鈴木茂自身が語る、荒井由実「卒業写真」(1975年)でのギター・プレイ 鈴木茂自身が語る、荒井由実「卒業写真」(1975年)でのギター・プレイ

鈴木茂自身が語る、荒井由実「卒業写真」(1975年)でのギター・プレイ

荒井由実時代の名作群から90年代のメガ・ヒット曲「真夏の夜の夢」まで、ユーミンのポップスと鈴木茂のギターの相性は抜群であった。ここでは1975年に発表された「卒業写真」での珠玉のギター・プレイについて、鈴木茂自身に語ってもらおう。

取材:山本諒 撮影:山川哲矢 協力:七年書店
※本記事はギター・マガジン2022年11月号の特集『ユーミンとギタリスト』の一部を抜粋・再編集したものです。

ダイナミック・レンジが広い。自慢できる音だね。

──鈴木茂

 この曲のギターは、音程、音量、音色の変化する幅など、あらゆるダイナミック・レンジがとても広い。特に音色に関しては、弱く弾くとクリーンで、強く弾いたところは歪んでるでしょ? 自分の強弱で、クリーン~歪みまで広い幅の音色をコントロールしてるの。こういう音作りにすると、人間の声みたいな表情をつけられるから。ジミ・ヘンドリックスって凄く表情に富んだプレイをするけど、伴奏はあの人のニュアンスに近いね。実はジミヘン的なんですよ。

 この音作りの肝は、まずピックじゃなくて素手で弾いていること。それから、アンプだね。僕は必ずアルファのスタジオにある、JBLのスピーカーが載ったフェンダー・ツイン・リバーブを使っていた。あのアンプが大好きでしたね。いつしか、誰かが“鈴木茂専用”とかって名前を書いてくれて(笑)。そのアンプを、ちょうど歪み始めるギリギリあたりで音作りするの。「卒業写真」のこの音色は、手前味噌だけど、自慢できますね(笑)。このチューニングまで持ってくる人って、当時はあんまりいなかったような気がするから。

 で、「卒業写真」みたいなバラードって、本来は大人しく伴奏していればOKで、普通は歪ませないと思う。でも、僕は自分の存在を主張したかった。曲が素晴らしいから、良い演奏ができるなって。だからあえて歪む音作りにしつつ、伴奏もたびたびオブリを入れたりして、パターン感を排除して存在感を出しているね。

 そしてギター・ソロだけど、“シンプルなメロディが合うな”と最初に感じた。でも、それを成立させるのは違う色付けが必要だと思って、ワウ・ペダルを使うことにしたね。それとワウを使った一番の理由は、人間の声みたいにしたかったから。内部のギア幅をわざと狭くして、派手にかかりすぎないように調整したの。これで絶妙なウーマン・トーンというか、女性のスキャットみたいな音にしたんです。

 マリア・マルダーの「Midnight at The Oasis」っていう曲でソロを弾いている、エイモス・ギャレットが当時とても好きでね。フレーズ的にはそのイメージもあるかも。フレーズ作りはさほど苦労せず、2~3テイクで録ったような記憶だけど、たぶん僕だけスタジオに居残りして弾いたのかな。つまり、残業で仕上げたソロだね(笑)。

 それと面白いのは、エンディングの僕のソロって、ちょっとスウィングしてるんですよ。これはね、細野さんと林くんのスウィング感に合わせたんだよね。2人はこういうスローな曲でも、常にグルーヴの変化をもたらしてくれる。ペタッとした8ビートには絶対にしない。つまり「卒業写真」って、僕のギターも含めて、ティン・パン・アレーじゃないとできない演奏なんだ。

ギター・マガジン2022年11月号
『ユーミンとギタリスト』
2022年10月13日(木)発売