ギタリスト、秋間経夫(AKIMA&NEOS)によるエフェクター自作の入門書『はじめてのオリジナル・エフェクター&ミニ・アンプ製作【新装版】』がこのたび発売された。プロからの信頼も厚いアキマ・クオリティのエフェクターを、誰でも簡単に作れる1冊となっている。またミニ・アンプやシールド自作記事も掲載しているため、本書があればギター周辺のベーシックな機材なら作れてしまうのである! 本書に込めた思いを、著者である秋間に語ってもらおう。
取材:菊池真平
エフェクター作りの基礎力が身に付く本にしようと思いました。
本書は2014年発売の『はじめてのオリジナル・エフェクター&ミニ・アンプ製作』の新装版となります。当時この本を書いた際、エフェクターを自作する人の状況はどうでしたか?
『はじめてのオリジナル・エフェクター&ミニ・アンプ製作【新装版】』
秋間 経夫(著)
おそらく、少しずつエフェクターを自作する人が増えていたような時代だったと思います。この本にも協力してもらった、秋葉原にあるパーツ屋さん“千石電商”もエフェクター作りの道具を増やしていて、エフェクターを自作するためのパーツを取り扱うお店も増えてきた頃だったと思いますね。
この本はエフェクター自作の初心者に向けた内容ですが、そこに焦点を当てた理由は?
この本を出した当時、すでに色々な版元からエフェクターの製作本が出ていたと思います。そのほとんどが“プリント基板”を作ってエフェクターを製作する内容でした。すでにレイアウトが決まっているプリント基板を作ることから始まって、そこにパーツを付けて完成させる流れだったと思います。
で、その作り方も楽しいと思うんですが、それだとプリント基板のレイアウトどおりにしかできないんですよ。少し乱暴な言い方をすれば、レトルトを買ってきてカレーを作る感覚に近くて、それ以上の応用は難しいんです。その本でエフェクター作りの楽しみを知ることはできても、自分でエフェクターを作るノウハウの蓄積にはなりづらいと思います。
それだと広がりがないなと感じて、“ユニバーサル基板”で作るエフェクターを掲載することで、エフェクター作りの基礎力が身に付く本にしようと思いました。
ユニバーサル基板にこだわった理由をもう少し詳しく聞いてもいいですか?
ユニバーサル基板の場合、回路図を見ながら基板上にパーツを配置し、配線して作る必要があるんですよね。このやり方でエフェクターを作り続けると、“この回路がこうなっている”とか、何となくの“ノリ”がわかっていくんです。そうすれば、回路図からユニバーサル基板を使ってエフェクターを作るノウハウが身につくし、回路図の読み取りも自然に身に付いていくはず。
で、そこまでたどりつければ、ウェブ上にたくさんアップされているエフェクターの回路図を見れるわけだから、パーツを集めて昔の名機を再現できるんです。既存のエフェクターをモディファイすることもできるし、とにかく力が付きます。せっかくエフェクターの自作を始めるんだから、その感覚が身に付いてほしいと思って、この本を書かせてもらいましたね。
なるほど。応用力が付く内容になっているということですね。
そうです。エフェクターは、回路が簡単なものから難しいものまで千差万別なので、自作に向き不向きがあるんですけどね。例えばデジタル・ディレイとかは、自作には不向きです。予算も必要だし、回路も複雑だから、それは購入したほうがいい。
反対に、自作に向いているのは歪みペダル。簡単にできるし、回路もアレンジしやすいし、メーカー品とは違った個性が出しやすいんです。歪みペダルって、最近ビビるぐらい高いのが多いじゃないですか(笑)? あんなお金を払わなくても、安く作れたりするんです。そういう理由もあって、この本は歪みエフェクターが中心となっています。
本書に載っているペダルのサウンド的なクオリティに関してはどうですか?
掲載しているものは、普通に“おっ、これいいじゃん!”と思ってもらえるはずですね。自分が使いたいと思うエフェクターしか掲載していないので、そこは安心して下さい。中にはメーカーでも作っていないような、特別なエフェクターも紹介していますよ。
でも、僕が作った本だから“AKIMA&NEOSで売っているようなマル秘のエフェクターを作れるレシピが書いてあるのか!”と勘違いされる方がいますが、それはないです。自分が売っているエフェクターの回路を掲載したら、売れなくなっちゃうから(笑)。
本の中で紹介しているエフェクターで、特にオススメはありますか?
例えばDyna Bend(ファズ)だとか、Treble Booster。これは簡単なほうですが、作ってみると“使えるエフェクターだ”と感じてもらえるはず。Dyna Bendは、あえてシリコン・トランジスタを使っています。耐久性のあるパーツなので、失敗してハンダ付けをやり直しても、あまり壊れることがないからです。ゲルマニウム・トランジスタは弱いので使っていません。でも音が好まれているのはゲルマニウム・トランジスタなので、製作に慣れてきたら変更しても面白いと思いますよ。
ビンテージ系が好きな人は絶対に自作がオススメ。
ギターの教則本は最初から読み進めていくタイプも多いですが、この本もそれと同じように、最初に掲載されたA/Bボックスから作ったほうが良いですか?
ハンダ付けをしたことがない読者を対象にしているので、なるべく難易度の低いエフェクターから紹介して、だんだんと難しくなっていく構成にしています。だから初心者の方は、順番に作っていくことがオススメですね。慣れている方は、興味があるエフェクターから挑戦して下さい。
エフェクターを自作する際は、電気に関する知識は必要ですか?
ないです。当たり前ですけど、ギターを弾く人が全員、音大出てるわけではないでしょ? 楽譜を読めない人も多いですよね。それとまったく同じ。電気的な基礎知識は、エフェクターの自作では必要ないですね。作っていくと、必要な知識は徐々に身に付いていくと思います。例えば、この回路やパーツがどんな役割かなと疑問に思ったら、そこだけウェブなどで調べていけば十分です。
エフェクターを自作する面白さはどんな点ですか?
エフェクターの自作は、料理に似た感覚です。パーツを自分で集めて、自作したエフェクターって、音が鳴った瞬間の感激が凄まじいわけですよ。ぜひ、それを味わってほしいですね。
エフェクターを買って弾くことも楽しいですが、作ることも同じくらい面白い。自分も高校生の時にエフェクターの製作記事を雑誌で読んで、それで試しに作ってみたらハマっちゃって。今に至る第1歩は、まさにそこでしたね。
自分が凄く楽しい思いをしたから、今でもエフェクターとかアンプを作っている。これを読んでくれた人の中にも、同じ気持ちになる方がいれば嬉しいですね。
現在はエフェクター・ブランドが増え、安くてクオリティが高いものもたくさん売られています。そんな中、あえて自作をするメリットは?
現在は凄く複雑なエフェクターでも、自分たちが若い頃には考えられないほど、安くてクオリティの高い製品が売られていますね。自分で作っちゃうとコストも高くなって、クオリティが低くなるエフェクターもたくさんあって、そういうのはメーカー品を買うほうが絶対に良い。
それとは逆に、古い時代に作られたトーン・ベンダー系とかは、希少価値の高いパーツを使っていたりしますが、回路はとてもシンプルなんです。だから、そういうビンテージ系が好きな人は絶対に自作がオススメですよ。シンプルだからこそパーツ1つ1つの影響が音に表われやすくて楽しいし、自作には特に向いているので。
今、ビンテージ機材は驚くほど高騰していて、本物を購入するのは困難ですよね。でも近いニュアンスのエフェクターは、自作すれば数千円で作れるんです。そこが大きなメリット。パーツのセレクトによっては、当時のビンテージより自分好みのエフェクターができる可能性だってあります。
今回の新装改訂版で、変更した点は?
新たにページを追加したりはしてないんですが、“もう少しここを変えれば良くなる”という部分を少しだけ変更しています。中には、使っているパーツが絶版になっているかと思って全部調べましたが、基本的には今でも購入できるパーツだけだったので、パーツも変えてないですね。
秋間さんは『ギター・アンプの真実』という本も出版していて、アンプがギターの音の大部分を決めると書いていますね。そんな秋間さんにとってのエフェクターの重要性とは?
『ギター・アンプの真実 エレキ・ギターの音色の90%以上はアンプで決まる』
アキマ ツネオ(著)
エフェクターは、ギターの音に対する調味料的な役割が基本だと思います。でも時には、エフェクターが音作りの肝になることもありますよね。例えばトレブル・ブースターは、エフェクター特有の“クセ”が大切で、それが音作りに大きな個性を与えます。
アンプはある程度のクオリティが必要ですが、曲の雰囲気を出すためにはエフェクターの“クセ”が大きな役割を果たすことがあります。だから基本的には音作りの脇役ですが、主役にもなり得るのがエフェクターの魅力です。
では最後に、この本に興味がある方にメッセージをいただけますか?
この本をきっかけに、ぜひエフェクター作りにチャレンジしてほしいと思っています。エフェクター作りはチームワークが必要ないので、自分のペースで1人でできることも魅力です。
それにハンダ付けって、作る回数を重ねていけば上手くなっていくんです。その成長も楽しい。ハンダ付けができるようになると、シールド・ケーブルが断線した時も、すぐに直せるようになるはずです。それにピックアップ交換とか、アッセンブリを修理することもできるようにもなって、ギター人生がきっと有利になるはずです。
だから興味がある人は、この本を足がかりにエフェクター作りを始めて、この本がきっかけになって、エフェクター作りを仕事にする人が出てきてくれたら嬉しいですね。誰にでも平等にチャンスはありますので、ぜひ女性にもチャレンジしてほしい。自作のエフェクターを鳴らした瞬間、きっと大きな喜びが得られますよ!
『はじめてのオリジナル・エフェクター&ミニ・アンプ製作【新装版】』
秋間 経夫(著)
発行 | リットーミュージック |
品種 | 書籍 |
仕様 | B5変形判 / 128ページ |
発売日 | 2023.02.17 |
ISBN | 9784845638611 |