アイルランド、ダブリン出身の次世代ポスト・パンク・バンド=フォンテインズD.C.が、待望の初来日公演を開催。カルロス・オコンネル(g)とコナー・カーレイ(g)の無骨で硬派なツイン・ギターが魅力だが、カルロスは諸事情によりこの来日公演には不参加だった。そのため、今回はコナーのみの登場。2023年2月18日の渋谷Spotify O-EAST公演で使用した機材について詳しく聞かせてもらった。ライブで使用した愛器5本を、本人のコメントと合わせてご紹介しよう。
文/質問作成=伊藤雅景 インタビュー/翻訳=トミー・モリー ライブ写真=古渓一道 ギター写真=星野俊
Fender/1966 CORONADO Ⅱ
発売初年度の貴重なビンテージ・コロナドII
来日公演で最も出番の多かった、1966年製のフェンダー・コロナドII。ビンテージのホロウ・ギターらしい軽やかで暖かなサウンドが特徴の1本だが、コナーはアンプのEQでトレブルをブーストさせ、アタック感の強いサウンドを作っている。ピックアップはオリジナルのディアルモンド(DeArmond)製。しかし、リア・ポジションの配線に不具合があり、ネック or センター・ポジションのみを使用しているとのこと。また、ピッキング時の弦落ちを防ぐため、ブリッジ・サドルをムスタング用のパーツに交換している。
Conor’s Comment
このギターは『A Hero’s Death』(2020年)の制作前に、ダブリンにあるビンテージ・ギターをたくさん扱ってる楽器屋(サム・ネック・ギターズ)で買ったものだね。これは俺が所有するビンテージ・ギターの中で、唯一“実践的に使えるギター”だと思ってる。
ブライアン・ジョーンズタウン・マサカー(編注:ブライアン・ジョーンズタウン・マサカーのアントン・ニューカム/vo,gが愛用するギターもセミアコで、VOXのウルトラソニックなどを使用)のファンだからっていう理由でこのモデルを選んだというのもあるけど、このギターは弾いているだけで不思議とインスパイアされるものがあるんだ。
コロナドでプレイしてる人があまりいない理由は、とにかくハウりやすいってところにあると思うけど、俺はそれも含めて魅力だと思っているよ。
Fender/Johnny Marr Signature Jaguar
ジョニー・マー本人から贈呈されたジャガー
2019年頃にジョニー・マーから譲り受けたというジャガー。ピックガードをオリジナルのホワイトから鼈甲柄に交換してあるのがポイント。コナーはこの改造点について、“ザ・バースデイ・パーティーのローランド・ハワードに憧れて付けたんだ”と語っていた。チューニングはスタンダードで、弦はアーニーボールのBurly Slinky(.011-.052)を使用。また、上記のコロナド用にアンプをトレブリーなセッティングにしているため、ブライトな音色が鳴る本器のリア・ピックアップはほとんど使用しないとのこと。
Conor’s Comment
数年前まで俺とカルロス(オコンネル)は、それぞれギターを1本だけしかツアーに持って行っていなくて、スペアのギターがないことが多かったんだ。
その時期に、フェスで幸運にもジョニー・マーに会う機会があって、“何か必要な機材があったら電話をくれ”って言ってくれてさ。
そして、彼とグラストンベリー・フェスティバルで共演するタイミングで、“ギターを貸してもらえないか?”と相談したら、ジョニーがこのシグネチャー・モデルを送ってきてくれたんだ。
プレイした瞬間に、それまで弾いてきたギターの中でベストなものだとすぐにわかったよ。それから俺とカルロスはフェンダーのギターのキャンペーンを手伝うようになったんだ(笑)。
Fender/American Vintage II 1966 Jazzmaster
深いディストーションにはコイツ! 最先端の“アメビン2”
2022年10月にフェンダーが発表した“アメリカン・ビンテージ2シリーズ”の、66年製ジャズマスターをリイシューしたモデル。ライブの1曲目を飾った「In ár gCroíthe go deo」や、新作『スキンティ・フィア』の表題曲などで登場した。コナー曰く“このギターはダイナソーJr.のJ・マスキスを彷彿させるサウンドが気に入っている”とのこと。チューニングはスタンダードにセッティングしており、ピックアップはリア・ポジション以外を楽曲によって適宜セレクトし使用している。
Conor’s Comment
このジャズマスターは、俺が持ってるほかのギターにはない“ローエンド”を持っているギターだね。
例えば、ジャガーやコロナドはサウンドのキャラクターは強いけど、どこかローファイでレンジが狭くて、ディストーションが強めの曲をプレイするとなるとあまり向いていないんだ。特にコロナドはサステインがないから、どうしても深い歪みをかけられなくてね。
あと、トレモロアームで音を揺らしながらギターをかき鳴らすようなプレイが好きだから、ライブではアーミングをしょっちゅうやってるよ。特にリズム・ギターを弾く時にやることが多いかな。そういったピッチのゆらぎから生まれるトーンって、息遣いを感じるようなニュアンスに聴こえて面白いからさ。
Framus Guitars/Parlor Archtop Model
バンド結成前に手に入れたビンテージ・アーチトップ
ドイツのギター・ブランド=フラマス・ギターズ(Framus Guitars)が手掛けたパーラー・サイズのアーチトップ・ギター。おそらく60年代後半〜70年代前半に生産された5/51 Studioと思われる。シャーラー製3280 floating Jazz Pickupをあと付けしており、テイルピースにアース線がくくり付けられている。コナーは本器をフェンダーのTwin Reverbで鳴らしており、ライブでは「How Cold Love Is」で金属的なクランチ・サウンドを奏でていた。
Conor’s Comment
フォンテインズD.C.を本格的に始める前に、バンド活動から距離を置こうとしてドイツのベルリンに住んでいた時期があったんだ。
その時期に、現地の店で全財産を叩いてコイツを買って、ストリートに充電式のアンプを持っていって、よくジャズっぽいものをプレイしていたんだ。当時はあまりジャズを知らなかったから、あくまで“ジャズ風”な感じだったけどね(笑)。
それからバンドでもずっと使っているんだけど、シンプルなプレイをする時は、このギターじゃないと得られないサウンドがあるんだ。フラマスのギターってどこのスタジオにも置いてあるようなイメージなんだけど、どれを弾いても不思議とグッドなサウンドなんだよね。
Seagull/Artist Studio Burst 12 String
ライブ用に導入したカナダ産の12弦ギター
コナーが“ピッチが良い12弦ギターを探して購入した”という12弦アコギで、カナダのゴダン・カンパニーが展開するシーガル・ブランドのハイグレード・モデル。同社の特徴的な形状のヘッド(テーパード・ヘッドストック)は、弦がナットからペグ・ポストへ向かう角度が小さく、ピッチがずれにくいというメリットがある。ライブでは「Jackie Down the Line」で使用していた。また、購入時にはゴダン製のQuantam IIピックアップが搭載されていたが、現在はエル・アール・バッグス製M80に換装されているのがポイント。
Conor’s Comment
新作『スキンティ・フィア』では、俺が「Jackie Down The Line」、カルロスが「Roman Holiday」をそれぞれ12弦ギターでプレイしていた。その時はまだこのアコギを持っていなくて、スタジオで友人から借りたギターで録っていたんだ。
俺の中で、12弦ギターは“高いポジションでピッチが合わなくなる”っていう印象があったんだけど、借りたギターはピッチがバッチリで驚いたのを覚えている。
そのレコーディングが終わったあと、ロンドンのデンマーク・ストリートに出向いて、ライブでプレイできるクオリティの12弦を探しにいったんだ。そこで買ったのがコイツだね。ちなみに、カルロスはマーティンのモデルを買っていたよ。
作品データ
『スキンティ・フィア』
フォンテインズD.C.
ビッグ・ナッシング/PTKF3016-2J/2022年4月22日リリース
―Track List―
- In ár gCroíthe go deo
- Big Shot
- How Cold Love Is
- Jackie Down The Line
- Bloomsday
- Roman Holiday
- The Couple Across The Way
- Skinty Fia
- I Love You
- Nabokov
―Guitarists―
コナー・カーレイ、カルロス・オコンネル