2022年11月、セルフ・タイトルのデビュー作をともなって、突如として姿を現わしたバンド、633(SIX HUNDRED THIRTY THREE)。エモーショナルかつ多幸感に溢れるメロディを、インディー・ロック感マシマシなサウンドで奏でる、ナイスな新人だ。だがしかし、その楽曲を聴いていると、“あれ?この歌声とアンサンブルはどこかで……”と不思議な感覚に包まれてしまう。“バンドとバーベキューをこよなく愛する、ソーセージの化身”というメンバーたちの中から、ボーカル・ギターのSOFT CREAMとギタリストのSMOKEの2人に、バンド結成の経緯から作品中のギターについてまで話を聞いてきた。
取材/文=伊藤雅景 Illustration=Takumi Yamaki
今作は僕らなりの“青春パンク”を目指して作ったんだ。
──SOFT CREAM
まずはバンドの結成のいきさつをから聞かせて下さい。
SOFT CREAM ドラムのDRUNK MONKEY(d)から声が掛かったのが最初のきっかけだね。まず、このバンドは“どんなところでも聴いたらハッピーになれる、日々の憂さを晴らすような音楽を作る”っていうのをテーマにしているんだ。例えば、バーベキュー、キャンプ、ドライブ……だったり、日常のそういうシーンのお供になるような楽曲を作りたかったんだよ。
そのためにこの4人(SOFT CREAM/vo,g、SMOKE/g、LANTERN SMILE/b、DRUNK MONKEY/d)で集まって、バンドを組んだんだ。そこから曲を作り始めたら、どんどん今作のイメージも湧いてきてさ。
楽曲はいつ頃から作り始めていたんですか?
SOFT CREAM 結成してからだから……本当に今年(2022年)からかな? まず僕が1人で曲を作って、完成したデモをメンバーみんなに送って……っていう流れで作っていった。
ハッピーな雰囲気の曲にしたかったから、スタジオでのみんなとのアレンジも、とにかく“楽しく気楽に”やるように心がけていたんだ。楽器のフレーズだったり、それぞれのアイディアはその場でどんどん考えていったりね。あれは楽しかったな。
デビュー作『SIX HUNDRED THIRTY THREE』には、その雰囲気がグッと詰め込まれてますね! ギター的にはどういった部分をこだわりましたか?
SMOKE 言葉で説明するのは難しいですが……とにかく“歪んで”ます(笑)。
SOFT CREAM 実は、曲ごとにそれぞれ“こういう音にしたいな”っていうイメージがあったんだ。僕たちは1990〜2000年代に生まれたインディー・ロックから凄く影響を受けてきたから、その時代にあったロック・シーンの影響が色濃く出ているんだよ。
具体的に言うとジミー・イート・ワールドやウィーザーとか。もちろん日本のバンドもめちゃくちゃ大好きさ。代表的なバンドだとASPARAGUSやLOW IQ 01とかね。
そういうバンドから感じる“サウンドの懐かしさ”とか、“青春が詰まってる感じ”を僕らもやりたかったんだよね。だから、今作は僕らなりの“青春パンク”を目指して作ったんだ。ずっとキッズの気持ちで聴いていられるようなね。
“もうしょうがない、爪でいこう”と(笑)
──SMOKE
「Sweet Rain」とかはまさに90〜00年代のインディー・ロック感が強いというか。
SMOKE 0:54あたりから入る“ピロリロリロ……”ってフレーズとか、凄くそれっぽいですよね。
SOFT CREAM ブリンク182みたいなね(笑)。
SMOKE なるほど。僕としてはアッシュを意識していたかもしれないです(笑)。この曲はそういった“UK感”を狙いましたね。あと、「Sweet Rain」ってタイトルも気に入ってます。
「Sweet Rain」の前に入る、ハッピー感満載な「One Summer Day」はどういったイメージでしたか?
SOFT CREAM フェニックスの影響が強いかな。イントロのリズムとかは特にね。この曲は一辺倒に“パンク・ロック”って言うよりは、ちょっと踊れる“ハネ気味”な路線を狙ったんだ。日本のバンドだとCOMEBACK MY DAUGHTERSとかさ。
SMOKE ちなみに、この曲のアルペジオは指で弾いているんですよ。サビのフレーズがわかりやすいかもしれないです(1:06〜あたり)。これくらい速いBPMだと、ハネるリズムはピックより指のほうが上手く弾けるんですよ。
SOFT CREAM 指というか、爪で弾いている曲もあるよね。
SMOKE 爪は「Drink Up」ですね。レコーディングの時に普通にピックで弾いていたら、要らないピッキング・ノイズが出過ぎちゃってたんですよ。アタック音が“カリカリ”ってなり過ぎちゃうというか。
アンプやエフェクターの設定を変えて、なんとかその部分をマスキングできるようなセッティングを探していたんですけど、なかなか上手くいかなくて。柔らかいピックを使ってもダメだったんです。そして、最終的に“一番柔らかいのは人体なんじゃないか”という答えに辿り着いてしまい、“もうしょうがない、爪でいこう”と(笑)。
SOFT CREAM SMOKEの“爪ダウン”だね(笑)。
より“あざとく”聴こえるように意識してたかもしれません
──SMOKE
ギター・プレイで気に入っているのは、どの曲ですか?
SOFT CREAM 「Aurora」とかは凄く良い感じだよね。この曲のイントロで聴けるキメのフレーズは、バンド・メンバーみんなと向き合いながらお互いに息を合わせて録ったんだけど、それがめちゃくちゃ楽しかった。その空気感が良い味を出してると思うね。
あと、この曲はとにかく全員で“鳴らす”っていう気持ちで録ったんだ。カッチリ合いまくってるっていうより、はみ出ちゃった感じがあったほうが良かったんだよ。エモさを全面に出せるようにしたかったんだ。
なるほど。
SMOKE 僕は「Million」のギター・フレーズがけっこう面白いことができたと思っています。実はイントロのシンセっぽいフレーズも全部ギターで弾いているんですよ。
これは僕のエフェクター・ボードにも入っている、エレクトロ・ハーモニックスのCathedralっていうリバーブ・ペダルを使っていて。REVERSEモードにして、BLENDツマミを全開で録っています。色々いじりまくってたら偶然この音色を見つけたんですけど、“ふわっふわっ”みたいな幻想的な音になってくれて。
ギターの音だったとは驚きです。では、今作のフレーズを考える時に意識していたことはありますか?
SMOKE そうですね……ボーカルのメロディに沿ったフレーズが多いかもしれませんね。もうひとつのメロディを作るというよりは、SOFT CREAMのメロディを立たせるような意識が強いです。
例えば、オクターブで動くようなフレーズも少ないですもんね。
SMOKE アクセントとして入れていた部分はあるんですけどね。あくまでオクターブでメロディに絡みにいくようなアプローチは控えめです。
SOFT CREAM 僕はコード感を意識したかな。例えばクリシェとか、メロディック・パンク特有のちょっと切ないコード感を多用したね。コード感だけで言うと、洋楽というより日本のロックっぽさを意識してると思う。切ないコード感をロックで効果的に使うやり方は、日本のロック・シーン特有の要素だと、自分はどっかで感じてるんだよね。そこをリスペクトして、全面に押し出したんだ。
そのコード感を、SOFT CREAMさんとSMOKEさんで分担して弾き分けるようにしていたり?
SOFT CREAM コード感はSMOKEがアルペジオで表現しているというか、分析してくれているから、僕はあまり考えてないかな(笑)。ギターのポジションの棲み分けは、特に難しく考えずに感覚でやってるかも。
SMOKE 僕は、より“あざとく”聴こえるように意識してたかもしれませんね。
SOFT CREAM あ〜、なるほどね(笑)。
ツアーではリッケンバッカーも活躍しそう
──SOFT CREAM
レコーディングで使用した機材も聞かせて下さい。ギターは何を使いましたか?
SOFT CREAM 僕はギブソンのSGスタンダードとスペシャルがメインだけど、今作では去年(2021年)買ったリッケンバッカー(360/6v64)も活躍したね。
SMOKE 僕はフリーダム・カスタム・ギター・リサーチ製のRetrospective JMを使って録りました。ちなみにLANTERN SMILE(b)は5弦ベースを多用していましたね。
SOFT CREAM 僕はあくまでSGがメインだけど、リッケンバッカーを全編で使った曲もあるんだ。「Radio Song」のバッキング・ギターは全部そうだね。リッケンバッカーは今作で凄く良い役割を果たしてくれたよ。無駄な倍音みたいなものが出ていなくて、綺麗にコード感が聴こえるんだよね。そしてシャープかつ温かみが感じられるサウンドなんだ。「Radio Song」はそこが凄い生きてると思うから、ぜひ注目して聴いてほしいね。
SGはスタンダードとスペシャルを半々くらいで使い分けていて、音像が広がっていく「Drink Up」、「The Great Escape」、「Sweet Rain」はスタンダードで、レンジを広げずに“キュッと”としたサウンドにしたかった「One Summer Day」、「Rooftop Party」ではスペシャルを使った。ちなみにピックアップはほとんどリアだね。
ライブでどんなギター・サウンドが聴けるか楽しみですね。
SOFT CREAM ツアーではリッケンバッカーも活躍しそうだと思っているんだけど、まだどうなるかはわからない。ただ、アンプはマーシャルのASTORIA CUSTOMを使う予定だね。アンプ側のセッティングはクリーンにしておいて、ブルースドライバーで歪みを作るんだけど、実は今回のアルバムで聴ける僕のギター・サウンドは、全部その組み合わせで録った音なんだ。
SMOKE 僕はレコーディングでもメインだったフリーダム製のJMタイプを使う予定です。このモデルは、僕が2ハムバッカー仕様でオーダーしたギターなんです。まぁ、変わる可能性も全然ありますが。
あと、同じくフリーダムのギターで、RRS Braveryっていうレス・ポールに近いシェイプのギターも持っているんですけど、それを使っても良いかなとも思い始めていますね。実はこのシリーズがまだプロトタイプだった頃に、僕がフリーダムから買い取った個体なんですよ。ピックアップにフリーダムがオリジナルで作っているF-90っていうピックアップが載っていて、そのサウンドも捨て難いんですよね。ライブではもしかしたらJMタイプよりRRS Braveryのほうが音抜けが良いかもなあ……などとも思っているところでして。
デビュー前からフリーダムと関係性が深いんですね……。アンプは何を使いますか?
SMOKE フェンダーのSuperSonic1台で臨もうと思っています。歪みはアンプのドライブ・チャンネルを使って作りますね。決まってないところも多いですが、だいたいそんな感じです。
SOFT CREAM まだライブをやったことないからね、僕ら(笑)。レコーディングで活躍したリッケンバッカーはもちろん使ってみたいけど、ライブで使って“全然ダメだ! 弾きづらい!”ってなっちゃう可能性もあるしね。そうなったらSGを使うかな。なぜか僕とSGは相性が良いからさ。
聴いてきた音楽、大好きなギターをそのまま表現したい
──SMOKE
今作のツアー後も精力的に活動していく予定ですか?
SOFT CREAM そうだね! とにかく今はライブができる機会も増えてきたしね。パーティーなバンドとして、フェスとかにも呼ばれたいな(笑)。色んなライブで、楽しいパーティー感のある雰囲気を届けたいと思っているよ。
バンド・サウンドだけでなく、アコースティックのステージも合いそうですよね。
SOFT CREAM うんうん。このバンドはけっこう向いてるかもね。
それでは、今後への意気込みを教えて下さい。
SOFT CREAM ライブも音源も、とにかくハッピーに楽しんでほしいなって思ってるよ。その一心だね。
SMOKE まだライブをやったことがないから想像がつかないんですけど、ライブでは“ちょっとだけ見えるみんなの格好”とかに注目してほしいですね(笑)。
あと、僕個人的には“新しいチャレンジをしない”っていうのもテーマとして考えているんです。聴いてきた音楽、大好きなギターをそのまま表現したい。むしろ、その自分の好みにガッツリ似せていっても良いんじゃない?ってくらいの気持ちです。自分のオリジナルを追求していくんじゃなくて、好きなものを素直に楽しむ。そういうマインドでやっていけたら嬉しいですね。
LIVE INFORMATION
Bier Fest Tour 2022
- 2022.11.21(月)/KT Zepp Yokohama
w/ストレイテナー、Age Factory - 2022.11.23(水)/Zepp Fukuoka
w/ストレイテナー、cinema staff - 2022.12.01(木)/なんばHatch
w/ストレイテナー、Age Factory - 2022.12.02(金)/Zepp Nagoya
w/ストレイテナー、cinema staff - 2022.12.07(水)/豊洲PIT
w/ストレイテナー、w.o.d. - 2022.12.18(日)/仙台PIT
w/ストレイテナー、w.o.d.
※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や公演詳細は633の公式HPをチェック!
633公式HP
https://633jp.net/
作品データ
『SIX HUNDRED THIRTY THREE』
633
ユニバーサル/TYCT-60203/2022年11月02日リリース
―Track List―
- Drink Up
- One Summer Day
- Sweet Rain
- The Great Escape
- Million
- Aurora
- Girls Don’t Cry
- Rooftop Party
- Radio Song
―Guitarists―
SOFT CREAM、SMOKE