結成からの20年間、常に進化を続けてきたthe GazettEのギター・サウンド。その変化について、ギタリストの麗&葵に話を聞いていこう。サウンド・メイクで重視しているポイントや使用ギターの変遷に加え、洗練されたライブ・パフォーマンスの秘密までたっぷりと語ってもらった。
取材/文=村上孝之
麗に影響されて始めたけど、そこで得られたものはやっぱり大きかった。──葵
お二人はthe GazettEの中期(2010年頃)からギター・サウンドをさらに追究するようになり、ライブやレコーディングの際に自身でマイクを立てたりしていましたね。
麗 ライブでは自分でマイキングしていた時期がありましたね。その時は、毎会場でモニターの環境が変わるのが凄く嫌だったんです。そういった環境だと演奏しづらいし、そこにプレイが引っ張られるのも嫌だったので。
ライブをする時は全力で演奏をすることで精いっぱいで、マイクの位置まではなかなか気を配れないギタリストも多いです。
麗 そこまで気にするのは決していい状態ではないと思います。ぶっちゃけ、多少マイクがずれていても自分のモチベーションが高ければライブはできちゃうんですよ。
でも、その少しの影響で自分のギター・プレイが引っ張られるのが嫌だったんです。つまり、当時はそれくらい余裕がなかったんですよね。それで自分で色々試すようになりました。
でも、その結果得られたものは多かったと思います。
麗 確かに、聞いた話よりも、自分で実践して初めてわかることも多かったです。“マイクを近づけたら逆相っぽくなるんだ”とか、“ここからは許せない範囲だな”というのが感覚的にわかるようになったりとか。
葵 僕も、モニターから聴こえるギターの音が会場ごとに変わるのが嫌でした。それで自分もマイク・アレンジとかに興味を持つようになりましたね。麗に影響されて始めたことでしたけど、そこで得られたものはやっぱり大きかったし、ギター・アンサンブルについても凄く勉強になりました。
それぞれが目指していた“いい音”というのは特定のギタリストのような音だったのでしょうか?
麗 昔は憧れのギタリストの音を目指していましたけど、ライブを重ねるうちに、その“憧れの音”だとバンドではバランスが悪くなってしまうことに気がついて。例えば“今日の音はドラムとの相性がよくない”とか、“左右のギターの相性がよくない”、“ボーカルと当たっている”というようなことが頻繁にあったんです。
なので、そういう懸念を全部チェックして、色々な問題をクリアした音が“最適な音”なんじゃないかなという認識に変わっていきました。the GazettEの音楽を演奏するにあたって、そういったストレスの部分を排除した音が結果的に“いい音”なんだなという。
葵 僕も頭の中には出したい音がありました。でも、色んな機材をとっかえひっかえしたけど結局イメージしている音にはならなくて……。そんな時、当時のテックさんが“やっぱりどんな機材でも葵さんの音っスね”と言ってくれて、自分の音に自信がついたんです。そこからはあまり気にしなくなりました。
お二人とも自分の芯になる音を持っていることが魅力的です。では、色々な経験を経てきた現在、ギターを弾くにあたって大事にされていることは?
葵 自分は、とにかく気持ちよくライブをするようにしていますね。好きな音が鳴っていれば気持ちよくライブができるし、そういう演奏は観にきてくれている人にも楽しんでもらえるんじゃないかなと思ってます。
麗 僕はライブでは“いかに魅せるか”というところを一番に考えているので、動きのパフォーマンスをしっかり考えるんですけど、ピッキングのタイミングとパフォーマンスをしたい瞬間が被ることが多々あって。
そうなるとピッキングしたあとにパフォーマンスすることになるから、“ここでパフォーマンスしたいのに”という場所で理想の動きができなかったりするんです。だから、最近はパフォーマンスしたいタイミングで“ギターの空白”を入れるようにアレンジの時から意識しています。
もちろん、音楽として成立しなかったら意味がないですけどね。そういうことを考えてフレーズ作りをしたことがなかったので、自分的にはちょっとした挑戦をしている気分です。
最近は“絶対にリズムははずさない”という執念でギターを弾いています。──麗
やはり、お二人とも根っからのライブ・プレイヤーですね。続いては、使用ギターの変遷も聞かせて下さい。the GazettEを始めた頃は、それぞれどんなギターを使われていたのでしょう?
麗 僕はESPのHORIZONです。初めて買ったESPのギターでしたね。
HORIZONは高価なモデルですよね。
麗 そうなんですけど、僕の馴染みの楽器屋さんが凄く安く売ってくれたんです(笑)。青い色をした、フロイドローズが付いているHORIZONですね。
葵 僕もESPです。FOREST-GTだったんじゃないかな。無理して買いました。僕らの時代はESPを持っていないとライブハウスで相手にしてもらえなかったので(笑)。
麗 確かに(笑)。
葵 ヴィジュアル系はESPじゃないとダメだった(笑)。FOREST-GTも高かったけど、当時はESPを持っていないとヴィジュアル系を始められない風潮があったので、ローンを組んで買いました(笑)。
そこからしばらくはFOREST-GTを使っていました。麗はHORIZONの次にPOTBELLYを使っていたんだっけ?
麗 そうだね。昔、ボディ・トップにエグいフレイム・メイプルが見えるモデルに出会ったんです。POTBELLYはデザインが凄くカッコいいので、けっこうお値段も張ったんですけど、思い切って購入しました。
そこからずっとPOTBELLYを使っていましたが、自分もシグネチャー・モデルを作りました。シングル・カッタウェイのボディでしたね。
そのあと、POTBELLYのボディ・シェイプをベースにしたHELLIONを作りましたよね。
麗 第2弾を作るとなった時に“POTBELLYの形でシグネチャー・モデルを作ってもらえないですか?”とESPにしつこく頼んで作ってもらいました(笑)。レギュラーのPOTBELLYはチューン・オー・マティック仕様ですけど、僕のシグネチャー・モデルはバー・ブリッジ・タイプになっています。
僕はバー・ブリッジのほうが好きなんですよ。幅が広くて、ミュートする時に手が安定するから。それに、バー・ブリッジのほうが弦の振動が直にボディに伝わっている感覚もあるので。
バー・ブリッジは見た目もカッコいいですよね。シグネチャー・モデルといえば、葵さんのESP/A-III 艶~en~というモデルはシングルコイル・ピックアップが大きな特徴になっていました。
葵 そのモデルを作った時期は、the GazettEでシングルコイルの音色が必要になったタイミングでしたね。理想のパワー感とシングルコイル感を両立するために、色々なピックアップや仕様を試しました。難しかったですけどいい経験になりましたよ。
では、それぞれ現在のメインギターは?
葵 僕は、Strictly 7 Guitarsの7弦ギターです。このギターはヘッドレスなんですけど、そのタイプは凄く上手い人が弾くギターというイメージがあって、最初は敬遠してたんです。
でも、ステージングを考えると凄く扱いやすいし、ヘッドがない分当然軽いし。しかもStrictly 7 Guitarsはボディの大きさが自分には丁度良くて、禍々しい雰囲気のカラーも気に入ったので使うことにしました。
マルチ・スケールは苦になりませんでしたか?
葵 最初は難しかったです。7弦も慣れが必要ですし、初めてのマルチ・スケールだったので、凄く苦労しました。それに、ネックに対する指の角度によってコードの抑えやすさが全然違うんですよ。
だから、家で座って弾くのとステージで立って弾くのでは弾き心地が違って。なので、必然的に立った時のギターの位置も変えないといけなかった。そういう苦労はありましたけど、今では凄く気に入っています。
麗さんは7弦には惹かれませんか?
麗 興味はありましたけど、自分の場合は運指が難しくなるのが嫌で使わなかったですね。葵が持っている7弦を弾いたことがあったんですが、“うわっ、弾きにくい!”と思ったんです(笑)。なので、ダウン・チューニングで対応できる限りは6弦でいきたいと思っています。
では、麗さんの現在のメインギターは?
麗 一番新しいHELLIONシリーズの、黒いボディ・カラーのシグネチャー・モデルを使っています。ドロップ・チューニングで使うことを前提に作ってもらったギターで、スケールが666mmと普通のギターより長めになっているんです。音的には今までのHELLIONシリーズと同じ系統の音ですね。
なるほど。それでは、バンドでのお二人のゲイン感はどれくらいなのでしょう?
麗 葵は意外と歪んでいないよね。
葵 そうだね。アンプとかは全然突っこんでない。自分の今のメイン・ギターはピックアップの出力がけっこう高くて、ちょっと歪んでいる感じがするというのもあるし。ミュートして刻んだりする時に物足りなく感じないところまでゲインを抑えています。
麗 僕は若干ゲインが高くて、ノイズも多少混じっちゃってます。でも、アンプのゲインは半分以下にしてますね。音が飽和してしまうので。
ダウン・チューニングでバンドに混ざった時にギターの音が埋もれてしまうという人には、ゲインを落としてみることをお薦めしたいですね。さて、the GazettEの20周年を経て、それぞれ今後はどんなギタリストを目指していくことになりますか?
葵 ここ何年かはリズムの難しさを痛感していますね。麗はリズムが良いので、何かトレーニングとかをしているのかと聞いたことがあるんですけど、“してない”と言うんですよね。テスト前に勉強しているのに、していないって言うタイプのヤツなのかなと思ったけど、本当にしていないらしい(笑)。
僕からすると麗は天才的にリズム感がよくて、右手と左手のシンクロ率が凄く高い。それは僕には追いつけないところですけど、そこが上手になってくると演奏が楽しくなるので、リズム面をもっと追究したいなと思っています。
麗 それは僕も同じで、リズム面は意識しています。YouTubeか何かで見たんですけど、海外のブルース・ギタリストが“とにかくフレーズを間違えたとしても、リズムさえ合っていれば全然ミスに聴こえない”と言っていたんですよ。“リズムが間違っているとキーに合っていてもミスになるから、縦のリズムだけは絶対に合わせるように”と。
その話を聞いてから、自分でも必ず実践しようと思ったんですよね。最近は“絶対にリズムははずさない”という執念みたいなところでギターを弾いていて、それが楽しかったりするんです。そういう意味で、僕もリズムはこれからもしっかり意識していきたいというのはありますね。
そのうえで、さっき話した“プレイとパフォーマンスをどう組み合わせていくのか”ということを頭に入れながら、ライブにアプローチしていくギタリストになりたいなと思っています。
作品データ
『the GazettE 20TH ANNIVERSARY BEST ALBUM HETERODOXY -DIVIDED 3 CONCEPTS-』
the GazettE
ソニー/SRCL-12274〜6/2022年12月21日リリース
―Track List―
【DISC1 SINGLES】
- Cassis
- REGRET
- Filth in the beauty
- Hyena
- 紅蓮
- LEECH
- DISTRESS AND COMA
- BEFORE I DECAY
- SHIVER
- Red
- PLEDGE
- VORTEX
- REMEMBER THE URGE
- FADELESS
- UGLY
- UNDYING
【DISC2 ABYSS】
- 奈落
- Bath Room
- DRIPPING INSANITY
- BIZARRE
- 虚無の終わり 箱詰めの黙示
- WASTELAND
- 痴情
- QUIET
- GODDESS
- RUTHLESS DEED
- BABYLON’S TABOO
- DOGMA
- 千鶴
- OMINOUS
- DIM SCENE
【DISC3 LUCY】
- RAGE
- NINTH ODD SMELL
- Maggots
- 裏切る舌
- LUCY
- VENOMOUS SPIDER’S WEB
- GABRIEL ON THE GALLOWS
- DAWN
- TWO OF A KIND
- ATTITUDE
- VERMIN
- OGRE
- HEADACHE MAN
- ABHOR GOD
- BLEMISH
- TOMORROW NEVER DIES
―Guitarists―
麗、葵