ロック・バンド、ircleが新作『ふるえる』をリリースその多彩な音像を司るギタリスト=仲道良にインタビュー ロック・バンド、ircleが新作『ふるえる』をリリースその多彩な音像を司るギタリスト=仲道良にインタビュー

ロック・バンド、ircleが新作『ふるえる』をリリース
その多彩な音像を司るギタリスト=仲道良にインタビュー

大分県出身の4ピース・ロックバンド、ircle(アークル)が4枚目のフル・アルバム『ふるえる』をリリースした。ド直球なロック・サウンドで攻めまくる熱いナンバーから、ポップなアレンジで聴かせるバラードまで、多彩な楽曲が並ぶ1枚に仕上がっている。今回は、変幻自在にバンドの世界観を彩るギタリスト=仲道良に、自身の来歴から、今作のギターに込められた想いまでも語ってもらった。

取材/文=伊藤雅景 写真=MASANORI FUJIKAWA 機材写真=星野俊

今作は歌に対しての“カウンター”みたいなギターが多かった

ギタマガのインタビュー初登場ということで、まずはギターを始めたきっかけから聞かせて下さい。

 俺が小学5年生くらいの時に、姉がアコースティック・ギターをやってたんですよ。それを見て、“姉ちゃんが弾けるなら俺もできるだろ”みたいな感覚でギターを買ってもらった感じですね(笑)。なので最初はアコースティック・ギターから始めました。

最初はアコギだったんですね。

 そうですね。エレキ・ギターを初めて触ったのは中学生になってからでした。中学校に入学して今のircleのメンバーと出会ったんですけど、そこでみんなで文化祭に出たいとなって。最初は河内くん(vo,g)と2人でフォーク・デュオみたいなものをやろうかって話をしていたんですけど、“やっぱりバンドをやりたい”って河内くんが言い出して。そこでエレキが必要になって、ギターを買ってもらえないか親父に相談したんです。そしたら“このギターを持ってけ”とトーカイのTLタイプを渡してくれて。おそらく親父が昔使ってたギターだったのかな。今でも自分のもののように使ってます(笑)。

ircleは去年(2021年)で結成20周年ということでしたが、その時に出会ったメンバーから変わっていないんですか?

 ずっと一緒のメンバーです。結成21年って凄いですよね。その数字を見ると改めて実感します。活動を始めてから、ずっとがむしゃらにやり続けてるから実感はなかったですけど。その凄さは最近特に感じますね。

ircle(アークル)/左から
ショウダケイト(d)、伊井宏介(b)、河内健悟(vo,g)、仲道良(g)
ircle(アークル)。左からショウダケイト(d)、伊井宏介(b)、河内健悟(vo,g)、仲道良(g)。

それでは、ircleの作曲スタイルについても教えて下さい。

 以前は河内くんも僕も弾き語りに肉付けしていくやり方が主流だったんですけど、僕はここ4〜5年は家でデモを作って、ある程度曲の骨格を固めてからスタジオで合わせるってことが多くなってきましたね。

ギター・フレーズはどのように考えているんですか?

 スタジオでみんなで合わせながら、自分が反射的に弾いた“手ぐせ”のようなフレーズが元になることが多いですね。でも、自分は歌詞やメロディに対するギターの役割を考えながらフレーズを作っていきたいタイプなので、家に持ち帰ってDTMで時間を掛けて詰めていくこともあります。やっぱりギターって、歌に対しての“カウンター”みたいな存在になることが多いじゃないですか。今作『ふるえる』は特にそういったフレーズが多くて。

 それこそ「恋」って曲は河内くんがスタジオにデモを持ってきたんですけど、その場でアレンジを練るには少し難しいニュアンスの曲だったんです。なので、自分が宅録で7〜8割くらいアレンジを固めてから、再度メンバーとスタジオで作り上げていきました。ギターのフレーズも家で練りに練りましたね。

ギターの“大事な部分”にもっと気がつけるようになった

仲道良(g)

「恋」はircleの楽曲としては珍しい、ギターの音数が抑えられたアレンジになっていますね。

 ギターの音数はけっこう意識しましたね。今までの俺らはライブハウス感というか、全員で同時に“どーん”っていくアンサンブルが得意なバンドだったんですけど、1つの作品で全部がそういうテイストの曲だと、どうしても同じ印象になっちゃうというか。

 それに、今はサブスクを使って色んな“高解像度”な楽曲と一緒に聴かれることが多いと思うので、ギターで作った轟音だけじゃない、聴きやすいアレンジの曲も入れたいっていう狙いもありました。例えば、「恋」はメンバー全員が違うタイミングで音を発音するようにして、各々のサウンドが生きるように心がけましたね。全員が同時に喋らないようにするってイメージです。

そういったアレンジは新しい試みだったんですか?

 そうですね。今までだったら“パワー・コードを重ねて入れて厚くしちゃおう”みたいなことが多かったんですけど、最近は曲のアレンジを俯瞰で聴いてから、要るものと要らないものを冷静に取捨選択できるようになってきて。もちろん音を厚くしたりするのは、それが気持ち良くてやっていたんですけど。

 でも、そういった意識ができるようになってから、楽曲の中でのフレーズが占める意味や、ギターの“大事な部分”にもっと気がつけるようになったというか。

「暖炉の灯」のギター・ワークからもその意志を感じました。

 確かに、Aメロのバッキング・ギターとかはけっこう上手くいきましたね。ただ単純にコードを“ジャーン”って弾くだけで完結させることもできたセクションなんですけど、コードにトレモロを掛けて、しかも1拍裏で入るっていう工夫をしていて。表の拍からギターが入ると、ボーカルのメロディやほかの楽器を邪魔しちゃう印象があったんで、発音のタイミングと音のエフェクトでそれを解消したんです。難しいことをやってるわけではなくて、あくまでシンプルなんですけど、その“ちょっとの”アイディアで曲の印象が凄く良くなったんです。

バッキング・ギターのフレーズは仲道さんが考えているんですか?

 基本的に河内くんが弾くギターは本人に任せちゃってますね。やっぱり、人間が集まって曲を作っているんだから、自分の考えだけじゃなく色んな意見を反映していったほうが面白いですし。昔はメンバーが持ってきたものを許せない時期もあったんですけどね(笑)。でも、長いこと同じメンバーとやってるおかげで、“そのほうが面白いよね”って柔軟な考えができるようになりました。

最低限の玉数でどれだけ“ヒット”を打てるか

仲道良(g)

今作は様々なテイストのギター・アレンジが聴けるので、ルーツとなっているギタリストが気になりました。

 最近はペトロールズの長岡亮介さんが好きでよく聴いてますね。先ほど話していた楽曲「暖炉の灯」の2Aでは、カントリー風なフレーズを弾いているんですが、それはまさに長岡さんの影響かもしれません。

ほかに影響を受けたギタリストは?

 僕のギター・プレイの礎となっているのは、ナンバーガールの田渕(ひさ子)さんや、アベフトシさん、海外だとジョン・フルシアンテ、ジョニー・グリーンウッドあたりのギタリストから凄く影響を受けました。ただ、特定の人に似せていってるわけではなくて、様々なプレイを自分なりの解釈で噛み砕いてからアウトプットしている感覚が強いです。

なるほど。それでは、練習はどのように?

 フレーズのコピーが多いです。昔はめちゃくちゃ基礎練をやってましたけど、最近はそこまでやってないですね。むしろ練習よりも、色んな曲を聴いて“ギターがどう楽曲にアプローチしているか”を研究することが多いです。今作を作っている時は、3ピース・バンドのギター・アレンジとかをめちゃくちゃ勉強していましたね。やっぱり僕らみたいにギターが2本入っているバンドよりもギターが洗練されている印象があって。そこに注目することで、最低限の玉数でどれだけギターで“ヒット”を打てるかって部分を意識できるようになりました。

“音数”を意識するのが仲道さんの最近の大きなテーマなんですね。

 そうですね。特にギターってリード・パートも担えるし、リズムも刻める、それに加えてシンセ的な音色も出せちゃうじゃないですか。なんでもできるが故に、油断するとどうしても音数が増えてきてしまったり……。そうなった時は“自分のギターが曲の中でどの立ち位置にいるべきか”ってことをしっかり考えるようにしています。

 音数に関してだけではなく、サウンド・メイクの部分でも同じことが言えると思っていて。機材の進化で出せる音色が無限大になっているので、そこはめちゃくちゃ難しいですね。今作はその部分にもかなり重点を置いて制作することができました。

喜怒哀楽を感じさせるギターを弾いていきたいですね

仲道良(g)

サウンド・メイクの面で新しく発見できたことはありましたか?

 コロナ禍で配信ライブの機会をもらえて、自分の演奏をアーカイブで聴くことが増えたんですけど、“なんか音に立体感が足りない”って感じたことがけっこうあって。そこでYouTubeとかで色んなギタリストの音作りを調べてみたら、意外とディレイをかけっぱなしにしてる人がけっこう居たんですよね。それまで俺はドライな音で弾いているタイプだったんですけど、その発見をきっかけに、空間や奥行きを演出するためにディレイを使うようになりました。

今まではあまりディレイを使ってこなかったんですね。

 そうですね。リズムがはっきり聴こえるディレイはたまに使っていたんですけど、いわゆるアナログ・ディレイのような、滲んだ音色でうっすら掛けるっていう用途では使っていませんでした。音源も同様ですね。エンジニアさんがあとからこっそりプラグインで掛けてくれてたりっていうのは今までもあったと思うんですけど、今回は足下のペダルで掛けながら録ってみました。誰にも気づかれないくらい“うっすら”掛けてます(笑)。自分のエフェクター・ボードに入っているストライモンのTIMELINEや、フォックスギアーのECHOSEXを使いましたね。

これからは“ディレイ・ペダル沼”にハマってしまうかもしれないですね(笑)。

 本当に危ない……(笑)。沼だなあとは前から感じてましたよ。でもすでにディレイがうっすら掛かってないと寂しく感じてしまうようになっちゃいました(笑)。

仲道良/使用エフェクター
左から2番目が、仲道が今作で使用したフォックスギアーのECHOSEX BABY。
その他にもレコーディングで使用したエフェクターが並ぶ。

エフェクターの話が出たところで、歪みの作り方についても聞かせて下さい。

 今作のレコーディングではアンプとエフェクターの歪みを使い分けていますね。実は去年くらいまではアンプのドライブ・サウンドばかりを使ってたんですけど、音がどうしても滲み過ぎちゃったり、音の解像度がいまいち上がらないっていう壁に当たっちゃって……。

 そこで“アンプのクリーン・サウンドにエフェクターの歪みを足す”っていうスタイルも新しく取り入れていきました。アンプの歪みが1番カッコいいとは思っているんですけど、ここ1年くらいはそういうモードになっています。今はライブで鳴らすドライブ・サウンドも完全にエフェクターで作っていますね。

歪みの主軸をアンプからエフェクターに変えるのは、ギタリストとして大きな変化ですよね。

 そうでしたね。いきなり変えることはできなかったので、ゆっくり1年くらい時間を掛けてちょっとずつ自分に馴染ませていきました。

来年から今作のツアーが始まりますが、注目してほしいポイントは?

 やっぱり僕らのライブでは、音源以上の“エモーショナルさ”を感じ取ってほしいですね!

最後にギタリストとしての展望を教えて下さい。

 楽曲が持つ風景を俺のギターで描いていきたいっていう気持ちは強くあります。静かな印象だったらそれを想起させるようなサウンド・メイクをしたり、汚すような印象だったら“バシャー”ってぶちまけるような音像を臨機応変に演出したり……。そして、人間の心のような喜怒哀楽を感じさせるギターを弾いていきたいですね。

LIVE INFORMATION

ircle 4thフル・アルバム リリース・ツアー 2022-2023
“オープンチャクラゲート”

【日時】

  • 2022年12月16日(金)/大分 Copper Ravens【ONE MAN】
  • 2022年12月21日(水)/千葉 千葉LOOK
  • 2023年01月09日(月)/栃木 HEAVEN’S ROCK宇都宮VJ-2
  • 2023年01月26日(木)/山口 周南rise
  • 2023年01月27日(金)/福岡 小倉FUSE
  • 2023年02月01日(水)/神奈川 横浜BAYSIS
  • 2023年02月08日(水)/京都 京都MUSE
  • 2023年02月10日(金)/香川 高松TOONICE
  • 2023年02月11日(土)/岡山 岡山CRAZY MAMA2ndROOM
  • 2023年02月18日(土)/宮城 仙台enn2nd
  • 2023年02月19日(日)/新潟 新潟RIVERST
  • 2023年02月24日(金)/茨城 水戸LIGHT HOUSE
  • 2023年03月04日(土)/愛知 名古屋ell.FITS ALL
  • 2023年03月12日(日)/大阪 心斎橋BRONZE
  • 2023年03月17日(金)/福岡 福岡Queblick
  • 2023年03月22日(水)/東京 渋谷CLUB QUATTRO【ONE MAN】

※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や公演詳細はircleの公式HPをチェック!

ircle公式HP
https://ircle.jp/

作品データ

『ふるえる』ircle

『ふるえる』
ircle

YAMANOTE Records/YMNT-1014/2022年11月23日リリース

―Track List―

  1. 風穴
  2. 決断はいまだ
  3. 負けないで
  4. ロックンロールバンド
  5. ダルマオープンチャクラゲート
  6. 産声
  7. 暖炉の灯
  8. 2020

―Guitarists―

仲道良、河内健悟