Interview|Shinji(fuzzy knot)“明暗”を操る巧みなギター・アレンジ Interview|Shinji(fuzzy knot)“明暗”を操る巧みなギター・アレンジ

Interview|Shinji(fuzzy knot)
“明暗”を操る巧みなギター・アレンジ

2021年4月に始動したシドのShinjiと田澤孝介によるプロジェクト=fuzzy knotが、5曲入りのミニ・アルバム『BLACK SWAN』をリリースした。今作のキーワードは“ダーク”。この言葉が持つイメージを、ギターの音色やコード・アレンジによって巧みに表現したコンセプチュアルな作品となっている。今回はそんな“楽曲の明暗”をつかさどるギター・ワークについて、Shinjiに詳しく語ってもらった。

取材/文=村上孝之 写真=江隈麗志

良い意味で“こんなの今どき誰がやるんだよ”って感じのアレンジにできた(笑)

新作の『BLACK SWAN』は“ダーク”というコンセプトのもとに、人の闇を描いた楽曲5曲が収録されたミニ・アルバムです。

 fuzzy knotのチームと次はどんな作品にしようかという話をしていた時に、“ダークな曲も聴きたい”という意見が出てきたんですよ。それを聞いて、“だったらミニ・アルバムだし統一感のあるものを作ろうか”という気持ちになってきて、今回のコンセプトが決まりました。

 その縛りがのちに自分を苦しめることになったので、縛らなければよかったなとも思いましたけど(笑)。“ダーク”と作曲テーマを決めていても、その日の気分によってアイディアが出てこないこともあったりするので。

先に楽曲があったのではなく、コンセプトに合わせて書き下ろされたんですね。今作は“ダーク”というコンセプトですが決して陰鬱な作品ではなくて、翳りを帯びたスタイリッシュなナンバーが揃っています。

 世界観を陰鬱にしたというよりかは、コード・アレンジでダーク感を表現しているからかもしれないですね。手法の一例としては、マイナー調にしたり、間奏でディミニッシュ・コードを採用したりとか。そういったコードやスケールを使うと、邪悪な感じに聴こえたりするじゃないですか。

 ほかの楽曲も、そういったところで統一感が出るようにしましたね。例えばバラード曲の「哀歌 -elegy-」も、アレンジ次第ではポップになりそうな楽曲だったんですが、コード感を工夫したら今作の世界観にしっかりハマってくれて。

それが奏功して、幅広い層のリスナーにアピールできる一作に仕上がっています。曲を作っていく中でキーになった曲などはありましたか?

 リード曲にもなっている「Inferno」です。fuzzy knotは“ダサいことを恐れずにやる”ということを軸にしているんですけど、この曲は良い意味で“こんなの今どき誰がやるんだよ”って感じのアレンジにできたなと思っていて(笑)。とにかくパンチが凄いので、これは面白いミニ・アルバムになるぞと思いましたね。

「Inferno」はダサくないですよ(笑)。どっしりとした前半から、メタリックに疾走する後半に変わる展開が凄くカッコいいです。

 その構想は、曲作りを始める段階で頭の中にあったんですよ。それ以外にも、間奏でワルツっぽくしたり、ハープシコードの音を入れたいと思ったり、後々浮かんできたアイディアもありました。なのでアレンジを考えるのは苦にならなかったんですが、この忙しく展開する曲構成に合うメロディを乗せるのが一番難しかったです。

展開だけでなく、各パートのインパクトも強いので、丁寧に作り込んだことが伝わってきます。

 そう感じてもらえたならよかったです。「Inferno」は1番と2番のサビで、メロディが一緒なのにコードだけ変わってるってことをやりたかったんですよね。1番は、ルートをEで押し切ってテンションだけを変えていき、2番以降は普通にコード・チェンジで展開していく。それが古さというか、ダサさの要因になっていたりするんです。言い換えると1番の手法は“今”っぽくて、2番はちょっと古臭い……みたいな(笑)。

古臭いとも思わないですよ! また、“ダーク”というコンセプトを掲げたうえで、「カミカゼスピリット」のようなファンキーな楽曲もイメージできるのはShinjiさんのスタイルならではと言えますね。

 そのあたりは、その日ごとに思いついたやりたいことを、“ダーク”というフィルターに落とし込んで作曲していたというのも大きいかもしれないです。冒頭で話したように、自分はコンセプトに縛られると何もアイディアが出てこなくなってしまうので、そういった考え方にしていたんです。

 それに、fuzzy knotの持ち曲は今回の5曲を加えて、やっと普通のライブができるボリュームになるくらいの曲数なので、なおさら色んなカラーの楽曲が欲しかったというのはありましたね。

やっぱり“ギターはカッコいいな”と思ってもらえるような楽曲にしたい

楽曲の幅広さと完成度の高さを兼ね備えていることも本作の大きな魅力です。ギターに関しても詳しく聞かせて下さい。まず、本作は完全にギターを主体にしたアレンジになっていることが印象的です。

 シドの時と作り方はそれほど変わっていなくて、ギター以外の上モノは“足りなかったら足そう”ってくらいに考えているんです。むしろ年々その考え方に寄ってきていますね。昔のシドは、ギターよりオーケストラの音が大きく鳴っている曲も多くあって。

 でも歳を重ねるごとに、どんどんバンド・サウンドが主体になっていったんです。ギター・キッズがいなくなったって言われている時期もあったので、やっぱり“ギターはカッコいいな”と思ってもらえるような楽曲にしたいというのがあるし。最近の自分のアレンジにはそういう想いが強く出ていますね。

その言葉どおり、本作は全編にわたってカッコいいギターを聴くことができます。

 そこはこだわりましたね。かなり凝ったギター・アレンジになっていると思います。ただステージでの弾きやすさはあまり考慮していなかったので、ライブが本当に大変(笑)。

 でも、ライブ中に僕の手元をガン見しているお客さんもいたりするんです。そうやってギターに注目してくれるのは、やっぱり凄く嬉しいんですよね。だから、ライブでも楽曲を再現することを妥協せずにやっていきたいと思います。

そういうスタンスを貫くことで、Shinjiさんのプレイをガン見する人も増えていくと思います。では、今作のバッキング・アプローチで印象の強い曲をあげるとしたら?

 1曲目の「Hello, Mr. Lazy」のギター・ソロのバックは、けっこうむちゃくちゃな転調をしているんです。コードの転調に、“これはやっちゃダメ”というのはないと思うんですけど、いわゆる黄金の転調パターンみたいなものってあるじゃないですか。

 この曲はそういったセオリーは無視していて、“本当に大丈夫なのかな?”と最初は思っていたんです。完成してから何週間も田澤(孝介/vo)氏に聴かせなかった……みたいな(笑)。

そんなことがあったんですね(笑)。この転調は凄く気持ち良いですし、ああいったコード進行に合わせて違和感のないソロを弾けるのもさすがです。

 このギター・ソロは、たぶんコードを知らなかったら弾けないですよね(笑)。転調しているところは、理論も踏まえつつトリッキーな印象になる音を探しました。ペンタトニックだけで……というのももちろんカッコいいけど、僕はそれだけだと飽きてきてしまって。なので、色んな音楽を聴きながら、自分に刺さる心地良いテンション感を日々研究しています。

理論に基づくにせよ、フィーリングに任せるにせよ、どんなテンション・ノートを選ぶかはそれぞれの美意識ですので、Shinjiさんのセンスの良さをあらためて感じました。心地良いといえば、「カミカゼスピリット」のワウを絡めたファンキーなカッティングも聴き逃せません。

 この曲のためにワウを新調して、フェンダーのジャズマスターも購入したんです。デモを作っている時はストラトキャスターを弾いたんですけど、この曲はジャズマスターのジャギジャギ感のほうが絶対合うなと感じちゃって。

必要なギターを用意してもらうのではなく、ちゃんと自分で買うというのは良いですね。

 いや、でも昔ほどノリでは買わなくなりました(笑)。ノリで買うとのちのち絶対にいらないなってなるんですよ。それに、ギターがあまり増えるのは良くないなと思ってもいて。ギターは放置されるとどんどん音が死んでいくし、結局いつも可愛がれる子はお気に入りの数本じゃないですか。

 なので、今回のジャズマスターもノリで買わずに、めちゃくちゃ調べてからお店に弾きにいったんです。そうしたら予想以上に良かったので買うことにしたんです。

今回はギター・ソロで統一性を持たせたかったんです

今後はジャズマスターを手にする機会が増えそうですね。ファンキーなカッティングを聴かせる一方で、「Inferno」ではメタリックな高速リフを弾いていますね。この曲はかなり難易度が高い気がします。

 難しいです。でも、今回は「Inferno」もそうだし、「Hello, Mr. Lazy」、「遠隔Reviver」あたりのバッキングは全部ツルッと録ったんです。Aメロ、Bメロ……と分けて録らずに、最初から最後まで通しで弾き切るパターンですね。それで何回か弾いて、良かったテイクを採用しました。

そうなんですか? 「Inferno」の中間に出てくる高速リフも、いわゆる1発録りでしょうか?

 そうですね。僕は速いフレーズはあまり苦にならないんですが、逆に遅い曲のほうが難しく感じるんです。今回で言うとバラードの「哀歌 -elegy-」とかはゆっくりで、しかも強弱をつけるために弱く弾こうとするとリズムがヨレてしまったり。レコーディングでは苦労しましたが、最終的にはとても良い抑揚がついたギターになりました。

とはいえ、「哀歌 -elegy-」の抑揚を効かせたブルージィな“泣きのソロ”は本当に聴き応えがあります。ギター・ソロの話が出ましたので、続いてはソロについて話しましょう。今作はメタリックかつテクニカルなソロが多い印象を受けました。

 今回はギター・ソロで統一性を持たせたかったんです。それで、テクニカルなフレーズを入れたり、ディミニッシュのスケールを使ったりしました。でも、ソロのフレーズを考えるよりもバックのコード進行を考えるのに時間をかけた気がしますね。そのほうが世界観を作れるから。

 例えば、ギター・ソロの音程だけがディミニッシュにいっていても成り立ちますが、コード・バッキングでもディミニッシュの音階が鳴っていると、さらに雰囲気を強調できるじゃないですか。そういった理論的な面を考え過ぎるのも良くないですが、そういうところは凄く大切にしましたね。

 今回のギター・ソロで特に気に入っているのは、「Inferno」と「哀歌 -elegy-」かな。「Inferno」のギター・ソロは音楽好きな人だったら“そう来るよね”というふうに、先まで読めるようなメロディだと思うんですよ。“このコード進行にはこれでしょ!”っていう感じで本当に一瞬でできました。

 「哀歌 -elegy-」は、シングルコイルのギターを使っていて歪み成分もそれほど多くないんですが、そういったサウンドからは想像できないほど指板を動き回るフレーズになっていたりするんですよ。弾きやすく伸びのある音色で弾いてもいいけど、若干サステインに苦労しているくらいの音色のほうが、シブくて良いかなと思ったんです。さっき話したように、良い感じの強弱をつけつつそういったアプローチを活かすことができて、とても気に入っています。

ライブでもマーシャルの音を鳴らしたいなと思うようになりましたね

では今回のレコーディングで使用したおもな機材も教えていただけますか?

 メイン・ギターはSuhrのHSH(JST Standard Blue Nova)です。「Hello, Mr. Lazy」、「遠隔Reviver」、「Inferno」で使いました。Suhrは音の粒が細かいというか、わりと最近のギターの音という感じなのかなという気がしますね。

そのとおりですし、Suhrの音はfuzzy knotにフィットすると思います。

 fuzzy knotを始めてからSuhrのギターが欲しくなって買ったようなところもあるんです。以前は、ハムバッカーが載っている黒いストラトキャスターがメインだったんですけど、fuzzy knotでもそのギターばかりになっていたんですよ。

 そのギターはいただきものだったので、ハムバッカーが載ったギターを自分で買うことにしたんです。Suhr以外では「カミカゼスピリット」でフェンダーのジャズマスター、「哀歌 -elegy-」でフェンダーのストラトキャスターを弾きました。

楽曲に寄り添ったギター・チョイスをされたんですね。アンプやエフェクターは?

 アンプはマーシャルが多かったですね。よくリハーサル・スタジオやライブハウスに置いてある、いたって普通のJCM2000です。自分のアンプはハードロック向きではないものが多かったので、信頼できるエンジニアさんにお借りしたマーシャルを使いました。基本的にはアンプ側の歪みを活かしつつ、楽曲によってはヴェムラムやケンタウルスをブースター的に使ったりしていました。

 それに、今回のレコーディングを経てライブでもマーシャルの音を鳴らしたいなと思うようになりましたね。今は自分好みに改造したマーシャルが欲しくて。サウンド・システムもFREE THE TONEの林(幸宏)さんに預かってもらって、マーシャル込みのセッティングでライブができるように調整してもらっています。

マーシャルを鳴らしているShinjiさんを早く観たいです。ライブといえば『BLACK SWAN』を携えた全国ツアーが8月から行なわれますね。

 ツアーの内容はまだ全然予想できないですね。それも最近、fuzzy knotのファンの旅行イベントがあって、その時にアコースティック・ライブをしたんですよ。その練習で、2ヵ月くらいエレキを持たずにずっとアコギの指弾きをしていたら、その楽しさを知ってしまって(笑)。fuzzy knotのライブはエレキでガンガンにと思っていたけど、アコースティック・サウンドの可能性も視野に入れられるようになったので、今度のツアーがどういうものになるかはちょっと想像できないですね。

 『BLACK SWAN』は“ダーク”ということを謳っているから、その世界観に合わせてロックなライブにしたいというのはありますけど、どういうライブになるかはまだわからない。ただ、楽しんでもらえる自信はあるので、ぜひ会場に足を運んでほしいです。

LIVE INFORMATION

fuzzy knot Tour 2022 ~BLACK SWAN~

【SCHEDULE】
2022年08月11日(木・祝)/HEAVEN’S ROCKさいたま新都心VJ-3
2022年08月20日(土)/仙台darwin
2022年08月27日(土)/福岡DRUM Be-1
2022年08月28日(日)/梅田CLUB QUATTRO
2022年09月11日(日)/名古屋ElectricLadyLand
2022年09月25日(日)/新横浜NEW SIDE BEACH!!
2022年10月09日(日)/新宿BLAZE

【チケット】
立ち位置指定スタンディング ¥6,600(税込/ドリンク代別)
※名古屋・新宿公演は整理番号付きスタンディング
※4才以上有料

※チケット購入の詳細は公式HPまで
https://www.fuzzyknot.com/

作品データ

『BLACK SWAN』
fuzzy knot

MAVERICK/DCCA-103/2022年7月13日リリース

―Track List―

01.Hello, Mr. Lazy
02.遠隔Reviver
03.カミカゼスピリット
04.哀歌 -elegy-
05.Inferno

―Guitarist―

Shinji