2022年にソロ活動10周年を迎えた藤巻亮太が、2023年1月25日に5年ぶりとなるニュー・アルバム『Sunshine』を完成させた。レコーディングに参加したメンバーとのセッションをベースに作られたという1枚で、表情豊かなサウンドで彩られた“ギター・アルバム”に仕上がっている。この注目の新作について、楽曲制作へ込めた想いや、ギター・プレイへのこだわりなどを語ってもらった。
取材・文:尾藤雅哉(ソウ・スウィート・パブリッシング)
昔から自分を癒すために曲を作っていたように思います
2022年でソロ活動10周年を迎えました。振り返ってみて、どのような10年でしたか?
1枚目の『オオカミ青年』(2012年)を作った時は、レミオロメンの中で消化しきれなかった“精神的に吐き出したいもの”を表現したいという初期衝動があったんですけど……作品が完成して、それが成就してしまった時に、今度は“自分はソロとして何を表現したいんだろう?”という模索が始まって。そこで“レミオとは違う表現”を求めた時期もあって、自分がレミオとソロの活動に線を引いてしまったことに苦しんでいた時期もあったんです。
でも、2枚目の『日日是好日』(2016年)を作った時に、自分がやってきたことはすべて地続きなんだなってことに気づくことができて……そこで気持ちがすごく楽になりましたね。それからは“自分なりのポップスを素直に表現していこう”って気持ちになりました。
なので今回の作品は、10年間、ソロとして経験を重ねてきた今でなければ完成させることができなかったアルバムに仕上がったと思います。
今作『Sunshine』は、表情豊かなギター・フレーズで彩られた作品だと感じました。曲はどのように作り込んでいったのですか?
今回の作品に入っている曲のほとんどは、レコーディングに参加してもらったバンド・メンバーとセッションをくり返しながら作り込んでいきました。
リズムとベースとコード・バッキングで土台を作り、そこから僕のギター・タイムが始まるんですけど、エンジニアの桑野(貴充)君と相談しながら色んなパターンを試しつつ、アレンジを練り上げていきました。
フレーズに関しては、思いついたアイディアを片っ端から試してみて、一番面白そうなものを採用していった感じですね。
1曲目の「この道どんな道」は、“前を向いていこう!”という思いが込められたアルバムを象徴するナンバーですね。
たしかに前向きなマインドで作ったアルバムだと思います。コロナだったり、音楽シーンを取り巻く時代の流れや変化など、色々と不安になる要素はありましたけど、曲を作ることで自分を曇らせているものを晴らしていくような感覚があって。
それは初めて曲を作った10代の頃から変わっていないところです。自分の気持ちを音楽として表現することで、自分なりに腑に落ちて、生き方が少し楽になったり……昔から自分を癒すために曲を作っていたところがあったように思います。自分の原点には間違いなくそういう景色がありました。
歳を重ねていくごとに、曲作りを通じて自分自身も勇気をもらったりすることも多いので、今回もそういう経験を曲にして、1つのアルバムとして完成させようと思っていました。その中でも「この道どんな道」は、自分を鼓舞しながら作った曲なんです。
完成した楽曲を聴いたみなさんにどのように感じてもらえるかはわかりませんが、僕なりの“前向きな感情”を色々と詰め込んで作りました。
「Sunshine」は、メカニカルなフレーズやスライド・ギター、マンドリンのフレーズなどが耳に残るナンバーですね。
パッと頭の中に思い浮かんだフレーズを重ねていったんですけど、サビに関しては“メロディに対してどんなフレーズが合うか?”ということを考えながらレコーディングしました。思いつきでマンドリンを入れてみたら、青い爽やかさと切なさが出せたので、マンドリン特有のサウンドを効果的に入れられたように感じています。
あと「Sunshine」のバッキング・パートは、エレキとアコギのどちらを使うかで悩んでいたんです。エレキで弾いたパターンは、迫力のあるロックなサウンドになったんですけど、隙間のあるアンサンブルのほうが、タイトルのように“光が射し込む”感じが出ている気がしたので、最終的にアコギのバージョンを採用しました。
「千変万化」は、ファンキーなカッティングが楽曲をリードするグルーヴィなナンバーです。藤巻さんが今まであまりやってこなかったアプローチのように感じました。
たしかにあまりやってこなかったプレイですよね。こういう16ビートで刻んでいくようなフレーズは、自分の中でも新たなチャレンジでした。サビではずっとワウを踏んでいるんですけど、こういうアプローチも今までになかったので、自分でも“エモいな”と思いながらダビングしていましたね。
リズム・ギターがほんの少しクイ気味に鳴らされているのも、グルーヴを出すためのポイントなのかなと。
僕のリズムが、けっこう突っ込み気味なんですよ。“切り込み隊長”的に行っちゃう部分があるかもしれません(笑)。
ワウを使ったフレージングも存在感を放っていますが、どのようなことを意識して弾きましたか?
ワウに関しては、歌のメロディに対してペダルをゆっくりと踏み込みながら弾きました。どちらかというとフェイザーみたいな使い方に近いかもしれませんね。
自分の中にある価値観が“揺れる”ことを大事にしています
「Heroes」で聴くことができるメカニカルな速弾きのアイディアは、どのように生まれたのですか?
頭の中で鳴っている音を落とし込もうとしたんですけど……フレーズが速すぎて弾けなかったんです(苦笑)。なので、スタジオでは半分のテンポで弾いて、それを倍速にしました。
フレーズが聴こえてしまったから、どうしても入れたくて……言わばレコーディング・マジックですね。あの速弾きフレーズが入っていることで、“まともじゃない感じ”が出ていいなって感じています。
なるほど。今回のアルバムを聴いて、全体的に曲のフックになる短くて強いフレーズが、随所に散りばめられていると思いました。
そう言っていただけると嬉しいです。「Heroes」に関しては、イントロもけっこう難しくて。ライブでは、サポートのギタリストに入ってもらう予定なんですけど、曲の文脈の中で自分がソロを取る場面ではしっかりと演奏しつつ、パートなどをふり分けながら演奏しようと思っています。
今作の使用機材について教えて下さい。
ギブソンのレス・ポール・ゴールドトップ(1954年製)と白テレ(1962年製フェンダー・テレキャスター)がメインでした。ほかにはリッケンバッカーの12弦モデルやフェンダーカスタムショップ製のストラトキャスター、1966年製のムスタングなども使いました。
アコギはマーティンのD-18やギブソンJ-45を中心に、「裸のOh Summer」ではGiffinの12弦ギターを使っています。
アンプは、Blankenshipとレミオの頃からずっと使っているマッチレスのDC-30ですね。
今の藤巻さんにとってギターはどういう存在ですか?
“相棒”という表現が一番近いかもしれないです。何かを探しに行く時も、何かを届けに行く時も一緒にいてくれる。この2つがミュージシャンにとってすべてだと思うんです。たしかに道具ではあるんですけど、もっと身近で親密な、本当に切っても切り離せない存在のように感じています。
改めてアルバム制作を終えて、一言お願いします。
バンド・サウンドを基調にしたポップな作品を目指していたんですけど、かなりギター・ロックなアルバムになりました。
僕がソロになってからは、誰かと出会ったり、何か違う社会に触れることで、自分の中にある価値観が“揺れる”ことを大事にしていて。それが凄く楽しかったり、苦しかったりするんですけど、その揺れ幅の中で見つかるものを大切にしようと思いながら曲を作ってきたんです。
そして本作でも、そういう“揺れた”自分を誠実に作品の中に落とし込みたいと思っていました。ただ単純に明るいだけのアルバムでもないので、ギター・サウンドも含めて、その“揺れ幅”をじっくりと味わっていただけたら嬉しいです。
LIVE INFORMATION
藤巻亮太 Live Tour 2023 「Sunshine」
- 2月25日(土)/東京・I’M A SHOW
- 2月26日(日)/東京・I’M A SHOW
- 3月3日(金)/宮城・仙台Rensa
- 3月5日(日)/福岡・DRUM LOGOS
- 3月10日(金)/愛知・新栄シャングリラ
- 3月11日(土)/広島・CLUB QUATTRO
- 3月19日(日)/大阪・umeda TRAD
- 3月21日(火・祝)/山梨・甲府CONVICTION
- 3月22日(水)/山梨・甲府CONVICTION
※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や公演詳細は藤巻亮太の公式HPをチェック!
藤巻亮太 公式HP
https://www.fujimakiryota.com
作品データ
『Sunshine』
藤巻亮太
スピードスター/VICL-65771/2023年01月25日リリース
―Track List―
- この道どんな道
- Sunshine
- 裸のOh Summer
- 僕らの街
- まほろば
- ゆけ
- オウエン歌
- 千変万化
- Heroes(Album ver.)
- サヨナラ花束
- 花びらのメロディー
- 大地の歌
―Guitarist―
藤巻亮太