ロック・バンドPERSONZのギタリストである本田毅が、約4年ぶりとなる2ndソロ・アルバム『Effectric Guitar II』を発表した。1994年に発表された幻のソロ曲や、The RoodysのK-Joe Akimura(vo)とのコラボレーション曲なども含まれた本作は、エフェクティブなギター・サウンドが印象的な作品になっている。レコーディングを終えた本田毅に、アルバムの制作をふり返ってもらった。
取材・文:白鳥純一(ソウ・スウィート・パブリッシング) 写真:moo
好きなものばかりを集めて作るソロ作品は、どうしても僕の色が濃くなりますよね
『Effectric Guitar Ⅱ』は4年ぶりとなるソロ・アルバムですが、作品制作はどのように進められたんですか?
2019年に1stソロ・アルバム『Effectric Guitar』を発表して、翌年はソロ・ライブをやっていたので、“早く次の作品を作りたい”という気持ちはそこまで強くなかったんです。だけど、コロナ禍でおのずとギターを弾く時間が増えたこともあり、自然な流れで制作を始めました。それが2020年の終わり頃ですね。
アルバム制作においてテーマはありましたか?
ギター・サウンド的には、初期衝動をそのまま形にしたようなところがあって。ソロ作品なんだけど、バンドで作るようなグルーヴを意識しながら、“昔の自分が好きだったような音を出してみよう”というところをイメージして、曲を作り上げていきました。
“昔の自分が好きだった音”を作るにあたり、具体的にイメージされたジャンルやバンドはありますか?
僕が一番多感だった頃に影響を受けたニュー・ウェイヴやパンク、そこから派生したニュー・ロマンティクスですかね。メジャーなところだと、デュラン・デュランやABC、ニュー・オーダーのようなサウンドを意識しました。
PERSONZにおける曲作りとの違いはありましたか?
バンドの時は、個々の魅力を引き出しながらバンドで1つの表現にまとめていく方向に意識が向くんですけど、ソロ作品は自分が好きなものばかりを集めて作るから、どうしても僕の色が濃くなりますね。
1stアルバムの『Effectric Guitar』から大きく変化したところはありますか?
『Effectric Guitar』は僕にとって初めてのソロ・アルバムだったので、とにかく色々な音を詰め込んでいて、全体的に散らかっているところもあったように感じていますが、今回はより自分らしいサウンドを作品に反映できたのではないかなと思います。
本田さんが、本気で曲作りを楽しんでいる作品だと感じました。
そうだと思います。僕はバンドのギタリストでもあるので、曲の中で一番目立つイントロとギター・ソロに、長年命をかけてきたんです。だから、その感じはなかなか抜けなくて。まずは良いリフを作り、そのあとにコードや、何か個性のあるフレーズや音色を作っていく。それができてしまえば、“大体、できたな”っていうくらいの感じで。
ニュー・ウェイヴや、YMOのような雰囲気を出したかった
アルバムは異国情緒漂う雰囲気の「KUNG FU GIRL」で幕を開けます。この曲はどういうイメージで作りましたか?
最初にコード進行から曲を作ったんですが、先ほど話したニュー・ウェイヴ系のサウンドや、YMOのような雰囲気を出してみたいと思っていました。
2曲目の「OUROBOROS」も、独特な音階のフレーズから始まりますね。
自分の弾いた音が途中でフリーズしたり、ランダムにディレイがかかるエフェクターを手に入れたところから曲作りが始まりました。“どうすれば曲が面白くなるか?”を考えながら、変拍子のリフなどを加えました。自分でも好きなタイプの曲に仕上がったと思います。
ギター・フレーズが何層にも重なり合う「Tapestry」は、短めの曲でありながらも、アルバムの中でアクセントになっています。
ライブではルーパーでフレーズを重ねていくんですけど、そのまま録音してしまうと物凄く長くなってしまうので、エディットして短めの曲に仕上げました。最初にできたフレーズに、面白そうだなと感じた音を積み重ねて完成にいたった曲です。
「PRAY UNDER RAYS」は、ノリの良い軽快なカッティングが耳の残るナンバーです。
この曲は、ライブでファンの皆さんと一緒に楽しめる曲にすることをイメージしながら作っていきました。
この曲のように、1~2弦を開放しながらカッティングを弾くことが多いと聞いたことがあるのですが、何か狙いがあるのでしょうか?
これはシンプルに僕の手が小さくて、指が短いことが理由です(笑)。PERSONZを始めた頃からずっと、Fのように人差指を伸ばしたフォームで弾くコードとかも、ネックを握り込むようなフォームで弾くようにしていて。開放弦をステイさせてコードを鳴らすようなプレイ・スタイルに自然となっていったんです。
「SCARECROW」は1994年に発表された曲ですね。当時とサウンド面での違いはありますか?
この曲は、もともとは教則ビデオの中の1曲だったんですよ。当時はクリーンなサウンドで録っていたんですけど、今回はもう少しクランチ寄りのトーンで、存在感の強い音を出したいと思っていて。そこが当時との大きな違いかもしれません。
「PLL」のギターは、ワン・テイクで録音されたとのことですが、その理由を聞かせて下さい。
通常はセクションごとに分けて録ることが多いんですけど、音が変わり続けるフィルター・エフェクターを使っていたので、頭から最後まで1曲を通して録らないと、音色のつながりがなくなってしまうんです。
結局、この音を活かすために一気に録音したら、そのトラックが一番良かったという感じですかね。ライブのような録り方をするのは初めてでしたけど、ギター・ソロの音やちょっとしたノイズも含めて、“面白い音が録れたな”と思います。
どんなエフェクターを使ったんですか??
Mantic EffectsのFlex ProとEarthQuaker DevicesのData Corrupterの2種類を使いました。いずれもフィルター・エフェクターで、ギターの音に尾ヒレが付いたような感じの独特なサウンドが特徴です。
K-JOE AKIMURA(以下、AKIMURA)さんがボーカルを務めた「CASE OF TEARS(feat. K-JOE ver.)」では、どのようなやり取りがありましたか?
ニュー・ウェイヴ的なコード感と、ディレイをたくさん使うことを意識して作った曲なんですけど、AKIMURA君にイメージを伝えたら、それを膨らませて歌詞とメロディを作ってきてくれて。もともと歌を入れるイメージはなかったんですけど、AKIMURA君に歌を乗せてもらったら、それが僕にとってとても新鮮に感じたんです。
そこから2人で“ブライアン・フェリーや、ロキシー・ミュージックみたいな雰囲気があるよね”なんてイメージを共有しつつ、セッションするような感じで仕上げていきました。アルバムには原曲となったインスト・バージョンも収録しているので、ぜひ聴き比べてみてほしいですね。
中盤のギター・ソロは、どのようなイメージで作りましたか?
曲の流れに任せながら、その瞬間のインスピレーションのままに弾きました。僕の一番好きな攻め方ですね。この曲では、Kz Guitar Works(以下、Kz Guitar)のKz Oneというギターを使っていて。独特な鳴り方をするセミ・ホロウ仕様のギターなんですが、トレモロ・アームを使ったニュアンスを入れたかったので、このギターを使いました。
新しいエフェクターを手にしたら、まずはどんな“被害”が起こるかを確認する
アルバム制作で使用した機材について話を聞かせて下さい。ギターは何を使いましたか?
FERNANDESで作ってもらった自分のシグネチャー・モデルP-PROJECT・NA-TH-5の1号器と2号器、NA-TH-4という3本に加え、「CASE OF TEARS」ではKz Guitarも使っています。なので、計4本ですね。
ギターはどのように使い分けているんですか?
ブライトな高音を聴かせたい時にはNA-TH-5の1号器、リフで低音を響かせたい時にはNA-TH-5の2号器といった感じで使い分けています。印象的なカッティングの曲や、クランチ気味の歪みを出したい時には、NA-TH-4で録っていることが多いかもしれません。
本田さんのモデルにはサステイナーが付いていることも特徴ですが、今作でも活躍しましたか?
長く伸びた音には、大体かかっていると思います。あとは「Tapestry」で、コードや単音を重ねてストリングスのように聴かせたい時にも、サスティナーをオンにしました。
使用アンプを教えて下さい。
今回は、Fractal Audio Systems(以下、フラクタル)のAxe FX IIIで全部録りました。ソロ1枚目の時から使っていますが、自分がイメージする音が作りやすいことや、エフェクトの豊富さが気に入っています。
デジタルの機材はいつ頃から使っていますか?
もう20年くらい前からずっとデジタルの機材を使っています。以前は、アナログ機材も使っていたんですけど、段々やりたいことが増えてきて。1人では運べないような大きな機材を使っているのが、だんだんストレスになってきたこともあって、使用機材を一度、見直すことにしたんです。
もともと、たくさんの種類のエフェクターを使うタイプだったので、“やりたいことが簡単に表現できたがいいな”と思い、マルチ・エフェクターなどのデジタル機材を使い始めるようになりました。今では、レコーディングで作った音を、ライブでもイメージどおりに出せる快適さを感じています。
ギターとアンプに加えて、“これさえあれば本田毅の音が作れる”という必要不可欠な機材はありますか?
やっぱりディレイは欲しいですね。足下に1つでもあれば、色々な表現ができますから。
ピッチシフターのような派手な効果の飛び道具を、上手に使いこなすコツはありますか?
僕は、新しいエフェクターを手に入れたら、まずはツマミをフルにして、どんな“被害”が起きるかを確認しているんです。
被害(笑)。
はい(笑)。例えばディレイだと、フィードバックのツマミをフルにすると、音が発振してとんでもないことになるじゃないですか。でも、それを徐々に下げていくと、その効果の面白さがわかってくる。ツマミをいじりながら音を探しているうちに、いいところが出てくるんじゃないかと思うんですよね。
なるほど。ちなみにレコーディングで活躍した機材を挙げるとしたら?
大概、どれも頑張って使っているんですけど、メインで使ったフラクタルのAxe FX IIIが一番活躍してくれたと思います。
ギターを弾きながら聴いて、こだわった音に気づいてもらえたら嬉しい
ギタリストの皆さんに、今作で注目して欲しいポイントはどこですか?
先ほども話しましたが、曲を作る時に“もし、ここでこんな音が鳴っていたら面白いんじゃないか?”というところから着想を得ている部分がたくさんあるので、実際にギターを弾きながら聴いてもらって、僕がこだわった音に気づいてもらえたら嬉しいなと思います。
3月からはツアーも始まりますが、アルバムとライブで音に違いはありますか?
僕自身は、“ライブでもCDと同じクオリティの音を出すので、それを会場で聴いてほしい”という気持ちはありますね。基本的には音源で弾いているフレーズをライブでもそのまま再現したいと思っているんですけど、突発的に面白いアイディアが浮かんだらどんどん変えちゃうので……もしかしたら、ツアーの後半になるとアプローチが変わっているところもあるかもしれません(笑)。
最後になりますが、ライブを心待ちにされている方へメッセージをお願いします。
僕自身も、色んなアーティストの音源を聴いて “どうやって演奏しているんだろう?”と音の出し方を確かめたくて、ライブを観に行っていたので、僕もライブでそれをたっぷり見せるつもりです。ぜひ、“ガン見”しに来ていただけたら嬉しいです。あと、徐々にではありますが、かつてのようにライブが楽しめる状況に戻りつつあるので、声を上げながら“ロック・コンサート”を楽しんでもらいたいですね。
本田毅 2ndアルバムリリースツアー
『Effectric Guitar Second scape』公演情報
- 2023年4月8日(土)/久留米 ウエポン
- 2023年4月9日(日)/八代 bar 7th chord
- 2023年4月10日(月)/八代 bar 7th chord
- 2023年4月29日(土)/札幌 Crazy monkey
- 2023年4月30日(日)/札幌 Crazy monkey
- 2023年5月20日(土)/横浜 Music Lab.濱書房
チケット情報
https://effectricguitar.com/schedule/
※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や公演詳細は本田毅の公式HPをチェック!
本田毅オフィシャルサイト
https://effectricguitar.com
テイチクエンタテインメント アーティストページ
http://www.teichiku.co.jp/artist/honda-takeshi/
作品データ
『Effectric Guitar Ⅱ』
本田毅
テイチク/TECH-30545/2023年2月15日リリース
―Track List―
- KUNG FU GIRL
- OUROBOROS
- PROPHECY
- SCARECROW
- FREEZE DRIVE
- Tapestry
- CASE OF TEARS
- PRAY UNDER RAYS
- PLL
- FILTERED ROCK
- CASE OF TEARS feat. K-JOE ver.
―Guitarist―
本田毅