ジョン・フルシアンテが2度目の復帰を果たし、2022年には『Unlimited Love』(4月)、『Return of the Dream Canteen』(10月)という2枚のフル・アルバムを立て続けにリリースしたレッド・ホット・チリ・ペッパーズ。そして先日、16年ぶりとなる待望の来日公演も発表された。今回は来日決定を記念して、ジョンの最新インタビューをお届け! 復帰後の最新2作品の制作秘話、バンド・メンバーやファンへの愛、そして自身のギター・プレイの現在地まで語ってくれた。
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翻訳=トミー・モリー Photo by Ethan Miller/Getty Images
いまだかつてないほどに感謝の念に溢れているよ。
あなたがレッド・ホット・チリ・ペッパーズ(以下RHCP)に戻ってから、バンドは50近くの楽曲を作り、『Unlimited Love』と『Return of the Dream Canteen』という2つのアルバムをリリースしました。メンバーと再び演奏をしてみていかがですか?
まず、俺はずっと“誰かのためにプレイしたい”と思ってきたんだ。そしてバンドも、“何かを与え、届けたい”という気持ちで溢れているよ。
だけど、アルバムを作る時っていうのは“自分がほかのバンド・メンバーに対してプレイをすること”だったり“自分の近しい友人のためにプレイしたい”と考えがちだ。しかし、ステージに登ってマイクに向かって歌い始めるとなると、オーディエンスと目が合うことになる。
彼らの中には、とてつもなくハッピーな気持ちが伝わってくる人、本当に心の底から喜んでいる小さな子供、飛び跳ねて楽しんでいる若い女の子、そして、何人かのグループは輪になって飛び回って嬉しさを炸裂させていて、俺らがプレイする曲に心の底から喜んでくれていたりする。
そういった景色を目にすると、時には涙が流れてしまうし、胸がギュッと締め付けられて歌えなくなってしまったりもする。そういう時は目線を足下にやり、自分自身を落ち着かせるしかなくなるんだ。
それはなかなか強烈な体験ですね。
そういったエモーショナルな瞬間が本当にたくさんあるんだ。それが自分たちにとって大切で、意味のある瞬間なんだってことに気がついて、俺たちはいまだかつてないほどに感謝の念に溢れているよ。
ライブではジョン、フリー、チャドがオープニングで演奏するインプロヴィゼーションがとても印象的ですよね。ホールのような大きいサイズの会場では派手な演出が多用されがちですが、RHCPは正反対のイメージです。
俺らは冒頭でインプロヴィゼーションを入れることにより、まずは“その場、その瞬間に宿るスピリット”とつながることを目指しているんだ。だって、オーディエンスはみんな違うし、会場が持つフィーリングは場所によって様々だからね。だから、俺らは毎晩異なるムードで挑んでいる。
そして、あまりプレイしない曲、毎晩プレイするお決まりの曲であろうと、俺はその時々にクリエイティブなものを感じながら、常に野生的にプレイしている。ステージ上ではどんな瞬間も価値のあるものだからね。
「Eddie」のソロはかなり難しかったんだよ。
アルバム『Return of the Dream Canteen』と『Unlimited Love』について聞かせて下さい。2作品とも、バンドのセッションから生まれた曲が収録されていますが、どのように収録曲を決めていったのでしょうか?
俺の頭の中では、それぞれに収録する曲目がある程度固まっていたのだけど、それをバンドに強要することはなかったかな。実際にはアンソニーがミックスを提案してきたり、時にはフリーや俺が提示したこともあったしね。そういった“バンドの流れ”のまま作業は進んでいった。“このまま流れに任せてやっていけば、然るべき形へまとまるだろう”とも思っていたしね。2つのアルバムがどういったものになるかなんて、最初は何も意識していなかったし。
でも、ここまで言っておきながら『Return of the Dream Canteen』に絶対入れるべきだと感じていた曲もあってね。例えば「Eddie」とか。この曲はオーディエンスが喜ぶ曲になるだろうと確信していたんだ。それに“『Unlimited Love』にベストな曲を注ぎ込んで、2つ目はその残りもの”という形にはしたくなかった。
だから、ほかのメンバーが1つ目のアルバムに混ぜたいと言った曲でも、俺が“それは次のアルバムに取っておこうよ”と言うこともあったんだ。
2つのアルバムが完成して、それぞれにどういった印象を持ちましたか?
最初は『Unlimited Love』でバンドの土台となる部分をしっかり魅せて、もっとエキセントリックで冒険的な一面は『Return of the Dream Canteen』に収録しようと考えていたんだ。でも、作業を進めるうちに、最初の考えと矛盾することが増えてきちゃってね。だからとりあえずアルバムの最初と最後の曲だけは固めて、それ以外の曲の作業の中でアルバムの全体像を模索していったんだ。
その結果、『Return of the Dream Canteen』は極端にカラフルで、聴いていて楽しいアルバムになった。一方『Unlimited Love』はもっとダークな雰囲気に寄っていったと感じているよ。そういった“ムードとフィーリング”の違いが面白いよね。
2つのアルバムでのギター・プレイについて聞かせて下さい。先ほど『Return of the Dream Canteen』の「Eddie」ついて触れていましたが、この曲のギターはどのようにして考えていったのでしょうか。
これはアンソニーの歌詞からもわかるとおり、エディ・ヴァン・ヘイレンのことを歌った曲だね。だからギター・プレイも彼の雰囲気を感じさせるものになっているよ。
実は俺はレコーディングの合間や休憩中に、いわゆる“エディ風”のド派手なプレイをしていることがよくあるんだ。ただ、俺らの曲ではそういったプレイはマッチしないことが大半で、真剣にレコーディングする機会はあまりなかったんだけどね。だから、この曲のソロはかなり難しかったんだよ。それはぜひ語らせてくれ。
はい、ぜひ聞かせて下さい!
この曲のソロは、今回録音した2作品の中で最後にプレイしたパートだったんだけど、レコーディングの途中から“何をどう弾けば良いのか”すらわからなくなってしまったんだ。しばらくトライしてみたけれど、自分で納得いけるものがまったくプレイできなかった。こねくり回しているうちに、だんだん“俺っぽくないサウンド”になっていっちゃってね。
それに、エディ風に弾くということは、世の中に対して“さぁ、エディ・ヴァン・ヘイレンのことを思い浮かべろ!”って言っているようなものだからさ(笑)。俺はもともとそういうマインドが好きになれないタイプだから、ソロ自体をカットしようとも思ったぐらいだよ。
それでは、このソロはどのようにして完成したのですか?
意識をシャットアウトして、考えるのをやめたんだ。確か15分ぐらいのブレイクを挟んだあとに、ワンテイクで録ったと思う。この曲が“エディ・ヴァン・ヘイレンのものである”ということを意識するのをやめて、感じるままにプレイしたんだ。俺が8歳の時から彼に抱いてきた、憧れや愛をそのままアウトプットしたような感じかな。具体的に言うと、速いタッピングやトレモロ・アームを使ったテクニックを織り交ぜたプレイだね。
でも、彼のギター・サウンドの中には、もちろんそういった高度なテクニック以外の魅力もあってさ。それは野生的なサウンドであったり、レコーディングの時にアンプと一緒の部屋でプレイすると生まれてくる偶然性をはらんだフィードバックだったりね。今でも彼のそういったサウンドを聴くたびに鳥肌が立つよ。なんていうか、“これは本物だ……。俺の目の前で何が起きているんだ?”という感じでね。
これはギタリストがコントロール・ルームでパンチ・インをして何度も弾きなおすっていうスタイルでは生み出せないものだと思うよ。まさに1人で何かに立ち向かい、リスクを取る男の姿が生み出すサウンドなんだ。今回の2つのアルバムで、俺はこういったことをたくさんトライしたよ。
“フリーとチャドを最高なサウンドにするために、俺は一体何ができるのか?”ってことを考えるようになったんだ。
あなたは“間(マ)”の使い方が巧みなギタリストですよね。ニュー・アルバムでは「Eddie」や「Shoot Me a Smile」で特にそう感じました。こういったスタイルはどのようにして築き上げたのでしょうか?
そうだね……振り返ると、『Mother’s Milk』(1989年)を作っていた頃の俺は、とにかく音の隙間を埋めることに躍起になっていて、かなり音数が多い“ビジー”なサウンドになっていた。フリーも音数は多かったと思うけど、彼は多彩な音色を使って“ビジーに聴こえないサウンド”になるようにプレイしていたんだ。彼は楽曲をより良いものにするために常に色んなことを考えていたんだよね。
そういったきっかけもあって、俺は楽曲やバンド・メンバーに対して、本来すべき“サポート”ができていないということに気づいたんだ。そこから俺も音の“間”や音数を意識するようになっていって、“どうやったらフリーとチャドを最高なサウンドにできるのか、そのために俺は一体何ができるのか?”ってことを考えるようになったんだ。
次のアルバム『Blood Sugar Sex Magik』(1991年)を改めて聴くと、確かにその意志を感じます。
俺のプレイの変化ももちろんあるけど、『Blood Sugar Sex Magik』の頃からプロデューサーにリック・ルービンがついてくれたことで、彼のアイディアも加えていけるようになったことも大きいんだ。“最初のヴァースではギターを抜こう”だとか“逆に2回目ではベースを抜こう”といった具合にね。彼はヒップホップのジャンルに豊富な知識と経験があった人だから、“楽器をミュートする”という意識がアレンジの主軸になることが多かったんだ。
俺はその頃、自分のプレイの音数を抑えることで“バンド・サウンドにどういったメリットが働くか”っていう部分を研究していたから、とても勉強になったよ。その時期から“音の空間”というものに対して、音楽的な価値を見出せるようになってきたんだ。鳴っているサウンド同士の距離感や、コードをプレイする際の音使いやインターバル、そして、俺とフリーの1音1音の位置関係といったものについてだね。
そして正直なところ、俺がそういったプレイをするようになってから、バンドの連中は気に入ってくれたし、さらに彼らと“サポートしあっている”と感じるようにもなっていったんだ。
ギター・マガジン2020年3月号
『ジョン・フルシアンテ、帰還!!!』
ジョン・フルシアンテのRHCP帰還を記念して、全アルバム・インタビュー&使用機材を一挙掲載! ソロでの活動や奏法も深掘りし、音楽家としての全貌に迫る!
ギター・マガジン2022年6月号
『ジョン・フルシアンテ完全復活!!!!』
ジョン・フルシアンテ復帰後のRHCPがリリースした最新アルバム『Unlimited Love』を徹底深堀り!! 作品についてジョンが語った最新インタビューも、国内独占掲載!!
作品データ
『Return of the Dream Canteen』
レッド・ホット・チリ・ペッパーズ
ワーナー/WPCR-18552/2022年10月14日リリース
―Track List―
- Tippa My Tongue
- Peace And Love
- Reach Out
- Eddie
- Fake As Fu@k
- Bella
- Roulette
- My Cigarette
- Afterlife
- Shoot Me A Smile
- Handful
- The Drummer
- Bag Of Grins
- La La La La La La La La
- Copperbelly
- Carry Me Home
- In The Snow
- The Shape I’m Takin(※国内盤ボーナス・トラック)
『UNLIMITED LOVE』
レッド・ホット・チリ・ペッパーズ
ワーナー/WPCR-18552/2022年10月14日リリース
―Track List―
- Black Summer
- Here Ever After
- Aquatic Mouth Dance
- Not the One
- Poster Child
- The Great Apes
- It’s Only Natural
- She’s a Lover
- These Are the Ways
- Whatchu Thinkin’
- Bastards of Light
- White Braids & Pillow Chair
- One Way Traffic
- Veronica
- Let ‘Em Cry
- The Heavy Wing
- Tangelo
―Guitarist―
ジョン・フルシアンテ