2010年の結成以来、精力的な活動を続けているmol-74(読み:モルカルマイナスナナジュウヨン)が3年ぶりとなる2ndアルバム『OOORDER』を完成させた。作品には、人気アニメ『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』のED曲「Answers」、『ブルーピリオド』のED曲「Replica」を含む、全12曲を収録。空間系エフェクトを巧みに操りながら多彩な音色でアンサンブルを彩るギター・ワークも見事で、独自のサウンドスケープを描き出している。フロントマンの武市和希とギタリストの井上雄斗の2人に作品制作を振り返ってもらった。
インタビュー=尾藤雅哉(ソウ・スウィート・パブリッシング)
mol-74の核はギターの音色(武市)
まずはギターを始めたきっかけから教えて下さい。
武市 高校の文化祭でロック・フェスみたいな催しがあったんですけど、そこでサッカー部の先輩2人組がゆずのカバーをやって、女の子にキャーキャー言われていて。それを友人4人で観ていて、“僕らもバンドをやったらモテんじゃないか?”みたいな話になったんです。話はそのまま流れると思ったんですけど、年が明けた1月に登校したら、その4人の中の1人に“お前ら本気じゃないのか? 俺、もう ギター買ったで!”と迫られまして(笑)。それでお年玉で、雑誌に載っていたエレキ・ギターの初心者セットと、大好きだったASIAN KUNG-FU GENERATIONのバンド・スコアを買ったんです。
井上 僕は大阪の堺市出身なんですけど、小学生の頃、堺東でコブクロさんがストリート・ライブをやっていて、よく自転車で観に行っていたんですよ。それで中学に入ったらコブクロ好きの友達に出会って、“一緒にギター始めない?”と誘われてギターを買ったんです。ただ、当時所属していたハンドボール部が厳しくてギターを練習なんかする暇もなく、本格的に練習を始めたのは部活を引退した中3の秋頃からでしたね。
最初はアコギだったんですね。エレキを弾くようになったのは?
井上 高校の時に仲の良い友達の友達……軽音楽部の子だったんですけど、その子から“軽音楽部のバンドでギターが1人足りなくて、できたらやってほしい”って誘われたんです。それでエレキ・ギターを買って、そのままバンドを始めたんです。
お二人の出会いは?
武市 僕は徳島出身なんですが、高3の時にドラマーの坂東志洋と一緒に4人組バンドをやっていたんです。そのメンバー全員が京都に進学することになって。そのまま京都でもバンドを続けている中で、当時井上君がやっていたバンドと対バン・イベントで一緒になってつながったんです。
その後、しばらくは何もなく活動していたんですけど、ある時、井上君がプライベートで僕らのライブを観に来てくれて。それで一緒にご飯を食べている時に、“実は今日のライブでギターとベースが抜けるんですよ”って話したんです。そうしたら後日、井上君が“僕やろうか?”って。“じゃあ、お願いします”なんて言っていたら、まさか井上くんのバンドのベーシストも入ってくれて……。で、その井上君のバンドは解散してしまうという(笑)。
井上 (笑)。
バンドの中で同じ楽器を手にするお二人ですが、それぞれ、相手のことをどういうミュージシャン/プレイヤーだと感じていますか?
武市 井上君はいわゆる“めちゃくちゃテクニシャン”みたいな感じのプレイヤーではないですけど、音色の使い方などに関してテクニックを持っているギタリストだと思います。“いぶし銀”と言うんですかね。mol-74の核って、僕の声だと言っていただくことが多いんですけど、実はギターの音色が大きいと思っているんです。
あと最近、僕以外のメンバーも曲を作るようになったんですけど、井上君の作る曲にはメロディ・センスを感じる。そういうところは、ギターのフレーズ作りにも活かされてるように感じます。ちなみに2015年頃までは、井上君はギターを前に出すというより、“歌が前に出て、そのうしろの風景みたいなものとか、温度感であったりとか、季節感であったりとか、そういったものを表現する”ってタイプだったんですね。でも今作『OOORDER』では、“ギター然”とした、前に出てくるギターが増えています。
では井上さんから見た武市さんは?
井上 独特ですね。わかりやすいメロディ・センスもありながら、ちゃんと独特な感性を持っていて。あと、直感的なタイプだなって思いますね。直感的に、良いものは良い、当てはまらないものは当てはまらない、っていうのを見極められる。そこはギタリストとしてというか、全体的なコンポーザー的な意味合いも含めて。
“ギターらしくないギターの音”を
鳴らすのも好きなんです(井上)
今作『OOORDER』に収録されている楽曲のアレンジは、どう作り込んでいったのですか?
武市 これまでは曲の大元を僕が作っていたんですけど、2年ほど前からほかのメンバーも曲を作るようになったんです。それにあたり大前提として、曲の大元を作った人が“こういう感じにしたいねん”っていう指揮を採る形にしたんですね。だから今回はけっこう、各々がある程度アレンジを仕上げて、そこにほかのメンバーの意見を採り入れていく感じでした。
井上さんは「深青」や「リマインダー」を手掛けていますが、最初からデモは作り込んでいった感じですか?
井上 「深青」に関してはそうやっていたと思います。ほぼできあがったデモをブラッシュアップさせて作っていく形でした。「リマインダー」に関しては、逆にすごく単調なデモでした。自分の中ではシンプルにしようとした部分もあったんですけど、メンバーやスタッフさんの意見を含めて、みんなでドンドン変えていきましたね。僕、自分の作ったものが変わっていくことに関しては嬉しく思うほうなんです。
「リマインダー」は左右で絡み合うアルペジオが印象的でした。2周目のコードワークは、ちょっと不協和音っぽい響きが登場しますよね。すごくフックになっています。
武市 「リマインダー」の僕のギターに関しては、“こういう感じで”っていうのを全部トゥンさん(※井上の愛称)が伝えてくれていたんです。ただ、そのままだと2番が少し寂しいと思って、“ちょっと不穏な感じにしたい”、“ここのフレーズだけ、ちょっと僕に作らせてほしい”って話をして。雰囲気を濁らせたいっていう。それは狙ってやりました。それで確か、トゥンさんのフレーズも変わったんですよね。
井上 変わった、変わった(笑)。ここは武市さんに感謝ですね。あの時も直感って感じで、“ここ、変えません?”って言ってくれた。それですごくカッコよくなりました。しかもギターだけではなく、僕が思ってる以上にリズム隊が立って、カッコよくなりましたし。僕はギタリストなんで、ギターの絡みを中心に考えてしまうんですけど、“ギターが食われるんじゃないか?”って思うくらいリズムが前に出て、すごく刺激になりました。
2本のギターの役割分担や、鍵盤の役割についてはどうとらえていますか?
武市 「リマインダー」ではギターの絡みがあるので別なんですけど、やっぱり僕のギターはうしろでいい。“厚み要員”くらいにとらえています。ギターの音の住み分けはもちろん考えていて、例えば、僕もトゥンさんも低いところを弾いてたら、ちょっとモワッとしちゃう。わざとそれをやる時もあるんですけど、基本的に帯域は分けています。
初めの頃はそういう知識もなくて、“とりあえず何か弾いとけ”みたいな感じでやってた部分はあるんですけど、最近は音の分離感と言いますか、“僕はこうで、トゥンさんこっちで”みたいなことは考えます。プラス、やっぱり季節感とか温度感とか、トゥンさんにはそういった部分にもこだわってもらっていますね。
井上さんは、ギターの役割についてどう思っていますか?
井上 mol-74としてやっていく中で、ギタリストとして大事にしている部分にはなるんですけど、引き算をすごく意識しています。“ずっとギターが鳴り続ける必要があるのか?”、“ここはいないほうが、孤独感を演出できるんじゃないか?”、“その役割は鍵盤がしてるから、ギターは別のフレーズをやろう”とか。
ギター・ソロを入れてって言われる時も、“なぜここでギター・ソロが必要とされてるんだろう?”、“この曲の世界観に合うギター・ソロってなんだろう?”ってことをよく考えていますね。ギター・ヒーローになりたい、みたいな欲はあまりなくて、“ここにギター・ソロがあるから次のサビが際立つよね”、“さっきのサビのあとにこのフレーズがあるとグッとくるよね”って思われるほうが嬉しいんですよね。
ソロの話をすると、「Halation」ではソロが2回しあって、途中で転調しますね。景色を変えるギミックの1つだと感じました。
武市 あれは、アジカンがとある曲でまったく同じことをやっていて(笑)。あの転調がなかったら全然面白くなかったというか、普通の曲だったと思うんです。“何か1エッセンスできないかな?”って思いながら色々な曲を聴いてる時にアジカンの曲を見つけて。よくあるアレンジの1つだとは思うんですけども、ソロの前半と後半の途中で転調するのは珍しいのかもしれないですね。
井上 3度上の転調だよね。
どうフレーズ・メイクしていったのですか?
井上 リファレンスの音源を聴いたうえで、けっこう寄せました。武市にそのフレーズを聴かせた時に“それ、いいっすね”って握手したんですけど、僕としても“しめしめ”でしたね(笑)。“リファレンスの音と自分のエッセンスをミックスさせて、上手いこと自分のものにできた”感がありました(笑)。
武市 あのソロ、カッコよくて好きなんですよね。
「Halation」のウェットなサウンドを始め、ほかの曲も含めてmol-74は空間系エフェクトをうまく使ったサウンド・メイクが特徴の1つになっていると思います。音作りでのこだわりは?
井上 「Halation」は武市が作った曲ですけど、今作の中でも特に音色に気を遣った曲なので、そう言ってもらえてすごく嬉しいです。自分が今までどおりの音で弾いたら、めちゃめちゃギター・ロックになっちゃうと思って……ただ、それをすると、武市が持ってきた時の繊細な感じだったりとか、流れるような美しさが損なわれる。にも関わらず、“しっかりとギターを入れたい”、“バンドで鳴らしたい”っていう意見があって、色々と悩みました。最終的に、コーラスのエフェクトを多めにかけて、ちょっと電子音っぽい感じの音色に近付けて、打ち込みみたいな感じの曲にも合うような音色にしたんですよね。
なるほど。
井上 ギタリストさんたちにどう思われるかわかんないんですけど、僕、“ギターらしくないギターの音”を鳴らすのも好きなんです。“この音、何?”、“これ、別にギターじゃなくてもいいんじゃない?”って音を出すのがすごく好き。その美学をいつも追求してる感じです。
あと僕はヘンテコなエフェクターだったり、面白いエフェクターはけっこうチェックしていて。レコーディングで1回しか使ってない2万円くらいのエフェクターもありますし。割に合わないんですけど、“でも、あれがあったからあの曲ができたしな”って自分を納得させて(笑)。
色々なやり方に挑戦して
もう一歩先のクリエイティブを
目指していきたい(武市)
2人が自分の表現するために機材に求めるものは?
武市 僕、あまり機材オタクじゃないんです。井上君とベースの髙橋涼馬(以下、髙橋)はけっこう機材の話をしてるんですけど、あんまりその辺に関心がいかないんですよね。出したい音は今出せてるし、“あれ欲しい、これ欲しい”みたいなのもそんなになくて。“こういう音を出すのに足りてない”ってなった時に、やっと“エフェクターを買ってみるか”ってなると言いますか。
ただ、ピックにはけっこうこだわりがあって、エレキもアコギもナイロンのピックを使っています。優しいギターの音色が好きなんですけど、理想の響きになるのがナイロンなんですよね。アコギではJIM DUNLOP HERCO FLEX50、エレキではHERCO FLEX.67を使っています。
確かにmol-74のギターの音は“まろやか”という印象があります。
武市 そうですね、“まろい”曲が多いかもしれない。そこはけっこう好みかもしれないです。
井上さんは?
井上 さっき武市に“直感的”って言ったんですけど、僕もけっこう機材に関しては直感的(笑)。自分が、気持ちいいって思ったら、もうそれで大丈夫なんですよね。“まだ、こいつにはできることがあるんじゃないか?”とか思ったりして。弦も決まったものをずっと使うし、ピックも100枚とか一気に買って、同じものばかり使い続けることが多いです。
今、メイン・ギターと張っているゲージは?
井上 メイン・ギターはリアルディール(Realdeal)のES-335モデルです。弦はElixirで、.010~.046のレギュラーですね。
今作の制作で一番活躍したエフェクターは?
井上 去年買ったイーブンタイドH9 MAXです。「Halation」のコーラスもH9で仕上げています。もう何年も前から、イーブンタイドの機材に憧れていたんですよ。中でもTimeFactorのディレイの響きが忘れられなくて。ずっと欲しかったんですけど、憧れている間にH9が出て、“TimeFactorの中のエフェクトも全部使える”って聞いて手に入れたんです。
いじっていて、Blackholeっていうリバーブを見つけて。iPadで緻密にサウンド・メイクできるし、MIDIでも操作できるんで、ライブでもレコーディングでもガンガン使える、すごく頼もしいものを手に入れたと思っています。
歪みは何を使いましたか?
井上 基本的にはいつも一緒で、メインはエキゾチックのAC Boosterです。歪みをあまり強くしない設定で、サウンドをふくよかにするようなイメージで使ってます。“クリアだとちょっと線が細いな”って時に、“まろく”する感じ。ほかにはBOSS JB-2。Blues Driverの音色を使いつつ、たまに強く歪ませたい時にAngry Charlieに切り替えたりして。
武市さんが今回のレコーディングで使った機材は?
武市 アコギはいつも一緒で、マーティンD-16GTをメインで使っています。弦はマーティンのミディアムで、.013~.056です。エレキは2年くらい前に買ったSugi Rainmaker RMGです。弦はElixirの.011~.052を使ってますね。
どちらもドメスティック・ブランドのギターを使われているんですね。
武市 Rainmaker RMGを試奏した時、瑞々しい感じが凄く気に入って。ピックアップは、シングル+ハムバッカーという組み合わせなんですが、センター・ポジションのミックスで使うことが多いです。
今作のリリースを経て感じる、井上さんの1人のプレイヤーとしての将来像は?
井上 今までギブソン系のギターを好んで使ってきたんですけど、最近フェンダーのAcoustasonicを手に入れて。使ってみたら“こういうのもありだな”っていう新しい感覚だったんです。バンドとして“まろい音”ってイメージを持ってもらえることも大事だけど、“こんな表現もできるんだ”と思ってもらえるように、フェンダー系の音で攻めるようなこともできたらいいですね。
それと今回の制作を通して、作曲の大切さをすごく学びました。というのも、今作の制作に入る前に、1人でインスト曲を作る機会が多かったんですよね。その後、mol-74で曲を作る時に、そのインスト曲のエッセンスを加えることができたんです。だから個人でも曲を作り続けて、それをmol-74に還元して、で、またmol-74で得たものを自分の中に落とし込んで、個人の曲に活かしていく。その循環ができればなと思ってます。
武市さんはいかがですか?
武市 まだ自分たちの望む大きなステージに立てていないので、まずはそこに立てるように良い曲を書いていきたいですね。今、2枚目が出たところで、メンバーと“自分たちがどういった音を鳴らしたいのか”を話し合って、それに向かって準備をしているんです。僕以外のメンバーが曲を作るようになって、バンドの地力は確実に上がっている自信がある。そこからさらに、クリエイティブの部分でバンドをもう一歩先に持っていきたいと思っています。
僕ら、結成当時に比べて“色んな人に聴いてもらいたい”みたいな気持ちが増えていったんですよね。今はその気持ちも大事にしつつ、“mol-74にしかできないね”っていうのを、もっと確固たるものにしたいですね。
1人の表現者としても、目指すところがありそうですね。
武市 そうですね。今は“音楽以外の芸術分野からもっと刺激を受けると、よりオリジナリティが広がるんじゃないか?”と思っているところなんです。それで実は一昨日、iPad Proを買ってProcreateっていうイラスト制作アプリをダウンロードしたんですよ。“音楽だけじゃなくて、その曲の世界観を自分たちなりに絵にして一緒に届けられたら、もう一歩先の届け方ができるんじゃないのかな”と思ってのことなんですけど……。まあ「お前、まずは音楽頑張れ」って話なんですけど(笑)。そういうことを音楽と併行してできたら、より先に行けるんじゃないのかなって。
あとは、歌詞の書き方1つ取っても、今までと違ったやり方を試してみたり……いずれにしても、いろいろなやり方に挑戦して、もう一歩先のクリエイティブを目指していきたいという気持ちです。
作品データ
『OOORDER』
mol-74
ソニー/SECL-2747/2022年3月2日リリース
―Track List―
01. 深青
02. Renew
03. Halation
04. ミラーソング
05. リマインダー
06. Answers
07. 鱗
08. ニクタロピア
09. Replica
10. 更進曲
11. Teenager
12. 白光
―Guitarists―
武市和希、井上雄斗