2021年に結成20周年を迎えつつ、今なお活動の歩みを緩めないORANGE RANGEが12thアルバム『Double Circle』を9月14日にリリースした。バラエティ豊かな全14曲を2枚組に収めた今作について、作曲やミキシング、プロデュースも担当するギタリストのNAOTOに話を聞いていこう。打ち込みが先行でギターはほぼ手に取らないという作曲プロセス、そしてNAOTOが語るギターへの“憧れ”とは?
取材=田中雄大 写真=平野タカシ
AC30を使っているのは
高校生の頃の名残なんです
先日、Zepp DiverCityでのツアー初日(9月14日)を拝見しました。最新アルバム『Double Circle』のリリースに伴うツアーということで、初めてライブで披露する曲もあったかと思いますが、手応えはいかがでしたか?
まだ手探りな部分はあったんですが、コロナのこともあって久しぶりにアルバム・ツアーができているので、やっぱり凄く楽しいですね。
ライブでの機材として、ギターはストラト2本とレス・ポールを使っていたかと思います。それぞれどんなギターですか?
メインで弾いているサンバーストのストラトはカスタムショップ製で、5~6年前にゲットしました。水色のストラトはサブなんですが、リアにハムバッカーが載っているので曲によってシングルとハムの両方の音が欲しい時に使っています。たしか12万円くらいだったんですけど音が良くて。友達のギターを一緒に買いに行った時に色んなギターを試奏しまくったんですが、その中でも凄く良くて、友達ではなく自分が買ってしまったという(笑)。
(笑)。それくらいの価格帯でも“当たり”なギターはありますよね。レス・ポールについては?
これは福岡の楽器店で買ったもので、とにかく軽いレス・ポールを探していたんですよ。音は二の次、三の次で(笑)。それで、たまたまツアー中になんとなく入った楽器店で中古で見つけて、めちゃめちゃ軽かったので購入しました。店員さんによるとボディの中がくり抜かれてるものみたいですね。
でもライブで使うには音が不満だったので、ギター・テックに色々なパーツを取っ替え引っ替えしてもらって使っています。
アンプはVOXのAC30でしたね?
そうですね。2台置いてあって、1台はサブです。キャビネットはCustom Audio Electronicsに作ってもらったもので、中にKochのスピーカーが入ってます。AC30とキャビネットの両方を鳴らしていますね。
AC30は使い始めて長いですか?
ライブではずっと使ってますね。もともと高校生の時に使っていたリハスタの常設アンプがAC30で、その名残なんです(笑)。一時期はMATCHLESSを使っていたこともあるんですけど、AC30に戻りましたね。
観客席から遠目で見たところ、ペダルボードのサイズは大きいようですね。
レス・ポールとストラトを使うのでそれぞれ用のエフェクターが入っているんですよ。だから歪みだけで6個ほどあります。レス・ポール用が3個、ストラト用が3個、みたいな感じです。
よく使うものとしては、HUMAN GEARのFINE. OD(オーバードライブ)は20年くらいずっとボードに入っていて、常にかかりっぱなしで基本の音を作っています。あとはMad ProfessorのForest Green Compressor(コンプレッサー)もよく使いますね。
ギターは思い通りにならない楽器で、
そこに今でも憧れがあるんです。
最新アルバム『Double Circle』について、制作期間はコロナ禍の影響を大きく受けたものと思います。
特に最初の1年は何もできなくて、僕らも沖縄から一歩も出なかったです。なので、僕としては早い段階でスパッと切り替えていて、普段できないような曲の作り方を試してみたり、機材の扱い方を深く勉強してみたり、コロナ禍でしかできないことをやってみようというモードになっていました。実際、曲もたくさん作れましたね。ああいう状況の中でしかできないことは最大限にできたのかなとは思います。
今作は2枚組ということも特徴です。収録されている曲のサイズとしては1枚でも収まるとは思うんですが、あえて2枚にした意図は?
色々な理由があるんですが、まず、今の時代はサブスクが中心になっていてCD自体がいつまで続くのかわからない状況ですよね。だったらモノとして、CDならではの面白いことをしたかったんです。
もう1つの理由としては、Disc 1はちょっとアクの強い曲、Disc 2はポップな曲という感じでキャラクターを分けているんですが、1枚だとアルバムとしてうまく混ざらない気がして。あとは20周年を越えたので、2つのマルということで2枚のCDというダジャレ的な要素もあります(笑)。
作曲クレジットは“作詞・作曲:ORANGE RANGE”となっていますが、中心はNAOTOさんでしょうか?
そうですね、「Imagine」以外は僕がやっています。
曲作りの進め方としては?
デモの段階でだいたいできあがっていて、そこからボーカルと一緒に歌詞を乗せていくことが多いです。歌のメロディはガイドとしてピアノで入れてあるんですが、ラップの部分はただのカラオケ状態で、それぞれのボーカルに自分の担当の部分を書いてもらう感じですね。
1曲目「Pantyna feat.ソイソース」はギターがほぼ入ってなく、ライブではNAOTOさんがサンプラーを使う場面もあったと思いますが、その一方で2曲目の「Love of Summer」はギターのアルペジオが曲の軸になっていますよね。ORANGE RANGEの曲においてギターはどんな立ち位置で使っていますか?
僕の中ではメインの楽器という立ち位置ではなくて、実は僕が曲を作る時もピアノばかりで、ギターで作ることはほとんどないんです。
そうなんですね!
ギターはもう憧れだけでやっているような感じで(笑)。あとはギターって個性的な楽器で、少し入るだけでギターの世界ができてしまうから、そういう意味で重要な楽器だと思います。ギターはもう誰が聴いても“ギター!”じゃないですか。
ほかの楽器は例えばドラムだったら生楽器なのか打ち込みなのかわからなかったり、ベースも“これはシンセなのかな?”ってことがあると思うんですけど、ギターはギターっていう。そこは凄いなと思いますね。
先日のライブではギターの音量バランスが音源よりも大きい印象があったんですが、やはりライブでは迫力を出すためにそうしたバランスを意識していますか?
よくボーカルには怒られるんですけど、やっぱりライブではどうしてもデカくなっちゃうんですよね(笑)。上げたくなっちゃうし、もともとギターが入ってない場所でも弾きたくなっちゃうし。ライブだからっていうところでアレンジを楽しんでいるところはあります(笑)。
ギタリストとはそういうものだと思います(笑)。「Typhoon」はギターでのコード・プレイがループしていますが、ユニークなボイシングのコードだと思いました。
あれはもともと鍵盤で作ったんですよ。だからボイシングもギターでは押さえづらい変わったものになっています。ヒップホップ的な作り方の曲だったので、1コードずつサンプラーで録って並べていて。
なるほど、それでギターではなかなか聴かない響きになっているんですね。
そうなんですよ。この曲に限らず、曲作りの段階でギターは打ち込みで入れてしまって、それをあとで弾き直すことが多いんです。だからアルペジオとかも“どうやって押さえたらいいんだ?”ということになって、ライブで困るという(笑)。
(笑)。ギターは手クセで弾いてしまうことも多いと思うんですが、その作り方だと新鮮なフレーズができそうです。
そうかもしれないですね。自分なりのクセはあるとは思うんですけど、いわゆるギターを弾いてる人のクセとは少し違うかもしれないです。ギター・リフもまず打ち込みで作ったりもするので。
「恋はRock’n’ Roll」はタイトル通りロックンロールなコード進行の曲ですが、これも音源ではベースラインが打ち込みです。“ロックンロール”というと泥臭いイメージがあるのでギャップが面白いですよね。
イメージとしては“ロックンローラーがやってないロックンロール”がやりたくて(笑)。チープでどこか抜けてるというか。歌詞の内容もそうなんですけどね。
あとはアルバムのほかの曲を作り進めるうちにかなり疲れてしまったんですよ。例えば「Typhoon」とか、「Illusion feat. ペチュニアロックス」とか、個人的にそういう曲が好きなので本当に集中して作ってたんですよね。なので、できあがった時に出し切った感じで気力がなくなってしまって(笑)、その分反動でバカなことがやりたいと思ったのが「恋はRock’n’ Roll」で。初心に戻ってシンプルなコード進行で1曲作ろうと(笑)。
なるほど(笑)。「HEALTH」はギターのカッティング・リフが凄くカッコ良くて、ジョン・フルシアンテの要素を感じました。
まさにそういうイメージです。ワイルドなディストシーションのリフではなく、ああいう音でのああいうリフってやっぱり憧れますよね。世代的にもジョン・フルシアンテは好きなので、好みとして曲にも出ているかもしれません。
こうしたフレーズはどうやって編み出していますか?
制作中になんとなくできるものもあるし、あとはフレーズが思い浮かんだら携帯のボイスメモに声で録音しておいて、それを家に持ち帰って打ち込んでみて、そのあとギターで弾いてみたりもしますね。
いずれにせよギターを手に取って弾くのは最後なんですね。
そうですね。アイディアが逃げないうちに、とにかく早くできることから試すようにしています。
NAOTOさんはORANGE RANGEにおいてプロデュースやエンジニアリングも担当していますが、自身の中でギタリスト的な意識とプロデューサーとしての意識はどちらが大きいですか?
プロデューサーとしての意識のほうが大きいですね。ギタリストとしてはORANGE RANGEというバンドだからこそ成り立っているのかなと思います。特にバンドでのギターってある程度何をやっても許されるというか、やった者勝ちという面があるじゃないですか。
得意なのはプロデュースやエンジニアリングなんですが、ギターは自分の思い通りにならない楽器で、さっきも言ったようにギターへの憧れが今でもあるんです。そこが楽しくて弾いているという感じがありますね。
昔からそうなんですが、
1曲には1本しか使わないんです。
ツアーでの機材については冒頭でお聞きしましたが、制作で使った機材についても改めて教えて下さい。
ギターはストラトキャスターとレス・ポールなんですが、ライブで使っているものとはまた別で、沖縄の制作部屋から一歩も出ない完全に制作用のギターがあるんです。ストラトは71年製のもので、デビューして東京に出た20年前くらいに買いました。レス・ポールも20年近く前かな。当時の現行だったUSA製のものです。
超王道な2本ですね。
そうですね(笑)。やっぱりハムバッカーかシングルコイルか、その2本があれば事足りるかなというところで。
楽曲を聴くと、フレーズやパートごとに違うギターを使っているのかなという印象も受けましたが、その点はどうですか?
僕の場合は、実は1曲に1本しか使わないんです。そこは昔からそうで、例えばAメロはストラトでサビはレス・ポールとか、そうやって分けることはないんですよね。強くこだわっているわけでもないんですけど、曲が持っているキャラクターをそこで統一したほうが良いなと思っていて。音を変える時はペダルやアンプでの音作りで調整します。
たしかに楽曲ごとのサウンドが定まりやすそうです。アンプについては?
アンプも制作部屋から一切出ないものがあります。ORANGEのTiny Terrorというモデルなんですけど、それをもとに友達が改造してくれたもので、中身は総入れ替えくらいの勢いなのでもとの音とは全然違います(笑)。これが凄く良くて、10年くらいはそのアンプを全曲で使ってますね。
そこでもサウンドに統一感が出そうですね。
その分ペダルはけっこう替えているかなと思います。よく使うのがDyna Compですね。歪みではMarshallのShred Masterと、BOSSのOD-3やDS-2。このあたりも高校生くらいの時からずっと使ってますね。あとはElectro HarmonixのSmall Stone。ジョニー・グリーンウッドが使ってるということで当時買いました(笑)。コーラスはほとんどOne Controlのものです。
歪み以外のエフェクトはプラグインでかける選択肢もあると思いますが、そうではなくペダルで作ることが多いですか?
僕はミックスもするので、ギター以外もそうなんですけど、録音の時点でなるべく完成形に近いほうが最終的に微調整だけで済むんですよね。バンド以外のプロデュースの仕事ではあとからどういうリクエストが来るかわからないのでライン録りしてプラグインを使うんですけど、自分たちの作品は全体像としてのゴールがわかっているので。
最後に、この先ツアーが来年の4月頃まで続いていきますが、意気込みを聞かせて下さい。
毎回そうなんですが、ORANGE RANGEはツアーの中で内容のマイナー・チェンジをしていくバンドなので、そういう意味ではお客さんとバンドで一緒にツアーを作っていく感覚があるんですよね。特にこれだけ長いツアーだと最初の頃と来年ではまったく違っていたりもすると思うんです(笑)。自分たちもその過程を楽しみつつ、お客さんにもその会場でしかなかったライブを楽しんでもらえたらと思いますね。
作品データ
『Double Circle』
ORANGE RANGE
ビクター/VICL-65728~9(通常盤)/2022年9月14日リリース
―Track List―
【DISC 1】
01. Pantyna feat. ソイソース
02. Love of Summer
03. Typhoon
04. Illusion feat. ペチュニアロックス
05. トカトカ
06. 恋はRock’ n’ Roll
07. キリサイテ 風
【DISC 2】
01. ラビリンス
02. HEALTH
03. あの世のANTHEM~天国と地獄~
04. 気分上々
05. Family
06. Imagine -Double Circle ver.-
07. KONOHOSHI
―Guitarist―
NAOTO