養強壮剤)のコマーシャルでブルースをプレイするのをよく聴いていた。「Sweet Little Angel」や「3 O’Clock Blues」は私のお気に入りの曲だったね。

シカゴで一緒にプレイした人だとどうですか?

 マジック・サム、フレディ・キング、オーティス・ラッシュは3人ともナイスガイで、私は幸運にも彼らと一緒にプレイする機会があったし、影響もかなり受けたよ。オーティス・ラッシュを初めて観たのは弟のシル・ジョンソンと一緒に行った708クラブでのライブで、一発で彼のプレイにはやられてしまった。

フレディとの交流もあったのですね。

 あぁ。私の初めてのギグはスリム・ウィリスというハーモニカ・プレイヤーのライブで、あれは58年のことだった。シカゴのウエストサイドにあったシーリー・クラブとインディアナというクラブで、毎週日曜日の夜に5〜6時間ぶっ続けでプレイして10ドル手にすることができたんだ。その最初のギグで、セット間の休憩中に私のギターが盗まれてしまったんだよ。でも、幸運にもその時フレディ・キングがオーディエンスの中にいて、彼はすぐ近所に住んでいたから家にかけ戻ってギブソンのレス・ポールを持ってきてくれたんだ。それを貸してくれて、ギグを無事にこなすことができた。しかも彼は、次のギターを手に入れるまで私が困るだろうと、自分のギブソンES-335を私に貸してくれたんだ。

チョーキングを少し減らして
ピッキングにフォーカスしてみた

最新作『Every Day of Your Life』ではあなたのソウルフルなギター・プレイがたっぷりと聴けます。どのようにメロディを考えながら弾くのがポイントなのでしょう?

 今まで生きてきて私が感じるのは、ギターをプレイするのは話をすることと似ているということだ。誰かと会話する時、実際に言葉にする前に何をしゃべろうとするのか考えるものだろう? ちなみに今回のレコーディングでは私はチョーキングを少し減らして、もう少しピッキングについてフォーカスしてみたところがあったね。

今作ではフェントン・ロビンソンの「Somebody Loan Me A Dime」をカバーしていますが、この曲をピックアップした理由は?

 私はフェントンのプレイが好きだし、彼の楽曲も大好きなんだよ。「Somebody Loan Me A Dime」だけでなく、私が『Bar Room Preacher』(83年)で録音した「You Don’t Know What Love Is」も私は常に好んでプレイしてきた。フェントンはすべての曲を彼独自の傑出したスタイルでプレイしていて、私も彼と同じように自分なりのスタイルで彼の曲をプレイしてきたことはとても重要なポイントだよ。

「Rattlesnake」はほかの収録曲とは少し違った雰囲気のグルーヴィな楽曲で、あなたのギター・プレイもかなりファンキーですね。

 この曲は12年前に書いた気がするね。アルバムを作るたび、もしくはライブのたびに必ず異なるスタイルの曲を混ぜて、セットリスト全体を面白いものにさせたいと思っている。フィーリング、コード、メロディが異なる曲があることによって私自身プレイしていて楽しいし、リスナーにとっても楽しめるものになるんだ。

今作は『Johnson’s Whacks』(79年)でも参加しているリコ・マクファーランド(Rico McFarland)もプレイしていますが、彼はどのようなギタリストですか?

 リコはファンタスティックなギター・プレイヤーで、79年に私と一緒に『Johnson’s Whacks』をレコーディングした時の彼はまだ10代だった。彼はグレイトなミュージシャンだっただけでなく、ジェントルマンでとても信頼できる男だよ。それにリコを始め、チコ・バンクス、ラリー・バートン、マイク・ウィーラー、デイヴ・スペクターといった素晴らしいリズム・ギタリストたちと一緒にプレイできたことを私はとても光栄に思っているんだ。彼らはみんなそれぞれのスタイルを持った優れたギタリストで、私を支えるプレイについてよく理解していた。彼らのグレイトなリズム・プレイは、弾くべきところと控えるべきところをしっかりと理解していて、音楽をただ押し付けるように聴かせるのではなくて、然るべき形でリスナーに届ける術を知っていたんだ。

“何をプレイしないべきか”ということも
大切に学んでみてほしいね

今まではギブソンのES-335やES-355の印象が強いですが、新作のジャケット写真ではポール・リード・スミスのギターを持っていますね。あなたのこれまでのギター遍歴を教えてもらえますか?

 最初のギターは先ほど述べたケイのファットでビッグなアコースティック・ギターで、マジック・サムのグレイトなサウンドを聴いて真剣にギターを取り組むようになってから手に入れたのが、175ドルで買ったフェンダーのストラトキャスターだった。その後はキャリアをとおしてほとんどギブソンES-335をプレイしてきたね。ジャケット写真で手にしているポール・リード・スミスは15年ほど前に手に入れたんだけど、それは軽量だったからなんだ。さらに軽量なPRSマッカーティ・モデルも所有している。歳を重ねると誰しも軽い機材を求めるものなんだよ(笑)。

ギター・アンプはこれまでどのようなものを使ってきましたか?

 70年代頃はフェンダーのアンプを使っていて、ある時からミュージック・マンやメサ・ブギーをトライするようになった。メサ・ブギーはかなり重かったね。で、ここ3〜4年ほどはQuilterのアンプを使っているよ。彼らはカリフォルニアの新しい会社で、ソリッドステートなのに真空管のようなサウンドのアンプを作っているんだ。私が使っているのは12インチのスピーカーに300W出力のモデル(おそらくBLOCKDOCK 12HD)で、かなり軽量だよ。

ちなみにあなたはエフェクト・ペダルなどを使っているイメージはないのですが、何か使ったことはありますか?

 海外、特にヨーロッパでプレイする時は借りられるアンプがどういう状態かがわからないから、ペダルを用意しているね。ロンドンのメーカー(リアルトーンFX)が作っているFat Larryというオーバードライブ・ペダルがお気に入りだ。たまにアンプのうえに置いてかけっぱなしにして、一定のトーンが得られるようにしている。こういう使い方だから、足下に置いて使うようなことはないね。

最近のブルース・シーンについて、何か思われることはありますか?

 若いミュージシャンの中にも素晴らしいブルースをプレイしている人たちは何人かいる。しかしディストーションを加えすぎないことと、あまりにも音楽の規範からはずれてしまったものをプレイしないことを注意しておく必要がある。もちろんブルースで実験して独自のスタイルを作るのは良いことだが、あまりにもやりすぎてしまうとフィーリングやソウルを奪ってしまうことになるからね。

日本にはたくさんのブルース・ファンがいます。特にシカゴ・ブルースはあこがれの対象で、2020年になってあなたの新作が聴けることを幸せに思っています。最後に、そんな日本のブルース・ファン、ブルース・ギタリストたちにメッセージをいただけますか?

 日本のブルース・ギター・ファンたちに伝えたいのは、常にグッドワークをすること、そしてブルースを絶やさないでほしいということだ。“何をプレイするか”ということと同じくらい、“何をプレイしないべきか”ということも大切に学んでみてほしいね。

ギター・マガジン2020年6月号
俺とギターとライブハウス

本記事はギター・マガジン2020年6月号から抜粋/再編集したものです。

作品データ

『Every Day of Your Life』
Jimmy Johnson

P-VINE/PCD-24936/2020年4月5日リリース

―Guitarists―

ジミー・ジョンソン、リコ・マクファーランド