Interview|大島知起(Ivy to Fraudulent Game)緻密に構築した屈強な世界観 Interview|大島知起(Ivy to Fraudulent Game)緻密に構築した屈強な世界観

Interview|大島知起(Ivy to Fraudulent Game)
緻密に構築した屈強な世界観

2010年に群馬県で結成された4ピース・ロックバンド、Ivy to Fraudulent Game(アイヴィー・トゥー・フロウジュレント・ゲーム)=通称アイヴィーが4thフルとなる『Singinʼ in the NOW』をリリース。暴力的かつ洗練された“美”を感じさせ、壮大な世界観を力強く表現する彼らのサウンドは今、多くのギター・ロック・ファンの心を鷲掴みにしている。そんなアイヴィーのギタリスト、大島知起がギター・マガジンWEBに初登場! 今回は彼のギタリストとしてのヒストリーから語ってもらった。

取材/文=伊藤雅景 ライブ写真=酒井ダイスケ 機材写真=本人提供

ラウドなギターが基礎になっているのは間違いないですね。

ギター・マガジン初登場ということで、ギターを始めた経緯から聞かせて下さい。

 音楽との出会いは小学生の頃、ORANGE RANGEが好きになったのが始まりでした。その頃はそれが“バンドの音楽”だと認識していなかったんですが、中学1年生くらいの時に、マキシマム ザ ホルモンやSlipknotを同級生に教えてもらったのがきっかけで、ギターの音を意識して聴くようになったんです。バンドってやっぱりギターが目立ってるじゃないですか。それがカッコよくて、“俺もやりてえ!”って感情が生まれたんです。それでギターを始めました。一番最初に買ってもらったギターはSGタイプでしたね。

実際にバンドを組んだのはいつ頃なんですか?

 中学生の頃から、“高校生になったら絶対バンドを組んでやるぞ”と意気込んでいたので、入学してすぐに自分のバンドを組みました。Ivy to Fraudulent Game(以下アイヴィー)とはその自分のバンドと対バンする形で出会ったんですが、当時アイヴィーにはギターがいなかったんですよ。ちょうど自分のバンドが解散するタイミングでアイヴィーがギタリストを募集してたので、自分から声を掛けて加入させてもらいました。

学生の頃から本格的にライブハウスなどでも活動していたんですね。ギターを始めた当初、練習はどのようなことから始めたんですか?

 まずコードが難しくて弾けなかったので、最初はパワーコードから練習を始めました。ホルモンやX JAPANだったり、ヘヴィーなリフばっかり弾いてましたね(笑)。そこからしばらくは、クリック練習や運指練習といった基礎練の類にまったく触れずに、ひたすらコピーばっかりやってました。弾けるか弾けないかの瀬戸際のフレーズを弾けるようになるまでひたすら弾く、みたいな。真面目に基礎練を始めたのは、本当に最近になってからですね。

ラウドな音楽性が大島さんのプレイスタイルの礎になっているんですね。アイヴィーではアルペジオや透明感のあるフレーズが多いので、意外です。

 ラウドなギターが基礎になっているのは間違いないですね。ただ、アイヴィーは当時から福ちゃん(福島由也/d)が楽曲を作っていたので、このバンドのギタリストとして活動していくにつれて、ラウド寄りのプレイから現在のスタイルになっていきました。

では、作曲についても聞かせて下さい。アイヴィーの楽曲で、ギター・フレーズはどのように作っているんですか?

 最初の頃は基本的に全楽器のアレンジを福ちゃんが作っていて、自分はそれをコピーするだけという感じでした。で、メジャー2作目の『完全が無い』(2019年)くらいから、だんだんと自分も作曲やフレーズ作りに加わるようになっていきましたね。

 アイヴィーは、各々が作曲した楽曲は基本的にすべてのパートを作曲者が作り上げるという手法なので、自己流のアレンジやニュアンスを取り入れていくようになったのもその辺りだったと思います。

送られてきたギター・フレーズに上手く肉付けしていくのはとても難しそうですね。

 それはそのとおりですね。福ちゃんが作ったフレーズに、無理して自分のエゴをねじ込もうとするとバランスが崩れてしまう曲や、逆にエゴを入れまくったほうが良い曲もあったり……。どちらのパターンもあるので、良い塩梅するのはけっこう難しいです。一方で、ギターのサウンド・メイクに関しては、積極的に自分のアイディアや世界観を盛り込むようにしていて、メンバーと相談しながらめちゃくちゃ時間をかけて作ってます。

“制限を設けないで作曲をしよう”っていうバンドのスタンスが表われてるのかな。

今作『Singin’ in the NOW』で大島さんが作曲した楽曲は?

 今回は「yaya」と「UNDER LAND」が自分の作曲で、オケも全部自分が作り込んでメンバーに渡しました。

なるほど。大島さんの楽曲はギターが前面に出過ぎず、楽曲としてのギターの落とし所がすごく気持ちいいアレンジが多いです。

 ありがとうございます。「yaya」なんかは、イントロからファズのジリジリっとした目立つ音色のギターを入れてたりもするんですが、“弾いてるけど出過ぎない”っていうバランス感が上手くいってるなと思います。あと、どの曲もギターのテクニック的には難しいことをしていないんですよね。自分がフレーズを作ると、なぜかギターが全部簡単なんですよ(笑)。

確かにシンプルですね。アイヴィーは前作までは高難度なフレーズが多かった印象がありますが。

 確かに、今まではテクニカルなフレージングが多かったです。「オートクチュール」のリフがまさにそれで、いわゆる“アイヴィー節”な雰囲気を踏襲してる楽曲ですね。でも、今作はそういったテクニック寄りのギターは少なくなってます。それこそ自分が気に入っているギターは9曲目の「Day to Day」のイントロのリフなんですが、これがめちゃくちゃシンプルで。

オルタナ感のあるサウンドがとてもカッコいいです。

 自分もアルバムの中で1番気に入っているかもしれないです。簡単な言葉で表わすと、フレーズや音色にはっきりと“エモ要素”を感じられるというか。アルバムで一番図太くて、力強さも兼ね備えているリフになってるなと思います。この曲は福ちゃんが作曲しているんですが、最初にデモが送られてきた時はもっとジャキジャキした爽やかな音色だったんですよ。でも自分は“フロント・ピックアップにディストーションだぜ!”みたいなアツくぶっといニュアンスにしたくて(笑)。そういうギタリスト的な考えでサウンドを作ったんですが、めちゃくちゃ楽曲にハマりましたね。 

なるほど。

 あと、今までのアイヴィーのギター・サウンドは“ジャキジャキ系”っていう言葉で表わされることが多かったんです。いつの間にか“バンドのシグネチャー・トーン”みたいな印象が自他共についてたというか。でも最近は、メンバーみんながその印象に変に制限されないで作曲ができるようになってきたんです。そういった理由で、今までとは違う新しい耳触りのサウンドが作れるようになってました。

何かきっかけはあったんですか?

 これと言ったきっかけはないんだけど……。大人になったのかな(笑)。

(笑)。

 わからないですけど(笑)。でも、何にしても“自分たちで制限を設けないで作曲をしよう”っていうバンドのスタンスが今作には表われてるのかなって。自由に作曲しつつ、各々が美学としているプレイやサウンドもしっかりと反映させたフレーズを作ったり。そういった考え方が自分もできるようになってきましたね。

バンドが良い雰囲気だということを強く感じます。では、最後に大島さんのギタリストとしての展望を教えて下さい。

 自分はギタリストとして強いエゴがあるタイプではなくて、その時々の気分や、自分の中の流行りでやりたいことが常に変わっていくんですよね。なので、その瞬間の自分の中の“表現したいこと”に対して、最大限に良いアプローチができるように、常に自分をアップデートしていきたいと思っています。

Oshima’s Guitars

Fullertone Guitars TELLINGS 60

 大島がフラートーンのセミ・オーダーで作り上げたTELLINGS 60。レギュラー・ラインにはない22フレット仕様だ。今作のほぼ全曲のレコーディングで本器を使用している。

 ピックアップはフロントかセンターで、ボリューム&トーンは常時フルで鳴らすのが大島スタイルだ。「Day to Day」のイントロのリフで、本器のサウンドを聴くことができる。

RS Guitarworks Surfmaster ’61

 ライブでのサブとしてセットされる本器は、アメリカはケンタッキー州ウィンチェスターに工房を構えるRSギターワークスのJMタイプ。怒涛のウェザー・チェックが目を引くビンテージ・ライクな風貌が特徴の1本だ。

 ピックアップにはリンディー・フレーリンのUnderwoundを2基搭載。テイルピース付近には共振を抑えるスポンジが挟まれている。

Oshima’s Amplifier

SUNN Tube Stack 100 & Hughes & Kettner CC412

 2015年頃に入手したというSUNNのTube Stack 100と、2021年に購入したHughes & KettnerのCC412キャビネットという組み合わせが、ライブでのメイン・セットとなっている。アンプはクリーン・サウンドにセッティングし、歪みはコンパクト・エフェクターでコントロール。ちなみに以前はキャビネットもSUNN製のものを使用していたが、スピーカーをVintage 30に交換すべく“パーツ取り”のために入手したCC412が、キャビネットもそのままにメインの座を奪った。

Oshima’s Pedalboard

【Pedal List】
①Empress Effects/buffer+(ジャンクション・ボックス)
②BBE/Ben Wah(ワウ・ペダル)
③DigiTech/Whammy5(ワーミー・ペダル)
④Creation Audio Labs/MK4.23(ブースター)
⑤BOSS/ES-8(プログラマブル・スイッチャー)
⑥KATANA SOUND/ BLUE STRIPE 青線(コンプレッサー)
⑦Lovepedal/Amp Eleven(オーバードライブ)
⑧BOSS/DS-1X(ディストーション)
⑨MXR/M296 CLASSIC 108 FUZZ MINI(ファズ)
⑩Effects Bakery/Sandwich Fuzz(ファズ)
⑪BOSS/BD-2(オーバードライブ)
⑫MXR/MicroAmp(ブースター)
⑬Line 6/M5(マルチ・エフェクター)
⑭BOSS/DD-20(ディレイ)
⑮strymon/big sky(リバーブ)
⑯KORG/Pitchblack mini(チューナー)
⑰Providence/Provolt9 PV-9(パワーサプライ)
⑱Belden/PS1850(電源タップ)
⑲Vital Audio/POWER CARRIER VA-08 MKII(パワーサプライ)

 プログラマブル・スイッチャーで制御された大島のボード。
接続順は、まず①のジャンクション・ボックス兼バッファーから②〜④まで直列で接続され、スイッチャー⑤に入り、リバーブ⑮から出力される。⑤の各ループでは以下をコントロール。

L1=⑥
L2=⑦
L3=⑧
L4=⑨&⑩
L5=⑪
L6=⑫
L7=⑬
L8=⑭

 それでは、各エフェクターの使い方を見ていこう。

 ①のON/OFFは、ギターを持ち替えた時の音量差を補正する役割。④はツマミをゼロの状態で常時オンにしており、バッファーのように使用する。

 スイッチャー⑤でコントロールするペダルの用途は以下のとおり。なお、⑤のインプット・バッファーはすべてバイパスされている。先頭の⑥はオケの音量が大きい際に、クリーン・サウンドを目立たせるために使用。

 クランチのアルペジオや、コード・ストローク時は⑦を踏む。なお、右のBoostチャンネルは常時オンになっており、こちらもオケの音量に合わせて適宜調整している。⑧は低音リフでの暴れたサウンドが欲しい際に使用。

 ミニ・サイズのファズ⑨、⑩が並んでいるが、こちらは1ループ内に直列で接続されている。⑨は“ブチブチ”とした荒々しいサウンドで、⑩はディストーション・ライクなスムースな音色が特徴。こちらはシーンに合わせて直踏みで切り替えているそうだ。

 ボード中央に配置されている⑪は音量を下げる目的で組み込まれており、⑫はマスター・ボリューム的に使用。

 ⑬、⑭、⑮は空間系セクション。⑮のみスイッチャーのループ外に接続されているが、⑤でMIDI制御を受けるセッティングとなっている。ループ外に接続することで、ミュート時やギターの持ち替え時などに残響音を鳴らし続けることができるのがポイントだ。

作品データ

『Singin’ in the NOW』
Ivy to Fraudulent Game

murffin discs/MDMR-2055/2022年5月4日リリース

―Track List―

01.泪に唄えば
02.オートクチュール
03.yaya
04.胸を焦がして
05.Heart room
06.UNDER LAND
07.color
08.オーバーラン
09.Day to Day
10.愛の歌

―Guitarists―

寺口宣明、大島知起