2021年にT-SQUAREからの脱退を発表した安藤正容。最終作となった『FLY! FLY! FLY!』に関してインタビューをして以来、その動向を注視してきたが、ついに“アカサカトリオという新たなバンドを組んだ”という情報が飛び込んできた。東京は赤坂のミュージック・レストラン=MZES TOKYOが企画した則竹裕之(d)と須藤満(b)の35周年記念セッションに安藤が参加したことをきっかけに結成されたバンドで、初ライブの現場にギタマガWEBが潜入!! 気になるその実態と、彼の近況について話を聞いてきた。
文=福崎敬太 撮影=星野俊 協力=MZES TOKYO
精神的に凄く安定するようになりましたね。
T-SQUARE脱退時のインタビューで今後の展望について聞いた際、“まだ何も考えていない”と言っていましたね。
えぇ、今も何も考えていないですけど(笑)。
2021年に“安藤正容 Farewell Tour”が終わり、やっと一段落ついたのだと思いますが、今の状況はいかがですか?
今は“あんみつ”っていう(みくりや裕二との)デュオや、是方(博邦)君に呼ばれてデュオやセッションをやったり、それくらいなんですよ。そういうのはわりと気軽というか、ラクな気持ちでできるんです。なので、もの凄くストレスが減りましたね。よく奥さんにも“イライラがなくなったね”って言われたりします。
(笑)。家庭生活にも良い影響があるんですね。
当時はスクエアしかやっていないし、そんなに忙しかったわけではないんですけど、やっぱりアルバムを作るってなると曲を書かないといけないし、ツアー前は凄く練習をしなくちゃいけないじゃないですか。僕はもともと才能がそんなにないから、そういうのが大変で。人一倍そういうことが肩にのしかかってしまうタイプだったと思うんです。それがなくなったから、精神的に凄く安定するようになりましたね。
当時は新しいアルバムのリリース〜ツアーという毎年の流れの中で、“楽曲を成熟させられなかった”という話を聞いたんです。
毎年のようにアルバムを出していく中で、消耗していくだけに感じるようになってしまったんです。というのも、ツアーが60本くらいあって忙しかった頃は、同じ曲を60回やる中でだんだん曲が身に“染みついて”くる。それが次第になくなっていってしまって、寂しく感じるようになったんですよね。
アカサカトリオではソロ作『MELODY GO ROUND』収録の「Mr. Moon」や「Tonight’s the night」、2012年の『Wings』から「Heroes」なども演奏しましたが、今は自分がこれまでに作った楽曲を成長させていきたいという考えがあるのでしょうか?
それはちょっとありますね。自分が作った昔の曲を色々と聴き返してみて、“これはよくできたな”っていう曲をこれからやっていきたい。
アカサカトリオ
2022/05/07 @MZES TOKYO/セットリスト
01. Heroes
02. Mr. Moon
03. Jungle Fever
04. Speechless
05. One Step Beyond
06. Night Lights
07. Only One Earth
08. Bass’n Voice
09. Tonight The Night
10. Daylight(アンコール)
一番何度も聴けるのが、コールドプレイなんですよ。
脱退後に何か新しい練習などを始めたりは?
練習はもう全然してない!
えぇ(笑)! でも、機材の新しい情報を探したり、ギター関連の動画を観たり、インプットは多いですよね?
そうですね。楽器も好きだし、他人のプレイを観るのは好きだけど、そういう人のを観ている中で“俺はもういいかな”って限界を感じているのかもしれない(笑)。
何を言ってるんですか(笑)!!
いや、これは本音でね。
ご冗談を! そうやって動画などを観てきた中で気になったアーティストは?
ヴルフペック! あれは面白かった!
そういえばマディソン・スクエア・ガーデンのライブ動画をSNSでシェアしていましたね!
いっぱいゲストが出てくるやつですよね。コリー・ウォンとかは気になっています。彼は番組をやっていたりしますけど、あれも面白いですよね。
どういったところが気に入ったのですか?
相当長い時間のライブが全部あがっているじゃないですか。でも、全然飽きないんですよ。エンターテイナーとして素晴らしい。で、みんな演奏家としてハンパない! パンチ・ブラザーズのクリス・シーリ(mandolin/「Smile Meditation」に参加)も出ているでしょ? 彼も超絶だよね。そんなんばっかり観てるとさ、“もうやーめた!”って(笑)。
(笑)、我々は安藤さんのギターを必要としてますよ! ほかにハマっている音楽はありますか?
音楽はやっぱり好きで聴いているんですけど、なかなか“これ良いな”ってものを見つけるのが難しい。2〜3回聴くと飽きちゃうことが多くて。で、一番何度も聴けるのが、コールドプレイなんですよ。
意外です! どの曲が好きなんですか?
全部好きですね。去年出た『Music Of The Spheres』の「High Power」って曲とか。この人たちのライブで、お客さんにブレスレットを渡して、それが照明と連動して光るっていう演出をしていたんですよ。そういうのも含めて、クリエイティビティが凄いなって。あと、ヨルダンの遺跡で照明を使わずに撮った『Everyday Life』のライブ映像も凄いですよ。アーティストとして素晴らしいと思いますね。
“トリオなんかやったことないし、俺にできるかな”って思ったんです。
さて、則竹裕之(d)さん、須藤満(b)さんとの“アカサカトリオ”ですが、結成の経緯を教えて下さい。
2021年に須藤ちゃんと則ちゃんが出会って35周年の記念ライブをここ(MZES TOKYO)でやって、ゲストとして呼んでもらったんですよ。そこで“何かやろうか”ってなったんですよね。則竹くんからの熱いリクエストがあったからなんですけど、“トリオなんかやったことないし、俺にできるかな”って思ったんです。でも、バック・トラックを使えばそれなりのものができるかなって。
トラック制作も安藤さんがやっているんですよね?
そうですね。
宅録の環境はどんな感じなんですか?
シンセも1つしかないですし、いたってシンプルですよ。基本的にはDigital Performerで作っていて、ギターはKemperを使ってます。昔はギター・ダビングの時間を取らせてもらえてたけど、“リズム録りを3日間やって終わり”みたいになっていって“あそこ直したい”って思っても時間がないことが増えてきたんですよ。じゃあ家でやれるようにっていうことで、こういう機材が増えていったんです。本当はアンプのほうが良いんですけどね。
今後のアカサカトリオの展望は?
まずは今日ちゃんとできるかが問題だったから(笑)。ちゃんとできたっぽいので、まぁまた。2人も忙しいから、休みの時に(笑)。
安藤さん自身、これからギタリストとしてなりたい像や深めていきたい部分はありますか?
いや、特にないですね。年齢的に衰えてきているのがわかるんですよ。指がズレたり、昔だったらスラスラ弾けたよなっていうところがもつれたりとか。これって肉体的な衰えだなって。そういうトレーニングをしていないっていうのもあるかもしれないですけど。だから、ずっと努力して第一線で活躍している方って、凄いなぁって心から思うんです。年々努力していかないと、若い頃のようにうまくいかないですから。
ギタリストとしては肉体的な衰えは避けられないことかもしれませんが、コンポーザーとしてはどうですか?
もちろん何か見つかれば“よし、曲を書いてみよう”ってなるかもしれないけど、今はよく言えば“充電期間”で、とりあえずボーッとしたいんですよね(笑)。
(笑)。アカサカトリオやあんみつ、そのほかのセッション以外に、何か考えていることはありますか?
今は全然考えていないです。自分がどうなるかっていうのが興味深かったんですよ。だいぶ前からスクエアを辞めようかなっていう気持ちはあったんですけど、“こんなにギターが好きなのに辞めて耐えられるのか”って思いもあったんです。でも、コロナ禍になってスクエアも活動できなくなった時に、全然平気だったんですよね。“あ、これは平気だ! 辞めても大丈夫”って思ったけど、1〜2年じゃわからないかもしれない。ここから3年、5年って経った時にどういうふうになっているのか、自分でも興味深いです。