洗練された骨太なサウンドで邦ロック・シーンを牽引する[Alexandros]が、4年ぶりとなる8thアルバム『But wait. Cats?』をリリースした。新メンバーのリアド偉武(d)加入後、
初めてのフルである今作は、メンバー4人のアンサンブルが鳴らす“生々しさ”を軸に構成されており、ここにきて熱量の高いバンド・サウンドに回帰したという印象も受ける。というわけで、新作の“ロック・バンド感”の鍵を握るであろうギター・サウンドについて、ギタリストの白井眞輝に詳しく聞かせてもらった。
取材・文=伊藤雅景 ライブ写真=マスダ レンゾ
*本インタビューは7月に実施、ギター・マガジン2022年8月号に掲載されたものです。
もっと“面白さ”を追求したかったんです。
では、さっそく今作について聞かせて下さい。制作はいつ頃から始めたんですか?
アルバムの中で1番古い曲がシングルの「閃光」(2021年)で、そのあたりから今作のイメージを意識し始めました。その時点で“「閃光」みたいなロック・チューンをもっと作っていきたいね”っていう話をメンバーとしていたんですよね。
今作は荒々しい空気感と生々しさがパッケージングされていて、4人のアンサンブルを強く押し出している印象を受けました。
それもやっぱり「閃光」の存在が大きいと思います。これまでの10年間の中では、打ち込みや同期を取り入れて、凄くエレクトリックなサウンドに寄った時期もあれば、前回の『Sleepless in Brooklyn』では“ニューヨーク・サウンド”的な感じを狙ったり……。
でも「閃光」が完成したタイミングで、バンド・サウンドを1度リセットすることができたんです。特にリアド(偉武/d)が加入してから完成した1曲目でもあったので、まずは4人だけのサウンドで楽曲を作ったんですよね。そこからアルバム全体のビジョンが固まっていきました。
新たなプロデューサーを迎えたのも変化の要因の1つでしたか?
そうですね。今回はより理想に近づけるために、何人かのプロデューサーを招いていて。特にゲイブ・ワックスさんは楽曲を作り始める段階から一緒に居てくれて、今までにないほどプロデューサーと密に制作しましたね。
亀田誠治さんや根岸孝旨さんのプロデュース楽曲もありますね。それもあってか、サウンドの振り幅が広いように思います。
ここからはギタマガだからやっと話せるマニアックな話になってくるんですけど(笑)。サウンドの違いは、機材のバリエーションが増えたことも大きな要因なんですよ。
今回はプロデューサーの方々にアンプやエフェクターを借りることが多かったんですが、「クラッシュ」でお借りした根岸さんのマッチレスとRATのカッコいい音に感動して。自分はすでに良い楽器を持っている自負があったんですけど、“こんなに良い音がする楽器がまだあるんだ”っていう新鮮な体験があったんです。
もの凄くアナログで、肉体的な録り方になっていきました
確かに「クラッシュ」のイントロは劇的に歪んでいながらも解像度の高い、インパクトのある音色ですよね。
イントロで、さっき言った組み合わせにサード・マン・レコードのTriplegraphを足して録ってます。制作をしてた3月〜4月くらいの時期は、サウンドに対してもっと“面白さ”を追求したい欲が凄かったので、楽器屋さんを巡って“とにかく面白い音がするやつを弾かせて下さい”って弾かせてもらいまくって(笑)。
3月にリリースされたレッチリの新作に影響されたのもあって、特にジョンが使ってるBOSSのCE-1やエレハモのHoly Grail、Moogerfooger各種はけっこう揃えましたよ。たぶんほかにも50個以上は買ったんじゃないかな。
大人買いですね(笑)。それらのエフェクターが活躍した曲は?
代表的な曲だと「we are still kids & stray cats」ですね。あれはMoogerfoogerのローパス・フィルター(MF-101)から、同じくMoogerfoogerのリング・モジュレーター(MF-102)。で最後にHoly Grail。先頭にはビンテージのRATを直列でつないでます。
ノイズや音の変化が顕著になるので、ここまでエフェクターを直列でつなぐのは今まで避けてたんですよ。でもゲイブさんはエフェクターを直列でどんどん足していくんですよね(笑)。自分ではやらなかった手法だったので、そこで新しい発見がたくさんありました。
エフェクターの相性によって全然違うサウンドになったり、心がめちゃくちゃ動かされる音色が偶然生まれたりとか。なのでPCではエフェクトをほとんどかけなかったんです。気がつけばもの凄くアナログで、肉体的な録り方になっていきましたね。
音色のアナログ感は1曲目の「Aleatoric」からも強烈に感じました。曲名の英訳も“偶然性”といった意味合いだったり、どこかアナログ感との共通性を感じます。
そうですよね。アナログって要は“偶然”を生み出せるファクターでもあると思ってて。その日の環境や、機材のツマミの位置1つで音は変わっていっちゃう。その瞬間しか同じ音が出ないってところは凄く魅力です。
「Aleatoric」は曲名どおり、かなりインプロヴィゼーションに寄った楽曲ですよね。
これは去年の”ALEATORIC TOMATO Tour 2021“で最初に演奏した曲なんですけど、(川上)洋平(vo,g)のリフに対してその場の思いつきで肉付けしていったんです。リフに対してメンバーみんながとりあえず思いついたフレーズを入れていくっていうノリでしたね。即興性を大切にしていた曲です。
出したいサウンドや景色をイメージして弾くことが大切だなと
アナログな手法や環境によって生まれた即興性や偶然が、このアルバムの隠れたテーマになっていたりするんですか?
確かにそうかも。ほかの曲のフレーズも、その場で考えたものを採用していくことが多かったと思います。洋平と話し合いながら作っていく感じですね。
また、プレイの面でも色んな発見があって、いつもよりもエフェクト乗りを考えたピッキングをするようになりましたね。力任せでも、力を抜きすぎてもダメ。その塩梅がけっこう難しいですよね。
強く弾けば大きい音が出るわけじゃないし、歌と一緒でがなればいいわけじゃない。出したいサウンドや景色をイメージして弾かないと、本質的に意味のある音、すなわち良い音が出ないってことを改めて感じました。マニアックですけど、ギタマガでしか喋れない内容なんで、こういう話をずっとしたかったんですよね(笑)。
ありがとうございます(笑)。では、今作で使用したギターも教えて下さい。
「日々、織々」、「Rock The World」以外全部、62年製のストラトキャスターです。
今までの白井さんのメインはES-345だったので驚きです。この登場率は過去イチなんじゃないですか?
そうですね! なんで俺こんなにストラトキャスターばっか使ってたんだろう(笑)。そんな意識してたわけじゃなかったんですけどね。7月から始まるツアーでも使うかもしれないです。
乞うご期待ですね。ツアーでのギターの注目ポイントは?
今作はギター的に気に入ってる曲が本当に多いので難しいな……。でも挙げるとするなら、音色の再現度ですかね。今はまだ、どこまで再現しようかなと色々検討中でして。
まずはMoogerfoogerを全部持っていくべきかどうかで迷ってます(笑)。テックさんと話し合いはしてるんですが、エフェクター・ボードを増設するかしないか絶賛会議中です。
その結果が出たらぜひ撮影したいですね! では最後に、今後の展望は?
やっぱり、常に進化していきたいし、良い音を出していきたいですね。ギタリストが聴いて良いと感じる音も凄く大事なんですけど、リスナーが聴いても音を聴いただけでゾクゾクして、感動してもらえるような音を出せるようになっていきたいです。そのためにもっと色んなジャンルの音を勉強して、自分のテクニック、機材、サウンド……。色んな面をどんどん磨いていきたいです。
LIVE INFORMATION
But wait. Tour? 2022
【ツアー・スケジュール】
2022年08月08日(月)/ロームシアター京都メインホール
2022年08月10日(水)/神戸国際会館こくさいホール
2022年08月12日(金)/市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
2022年08月14日(日)/広島文化学園HBGホール
2022年08月19日(金)/本多の森ホール
2022年08月21日(日)/新潟テルサ
2022年08月30日(火)/グリーンホール相模大野
2022年08月31日(水)/グリーンホール相模大野
2022年09月07日(水)/アクトシティ浜松 大ホール
2022年09月09日(金)/福岡市民会館
2022年09月11日(日)/松山市総合コミュニティセンター
2022年09月17日(土)/沖縄コンベンションセンター劇場棟(会場変更)
But wait. Arena? 2022 supported by Panasonic
【ツアー・スケジュール】
2022年10月15日(土)/ポートメッセなごや 新第1展示館
2022年10月16日(日)/ポートメッセなごや 新第1展示館
2022年11月16日(水)/大阪城ホール
2022年11月17日(木)/大阪城ホール
2022年12月07日(水)/国立代々木競技場第一体育館
2022年12月08日(木)/国立代々木競技場第一体育館
【チケット】
全公演チケット: ¥8,800(全席指定)
※ツアーの詳細は公式HPまで
https://alexandros.jp/
作品データ
『But wait. Cats?』
[Alexandros]
ユニバーサルJ/UPCH-2243/2022年7月13日リリース
―Track List―
01.Aleatoric
02.Baby’s Alright
03.閃光
04.どーでもいいから
05.日々、織々
06.空と青
07.Rock The World
08.無心拍数
09.we are still kids & stray cats
10.クラッシュ
11.awkward
―Guitarist―
白井眞輝
ギター・マガジン2022年8月号
『スタジオ・ギタリストの仕事』
本記事はギター・マガジン2022年8月号にも掲載されています。特集『スタジオ・ギタリストの仕事』では、レジェンドのスタジオ・ワークや、国内注目若手のインタビューなどをとおして、ポップス・シーンに欠かすことのできない職人たちの名仕事に迫ります!