ブリティッシュ・ブルース・ロックで花開くレス・ポールの可能性 ブリティッシュ・ブルース・ロックで花開くレス・ポールの可能性

ブリティッシュ・ブルース・ロックで花開くレス・ポールの可能性

ギター・マガジン2022年10月号では、『レス・ポールの70年』と題して誕生から70年が経ったギブソンのレス・ポールを徹底的に特集。今回はその中から、ブリティッシュ・ブルース・ロックの黎明期にあたる60年代中後期のレス・ポール名手たちに焦点を当てたコラムをWEBでも公開! ぜひ本文中で紹介している名盤のギター・サウンドを聴きながら、この記事を楽しんでいただきたい。

文:近藤正義 レス・ポール写真:星野俊 アーティスト写真:Getty Images デザイン:山本蛸
*この記事はギター・マガジン2022年10月号掲載の「ブリティッシュ・ブルース・ロックで花開くレス・ポールの可能性」を抜粋/再編集したものです。

レス・ポール&マーシャルでロック・サウンドに変革を!

 60年代中期、エレクトリック・ギターとその周辺機材は、まだ発展途上という状況だった。そこでロック・ギター・サウンドへ変革をもたらしたのが、エリック・クラプトンである。

 ヤードバーズではテレキャスターを使用していたエリック・クラプトンだが、ブルースブレイカーズに加入する頃にレス・ポールを使い始めた。当時彼が愛用していたのが、60年製レスポール・スタンダードだ。

 フレディ・キングがレス・ポール・モデル(ゴールドトップ)を弾いていたことに影響され、ロンドンの楽器店で購入。

Eric Clapton(Photo by Michael Putland/Getty Images)

 メイプル・トップにマホガニー・バックという重厚な造りのソリッド・ボディの本器は、出力の高いハムバッキング・ピックアップを搭載し、“よりパワフルなサウンドになるのではないか?”と思い、ピックアップ・カバーははずして弾いていたという。

 彼によれば、“レス・ポールはマーシャル・アンプとセットであるべき”とのことで、実際に真空管による大出力のマーシャル・アンプにつなぐことにより、ロック・ギター特有のナチュラルかつウォームなドライブ・サウンドを生み出した。それは、ほど良い歪み加減とファットなサウンドであり、しかもトレブリーでギラつきがあり、なおかつ粘りもある。それは『Blues Breakers with Eric Clapton』(1966年)でも証明され、ロックの歴史に大きな痕跡を残した。

 こうして彼がレス・ポールによるロック・サウンドを確立したことにより、エレクトリック・ギターの歴史は大きく変わることになる(もちろん、ジミ・ヘンドリックスによるストラトキャスターとマーシャル・アンプの組み合わせという別の系統とも共鳴し合っていた)。

 エレクトリック・ギターは豊かな音量だけでなく肉声に近い表現力を手に入れ、ギタリストの個性や手元のコントロールによってある時は微妙に、ある時は劇的に音色を変化させることのできるエモーショナルな楽器へと進化を遂げたのだ。

クラプトンの影響で誕生したレス・ポール名手

 そして、それに目をつけた同業ギタリストたちがこぞってレス・ポールを使い始めた。エリックの後釜としてヤードバーズに加入したジェフ・ベックもその1人で、ヤードバーズや第1期ジェフ・ベック・グループなどのキャリア初期にはレス・ポールをメインに使用していた時期があった。

 その頃に愛用していたのが、66年頃にロンドンの楽器店で購入したという深い色合いのサンバーストが特徴のギブソン58年製レス・ポール・モデル。

Jeff Beck/1958 Gibson Les Paul Model (Photo by Val Wilmer/Redferns/Getty Images)

 それを手に入れたのがブルースブレイカーズ時代のエリック・クラプトンの影響であることは、ジェフ本人がのちのインタビューで語っている。本器は、ヤードバーズの『Roger The Engineer』(1966年)や、ブルース・ロックの名盤として名高い第1期ジェフ・ベック・グループの『Truth』(1968年)で大活躍した。

 エリック・クラプトンの次にブルースブレイカーズに加入したピーター・グリーンの愛器として有名なのが、ギブソン59年製レス・ポール・モデル、通称“Greeny”。

Peter Green/1959 Gibson Les Paul Model “Greeny”(Photo by Estate Of Keith Morris/Redferns)

 彼はジョン・メイオール&ブルースブレイカーズの『A Hard Road(邦題:ブルースの世界)』(1967年)や、『The Pious Bird Of Good Omen(邦題:聖なる鳥)』(1969年)を始め、フリートウッド・マックのレコーディング/ライブでもこのレス・ポールの音色を存分に聴かせている。

 本器はフロント・ピックアップが180度逆に取り付けられており、ピックアップ・セレクターをリアとフロントのミックスにセットした場合、フェイズ・アウト・サウンドが得られるのが特徴だ。フロントやリアではパンチのあるトーンが得られるのに対し、ミックス・ポジションでは鈴の音のようなトーンが得られたのである。

 これによって、ピーターが得意とした繊細さや微妙な色彩感を湛えた陰りのあるトーンが生まれたのだ。このギターはその後70年代初頭から2006年までゲイリー・ムーアが弾き、2014年にカーク・ハメット(メタリカ)の手に渡っている。

ブルース・ロックで花開きハード・ロックへの架け橋に

 ほかにも、ジョン・メイオールのブルースブレイカーズで、ピーター・グリーンの後釜を務めたミック・テイラーが、67年にキース ・リチャーズから譲り受けた59年製レス・ポール・モデルや、フリートウッド・マックの好敵手であるチキン・シャックのスタン・ウェッブが愛用した59年製レス・ポール・モデルなどが当時活躍したギタリストが使ったことで有名なバーストである。

Mick Taylor/1959 Gibson Les Paul Model
(Photo by Michael Putland/Getty Images)
Stan Webb/1959 Gibson Les Paul Model
(Photo by Fin Costello/Redferns)

 ロック・ギターはブルースを模倣することで、60年代後期にテクニック面でも大きく飛躍し、特有のオーバードライブ・サウンドを得てオリジナリティを獲得した。

 そしてその流れから、70年代初頭のハードロックが誕生していくことになったのだ。この趨勢において重要な存在が、まさに当時のブリティッシュ・ブルース・ロックの名手たちが愛したレス・ポールと言えるだろう。

ギター・マガジン2022年10月号
レス・ポールの70年

本記事はギター・マガジン2022年10月号にも掲載。特集『レス・ポールの70年』では、その歴史、鳴らし方、メインテナンスのコツ、最新情報など、あらゆる側面からエレキ・ギター史上最も重要な名器について深堀りしていきます。