追悼 鮎川誠 日本最高のロックンロール・ギタリスト 追悼 鮎川誠 日本最高のロックンロール・ギタリスト

追悼 鮎川誠 
日本最高のロックンロール・ギタリスト

生涯現役でロックンロールの道をひた走ってきた日本のレジェンド、鮎川誠。世界で最も黒いレス・ポール・カスタムが似合う男が、2023年1月29日にこの世を去った。74歳だった。エレキ・ギターの楽しさやロックンロールのカッコ良さを、世代を超えて広く伝えてくれた恩人に感謝の意を込め、ここに追悼記事をお送りする。彼が残してくれた音楽を聴きながら、鮎川誠というギタリストの偉大なる歩みをたどっていこう。

文=川上啓之 Photo by Kenji Oyama

生粋のギター・フリークが愛し続けた1本

日本最高のロックンロール・ギタリスト、鮎川誠が1月29日、逝去した。没年74歳、膵臓がんだった。

昨年5月に病気が発覚し、余命5ヵ月と宣告されながら、“皆に心配をかけず、一本でも多くライブを演りたい”とそれを公表せず、ぎりぎりまでステージに立ち続けた。

2月4日に行なわれた“ロック葬”には4000人もの関係者・ファンが参列したという。会場には鮎川が愛用したギターやアンプが陳列され、彼が1970年のサンハウス結成以来愛用し続けてきた、69年製のギブソン・レス・ポール・カスタムも置かれていた。元は鮎川の友人でブロークダウン・エンジンというバンドのギタリスト、津和野勝好が購入したものだが、鮎川が事あるごとに借り、シーナ&ザ・ロケッツを結成した頃に正式に譲り受けたものとのことだ。

長年に渡って使い込まれ、ブラックの塗装があちこち剥げ、激しいピッキングにより木部に至るまで削れるほど弾き込まれたこのギターを、鮎川のトレードマークとして記憶している人も多いだろう。ネック裏の塗装は全体的に剥がれているだけでなく、木が指の形のように凹んでいる。

40年以上に渡り1本のギターにこだわり続け愛用し続けてきた例は海外にもなく、鮎川のイメージによりブラックのレス・ポール・カスタムにロックンロール・ギターという印象を抱く人も少なくないはずだ。このレス・ポール・カスタムをマーシャル1987につないでドライブさせるというシンプルなスタイルが、長年にわたって鮎川がこだわり続けた流儀だ。

69年製のレス・ポール・カスタムの印象があまりにも強いが、鮎川は微妙に仕様の異なる68年製のものや56年製のビンテージでP-90ピックアップが搭載されたものなど、複数のレス・ポール・カスタムを所有していた。

ほかにもサンハウス時代に手に入れた68年製のフェンダー・ストラトキャスターやテレキャスター・デラックス、ギブソンSGカスタムやセミアコのレス・ポール・シグネチャーやES-345、フライングVなど数十本のギターを所有するギター・フリークだった。

誰からも愛されたシンプルで深みのあるプレイ・スタイル

1970年に鮎川が博多にて結成したサンハウスは、ブルース・シンガーからバンド名を取っているとおり、ブルースをルーツに持つロックンロールをプレイ。1975年にはアルバム『有頂天』でメジャー・デビューを果たすも1978年に解散した。

同年、鮎川は妻のシーナとともにシーナ&ザ・ロケッツを結成、活動拠点を東京に移し、シングル「涙のハイウェイ」でデビューした。1979年リリースの2ndアルバム『真空パック』は、イエロー・マジック・オーケストラのメンバーがバックアップし、シングル「ユー・メイ・ドリーム」がヒットした。鮎川はYMOのアルバムやライブにもゲスト参加し、これらの活動によりオーバーグラウンドな知名度を得るに至った。

アメリカ人とのハーフという由来から長身でルックスも良く、黒縁メガネやサングラスをトレードマークとした凛とした佇まいは、まさにロックンローラーという絵になるカッコよさがあった。パンクやサイケデリックなど幅広いロックだけでなく、ブルースやR&Bなどルーツ・ミュージックにも深い造詣を持つ鮎川のギター・プレイは、奇を衒わないシンプルなスタイルながらも懐の広い渋みやエモーショナルで肉感的な響きがあった。

海外のアーティストとの共演も多く、特に来日のたびに共演したりバックアップしていたウィルコ・ジョンソンとは盟友と呼ぶにふさわしい深い関係があった。

2015年には愛妻シーナが病により逝去するも、鮎川がボーカルも務めるトリオ編成でシーナ&ロケッツとしての活動を止めることなく続け、2019年からは鮎川とシーナの三女であるLUCYが正式なボーカリストとして参加していた。

途切れることなく活動を続け、フェスやイベントにも積極的に参加していたこともあり、世代を超えた数多くのギタリストから敬意を評されるミュージシャンズ・ミュージシャンと呼べる存在だった。

今後も伝説として語られるギタリストだ。

ギター・マガジン2023年5月号表紙

ギター・マガジン2023年5月号
『追悼 鮎川誠』
2023年4月13日(木)発売