『Unplugged』でエリック・クラプトンがカバーしたブルース楽曲を改めて巡る特集、いかがだっただろうか? 特集の最後は、ここまで執筆を担当してくれたギタリスト青山陽一による、“クラプトンとブルース”の関係に迫る考察文で締めたいと思う。
文=青山陽一 Photo by Paul Natkin/Getty Images
己の軸にあるブルースに悩み、そしてブルースに救われる。
70年代以降自作自演歌手の時代に突入し、優れた歌を書いてヒット曲を生むという流れが主流になる中で、いわゆるシンガーソングライターとしては決して多作ではなく、自信を持っていたわけでもなかったエリックとしては、同じことが自分にやれるのかという葛藤がいつもあったのではないかと思う。
ギター・プレイヤーとして長く称賛を受けてはきたものの、クリーム時代にアメリカに渡り、ボブ・ディランやザ・バンド、CS&Nの面々、ジョニ・ミッチェルらとの交流の中で、彼らの才能に圧倒されるようなこともおそらくあったはずだ。
エリックが心の拠り所にしてきたのは常にブルースではあったが、さりとて優れた“シンガーソングライター”でもあった過去のブルースマンたちのようには自分がなれないこともわかっていただろう。そこでオリジナルを作りながらも、一方ではブルース伝道師的な道も模索することになったのだと思うが、80年代にもなってくるとそうした方向性が音楽業界の流れと噛み合わなくなる状況にも直面する。
『Behind The Sun』(85年)や『August』(86年)ではレコード会社の要望を受け入れる形で敢えてストレート・ブルースを避け、チャート重視の方向性に則したコンテンポラリーな音作りにシフトせざるを得なかった。そうしたことを飲み込んで妥協したこともストレスを生んだと思われ、華々しい活動やスター然とした振舞いとは裏腹に、この頃のエリックにはどこか無気力で投げやりな印象を個人的には受けていた。
だが80年代が終わろうとする頃に制作した『Journeyman』(89年)では、レイ・チャールズやリーバー&ストーラーのR&Bスタンダード、また『Unplugged』でも演奏している「Before Accuse Me」を50~60年代初頭を彷彿させるアプローチで録音。おそらくこれは、自分のすべきことを改めて考え直す大きなきっかけになったと思う。
それが『Unplugged』でビッグ・ビル・ブルーンジーやロバート・ジョンソン、スクラッパー・ブラックウェルなど戦前スタイルのブルースの世界と対峙することにつながったし、これを経由した94年のブルース・カバー集『From The Cradle』や、後年アコースティックを大幅に取り入れたロバート・ジョンソン作品への挑戦へと続くブルース再訪の旅が、これ以降のエリックの活動において大きな柱となっていくことにもなった。
もちろん「Tears In Heven」やアコースティック版「Layla」が話題を呼んだことも大きかったが、『Unplugged』での数々のチャレンジがあったからこそ、彼のキャリアが現在まで続く息の長いものになっていったことは間違いないだろう。
まさにブルースに救われてきた人生なのだろうなと思う。
作品データ
『Unplugged』
エリック・クラプトン
リプリーズ/1992年8月18日リリース
―Track List―
01. 「Signe」
02. 「Before You Accuse Me」
03. 「Hey Hey」
04. 「Tears in Heaven」
05. 「Lonely Stranger」
06. 「Nobody Knows You When You’re Down and Out」
07. 「Layla」
08. 「Running on Faith」
09. 「Walkin’ Blues」
10. 「Alberta」
11. 「San Francisco Bay Blues」
12. 「Malted Milk」
13. 「Old Love」
14. 「Rollin’ and Tumblin’」
―Guitarists―
エリック・クラプトン、アンディ・フェアウェザー・ロウ