オープンCチューニングを巧みに駆使する次世代のスライド・マエストロ=ジョーイ・ランドレス。彼と兄デヴィッドとのユニットである、ブラザーズ・ランドレスの新作『Come Morning』の話を中心に、スライド・アプローチのこだわりについてなど、たっぷりと語ってもらった。
取材/翻訳=トミー・モリー 質問作成=福崎敬太
ドブロをきちんと“プレイしてきた風に”聴こえるよう努力したんだ(笑)。
2007年にあなたが参加したアサヴェールの『Devoted』でのプレイは、フュージョンの雰囲気があったり、ロベン・フォードのブルースのようにジャズ・フィーリングが今より強いですよね。当然ながらレギュラー・チューニングで押弦スタイルです。今のようなオープンCチューニングでスライドを交えたスタイルはいつ頃生まれたんですか?
2011〜12年頃にこのスタイルになってきたかな。当時の僕はカントリー・バンドとロードに出ていたんだけど、スライドを少しずつトライしていた頃でもあってね。そのことを聞きつけた人から“カントリー界の大スター、トビー・キースの前座バンドをやっているのだけど、ドブロのプレイヤーが必要なんだ”と声をかけられたんだ。ある程度はスライドもプレイできていたし、父が古いリゾネーター・ギターでプレイしているのも聴いてきたから、“僕ならプレイできるよ!”と即座に答えたんだ。
ハッタリですね(笑)。でも、そのチャンスは見逃せませんよね。
で、すぐに楽器店へ行って、その後何年もリゾネーター・ギターのメインとなるドブロのHOUND DOGを購入したんだ。それで、オープン・チューニングを用いたスケールやリックを1つでも多く学び、ドブロをきちんと“プレイしてきた風に”聴こえるよう努力したんだよ(笑)。もちろんラップ・スティールやラウンド・ネックでのプレイはしてきたけど、それはちょっと別物だったからね。この経験がオープンE、すなわちEBEG#BEのチューニングでの旅の始まりとなっていたんだ。
今はレギュラーで弾くことはほぼないんですか?
誰かのレコーディングでスタンダード・チューニングのボイシングを求められない限り、オープン・チューニングでプレイしている。僕がオープン・チューニングでやっていることの多くは、スタンダードでも同様にできるかもしれないけど、Gのコードを鳴らすにしてもサウンドは異なってしまうから。もはやこのチューニングは僕がやっている音楽の触媒となっているよ。
ということは、新作『Come Morning』の楽曲はすべてオープンCチューニングですか?
ほとんどオープンCでプレイしていて、アコースティック・ギターだけはオープンDでプレイしている。普段はオープンEでチューニングしているギターもあるけど、基本的には6弦から1弦にかけて1度、5度、1度、3度、5度、1度というチューニングという点で同じだね。
クールなサウンドが作れれば自然と弾くべきものは指から生まれてくるよ。
新作『Come Morning』についても聞かせて下さい。本作は空間系エフェクトもこれまでより多く、実験音楽的なサウンドも含めテクスチャーの作り方が印象的です。
このアルバムはとにかく“開拓”することを重視していたんだ。サウンド面でも実験をしたくて、かつてやったことがなかったことにもトライしていった。僕らはアメリカーナ・バンドとして知られているように、ドラム、ベース、ギター、キーボードで構成されるトラディショナルな音楽を、スタジオのトリックやシンセサイザーを多用せずに作ってきた。その一方で僕のソロでは、そこから一歩踏み出したようなことをやってきたんだけど、このアルバムではその棲み分けを取り払ってみたかったんだ。
その棲み分けを取り払う中で、ギターのサウンドメイクやアンサンブルで目指していたものは?
そうやってルールを取り除いたことで心から楽しんで音楽を作れるようになって、次第にステレオな音像の中で最大限に空間を表現することを目指すようになったね。空間系のエフェクトを使っているのは、スピーカーから出てくる音に揺れを感じることで、聞き手に“どこかにいるような感覚”になってもらいたかったからなんだ。このアルバムでは、僕がブースの中でギターとアンプで音を作っているさまを手に取るように感じてほしいんだよ。
作曲は基本的にギターで?
ほとんどギターで作曲しているけど、ピアノでも少し作っている。ギターとは異なった視点でプレイしてみたいと思う時は、ピアノの前に座るようにしているね。で、以前ならピアノで書いた曲は最終的にギターに置き換えて録音してきたんだけど、今回のアルバムではそんな曲も僕がキーボードをプレイしている。
「Don’t Feel Like Crying」のようにパートが細かく分かれた弦楽重奏のようなアレンジはどのように組み立てていくのでしょうか?
この曲はアコギ、ベース、ドラムでプレイすることから始まった曲で、一通り作ったあとに“何が不足しているか”を考え始めた。そしてバリトンやナッシュビル・チューニング(3〜6弦を1オクターブ上げたもの)のギターも加え、そこにアコギも混ぜることでかなりワイドなサウンドにしていったんだ。ハモンド・オルガンも重ねて、エネルギーのうねりを作り出すことを目指したんだよ。
動から静、そして静から動と、対照的なプレイがどれだけの効果を生むかはギタリストとしてわかっているし、それを曲全体のアレンジにも展開させていくことで、リスナーの耳を惹きつける曲にしていくんだ。
「Back to Three」のソロの入りはサックスと聴き違うほど豊かな倍音で、その後の表現力も素晴らしいです。
Chase Bliss AudioのCondor(プリアンプ/フィルター)にはアメイジングなローパス・フィルターがついていてね。エクスプレッション・ペダルを使って、このローパス・フィルターを緩やかなレンジで動かしていったんだ。そしてこのエクスプレッション・ペダルの信号をスプリットさせて、チェイス・ブリスのThermae(ディレイ/ピッチシフター)もコントロールしていて、ドライ音とディレイのウェット音をステレオで出力させている。ディレイ音もそんなに大々的に聴こえるようなものじゃなく、奥行きを少し感じさせる程度にして、ギターを立体的なサウンドに仕上げているんだ。
サウンド・メイクが肝ですね。
普段からエフェクターをいじっていて、それにインスパイアされてしまうから、クールなサウンドが作れれば自然と弾くべきものは指から生まれてくるよ。だからこのソロはパッとインプロヴァイズしただけで、すぐに弾けてしまったんだ。実際に3テイクぐらいしかプレイしていなかったと思うね。
スライドについても聞かせて下さい。あなたのアプローチは、デレク・トラックスのような音運びもありますが、押弦とのミックスのほかに、開放弦の効果的な使い方が独特だと感じています。開放弦の入れ方について考えていることはありますか?
オープン・チューニングだから、まずⅠのコードだと何も考えずにすべての開放弦が使えてしまうよね。それに、例えばⅣの時にそれぞれの開放弦が相対的に何度の音になるか、ということは意識しながら弾いているよ。例えば2弦の開放はⅠのコードにおける5度だけど、Ⅴのコードにおける1度、Ⅳのコードの9度になる。こういった関係を意識しながら、展開によって開放弦を加えているね。例えば6、4、1弦の開放はⅤのコードの4度の音となって少し不協和音的かもしれないけれど、それを味にできたりもするんだ。
ピックとフィンガーの使い分けはどのように考えていますか?
全体的に見れば指でのピッキングを好んでいるけど、ピックは常に手の中に持っている。特に単音やかなり速いリックをプレイする時にはピックを使うことが多いし、そっちのほうが効率的だよね。スライドをプレイする時にピックを使うことはほとんどないけど、たまにやっているかな。
常に右手でピックを持っていると、フィンガーピッキングでスライドを弾く際のミュートが難しくなったりしませんか?
僕は人差指と中指の付け根の間に挟むようにピックをしまっていて、アリエル・ポーゼンのように人差指や中指だけで包みこむのとは違うスタイルなんだ。だから人差指と中指も問題なくミュートに使えるし、指先は自由に動くからピッキングも問題なくできるよ。
スライド時のピッキングやミュートについて、アドバイスはありますか?
ミュートに関してはプレイヤーごとにやり方は違うだろうけど、僕は1弦をプレイする時は親指が2弦に乗っていて、親指の側面で残りの弦をミュートしている。2弦をピッキングする時は親指の先は3弦で、薬指で1弦をミュートする、という感じだね。今のスタイルになるまでに時間はかかったけど注意深く手の動きを分析してきたわけじゃなくて、スライドをプレイする際のノイズに悩んで今に至っている感じなんだ。
アドバイスとしては、まずは自分なりのやり方で1弦上で快適にメロディをプレイできるようなるまで練習することだね。そこから徐々に2弦を取り入れたプレイをしてみるんだ。弦を移動するようなプレイをすると、自然と親指、人差指、中指を組み合わせた、オルタネイトなピッキングになると思う。僕の場合は、基本的に中指でピッキングをして、人差指がその次に使われるような感覚だね。人差指と親指は弦を変える時のためにスタンバイしているイメージかな。感覚的にはベース・プレイヤーの指弾きには近いのかもしれないね。
スライドバーはどのメーカーのものを使っていますか?
The Rock Slideというメーカーのブラス製の僕のシグネチャー・モデルのものを使っている。彼らは一般的なスライド・バーにクールな特徴を持たせているんだ。指の付け根に接する側に斜めの切り込みが入れていて、そのおかげで指の可動性が上がるんだよ。それに指先のほうが重くなっていて、それによって安定感が増すんだ。
それは気になる……ちょっと取り寄せて使ってみます! ちなみにオープンCチューニングはかなり低音になりますが、弦は何を使っているんですか?
CチューニングのギターはStringjoyというブランドで、1弦から.017、.019、.022、.032、.044、.056というゲージだね。昔は.019から.064というゲージでやっていたけど、パンデミックの影響で頻繁にライブをしなくなってから手が耐えられなくなってきてしまってね。
弦高やピックアップの高さなど、セッティングのこだわりも聞かせて下さい。
弦高に関しては一般的なギタリストよりは高いけど、それほどでもないと思う。スライド・プレイヤーはかなり高めに設定すると思われがちだけど、僕は半分くらいは押弦しているスタイルだからね。
基本的な調整の仕方は、スライドでプレイしやすい高さにして、押弦で弾きづらさを感じたら下げ、スライドを弾いて低いと思ったらまた上げて、というのをくり返してベストな高さを探していくんだ。それでも時期によってベストな高さが変わってくるんだよね。
日本のプロモーターからぜひ連絡が欲しいね(笑)。
僕らはとにかく日本に行きたいんだ!
日本のギター・ファンに聴いてほしい『Come Morning』のポイントを聞かせて下さい。
今作は火を噴くようなギターがたくさん入っているわけではないけど、僕の周りに流れている空気をキャプチャーした作品となっている。レコーディングした部屋で起きたことのすべてを余すことなく封じ込めているから、このアルバムを聴いて僕らと同じ部屋にいる感覚になってもらいたいし、一緒に旅に出てもらえると嬉しいな。
しっかりとしたギター・ソロにもトライしたけど、ギター・ソロが必要ないと思う曲が多くて、それはその時の僕らがそういった状態だったからだと思う。
それよりも、リスナーをアルバムの世界に引き込むことために、ちょっとしたサウンドの工夫をたくさんしているんだ。例えば「You Don’t Know Me」では、Uni-Vibeをビブラートのセッティングにして2台のアンプで音を鳴らしているんだけど、そういうところにも注目して聴いてみてほしいね。
せっかくなので昨年リリースした最新ソロ作『All That You Dream』についても、聴きどころを教えて下さい。
『All That You Dream』は僕のヒーローの1人、ローウェル・ジョージと彼のリトル・フィートへのトリビュートとなっている。彼らへの感謝の手紙みたいなものだ。ただ、その深いリスペクトや愛を丸ごとコピーして表現したわけじゃなく、“僕ならこうプレイする”という感じで表現している。
そしてジョージの特徴だった、コンプレッサーを2台直列でかけるっていうテクニックのために(ユニバーサル・オーディオ)1176を使ったよ。僕は普段、ペダルボードにコンプレッサーを入れてないけど、レコーディングではたまにやるんだ。リトル・フィートっぽいアルバムを作るなら1176が2台どうしても必要だよ!
このアルバムを通じて僕なりのリトル・フィートを感じてくたり、これをきっかけにローウェル・ジョージを深掘りしてもらえたら嬉しいかな。
ありがとうございます。さて、COVID-19のパンデミックも一時期よりも少し落ち着いて、ようやく日本にも海外アーティストが少しずつ来日するようになりました。日本でのライブを期待しているのですが、いかがですか?
長い間、日本にどうやったら行けるのか、ずっとその方法を模索してきた。日本の知人ともずっと話していて、今でも模索中だよ! 来年こそはぜひ日本に行きたいと、これから言い続けることにするよ! もしこのインタビューを日本のプロモーターが目にして僕らを呼びたいと思ってくれれば、ぜひ連絡を欲しいね。僕らはとにかく日本に行きたいんだ!
楽しみに待っています! それでは最後に、日本のギター・ファンにメッセージを!
カナダの音楽をもっと聴いてくれ(笑)。まだ君たちの知らないグレイトなカナダのミュージシャンたちはたくさんいて、ケヴィン・ブライト、シャンペン・ジェームズ・ロバートソン、あとは誰だろう……。急には出てこないけど、とにかくカナダには優れたギター・プレイヤーたちが本当にたくさんいるんだよ!
作品データ
『Come Morning』
The Bros. Landreth
輸入盤/2022年5月13日リリース
『All That You Dream』
Joey Landreth
輸入盤/2021年11月26日リリース
―Guitarist―
ジョーイ・ランドレス