前編に引き続き、新作『US』の全曲解説の後半(5曲目「RINNE」から10曲目「ESPERS」まで)をお届け!
取材・文=小林弘昂 人物写真=星野俊
「RINNE」
マリア・マルダー「Midnight At The Oasis」の
エイモス・ギャレットみたいなイメージ。
──牛尾健太
後半いきましょう! 5曲目「RINNE」は浮遊感のあるイントロが最高ですね。
有馬 このイントロは最高ですよ。
イントロは最初からあったんですか?
有馬 コード進行だけあって、そこに牛尾が付けました。
牛尾 レコーディングの前日とかにね。
有馬 もともとはトッド・ラングレンとかジョージ・ハリスンみたいにしようと言っていたんですけど、イントロだけ聴いたことのないような感じにしたくて。
牛尾 トッド・ラングレンを意識しています(笑)。
有馬 イントロのフレーズ?
牛尾 うん。トッド・ラングレンあんまり聴いたことないけど……。
有馬 牛尾ね、だいたい聴いたことないんですよ。
(笑)。
牛尾 あるけど(笑)! 「I Saw The Light」(1972年)は知ってるよ!
有馬 牛尾が聴いたことあるバンドはブラーとオアシスとレッチリしかない。
あとBTS!
有馬 あ、BTSも! 4組しか聴いたことない(笑)。さっきのマルコス・ヴァーリも嘘ですから。
牛尾 本当だけど! いや、もうこういうキャラでいくか(笑)。こっちのほうが楽! あれ、何の話だっけ(笑)?
イントロの話でした(笑)。最近はイントロがない曲も多いです。
有馬 いきなり始まる淡白な曲が多いですけど、おとぎ話は淡白にはしないので。
牛尾 このイントロは良いですね。この曲は全編Dyna Compを踏んでいて、コンプがハマりました。
有馬 そうなんだ!
かけっぱなしなんですか?
牛尾 バッキングも全部かかっています。僕、Dyna Compが凄く好きなんですよね。
それと左右でアルペジオを振り分けているのも広がりが出て良いですね。
牛尾 基本は全部ダブリングしています。
有馬 この曲、エレキを2本重ねたら気持ち良くなったよね。2本の音色が違うから、けっこう揺れてるように感じるというか。
牛尾 これもストラトとStarfire Ⅲの組み合わせだったと思います。
有馬 ギター・ソロも良いっすよね?
牛尾 ギター・ソロも良い! 浮遊感のある感じが良いなって。ここもレコーディングの前日に考えました。自分的にはマリア・マルダー「Midnight At The Oasis」(1973年)のエイモス・ギャレットみたいなイメージ。……凄くデカいこと言っちゃったけど。
有馬 でも、それくらい規模がデカいよね。
牛尾 たゆたうようなイメージ。ソロはストラトですね。気に入ってますよ。
ソロはじっくり考えたんですか?
牛尾 いや、そんなに。
有馬 最初はけっこう音が埋まってたソロを弾いていて、“半分まで減らして”ってリクエストしたかも。
途中で歌とギターだけになるところがあるじゃないですか。
有馬 あのジャカジャカするところ良いですよね。……この曲ロックだな!
牛尾 たしかに一番ギターを弾いてる印象。
この曲のアコギは何を?
有馬 今回は「ROLLING」と「ESPERS」以外は全部D-41を使っています。あれを買ったおかげでできたアルバムですから。
手に入れてからはできる曲が違いますか?
有馬 まったく違う! 確実にこのギターが呼ばれる曲になりました。そしたらストラトも呼ばれちゃったから。
(笑)。
有馬 僕はマーティンに呼ばれて曲を作って、牛尾もストラトに呼ばれちゃって(笑)。
牛尾 Bメロとサビのアルペジオはテレキャスですね。むしろあのアルペジオはスミスを意識しましたよ。
風間さん(b)のベースもプレベからジャズベに変わって、おとぎ話の楽器がガラッと変わったアルバムということになりますよね。
有馬 “そろそろ自分の1本を持とうぜ”みたいな話になって変えたんですけど、牛尾だけは買わずに借りてきました。
牛尾 買おうが借りようが、そのサウンドが欲しかったから良いんですよ!
牛尾さんは今後ストラトかテレキャスを買うことになるんですか?
牛尾 そうですね。
有馬 ここで“買います“って宣言しよう。
牛尾 か……買いますよ! 常にデジマートで探しています。
「VOICE」
薬指とか小指とかが、
こんなにわけわからなくなることはないですよ。
──有馬和樹
6曲目「VOICE」で、ようやく初めて歪んだギター・サウンドが出てきました。あのダーティな歪みはどうやって作ったんですか?
牛尾 あれはSD-1です。DRIVEは10時くらいかな。
有馬 10時まで上げてあんな音になるんだ。ギターはSG?
牛尾 この曲はSG。
リバーブも少し変わった響きですよね?
牛尾 これもダブリングしています。1本はstrymonのblueSkyを普通にかけて、もう1本はblueSkyのMIXを上げて原音が聴こえないくらいかなり深めにしていて。ちょっとアンビエント感を出しました。だからそういう風に聴こえるんだと思います。
有馬 牛尾はずっと“ツェッペリン感を出したい”って言っていました。楽器屋に行くと試奏で「Stairway To Heaven」(1971年)を弾くタイプ。
牛尾 弾かないよ(笑)! 恥ずかしくて弾けないって!!
(笑)。でもツェッペリンを狙ったんですもんね?
牛尾 はい。ジミー・ペイジの感じを。
有馬 歪み感はグレアム・コクソンだよね。
牛尾 完全にブラーの「No Distance Left To Run」(1999年)。
有馬 フレーズも完全にそうだもんね。
牛尾 グレアム・コクソンを意識しましたね。使っているコードは別に難しくないんですけど、ボイシングが変わってるので、グレアム・リスペクトな感じで弾いています。
有馬 Aメロのアコギのフレーズは特にそうだよね。
牛尾 ずっと5弦のA音が鳴っていて。
5弦の開放をペダルで鳴らしているんですね。
有馬 だから変な感じ。Aメロはアコギの4〜6弦のみで構成されています。
サビの後半で歌メロが変わるところも好きです。
牛尾 あれはm7th(♭5)です。
有馬 あとはA on Bとかのオン・コードもけっこう使っています。
左手が大変そうですね。
牛尾 そう。最初は大変でした。
有馬 薬指とか小指とかが、こんなにわけわからなくなることはないですよ。
牛尾 最初6弦だけチェンジできなくて、久々に練習しました(笑)。
有馬 今の若い子はシティ・ポップを弾いてるから、こういうコードは弾けちゃうんだよね。僕たちは大変よ!
牛尾 それこそtricotのキダ モティフォさんとか、ああいうコードばっかり弾いていて凄いなと思った。何を弾いてるのかわからなかった(笑)。……頑張りました(笑)!
有馬 頑張りましたね!
「VIOLET」
ギターはその場のノリだけで弾きました。
決まったプレイをしてないから、それが面白い。
──牛尾健太
7曲目「VIOLET」は、以前から有馬さんが弾き語りで披露していました。
有馬 弾き語りに徐々に楽器が入ってくるみたいな感じで。だからこの曲が一番何もしていないですね。
牛尾 これは僕もノー・プランでした。有馬に“マジでノー・プランだから適当に弾いて”って言われて、アコギとエレキを弾いて。
有馬 弾き方のリクエストがけっこう上手くいったんですよ。“曲を聴きながら、遅れてきた感じでギターを弾いて”って。
タイミングが一歩遅れてくるというか。
有馬 だから全部オブリみたい。
牛尾 良い意味で拙いというかね。
有馬 1回目のテイクが良かったんですけど、一応2回目も弾いてもらって、結局欲張ってどっちも入れちゃいました。だからギターが4本入っていますね。エレキ2本とアコギ2本。
有馬さんは1曲を形にするまでどれくらい時間がかかりますか?
有馬 やらなきゃいけなかったら2時間とか。“やる!”って決まってからはめちゃくちゃ速いよね?
牛尾 そうだね。だから覚えるのが大変ですよ。“またきた!”みたいな(笑)。
有馬 一気に10曲とか送ったりするもんね。“1週間くらい有馬から音沙汰ないな”と思ったら急に。そういうのをやると優越感に浸れるんですよ。
牛尾 浸りたいの(笑)?
有馬 浸りたい! ひたリングね! 自分の才能に浸りたい男! 最低だね(笑)!
牛尾 そうだよ(笑)。
(笑)。この曲はフィンガーピッキングの音色がキレイです。
有馬 “ターン・ターン・ターン・ツターン”っていうのをずっとやっています。あれを初めてやりましたね。
有馬さんはコロナ禍になってから指弾きを練習したんですもんね?
有馬 そう!
牛尾 マーティンはいつ買ったんだっけ?
有馬 コロナ禍、2020年の10月。その前からいっぱい弾き語りライブをやっていたんですけど、普通にコードを弾いているだけだと、“魂込めて全力で歌ってる人に勝てないんだ”と思ったんですね。なので、“有馬、こんなにキャラが良いんだから、もうちょっと自分のやりたいことをやれるようになろうかな”って考えて。で、“そもそも良いアコギを買わないから練習しないのかな”と思って、いざ買ったら……やるのよ!
(笑)。
牛尾 変則チューニングもやってたよね?
有馬 やってた! そこらへんで1回変えたんだよね。
それを経ての『US』という。
有馬 そうそう。でも、どっちかと言ったらジャカジャカ弾くほうが好きだから、指弾きのアルペジオで曲を作るのはそんなに興味がなくて。その中でも“他人と違うことがしたい”っていうのがあって、3拍子でブラジルっぽいことをやったりね。だから今回は凄くしっくりくるんですよ。
けっこう練習したんですか?
有馬 いや、感覚の部分が多いんです。本当にアルペジオをやらなきゃいけない時は牛尾にまかせちゃうんですよ。
牛尾さんは普段から練習してるんですか?
牛尾 有馬みたいな練習はしてないですね。家で曲を弾いたりはするかな。
BTSですか?
牛尾 BTSもコピーしたり、適当に爪弾いたりしています。だから練習はしてないですね。でもバンドの曲はしますよ(笑)! 有馬は“アコギちゃんと練習したんだな”っていうのが伝わりました。“じゃあお前もやれよ!”って話だけど(笑)。
有馬 まぁ、牛尾はすでに上手かったからね。
色んなギタリストから“牛尾さんにみたいに弾きたいんですけど、どうすればいいですか?”ってよく聞かれるんですよ。
牛尾 本当ですか? オアシス弾いてただけですけど……(笑)。
有馬 戻ったね(笑)! 本当にそんなこと言うんだ!
牛尾 (笑)。どうすればいいかは自分でもわからないですけどね。できる範囲のことしかやってないし。
有馬 そろそろ練習でそれを超えてくるんじゃないですか?
牛尾 あ〜……練習しますね(笑)。
この曲で使ったギターは?
牛尾 アコギはD-41とRozawoodです。
有馬 “チャラリ〜ン”っていう短いフレーズでRozawoodを使いました。
牛尾 エレキはストラトとStarfire Ⅲ。アコギ2本とエレキ2本ですね。ギターはその場のノリだけで弾きました。決まったプレイをしてないから、それが面白い。
有馬 ライブだとスライドはやるわ、Big Muffも踏んだりするんじゃないですか?
牛尾 ありえますね。まだわかんないけど。
「SCENE」
超ロックステディっぽくやろうと思ったら
全然できなくて(笑)。
──有馬和樹
8曲目「SCENE」は、もう完全にブラーですね。
牛尾 よくわかりましたね(笑)。バレバレ?
有馬 曲はシンズ(The Shins)のつもりで作ったんです。ロック・バンドがスカっぽい曲をやると、かわいいじゃないですか?
牛尾 最初はスカというかロックステディみたいな感じで、テンポがもうちょっとゆっくりで。
有馬 でも、ベースとドラムのノリがあんまり出なくて。だからこれはちょっとバンドに合わせたというか、ロックっぽく演奏したかな。このアルバムの中で唯一そうかもね。
牛尾 そうなった時にギターもアプローチを変えました。
有馬 アルトン・エリスみたいに、超ロックステディっぽくやろうと思ったら全然できなくて(笑)。“アルバムの中で1曲だったら良いか、じゃあ一番得意なやつにしよう!”と。
牛尾 僕は好きですよ。
この曲はテレキャスのミックス・ポジションでレコーディングしましたよね?
牛尾 これはテレキャスです。バッチりハマった!
有馬 ブラーですか?
牛尾 マジで「Coffee & TV」(1999年)。この曲はほぼアンプ直ですよ。
牛尾さんが思うテレキャス・プレイヤーといえば、やはりグレアム・コクソン?
牛尾 グレアムです。『Parklife』(1994年)はテレキャスとマーシャルのサウンドの金字塔だと思いますよ。かなり凄いと思う。
有馬 牛尾にとって、テレキャス使いはグレアム・コクソンしかいない(笑)。
牛尾 うん。グレアムしかいない(笑)。いや本当に!
でも、ここまでモロにグレアムっぽいフレーズは今までなかったですよね?
牛尾 なかったです。でも、全然不安はなかったですよ。“これで良い!”って。
有馬 “むしろ嬉しい!”でしょ(笑)?
牛尾 “楽しい!”みたいな。
有馬 レコーディングの時に牛尾が“オレがやりたかったのはこれだ!”って言ってたもん(笑)。
牛尾 「Coffee & TV」を知らない子は、この機会に聴いてみて下さい。
最後に2本目のエレキが入ってきて、雰囲気がガラッと変わります。
牛尾 あれは“欲しいな”と思って、その場で入れました。手癖ですけどね。
有馬 なんでもないフレーズだよね?
でも、あれが良いフックになってます。
牛尾 僕、1弦と3弦で弾くああいうプレイが多いんです。
「VISION」
今まででこんなに
シンプルな曲はない。
──牛尾健太
9曲目「VISION」のタイトルは、日本語だと“眺め”になりますよね。
有馬 「SCENE」も“眺め”ですし、実は“眺め”2部作なんですよ。個人的に「VISION」は内面的な精神世界で、「SCENE」は目に見えている世界。
どっしりとしたメロディが昭和歌謡っぽいです。
有馬 フランキー・ヴァリの「Can’t Take My Eyes Off You」(1967年)を聴いて作ったので、昭和歌謡っちゃあ昭和歌謡(笑)。
牛尾 これは“どうしようかな?”ってアレンジを一番考えたかな。
有馬 ギター・ソロはあるけど、基本はコードしか弾いてないよね。音色とボイシング、そしてアコギとエレキでコードのポジションを変えることで響かせていて。
牛尾 結局シンプルになったね。
有馬 このアレンジ、めちゃくちゃ気に入ってるもん。真ん中の歌が異常に強い曲だから、楽器は添えるだけにしました。
牛尾 サビもこんなにシンプルな曲はないもんね。
有馬 今までは絶対アルペジオとかを入れてたけど、この曲は禁止したので。
牛尾 ピックすら使ってないです。
指弾きなんですか。
有馬 牛尾、“こんなんレコーディングで初めてだよ!”って言ってなかった(笑)?
間奏のフレーズもその場で?
牛尾 いや、前半の追いかけるフレーズはもとから考えていて。後半の下がるフレーズはそのあとに考えました。なんだかハワイアンっぽくなっちゃいましたけど(笑)。
有馬 “アロハ〜”って感じ!
使ったギターは?
牛尾 コードはストラトで、単音がStarfire Ⅲ。
有馬 アコギも牛尾で、この曲は全部牛尾がギターを弾いています。
「ESPERS」
対バンでストラトを使っている人がいると、
“やっぱストラトやな!”ってよく言うんですよ(笑)。
──有馬和樹
ラスト「ESPERS」です。この曲だけめちゃくちゃ歪んでいますね。
有馬 ファンカデリックのつもりで作ったんですよ。
使った歪みは75年製のRam’s Headですよね。
牛尾 そうですね。
有馬 誰の!?
牛尾 小林さんの(笑)。ストラトも小林さんの(笑)。チョーキング・フレーズはRATⅡとSD-1の組み合わせかな。
有馬 RATを使ったのはアルバムで1曲だけでしたね。
牛尾 そう。あとで気づいた。
ストラトとRATを組み合わせた音を出した瞬間、前越さん(d)がめちゃくちゃ喜んでましたよね(笑)。
牛尾 前ちゃんね、シングルコイルが好きなんです(笑)。
有馬 昔からそうだよ。
牛尾 あの人、ストラトを弾いてる人が凄く好きなの。
有馬 対バンでストラトを使っている人がいると、“やっぱストラトやな!”ってよく言うんですよ(笑)。
牛尾 この曲もストラトがハマったね。
レコーディング中に“もっとフレーズを重ねるか”っていう話をしていたじゃないですか。でも、結局入れませんでしたよね。
有馬 あえて入れませんでした。
牛尾 偉いよね。ああいう曲は重ねようと思えばいくらでもできますけど。あれくらいの余白をもたせているのが良いですよ。
そして最後にこの曲を持ってくるところに何か意味を感じます(笑)。
有馬 意味ありますよ(笑)。有馬の妖怪感が出ちゃってます。
作品データ
『US』
おとぎ話
felicity / P-VINE RECORDS/PCD-27063/2022年6月22日リリース
―Track List―
01.FALLING
02.BITTERSWEET
03.DEAR
04.ROLLING
05.RINNE
06.VOICE
07.VIOLET
08.SCENE
09.VISION
10.ESPERS
―Guitarists―
有馬和樹、牛尾健太