岡田拓郎をナビゲーターに迎え、カテゴライズ不可能な個性派ギタリストたちの作品を紹介する連載、“Radical Guitarist”。今回はポルトガル出身の奇才、ノルベルト・ロボの『Muxama』を紹介。
文=岡田拓郎 デザイン=山本蛸
今回紹介する作品は……
『Muxama』
ノルベルト・ロボ
Three:Four Records/TFR034/2016年リリース
―Track List―
- Colheres
- Charada
- Slowz
- Solestício
- Figueira
- Legionella
- Oma
- Anona
- Muxama
フリーズ・エフェクトで具現化した奇才の脳内
ポルトガル出身のギタリスト/インプロヴァイザー、ノルベルト・ロボ。キャリア初期はジョン・フェイヒーを思わせるアメリカーナ的フィンガーピッカーとして知られていたが、そうしたフィーリングは次第に影を潜めていった。そして抽象的なフィンガーピッキングに、独創的なエフェクト・ペダル使いを組み合わせた、誰も真似できない、誰もやろうとしなかったプレイ・スタイルを築き上げた。
6枚目のアルバムにあたる『Muxama』は、そうした彼のギター・プレイをじっくり堪能できるソロ・ギター作品となっている。“頭の中に鳴っている音を再現するのには何年も要することがある”とはノベルトの談。純粋に鍛錬の時間が必要な場合もあれば、その音を生み出すためのペダルや楽器が発明されるのを待つこともあるという。本作リリース時のインタビューでそういった旨の話をしていたが、まさに今作で執拗に踏まれ続けるフリーザー(註:音をフリーズさせて持続させるエフェクト)がそれに当たるのではないだろうか。
「Colheres」、「Muxama」でのフリーズ使いは、古いSP盤から発せられる幽玄なオルガンの音色を思わせる。フリーズとジャズ的な演奏を組み合わせた「Figueira」も彼以外の演奏では聴いたことのない音像。インプロヴィゼーションを主体とした演奏ではあるが、和声的で時に1930年代のジャズやラウンジ・ミュージックを思わせるロマンティックなコードの流れに思わず心を奪われる。
著者プロフィール
岡田拓郎
おかだ・たくろう◎1991年生まれ、東京都出身。2012年に“森は生きている”のギタリストとして活動を開始。2015年にバンドを解散したのち、2017年に『ノスタルジア』でソロ活動を始動させた。現在はソロのほか、プロデューサーとしても多方面で活躍中。