Interview|だいじろー(JYOCHO)変則チューニングの構築美 Interview|だいじろー(JYOCHO)変則チューニングの構築美

Interview|だいじろー(JYOCHO)
変則チューニングの構築美

マスロックを始め、プログレッシブやポップスといった様々なジャンルを内包し、独自の音世界を紡ぎ出すJYOCHO。彼らが最新アルバム『しあわせになるから、なろうよ』を完成させた。バンドのコンポーザーでギタリストのだいじろーは、変則チューニングとタッピングを駆使し、音楽表現の新たな可能性を提示するようなギター・プレイで楽曲を彩っている。作品制作について話を聞いた。

取材:尾藤雅哉(Sow Sweet Publishing

JYOCHOでは指弾きがメイン

2ndアルバムが完成しましたが、2018年発売の1st『美しい終末サイクル / the beautiful cycle of terminal』から、ずいぶん期間が空きました。まずは今作に至るまでの4年間の創作活動について振り返っていただければと思います。

 1stアルバムを出してからは、より歌モノに対してのギターのアプローチを考えるようになってきたと思ってます。それと、僕は曲ができたあとにギター・フレーズをアレンジしていくんですね。できた曲に対して“こういうフレーズが弾きたい”とアイディアが出てくるので、曲ができたあとはギターの練習をしながら、試行錯誤してフレーズを作っていくんです。その作業が、コロナになって特に増えてきた。最近はBPMが速い曲も増えてきていたりするので、それに対してギターを付けていくとなると、どうしてもフィジカル的に演奏技術の底上げをしないといけないこともあって。あとはやっぱり時間があったんで、新しいテクニックを習得しようという思いも芽生えてきたように思います。

どういう練習をしているのですか?

 速く弾ける人の動画を観て、どういう手首の使い方をしてるかを研究したり。あと、JYOCHOでは基本的に指弾きがメインなので、練習する際はメタルとか、かなりテクニカルなギタリストのフレーズを指で速く弾くっていう(笑)。でも、曲ありきでギターを練習しているから、楽しんでやれています。

今作の資料には、“直接的で直感的な作品”とありました。どういうイメージを持って制作に臨んでいたのですか?

 最近、社会で生きていて“自分の軸ってすごく大事だな”って感覚が深まっているんです。人って世界中にいるけれど、それでも、自分にしかできないことを妄想していきたいな、と。そういった感覚があるので、聴き手の人たちに対して“その人それぞれの「答え」や「軸」みたいなものを探してほしい”という思いで作りましたね。

前作は打ち込みのデモに沿ってメンバーが演奏するというスタイルでした。今回もそれは変わらず?

 そうですね。僕が一旦全パートを打ち込みで作って、持っていきます。メンバーの中には、そこからアレンジをしたい人や、そのまま歌いたい人もいるので、そのあたりはコミュニケーションを取りながら作業を進めていきました。僕たち、基本的にオンラインで会話したり、LINEでコミュニケーションを取ったりしていて、会わないんですよ。だったんですけど、昨年の東京オリンピックのあたりから、だんだんコミュニケーションが深まってきて、メンバーから“こうしたい”って声が聞こえてきたり、“だいじろー、こんな感じのほうが好きやんな?”とか言ってくれるようになったりして。

そういうやり取りの中で、バンド・マジックのような思わぬ変化が起こっているんですね。

 そうですね。実際、起こってるとは思います。メンバーそれぞれの良さや個性が少しずつ出てきてる気がしてて。だから今作は、いい意味でデモと完成形が違うようなことが多かったかなとは思います。「悲しみのゴール」なんかは、ベースがめちゃめちゃ暴れてくれたので、楽しかったです(笑)。

今作の制作や活動の中で、ギター演奏におけるテクニックで新たな発見や挑戦はあった?

 特に挑戦したところは、「みんなおなじ」のアコースティック・ギターです。ニュアンスやタッチに関するところを練習してレコーディングに挑みました。

「みんなおなじ」は、「回想増えた」からなだれ込むような構成ですね。ちなみに、「回想増えた」は水のせせらぎのようなギターというか。流れが速くなったり、緩やかになったりするイメージを受けました。

 じゃあ完璧です、僕的には満足(笑)。音源を作る時って、コンプレッションがかかるじゃないですか。それを織り込んだうえで、“もうちょっと良い音でアコギを録りたいな”って思った時に、アタックが強過ぎると嫌なノイズが乗るし、柔らかく弾き過ぎてもボヤけた輪郭になるし。それに、マイキングだったり爪の長さの調整だったりも色々あって、今回そこはけっこう研究したところです。「回想増えた」に関しては、クリックはもちろん使ってなくて。もう、“わざとらしいくらいの表現をしたいな”っていうか……ずっと目をつぶって弾いてました。瞑想して(笑)。

聴いていると、もちろんメロディではあるけれど、ギターが効果音のように聴こえる時もあります。いろんな役割を内包したギターという印象を受けました。

 自分の中では、ギターの役割はハッキリさせている自覚があるんです。例えば、「みんなおなじ」は、ギターがベースになっている楽曲。イントロでは主旋を担っているから、メロディとコードを同時に弾くことを意識して。歌が入ってからはアルペジオだけどメロディアスなアレンジにして、間奏は、完全にオクターブのタッピングで印象的にメロディを作って。さらにアウトロはメロディ寄りやけど、コードも少し混ぜて、でもメロディを少し強くして……みたいな感じで、役割はそのパートごとにしっかり意識してるつもりです。

それを1本で描き切るところに、だいじろーさんの美学を感じます。

 そうですね。今作は少しは薄れてるかもしれないんですけど、わりとライブを想定して音源を作っていくので、“1人でできなあかんな”って思っていて。その時々のメインのギターはライブでできるように録音していますね。

変則チューニングのほうが
思い描くプレイがやりやすい

全体的に、今作におけるギターはどういう役割だと感じていますか?

 さっきの「みんなおなじ」のように、ギターが曲のベースになってるタイプとか、「碧に成れたら」のように、完全に上モノに徹してるようなギターとか、曲ごとに役割を分けています。「碧に成れたら」は“ギター、上モノだな”って感じ。ピアノがメインになっていると、どうしても帯域的にもあまりおいしくないので、“ギター、なくてもいいんじゃないの?”くらい思ってます。ほかにも「輪の中にいればたいせつにしてあげる」とかは、わりと上モノに近いギターかなと思ってます。

「碧に成れたら」はピアノで制作していったんですか?

 そうですね。ピアノで打ち込んじゃってますね。「みんなおなじ」は、ベーシックをギターで作っています。「輪の中にいればたいせつにしてあげる」や「碧に成れたら」はピアノからで、あとから“ギター、どうしよっかな?”って感じ。で、毎回“要らんよな”ってなるっていう(笑)。

そうなると、“ギタリストのアイデンティティは何なのか”と思うこともありそうです。

 そうですね。その結果、僕は“空間系で装飾したいな”とか、ピアノで録音した時に、“周りの音が欲しいな”ってなるタイプなので、オート・ボリュームみたいな感じとか、リバーブでバーッて飛ばしたりとか、そういった表現になることが多いかもしれないです。

「碧に成れたら」はギターのピッチやリズムをあえて揺らがせています。この狙いは?

 “ギター要るか?”ってなったことで、ちょっと挑戦してみたところでもあるんですけど(笑)。“ずっと同じ感じでうしろにいても、あんま面白くないよな”って思ったんで、間奏にエレクトロっぽいアコギを入れて。これに関しては、ライブでどうしようかとすごく迷ったところです。エレクトロっぽいアコギをパンで振って、そのあとにめちゃめちゃピッチが揺れたエレキが入ってくると思うんですけど、そういったところは、いい違和感を生みたかったっていう狙いはあります。今までの作品に比べると、珍しいかなとは思いますね。

不安定なサウンドの中で、歌だけが正気を保っているようなイメージを受けました。

 もう、まさにそれを狙っています。ただ不安定な中でも、“これアウトやな”、“これ、カッコいいな”っていうのは、自分の中で線引きはハッキリさせて。ピッチの揺れ方に関しても、“いい揺れ方”と“悪い揺れ方”ってあるじゃないですか。シンプルにギターのチューニングが狂ってる、気持ち悪いものもあるし、ディレイやテープ・エコーみたいな、いい揺れ方もある。その境目を具体的な言葉で表現するのは難しいですけど、そういうところは意識しています。あのピッチの揺れも、プラグイン・エフェクトできれいに作っていますし。

だいじろーさんは、レギュラー・チューニングは使わないそうですね。今回はどんなチューニングを?

 DADGADとCGDGADです。チューニングにもいくつかストックがあるんですけど、ライブで曲ごとにチューニングしていたら流れが悪くなってしまうので、ギターがたくさん必要になってしまうんです。だから最近は使うチューニングは限定していってます。

変則チューニングやタッピングなど、だいじろーさんのギターは、弾く時に制約が多い気がします。でも、その制約があるからこそ、独自の演奏スタイルが確立されていったようにも感じます。

 僕がギタリストとして作曲者がいるプロジェクトに入って、“この感じで弾いて”って言われたら、スタンダードのチューニングを選ぶかもしれません。だからたぶん、“ギタリスト”としてずっとやってたのであれば、今のスタイルとは違うだろうなとは思うんですよ。ただ僕はコンポーザーがメインで、そのうえでギターをしっかりやっていくっていうスタンスなんですよね。

 あと、スタンダード・チューニングでもある程度は弾けるんですけど、僕、めちゃめちゃ手が小さいんです。女性よりも手が小さくて、どんなに練習しても、やっぱり握り込みのポジションにはどうしても届かなくて。それを考えた時に、変則チューニングのほうが自分の思い描いているプレイがやりやすいのかなって。特にファンクなんか、かなり厳しかったです。指はけっこう開くほうなんですけどね。

カスタムしたSAITO GUITARS S-624が大活躍しました

音作りにおいては、フレーズが先? 音が先?

 フレーズが先です。音作りに関しては、信頼できるエンジニアさんがいるので、自分のイメージをデモで聴いてもらって、それをアンプで……デモはアンプ・シミュレーターで作っているので、アンプで出すとやっぱりまったく質感が異なるじゃないですか。だからスタジオでアンプで音を出して、“これ、近い感じでいけてる?”ってニュアンスを確認しつつ詰めていきます。僕が思い描いているクリーンの音って、クランチも若干入れているんですよ。一方で、「夜明けの測度」などはめちゃめちゃ歪ませました。作っていて、“やっぱアンプで歪ませるのがいいな”って思いましたね。だからディストーションとかははずして、曲ごとにアンプの設定を詰めて歪みを作りました。

アンプは何を使ったのですか?

 フェンダーのHot Rodを使いました。

ボリュームを上げて、真空管の歪みで。

 そうですね。ドライブのほうで歪ませて、ゲインをゴリゴリ上げて作った音もありました。

ギターからアンプまでの基本的な音作りのセットは?

 RC Boosterと、One ControlのBaby Blue。RC Boosterはそれはもう“常がけ”で。音源で出てくるクリーンは、大体RC Boosterがかかっています。あとは空間系でLine 6 M9を使っています。Helixも持っているんですけど、ライブを考えるとM9が使いやす過ぎる。

だいじろーさんの音作りはプレイが露わになるサウンドですよね。弾けないところも露わになる音作りとも言えますが。

 それは、まさにあるあるです。けっこう、恥ずかしいところまで聴こえてしまうこともあります(笑)。

そのほか、制作に使った機材を教えていただけますか?

 今回は、SAITO GUITARSさんの新しいギターでほぼ録りました。S-624というギターで、ハムバッカーが2つ載ってるんですけど、個人的にはかなりグッと来てまして。アルバムはほぼこれで録ったという流れになります。サウンドに温かみがあるんですよね。今まではTLタイプとか、シングルコイル系が多かったんですけど、今作においてはすごく温かみのある音を作りやすかった。狙いどおりの音、狙った音にしやすかったんですかね。

イメージを具現化するのに一番近かった。

 そうですね。アームも付けてもらって、それほど派手ではないものの、アームを使ったりもしましたし。あと、“フレットを増やして”って言って、24フレットにしてもらったり。

「光あつめておいでよ」ではどんなギターを使ったのですか?

 エレキですね。OvationのViperを使いました。

ではアコギは何を使いましたか?

 LowdenのF-32Cやったかな? たくさんアコギを弾いてきましたけど、Lowdenは断トツ、自分の中では好きな音ですね。TaylorやGuildもすごい好きですけど、Lowdenはね、ちょっと違いますよね。Lowdenの音がする。ピエール・ベンスーザンさんってわかります? 僕が超大好きなギタリストなんですけど。その方の音とか、あと、アイリッシュとかが好きなので、そういったギターが合うっていう。

 基本的にほぼマイクで録るんですけど、今回はSKYSONICのピックアップも使いました。ラインで録って少し混ぜて。「みんなおなじ」とか、ちょっとコシが欲しい時にラインを使うとか、SENDでエフェクトを送りたい時に、ラインだけを使うとかはよくやりますね。

制作で一番活躍した機材は?

 やっぱりS-624ですかね。一番活躍したかなって思います。

今回の作品を作り終えて見えた、次の表現の可能性みたいなものはありますか?

 今作の制作は、楽曲に向き合った感じが自分の中にはあって、ギターは控えめに作ったつもりです。ピアノのアレンジや歌もあったので、次からは、もうちょっとギターのフィジカル的なところを追求できたらという気持ちも芽生えていて。だから、これからはギターの底上げをしていきたいなっていう思いは強いです。

開けていなかった引き出しを開けつつ。

 そうですね。スウィープやスラップなんかもずっと使いたいと思っているんです。僕、スウィープも指で練習しているんですよ。あとは、“めちゃめちゃレガートをやっている上に歌が乗ってる”みたいなこともやってみたいんですけど、楽曲を作るうえで、今作はやっぱ必要ないっていう結論に至っていたりもしていましたから。

コンポーザーとしてのだいじろーさんが、ご自身で却下だと言ったわけですね(笑)。

 そうですね(笑)。でもそれはある種、僕の実力不足だとも思っています。めちゃめちゃ速弾きをしている後ろでメロディアスな歌が乗ってるとか、カッコいいと思うんですよね。ただ、それを表現する僕のコンポーザーとしての力がこの時点ではなかった。将来的にはそういうことも構想はしています。

3月には大阪と東京でライブを控えています。ライブを楽しみにされている方へ、最後に一言お願いします。

 ちゃんと人力で表現しているので(笑)、ぜひ楽しみにしておいて下さい。ドラムとかも音源で聴いているより、思ったより運動会してるのがわかるはず(笑)。僕的にはそういったところも楽しいかなと思ってます。お会いできるのを楽しみにしております。

JYOCHO。左からsindee(b)、猫田ねたこ(vo,k)、はやしゆうき(fl)、だいじろー(g,cho)。
JYOCHO。左からsindee(b)、猫田ねたこ(vo,k)、はやしゆうき(fl)、だいじろー(g,cho)。

作品データ

『しあわせになるから、なろうよ』
JYOCHO

No Big Deal Records/NBPC-0093-4/2022年2月16日リリース

―Track List―

<CD>
01. 回想増えた
02. みんなおなじ
03. 光あつめておいでよ
04. 輪の中にいればたいせつにしてあげる
05. 碧に成れたら
06. 悲しみのゴール
07. 夜明けの測度
08. 忘れないで

<DVD>2021.8.29(sun) JYOCHO presents Machiya Extra Session (Live)
01. Lucky Mother
02. pure circle
03. hills
04. 遠回りのアイデア
05. わたしは死んだ
06. 美しい終末サイクル
07. こわかった
08. つづくいのち
09. 光あつめておいでよ
10. family

―Guitarist―

だいじろー