編集部注目の新人アーティストを紹介する『OPENING ACT』のコーナー。今月は、2008年に福島出身のメンバー2人によって結成されたロック・バンド、paioniaをピックアップした。
彼らの魅力と言えば、オルタナティブ・スピリットを踏襲した独自のサウンドやメロディだ。そんな彼らが満を持して発表した2ndアルバム『Pre Normal』は、これまでの威勢の良さはそのままに、いびつさをも感じさせるロック・サウンドの質感と、シンプルながらもエモーショナルな歌世界にグッときてしまう楽曲が揃っている。
中でも、アンサンブルの中核を担う高橋勇成(vo,g)は、絶妙な憂いや切なさを含んだ独特のコード感覚によって感傷的な世界観を演出し、聴く者の心をつかむ。そのうえ、感情を露わに歌い上げるポップで温かみのあるメロディが、バンドに特有のアイデンティティをもたらしているのだ。
さっそく高橋に登場願い、彼の音楽的なバックボーンを探っていこう。
取材/文:錦織文子
※本記事はギター・マガジン2022年4月号にも掲載されています。
妖しさや切なさを感じる
ギター・サウンドが好き。
もともと父親が趣味でやっていたアコギが家にあって、小学生の頃から自然とギターには触れる機会があったんです。中学生になってから、PierrotやDIR EN GREYなどのビジュアル系にハマって、ギター・ロックに夢中になっていきましたね。
変形ギターが欲しくなって楽器店に行って、初めて買ったのはまさかのテレキャスターでしたけど(笑)。あとは7弦ギターを使ったりもして、ダウン・チューニングでヘヴィな感じのギターもけっこう弾いていましたね。
その後は方向性がガラッと変わって色々聴くようになったんですけど、一番衝撃を受けたのがSyrup16gを初めて聴いた時でした。ギターと歌のどちらも彼らからの影響が一番大きいかもしれないです。
ほかにも、青春パンクが流行っていた高校生の頃には銀杏BOYZやGOING STEADYをコピーしたり、ウィーザーやビルト・トゥ・スピルなどのオルタナティブ・ロックも好きで聴いていました。
それと、吉田拓郎さんや友部正人さんなどの日本のフォークを聴いていたこともあって、僕の歌や作詞は彼らからの影響は少なからずあると思います。
これまでに色んなジャンルの音楽を嗜好してきたのがわかったところで、次に現在のプレイ・スタイルに影響を与えたギタリストについても聞いてみた。
一番はウィーザーのリヴァース・クオモですね。一筋縄ではないパワー・コードの感じとか、あの歪ませ方は今の自分のプレイにも刺激を与えてくれています。
それと、僕が今でも好んで弾くコード感という面では、Syrup16gの五十嵐隆さんからの影響は大きいです。「こんなの今までにないんじゃないか?」というコードを編み出して独自のスタイルにしていますよね。そういう意味では、ジェフ・バックリィやビルト・トゥ・スピルのダグ・マーシュのコードの作り方にも感化されています。
あとはチン中村さん。銀杏BOYZの「東京」のギター・ソロは、凄くキャッチーできれいなんですけど、一方で感情的な脆さが感じられます。
彼らみんなに共通するのは、ちょっと一音ズレてたり、半音下がっていたり、コードの中に感じる不協和音を取り入れたようなアプローチをするんです。ポップなのに何か妖しさや切なさを感じさせてくれるギター・サウンドが好きですね。
自分に染み付いている音を
そのまま出してみたんです。
最新作『Pre Normal』は、ここまでに語ってくれた彼の音楽ルーツが実に色濃く反映された作品である。冒頭の「人の瀬」からシューゲイザー的なオルタナ ・サウンドを聴かせるのが印象的だが、ありのままをギターで落とし込んだがゆえ、本作におけるアレンジはこれまで以上に力を注いだという。
1曲目「人の瀬」は、ライブでやっている時に近い音像というか、あまり深く考えずにストレートに音を出してみることを心がけました。自分に染み付いている音をそのまま出してみた感じです。オクターブ奏法をけっこう入れてみたり、ギターを重ねまくっている感じはビルト・トゥ・スピルをイメージして、躊躇なくやってみたりしましたね。
一方で、今作は曲中でのギターの差し引きを意識して、いかにキャッチーに聴かせるかというのが課題にあって。例えば、「今にとって」は全体的にミニマルな感じを意識しました。アレンジにもこだわって、もともとはフォークっぽいコードだったのを、一部をメジャー・セブンスに変えて録り直したりしたんです。
色々試行錯誤している時にSSWのレックス・オレンジ・カウンティにハマって、彼の弾くオーソドックスだけどポップなコード・センスに感化されたんですよね。そうやって、ギター・フレーズは最小限にしながら、聴いている人の耳に残りやすいものになるよう追求しました。
本作では色とりどりのギター・サウンドも特徴的だ。特に「金属に近い」で聴ける切れ味の良い鋭利なサウンドや、「鏡には真反対」でのゆらぎや浮遊感を湛えたリフ。こうした音色の数々を創出した機材について教えてもらおう。
レコーディングでもライブでもメインで使っているのがグレコの黒いファイアーバード・タイプで、今作はほぼこれで録ってます。音は気に入っているんですけど、ミニ・ハムバッカーなのでキンキンするんですよね(笑)。
でも「金属に近い」ではそれを逆手に取って、トランジスタ・アンプを使いながらリアで鳴らしてみたんです。金属っぽさをイメージして凄くペラペラな感じにして、その持ち味を最大限に活かせたと思いますね。
それから「鏡には真反対」では借り物のテレキャスターを使って、フェンダーのツイン・リバーブでベーシックの音を録りました。それでクリーン・サウンドを前に出して。この曲は粒立ちも出しつつ、少し変わったコード感を聴かせるためにキラッとさせたかったんです。
ほかにも、「終わらない歌が終わる日」ではVOXのBobcatの復刻モデルのセミアコをメインで使ったり。この曲は若干ジャズ寄りのサウンドをイメージしてたので、ピックアップはP-90だけど、箱モノで鳴らしてみたかったんです。サウンドのバランスはいい塩梅で出せたんじゃないかなと思いますね”。
最後にギタリストとしての展望を教えてもらった。
今あるギター・ロックのイメージとはまた違うところにいけるように、「大人な差し引き」をしたいです。歌があくまでも主役で、ギターは伴奏としての役割を徹底するという。もちろんソロも必要だと思うんですけど、ギターが前に出てくるフレーズは最低限にしつつ、いかにグッとくるものにするか。出るところは出て、支えるところは支えるメリハリができる存在でいたいですね。
それと最近はギターと向き合う時間も多くなって、新しいピックを試したり、弾く強さを変えたりすることで音色のニュアンスが全然違ってくると改めて実感してもいて。そういう小さな試行錯誤を重ねて、もっと良い音が出せたらいいなと思います。
作品データ
『Pre Normal』
paionia
gsp/NCS-993/2022年2月2日リリース
―Track List―
01. 人の瀬
02. 金属に近い
03. 今にとって
04. 手動
05. 終わらない歌が終わる日
06. 鏡には真反対
07. 黒いギター
08. 灯
09. 小さな掌
10. 夜に悲しくなる僕ら
―Guitarists―
高橋勇成
ギター・マガジン2022年4月号
『歪祭』