激しく揺れ動く乙女心を綴った歌詞と、パワフルなロック・サウンドが反響を呼んでいる3ピース・ガールズ・ロック・バンドのカネヨリマサルが、メジャー・デビュー作となる『わたしのノクターン』を完成させた。“カネヨリマサルの魅力をしっかり詰め込んだ”という1stアルバムについて、ちとせみな(vo、g)に制作を振り返ってもらった。
取材・文:白鳥純一(ソウ・スウィート・パブリッシング) 写真=タカギユウスケ
自分のギターでどれだけいい音を作れるか”に挑戦している
ギター・マガジン初登場となるので、まずはちとせさんがギターを始めたきっかけを教えて下さい。
中学1年生の頃にBUMP OF CHICKEN(以下、バンプ)とチャットモンチーに出会って、バンドのカッコ良さや歪んだギターの音に惹かれたのが、“ギターをやりたい”と思ったきっかけです。
最初に手にしたギターは何ですか?
メキシコ製のフェンダー・ストラトキャスターです。私が“ギターが欲しい”という話を家族にしていたら、14歳の誕生日に母の知り合いが、ギターを譲って下さって。ピンク色の可愛らしい見た目だったので、“もっと可愛くしよう”と思って、花柄のシールを貼ったりしました。そのギターは今も、ライブでサブとして使っています。
ただ、実際に手に入れたあと、あまりの難しさに一度挫折をしていて(苦笑)。徐々にギターを触らなくなってしまったんですよ。その後、高校で軽音楽部に入るんですけど、当時はギターをやりたい人が多くて、私はキーボード担当になったんです。
でも高校2年生の時にコピー・バンドを組むことになり、そこで“もう一度ギターを頑張ろう”と本格的に練習するようになりました。
そうだったんですね。これまでに使用してきたギターについて聞かせて下さい。
先ほど話したストラトのあと、カネヨリマサルを組んでしばらく経った2019年頃に、今もメインで使っているサンバーストのフェンダー・テレキャスターを買いました。手に入れたきっかけは、憧れていたチャットモンチーの橋本絵莉子さんの影響です。
あとは、自宅で曲作りをする時用のギターとして、スクワイヤのParanormal Offset Telecasterも使っています。色んな音が作れるので、重宝しています。
橋本絵莉子さんは、レス・ポール・カスタムも使っていましたが、ハムバッカーのギターに興味はありますか?
めちゃめちゃ興味はあるので、いつか使ってみたいです。ただ、テレキャスターの音も大好きなので……今は“自分のギターでどれだけいい音を作れるか”に挑戦している感じです。
曲作りはどのように進めていくんですか?
まず最初に私が弾き語りで原型となるデモを作り、それをメンバー全員でアレンジしていくことが多いですね。
基本的に 3ピース・バンドで再現可能なアレンジにしたいとは思っているんですけど、自分が“やりたい”と思ったアイディアや出したい音などは、積極的に取り入れるようにしています。音源とライブでアレンジは変わってしまいますけど、“その曲の一番いい形を作ろう”という気持ちで、フレーズを作るようにしていますね。
“バンド・マジック”を感じる瞬間はどんな時ですか?
私が作った曲に、メンバーのアイディアを加えて演奏すると、自分だけでは想像もできなかったようなサウンドが生まれる。その瞬間は、まさに“バンド・マジックだな”って思います。
本当に難し過ぎて、泣きながらレコーディングしてました(苦笑)
最新アルバム『わたしのノクターン』について聞かせて下さい。まず、今作の中で特に思い出深い楽曲はありますか?
自分が失恋した時のことを書いた「26」ですね。どうにもならない憂鬱な気持ちを生々しく歌詞に綴ることで、少しでも自分を癒そうと思って書いた曲なので、他の人に受け入れられることをまったく考えていなかったんですよ。
でも、この曲が本当に色々なところに届いていることを知ると、ボロボロだった頃の自分が報われているような感覚になって。作った曲が、自分たちだけの音楽じゃなくなるっていうのは、いつも感動しますね。
オープニングを飾る「息をしているよ」は、メンバーとの歌の掛け合いが印象的です。
私がこの曲を作った時から、2人にも歌ってもらいたいと思っていて。“勢いのあるカッコいい曲にしたい”というイメージを伝えて、作り込んでいきました。
疾走感のあるバンド・サウンドも耳に残りました。
スタジオでのセッションが基盤になっていて、その時にしか出せない衝動的なフレーズやビートの雰囲気を、そのまま活かせることができたと思います。
ギターに関しては、コードを2つしか使っていなくて。“少ないコードでどれだけ変化を出せるか”にもこだわりました。あと、カッコよく弾けたギター・ソロも凄く気に入っています。
「二人」は、もどかしい恋愛の様子を描いたラブソングですが、どのように作り込んでいきましたか?
バンドのカッコ良さと、温かみのあるサウンドを表現することを考えながら作った曲です。アレンジャーさんに入ってもらったんですけど、これまで自分が使ってこなかったフレーズや構成を取り入れて完成させることができたので、凄く勉強になりましたね。
この曲ではメロディアスな長尺のギター・ソロを弾いていますね。
最初は本当に難し過ぎて、レコーディングでは泣きながらギターを弾いていました(苦笑)。
「さくら色」は春を感じさせるような爽やかな曲ですが、どのようなイメージで作り上げていきましたか?
メンバーの3人で曲の構成を作り込んだあと、アレンジャーさんと一緒にブラッシュ・アップしていきました。自分の中でイメージしていた“爽やかな春の雰囲気”が、とてもよく表現できたなと自分でも思っています。
前向きなメッセージが込められた「I was」は、パワフルで疾走感のあるナンバーです。
これは2015年頃、いしはらめい(b)とカラオケに行った時に作った曲です。楽器を持ち込んでカラオケに行ったら、彼女が“曲を作りたくなってきた”と言うので、その場でセッションしながら“ノリ一発で衝動的に作った曲”ですね。
「ピアノのうた」は、ピアノのメロディがアクセントになっています。
この曲はピアノを弾いて作りました。カネヨリマサルにとっては、初めてピアノの音を入れた曲で、新しいチャレンジができたと思います。
「スーパームーン」は、ベースとドラムの存在感が際立っていますね。
私が作った弾き語りがもとになっているんですけど、2人が出したいリズム感やフレーズに対して、私が“沁みる感じのギター・ソロ”を加えて完成させた感じですね。
明るくポップな曲調が多いアルバムですが、ラストを飾る「BOOK COVER」は、しっとりとしたアレンジで仕上げられています。
2018年からずっとライブでやってきた曲で、3ピース・バンドなんだけど、アコギやリード・ギターを隠し味的にうまく使うことで壮大な雰囲気を作り出すことができました。
伝えたいと思える人がいっぱいいるのは、本当にありがたい
今作ではどんなギターを使いましたか?
いつも使っているサンバーストのテレキャスターをメインで使いました。「I was」では“ジャキジャキ感”を出したくて、中学時代に手に入れたストラトキャスターで弾いています。あと「さくら色」や「ゲームオーバー」は、アレンジャーさんから借りたジャズマスターで録りました。
使用アンプについても聞かせて下さい。
メインで使ったのは、フェンダーのBassbreakerです。アレンジャーさんと一緒に作った「さくら色」や「ゲームオーバー」では、フリードマンを使いました。
エフェクターは何を使いましたか?
ソロを弾く時に使ったのは、サー(Suhr)のRiot Distortion(ディストーション)です。単音フレーズを弾いた時の音抜けが良いんですよね。とにかく万能で、自分の出したい音にも合う。一番多用しているエフェクターです。
ほかには、ヴェムラムのJan Ray(オーバードライブ)や、BOSSのBlues Driver(オーバードライブ)もよく使っていますね。基本的にJan Rayをかけた音がベースになっていて、バッキングやサビでパンチのある音を聞かせたい時やテンポの速い疾走感のある曲などでBlues Driverを踏んでいます。
これから作ってみたい音はありますか?
ファズを使ってレコーディングしたい曲のアイディアを思いついたので、アースクエイカー・デバイセス(EarthQuaker Devices)のHoof(ファズ)を買ったんです。デモで“ファズで弾いたバッキングにファズのソロを重ねる“という試みをしてみたら、めちゃくちゃカッコ良くて。歪んだギター・サウンドが好きな人には、凄く気に入っていただけるような曲になるんじゃないかなと思っています。
あとは、最近オレンジのコンボ・アンプを手に入れたんですけど、アンプだけでカッコ良いドライブ・サウンドが出せるので、 今後のレコーディングでどんどん使っていきたいですね。
ライブに向けた抱負を聞かせて下さい。
私たちの音楽を色々な場所に届けに行けることを、とても楽しみにしています。最初は3人だけで音楽をやっていたのに、今は自分たちの音楽を伝えたいと思える人がいっぱいいる。それは本当にありがたいことですし、カネヨリマサルの音楽を待ってくれているファンの思いに応えられるようなライブができるよう頑張ろうと思っています。
ギターを手に取りながら、アルバムを楽しんでいるファンの皆さんへのメッセージをお願いします。
私が弾くギターはそこまで難しくないので、簡単にコピーできると思うんです。だからこそ、それぞれの解釈で“自分の色”を加えながら演奏してもらえたら楽しいんじゃないかと思います。
その先に、対バン相手として出会える未来があっても面白いと思うので、カネヨリマサルの音楽を色んな形で愛してもらえたら嬉しいです。
カネヨリマサル 1st Full Album リリースツアー 2023 “いまを生きるツアー”
- 4月15日(土)/新潟CLUB RIVERST
- 4月16日(日)/金沢GOLDCREEK
- 4月21日(金)/高松DIME
- 4月23日(日)/MUSIC ZOO KOBE 太陽と虎
- 4月30日(日)/恵比寿LIQUIDROOM
- 5月5日(金)/名古屋CLUB QUATTRO
- 5月12日(金)/京都MUSE
- 5月19日(金)/福岡LIVEHOUSE CB
- 5月20日(土)/広島Live Space Reed
- 6月25日(日)/心斎橋BIGCAT
チケット情報
https://kaneyorimasaru.com/live_information/schedule/list/
※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や公演詳細はカネヨリマサルの公式HPをチェック!
作品データ
『わたしのノクターン』
カネヨリマサル
Getting Better Records/VICL-65776/2023年1月25日リリース
―Track List―
- 息をしているよ
- 二人
- さくら色
- ゲームオーバー
- I was
- ピアノのうた
- 今年はもう君はいない
- スーパームーン
- 背中
- 26
- BOOK COVER
―Guitarist―
ちとせみな