切ない恋模様を描いた歌詞と美しいメロディで、Z世代から絶大な支持を集めている3人組ロック・バンドのマルシィが、1stアルバム『Memory』を完成させた。恋の始まりから終わりまでをストーリー仕立てに描いたという今作の制作について、shuji(g)に振り返ってもらった。
取材=白鳥純一(ソウ・スウィート・パブリッシング) 写真=横山マサト
フレーズやサウンドを曲の世界観に合わせていくことを心掛けています
まずは1stアルバム『Memory』の制作を終えて、今の気持ちを聞かせて下さい。
全国流通のCDをリリースしたのは初めてでしたし、アルバムを出すことが僕の長年の夢でもあったので、これまでに経験したことがないような達成感や、嬉しさがありました。これからも僕らの大切な記憶として残り続けていく “初心に戻ることができるアルバム”になったと思います。
今作は、恋に関する曲が詰まった作品に仕上げられています。ストーリー仕立てというコンセプトは、いつ頃決まったのでしょうか?
ちょうど1年くらい前だったと思います。吉田右京(vo,g)の考えたコンセプトを元にアルバム作っていくことが決まりまして。その後は、歌詞が織り成す世界観を重視しながら、曲順などを決めていきました。「君のこと」、「牙」の2曲は、右京が伝えたいメッセージを伝えるために、急遽アルバムに収録することが決まったんです。
マルシィはバラード曲が多く、そのクオリティにも定評がありますが、バラード曲が多いのには理由はあるのでしょうか?
右京がバラードを作ってくることが多いからですね。今となっては、マルシィのレパートリーの半分以上がバラード曲です。最近になって、バンドでも徐々に“アップテンポの曲を取り入れていこう”という雰囲気になってきました。
ボーカルの右京さんもギターを弾きますが、バンドにおける2本のギターの役割をどのようにとらえていますか?
右京はコード弾きがメインで、僕はおもにリード・ギターを担当しています。“音圧が足りない”と感じた時は、僕もバッキングを弾いて、音圧を出すようなアレンジを心掛けていますね。僕らは音圧を凄く大切にしているんです。聴いた時に心地良さが感じられる、“中太”なサウンド感をいつも意識しています。
それと、僕のギターが曲の雰囲気をガラリと変えている部分があることは自覚しているので、フレーズやサウンドを曲の世界観に合わせていくことは常に心掛けています。
1曲目の「ラブストーリー」は、キーボードやストリングスもフィーチャーされた楽曲です。
“オーケストラのキレイな旋律で曲を作りたい”というコンセプトがあって、アレンジャーの島田(昌典)さんとも話し合いながら作り上げていった曲です。僕が“ギターを弾くかどうか?”も含めて様々な話し合いをして、冷静に判断しながら決めていきましたね。
“ギターを弾くかどうか”という話がありましたが、ギタリストとして“もっと主張したいな”と感じたりしませんでしたか?
ありましたね(笑)。前に出て表現できる場所は、ギター・ソロくらいしかありませんから。最近は、あまりギター・ソロを聴いてもらえない世の中になってきているみたいですけど、1人のプレイヤーとして自分自身を出したい欲はやっぱりあります。
次の「プラネタリウム」は、一転してアップ・テンポのナンバーです。イントロでくり返されるフレーズが印象的でした。
イントロのフレーズは、スタジオでやったジャム・セッションがきっかけで生まれたものです。その時に“歌をメインにしつつ、ギターはユニゾンで歌を支えていくアレンジ”というインスピレーションが湧いて、そのアイディアがそのまま採用されました。ギター・ソロも、アドリブで弾いたものがそのまま収録されています。
この曲では、今作では数少ないロック色の強いフレーズをソロの中に取り入れています。
結成したばかりの時に作った曲なんですけど、この頃はまだバンドのイメージもあまり決まっていなかったので、わりと自由に弾くことが許されたんです。今となっては、チョーキングから始まるロックなギター・ソロは、もう演奏させてもらえないかもしれない(苦笑)。
ギタリストとしては、ちょっと悲しいのでは?(笑)
そうなんですよ。僕を含めた現代のギタリストは、楽曲のどこで存在感を示せば良いのか迷っている人も多いと思います。僕も、たびたび考えさせられていますから。とはいえ、「君のこと」のギター・ソロは、色んなパターンを30テイクぐらい試して、悩み抜いて選んだものだったりします。
打ち込みの存在感があるところに生のギター・サウンドを加えていく作業は本当に難しかった
イントロのストリングスが印象的な「ワスレナグサ」では、どのようなギターを弾こうと思っていましたか?
この曲は、アレンジャーの本間昭光さんによる“イントロで春らしさを出したい”というコンセプトを軸に、みんなで作り上げていきました。打ち込みのビートにパーカッシブなリズムを加えて、春らしく暖かい感じも表現できたので、僕らは本当に満足しています。ギターの音作りも、本間さんと相談しながら色々なアプローチを試して、楽曲に合う音を探していきました。
「ピリオド」では、イントロから続くアルペジオが耳に残りました。
「ピリオド」は、かなり音作りにこだわった曲ですね。右京が書いた詞の世界観に触れて感じた“冷たさ”を表現するためにシマー・モードのリバーブを使ったりしながら作り上げた曲です。ギター・ソロでは、フリードマンのアンプの歪みを使って、起伏の激しい感情をサウンドで表現できるように心がけました。
バラード・ナンバーの「花びら」は、ストリングスとギターのフレーズが共存する楽曲です。
メンバー同士で“ロック・バラードを作りたい”と話して作り上げていきました。“重厚感のあるギター・サウンドが欲しい”という意見が出たこともあって、かなり歪んだギター・サウンドを取り入れています。この曲は、バッキングやリードなどで4本くらいギターを重ねていて。それぞれのフレーズは、アレンジャーの島田さんに相談しながら、必要な音を選んで作り上げていきました。今回、島田さんと一緒に過ごさせてもらったことで、様々なことを学びましたし、僕も成長できたと感じていますね。
打ち込みのビートを取り入れた「未来図」は、生楽器のリズムと比べて、ギターのアプローチに違いはありましたか?
大幅に変わりました。生楽器では再現できないサウンドを取り入れたことによって、マルシィにとっても大きな変化が生まれたように感じます。曲中ではオクターブの音を重ねてソロを弾いていますが、ブライアン・メイのようなイメージを目指して、あまりギターっぽく聴こえないサウンド作りを心掛けました。打ち込みの存在感があるところに生のギター・サウンドを加えていく作業は本当に難しかったけど、凄く有意義なチャレンジでしたね。
「最低最悪」は、疾走感のあるナンバーです。勢いに拍車をかけるようなギター・ソロも印象に残りました。
「最低最悪」のソロは、ロックっぽさを少し抑えた、メロディアスなフレーズを追求しました。このソロも準備していたフレーズ以外にもスタジオでアドリブで何パターンも弾いてみんなに聴いてもらいながら、より良いものを選んでいきました。
「牙」についても「最低最悪」と同様に、歌にギターを乗せることをイメージしながら、ハイゲインのジャキッとした音を取り入れ、攻撃的に聴こえるようなサウンドを意識しました。モジュレーション・エフェクトがかかったイントロ・フレーズも、僕の提案を右京が受け入れてくれて、あのような形に落ち着きました。
アルバムの制作を通して、右京さんからのオーダーで印象に残っているものはありますか?
「君のこと」では、“幸せ一杯だった頃の気持ちを音で表現してくれ”って言われたので、あまり歪ませない音にしてみたりとか。「牙」では、“攻撃的で皮肉めいた雰囲気をギターで表現してくれ”というイメージを意識してサウンドを作ったりしましたね。
レス・ポールならではの表現を追求していきたい
それでは、今回のレコーディングで使用したギターについて教えて下さい。
普段から使っているギブソンのHistoric Collection(以下、ヒスコレ)のレス・ポールのほかに、アレンジャーさんから借りたフェンダーのテレキャスターやストラトキャスターを使いました。1960年代のビンテージ・モデルだったと思いますが、詳しくは覚えてなくて。
メインで使ったレス・ポールは凄く優秀で、アルバムに収録されたほぼすべての楽曲で活躍してくれました。ほかの色んなモデルを試しても、結局はそのギターに戻ってきてしまうんですよね。あと、レス・ポールなのにテレキャスターに近い雰囲気の“モダンな音”も出せるので、とても気に入っています。
以前、島村楽器公式ブログで、shujiさんが楽器店でジミー・ウォレス(Jimmy Wallace)のピックアップに交換したという記事を目にしました。
はい。ジミー・ウォレスは、ビンテージ・ライクな音にこだわっているメーカーなんですけど、歪みのノリや、音の抜け具合など、弾いていて凄く気持ち良いんです。今回のレコーディングでは、ミッドの強いサウンドを出すことに重きを置いて音作りをしたんですけど、「ラブストーリー」や「花びら」などは、音の相性が特に良いと感じました。
ハムバッカー・サウンドが好きな理由は?
ハムバッカーの魅力に触れたきっかけは、ゲイリー・ムーアなんです。僕のチョーキングやギター・ソロには、ゲイリー・ムーアからの影響が色濃く反映されていると思います。ただ今のマルシィでは、ロックやブルースな雰囲気が強くなりすぎると、“もっとポップスに寄せてほしい”と言われてしまうんです(笑)。でも、それにめげることなく、どんどん“泣きのギター・ソロ”を提案していこうかなと思っています。これからも、様々なギターを使い分けつつ、レス・ポールならではの表現を追求していきたいですね。
エフェクターやアンプは?
ギターは基本的にアンプ直で鳴らしていて、アルバムのほとんどの曲はMATCHLESSで録りました。煌びやかでキレイな雰囲気を表現するのに役立ちましたね。FRIEDMANは、「最低最悪」や「ピリオド」で使っています。ライブでは、SuhrのEclipseやVEMURAMのJan Raといったペダルも使っています。
いつか手に入れてみたいギターはありますか?
僕、今一番欲しいのは、サー(Suhr)のテレキャスターとストラトキャスターですね。実際に弾いたこともあるのですが、音がめちゃめちゃ好きで、その時のことが忘れられないんです。今は、ハイエンド・ギターならではのキレイなサウンドを一番欲しています。
ロックなサウンドをポップスに落とし込むような意識は常に持っています
改めて、shujiさんがギターを始めたきっかけについて教えて下さい。
X JAPANのhideさんのルックスに惹かれたことがきっかけでギターを始めました。世代的には離れているのですが、YouTubeで「紅」を観たときに凄まじい衝撃を受けて。で「ギターをやりたい!」と思い、1万円しかないお年玉を握りしめて、初心者用のSTタイプを買ったんです。
shujiさんご自身は、“自分はロック・ギタリストだ”という気持ちが強いのでしょうか。
そうですね。僕はJ-POPの中でも、BOØWY、JUDY AND MARY、GLAY、X JAPANといった“バンド系の音楽”を聴いて育ってきたので、マルシィのロックな部分を担っているというか……ロックなサウンドをポップスに落とし込むような意識は常に持っていますね。
shujiさんが、ギターを弾くうえで心掛けていることは何ですか?
ボーカルの歌に寄り添うことです。最近では、むしろ“歌に干渉しているくらいがちょうどいいのかな”と思うこともあるんですよ。コーラスみたいに、歌の邪魔にならないところでギターを鳴らす感じですかね。
この取材を行なっている現在は、初のライブ・ツアーの直前ですが、ライブに向けて意気込みを聞かせて下さい。
僕、ライブってめちゃめちゃ緊張して、体調を崩すくらい不安になるんですよ(笑)。終わったあとは本当に疲れ果ててしまうんですが、ライブをやると“本当に音楽をやってよかった”という幸福感を感じられる。ツアーでは、お客さんに満足してもらう演奏を披露するのはもちろんですが、”僕らからみんなへ感謝のメッセージを伝えたい”という思いも強くありますね。
今後、新たにやってみたいことはありますか?
DAWソフトなどを使いながら、電子音も駆使したモダンな音作りに挑戦したいですね。僕自身はアンプから出てくる“温かな雰囲気の音”が好きなんですけど、Kemperのような機材も使って、“現代的でデジタルなサウンド感”を作り出していくアプローチもやってみたい。僕だけでなく、バンド全体としても、そういう方向性に興味がありますね。
作品データ
『Memory』
マルシィ
ユニバーサルシグマ/UMCK-1713/2022年6月1日リリース
―Track List―
01. ラブストーリー
02. プラネタリウム
03. ワスレナグサ
04. 君のこと
05. ピリオド
06. 花びら
07. 未来図
08. 最低最悪
09. 牙
10. 白雪
11. 絵空(ボーナス・トラックとしてCDのみ収録)
―Guitarist―
shuji