“ONE MORE DRIP(日常にアロマオイルの様な彩りを)”をコンセプトに活動する4人組ロック・バンドのFIVE NEW OLD(以下、FiNO)が、ニュー・アルバム『Departure:My New Me』を完成させた。FiNOの12年に及ぶキャリアでは初となる、海外のプロデューサー/アレンジャー陣を起用。これまでの英詞中心の表現から一転して、今作では日本語詞を多く取り入れるなど、FiNOのポップで色彩豊かなサウンドに磨きがかかった作品に仕上げられている。これまでにはない自分たちの音を追い求めたレコーディングを、HIROSHI(vo,g)とWATARU (g)に振り返ってもらった。
取材:白鳥純一(ソウ・スウィート・パブリッシング) 写真=umihayato(HIROSHI)、西槇太一(WATARU)
メンバー以外のミュージシャンと一緒に曲を作ることが決まった当初は、不安や怖さもありました
──WATARU
まずはアルバム『Departure:My New Me』 の制作に至る経緯から教えて下さい。
HIROSHI コロナ禍の影響でずっと延期になっていた結成10周年記念ライブを、昨年の秋にようやく開催できました。1つの区切りを迎え、FIVE NEW OLD(以下:FiNO)のこれからについてみんなで話し合う中で見つけた“新たな目的地へ向かおう”というバンドの気持ちを表現したアルバムを作ろうと思っていました。
ラッセル・リサック(Bloc Party)を始め、海外のミュージシャンをプロデューサーとして起用して制作されたそうですね。
HIROSHI 外部の方とのレコーディングは初めてで、僕自身も色々な挑戦をさせてもらいました。
WATARU メンバー以外のミュージシャンと一緒に曲を作ることが決まった当初は、不安や怖さもありました。でも、「Rhythm of Your Heart」をSoma GendaさんとRyuichi Iwasakiさんにアレンジしてもらった時に、表現の選択肢が大きく広がっていく感覚があって。新しいものを取り入れることで見えた自分たちの可能性に、僕らがじっくりと向き合ったこともあって、“凄く良い作品に仕上げられた”と感じています。
FiNOのバンド内におけるギタリストの役割は?
HIROSHI 僕らは、ベースも含めた“3本の弦楽器で、1つのコードをどうやって鳴らすか?”みたいなことを無意識にやってきたように思います。僕自身、リード・パートを弾くことも多くて。
WATARU そうそう。僕は一応“FiNOのリード・ギター”と名乗ってはいますけど、HIROSHIがリード・フレーズを弾く曲もありますし、僕自身も鍵盤やシンセサイザーを演奏することもありますから。なので、2人のどちらかがフレーズを弾きつつ、総合的に和音が聴こえるようなアプローチを採るパターンが多かったと思います。
ボーカルでもあるHIROSHIさんがリード・フレーズを弾くようになった理由は?
HIROSHI 高校生の頃、FALL OUT BOYのパトリック・スタンプ(vo,g)がリード・フレーズを弾きながら歌っている姿に衝撃を受けて。彼からの影響が一番大きいと思います。なので、いまだに普通にコードを弾いて歌うシンプルな弾き語りを全然やったことがないんですよね(笑)。“こんな初心者的なことを、ギタマガWebで言っていいのか?”とも思いますけど、ゆくゆくは、自分で作った曲の弾き語りができるようになりたいです(笑)。今後はバンドのフロントマンとして、ステージでの佇まいに説得力を持たせたいので、より“リズム・ギター”に集中したいと思っています。
オンコードの響きが、自分の中でグッと来るんだってことが最近になってちょっとずつわかってきた
──WATARU
アルバムの制作にあたりイメージしていたことは?
WATARU 自分の個性を見せる作品にしたいという思いがありました。というのも、ラッセル・リサックに1曲目「Trickster」のアレンジをお願いしたんですけど、手がけてもらった音源に彼の個性が凝縮されていたんですよね。それを聴いた時に、改めて自分のスタイルや気持ちを音楽に込めることの大切さに気づかされたんです。
「Trickster」は、2023年1月から放送されるアニメ『HIGH CARD』の主題歌ですね。
WATARU オファーをいただいた時には、テンションが上がりました。正直、気合いが入り過ぎたところもありましたけど(笑)。
HIROSHI 『HIGH CARD』という作品の世界観に合わせて、音楽を通じて“トランプで遊ぶ時の不規則性を再現する”ことを考えながら作り込んでいきました。“1番と2番で展開を変えてみたり、遊び心のある曲作りができたかなと思います。
複雑な響きのコード・アプローチも印象的です。
WATARU 僕らって“ここは何のコード?”みたいなパートが多くて(笑)。自分たちで譜面化したりして色々と分析してみたら、ほとんどオンコードを使っていたんですよね。そういう響きを取り入れたコード進行が自分の中でグッと来るんだなってことが、最近になってちょっとずつわかってきた感じです。
「Cloud 9」は、サックスとキーボードの存在感が強い楽曲ですが、それに対してギターはどのようなフレーズを弾こうと考えていましたか?
WATARU アレンジャーのNaoki Itai(以下、Itai)さんと一緒に仕上げた曲なんですが、当初はギターが入っていなかったんです。なのでリズムを刻むピアノの音を補助しつつ、リード・ギター的なアプローチでフレーズを作り込んでいきました。
「Script」では、カッティングを軸にしたリズミカルなギター・プレイを聴くことができます。グルーヴ感を出すために気をつけたポイントは?
WATARU カッティング・ギターの音を少し間引いて、より“リズミカルに聴かせるアレンジ”に変えたところかな。
HIROSHI 最近は、 “リズムを気持ち良く聴かせるにはどうすればいいか?”という視点が強くなって。ギターのアプローチに関しても、すごく緻密に考えるようになりましたね
自動車のことを歌った「Goodbye My Car」は、ニュー・オーダーを彷彿させる情緒的なサウンドが耳に残りました。
HIROSHI WATARUが作ってくれた“マジで最高なオケ”に歌を乗せて、僕たちの大好きなサウンドを表現することができましたね。自分たちにとっての原風景ともいえる世界観なので、最初の段階はあえてアレンジャーを入れずにやらせてもらって、ポスプロの段階でDavey Badiukに参加してもらいました。哀愁や優しさ、そして美しさがある風景が思い浮かぶような曲を意識しました。凄く気に入っています。
コーラスを使えば、何とかなるかなと思う節もある
──HIROSHI
レコーディングで使用したギターについて教えて下さい。
HIROSHI FenderのAmerican Professional II Telecasterがメインですね。プッシュ/プル機能が付いているので、ハムバッカー的にも使えるんですよ。重宝していますね。あとレコーディング中は、お互いのギターをシェアすることも多いので、「Goodbye My Car」の時は、僕がWATARUのジャズマスターを借りて弾いたりしましたね。
WATARU 僕は、ライブのメインで使っているジャズマスター(Made In Japan HYBRID II Jazzmaster)やストラトキャスター(American Original ‘50s Stratocaster)などを使いました。アメオリのストラトには、ミッド・ブースターを載せています。あとは1979年製くらいのTOKAIのTLタイプ。かなり気に入っていますね。
アンプやエフェクターは?
HIROSHI アンプはRolandのJC-40を使いました。コーラス・エフェクトが好きで、僕自身“とりあえずコーラスを使っておけば、何とかなるかな”と思う節もあるんですよね(笑)。
WATARU 僕はSHINOSのLuck 6Vをメインで使いました。コンパクト・エフェクターはほとんど使っていなくて、何かエフェクトをかける時はFractal Audioですね。とはいえ、リバーブやディレイをあとがけしたり、コーラスやコンプレッサー、ディストーションなどをほんの少し加えるくらいでしたけどね。
レコーディングで活躍した機材は?
HIROSHI Walrus AudioのDeep Six Compressorは活躍してくれましたね。ほかには、TC ELECTRONICのHall of Fame Reverb。Sigur Rósのヨンシー・ビルギッソンのプリセットがお気に入りで、レコーディングではそのまま使っています。Native InstrumentsのGUITAR RIG 6もDAWで作業する時に活躍してくれました。
“これまで以上に“ギター・ボーカリストとしての佇まいを確立したい“
──HIROSHI
改めて12年間の活動を振り返ってみていかがでしょうか。
HIROSHI とにかく仲が良いことが、僕らの特徴だと思っています。人間関係が崩れていくバンドもある中で、ずっと変わらずに活動できているのは、1つの財産なのかなと。これまでに様々な音楽をやれたのも、“みんなを信じているからこそ”ですし。僕の根本にある、“自分の信じた音楽を、少しでも多くの人と分かち合いたい”という目標にも、だんだん近づいているような手応えを感じているんです。
WATARU 長く活動していると、良いものや感動したものを共有していく時間が増え、信頼感も生まれてくる。各メンバーの気持ちを知りたいと思えるからこそ、あまりケンカにもならないって感じかなと。
これからライブに来られる皆さんに一言お願いします。
HIROSHI ライブでは、ライブでしかできない表現をこれからも追求していきたいですね。まだ声を出せない状況ではありますが、今作で日本語詞の曲を増やしたからには、 “みんなで一緒に歌いたい”という気持ちもあります。
WATARU 音楽には様々な楽しみ方がありますが、大きな音を全身で浴びることができるのがライブの魅力だと思っているので、そういう非現実的な体験を、みなさんに楽しんでいただけたらいいなと思います。
読者にメッセージをお願いします。
HIROSHI 僕が一番伝えたいのは、“ギターを持っている時はとにかくカッコつけよう”ということです。上手くなりたいのも、良い音を鳴らしたいと感じるのも、結局は“カッコよくなりたい”という気持ちが出発点だと思いますから。なので僕自身も、“カッコいいギター・ボーカリストとしての佇まいを確立したい”という思いでいます。
WATARU ギター弾いた時には、それぞれの人間性や音が表われると思いますが、まずは、カッコよく感じる音を目指して、気づいたら自分の個性が出るような感じでもいいのかなと。とにかく好きな曲をたくさん弾いてもらいたいですし、僕もギターを通じて、聴いてくれる人とつながれるような音楽作りを、これからも続けていきたいと思います。
作品データ
『Departure:My New Me』
FIVE NEW OLD
ワーナー/WPCL-13408/2022年9月21日リリース
―Track List―
01. Trickster
02. Happy Sad
03. Perfect Vacation
04. Home
05. Cloud 9
06. Script
07. Potion
08. Nowhere
09. One By One
10. LNLY
11. Goodbye My Car
12. Rhythm of Your Heart
13. My New Me
―Guitarists―
HIROSHI、WATARU