ポール・ギルバートの新作『ザ・ディオ・アルバム』は、彼が敬愛する偉大なハードロック・ボーカリスト、“ロニー・ジェイムス・ディオ”に捧ぐカバー・アルバム。ロック史に残るディオの名演の数々を、ポールが情熱的なプレイで表現した魂の1枚だ。そのギター・サウンドに込められた熱い想いを、ポール本人にたっぷりと聞かせてもらった。
インタビュー/翻訳=トミー・モリー 質問作成=伊藤雅景 写真=Sam Gehrke
“ほんのちょっと”のアクセントが、クールなコントラストを生んでいると思うよ
今作『ザ・ディオ・アルバム』は、ロニー・ジェイムス・ディオが歌う楽曲のカバー・アルバムです。どういった部分を意識して、彼のメロディをアレンジしましたか?
まず、彼の音楽を最大限に楽しみながらも、まったく別の感じ方で聴いてみるっていうことを意識したかな。僕は彼の曲をキッズの頃から聴いているから、何も考えずともカッコ良く弾けちゃうし、自分のプレイ・スタイルとミックスしたりもできる。
でも、そういった姿勢では取り組みたくなかったんだ。僕は可能な限り“ロニー・ジェイムス・ディオのスタイル”でプレイしたいと思ったんだよね。彼のボーカル・メロディや歌唱技術を徹底的に学ぶことで、自分のギターに吸収できる“何か”を見つけたかったし、僕のギター・プレイを成長させるきっかけにしたかったんだ。
そうなると、かなり細かいところまで注意を払って、長い時間をかけて楽曲に向き合わなきゃいけないことに気がついてね。だから、例えば“ワンテイクで録っちゃおう”なんて勢い重視な録り方はできなかった。
そして、単にディオのスタイルを学ぶだけじゃなくて、ほかのパートのプレイに関しても徹底的に勉強したんだ。例えば、僕はベースをメインにプレイするわけじゃないから、クレイグ・グルーバー、ジミー・ベイン、ギーザー・バトラーといったベーシストたちのリックをめちゃくちゃ聴いたよ。そのおかげで、今じゃ彼らのベース・パートをかなりグッドなフィーリングで弾けるようになったね(笑)。
特に「ロング・リヴ・ロックンロール」や「スターストラック」はディオのメロディがそのままギター・リフになっていたりと、彼のへのリスペクトを感じます。
その2曲は確かにそうだね! それに、ディオの歌声はギターの音域との相性がバッチリで、メロディの動き方もワイドでドラマチックなものが多いんだ。彼のようなボーカル・ラインはギターとの親和性が高いと思う。例えば、ボブ・ディランのような同じ音程が続くようなメロディだと、ギターで弾いても地味になっちゃうからね(笑)。
それと、君が挙げてくれた2曲はシャッフル・リズムの曲だよね。このフィーリングは、僕がこの時代(1970年代後半)の音楽の好きなところの1つでもある。メタルっぽいけど、ジャズやブルースを感じさせるシャッフルが上手く混ぜ合わさっているんだ。本当にクールなアレンジだよね。
ディオは完璧なピッチ感を持っているボーカリストとして知られていますが、それは幼少期からオペラに触れていた影響だったようですね。彼のピッチ感をギターで再現するのは苦労しそうです。
僕がボーカル・メロディをギターに置き換える時はスライド・バーを使ってプレイすることが多かったんだけど、彼のピッチ感に近づけるために今作では敢えてそのパートを減らしたんだ。スライド・バーのフィーリングがそこまでマッチにしていなかったからね。でも少しは使っているよ。その“ほんのちょっと”のアクセントが、クールなコントラストを生んでいると思う。
なるほど。
それに、ディオの歌にはオペラに通ずるフィーリングがあるけど、それと同時にブルースやソウルの雰囲気も感じられる。ニュアンスを持ったシンガーで言うと、例えばスティーヴン・タイラー(エアロスミス)の声はとても高いしワイルドなんだけど、彼にもブルースを感じる部分があるよね。
例えば、音程を微妙に動かしながらベストなピッチに当てるロニー独特の歌い回しは、ブルースの影響によるものだと思う。彼が“オペラっぽい”と言われる所以は、“マイナー・キーや高音でサステインを効かせて歌うところ”だよね。彼の素晴らしいところは、その2つのスタイルを上手く融合させていたところにあるんだ。
レコーディングでここまで“ゾクッ”ときたのは初めての体験だったよ
それでは、ギター・プレイについて聞かせて下さい。冒頭の「ネオン・ナイツ」は特にギター・リフがキモになっている気がしました。
僕のプレイ・スタイルの軸になっているのはこういったシンプルなリズム・ギターだよ。バンドで良いプレイをできるようになるには、何よりもリズム・ギターを理解することが大切だったから、初心者の頃からよく練習していたよ。メロディをしっかりと学ぶようになったのはわりと最近なんじゃないかな。
「ヘヴン・アンド・ヘル」のイントロも、シンプルなプレイをすることに徹底していますよね。
この曲に限らず、すべての曲でリズム・ギターのパートをとにかく楽しんだよ。でも、この曲でもっともチャレンジングだったのは3:18あたりからで、最初にプレイした時は注意深く正確に弾こうとして、上手くいかなかったんだ。
もっとラフに……というか、スケールが大きいビッグなサウンドにしたくて試行錯誤したパートだね。力を抜いてレガート奏法っぽいプレイにしてみたこともあったけど、“あぁ、なんかフィーリングが違うんだよね……”と感じたり。そこで試しにロックなエネルギーを込めて弾いてみたら、プレイした瞬間に鳥肌が立ってきたんだ。自分でも“どうしてだ?”って思ったね。今でもわかっていなくて、レコーディングをしていてこれほどまでに“ゾクッ”ときたのは初めての体験だったよ。
一方、「レディー・エヴィル」ではまさに“歌うようなワウ・サウンド”が映えまくっています。
オリジナルの音源でワウをプレイしていたからね! あと、歌うようなサウンドにするためにピッキング・ハーモニクスを混ぜているよ。ピックの当て方を調節することで、ボーカルっぽいサウンドを出せるんだ。この曲ではアイバニーズのRoadstar IIを使ったんだけど、綺麗にハーモニクスが出る素晴らしいギターなんだ。
Roadstar IIのサウンドだったんですね。
このギターは21フレット仕様なんだけど、実はそれ以上フレットがあるギターだと、指板が邪魔してハーモニクスを出すのが難しくなってしまうんだよね。それが理由だよ。そこで僕は、レコーディングが終わったあとに“フレットの数を減らしたらもっとピッキング・ハーモニクスがプレイしやすくなるんじゃないか……?”と思って、実験として20フレット仕様に改造してもらったんだ。リペアマンは見事な仕事をしてくれたけど、やっぱり21フレットがベストな数だってことがわかったよ(笑)。
「スターストラック」で聴けるスライド・バーのプレイは、リッチー・ブラックモアの奏法を踏襲していますね。リッチーのスライド・バーがクローズアップされることは少ないと思いますが、彼のプレイにはどういうイメージを持っていますか?
常にクールだと思っていたよ! 代表的な作品だと、レインボーの『ライジング』ではよく聴けるよね。僕自身、ここ数年でスライド・バーを使いまくったこともあって、臆することなくプレイできたよ。5年前の僕だったら“いやぁ、これどうするかな……”って思っていたことだろうけどね(笑)。
ギター・ソロ終わりでは、ついにドリル奏法が登場しますね!
どこかで入れなくちゃなと思ったのだけど、入れ所を見つけるのが難しくてね。やっと見つけたのがここだったんだ。ドリルってサウンドよりもビジュアル的なインパクトのほうが強いから、これをレコーディングしていた時の映像をいつか披露したいと思っているよ(笑)。
新しいペダルを買いに行くのは、これをトライしてからだ(笑)
それでは本作で使用した機材を教えて下さい。ギターは?
エレキ・ギターはアイバニーズのPGM900、Fireman、Roadstar II、GHOSTRIDER、2630。アコギはケイ(Kay)の585を使ったよ。
アンプは?
フェンダーのPrinceton ReverbとVibrolux、マーシャルのJTM45だね。
ペダルは?
その時の気分で色々使ったから全部は覚えていないかな。でも、今回のレコーディングで面白い組み合わせを発見したんだ。BOSSのCS-3(コンプレッサー)とJHSペダルズのKilt(オーバードライブ)の2台を合わせると、リッチー・ブラックモアのマーシャル・サウンドに近いニュアンスが得られたんだよ!
そんなに歪んでいるわけじゃないんだけど、CS-3のおかげで良いサステインが得られるし、弦を弾くと“ブン!”って感じのサウンドになるんだ。これが僕流の“ブラックモア・サウンド”を得るための秘訣のコンビネーションだね。
さて、2023年7月にはMR. BIGでの日本公演が決まりましたね。これについても一言コメントを下さい。
僕らはこの最後の来日に向けてすべてのエネルギーを注入するつもりだよ。ライブでは『リーン・イントゥ・イット』(1991年)をまるごと演奏するつもりだ。ニック・ディヴァージリオ(d)をドラマーに迎えてプレイすることも凄く楽しみだね。
彼とは1年ほど前にジャムったことがあって、その時、彼にパット・トーピー(d)とプレイした時のグルーヴを感じたんだ。とにかく、最高な状態で、最高にエモーショナルなライブにすることを約束するよ。
ありがとうございます! では最後に、日本のファンへメッセージをお願いします。
誰もがロニー・ジェイムス・ディオのことを知っていると思うけど、初めて聞いたって人は今回僕がカバーした曲のオリジナルもぜひ聴いてみてほしい。そして、僕がギターでカバーした今作も気に入ってもらえたら嬉しいな。
あと、これは僕がセミナーをやった時に話したことなんだけど、新しい機材が欲しくなった時は、グッとこらえて、そのモチベーションをボーカル・メロディの勉強に向けてみてほしい。そうすることで、機材をグレードアップするよりも遥かに君のギター・プレイやサウンドが高みへと向かうだろう。
メロディをギターで上手く弾けるようになるのは大変なことだけど、非常に多くのことを学べるんだ。君の表現力を育てるのに必ず役に立つよ。新しいペダルを買いに行くのは、これをトライしてからだ(笑)。
作品データ
『ザ・ディオ・アルバム』
ポール・ギルバート
ソニー/SICX-185/2023年04月07日リリース
―Track List―
- ナイツ
- キル・ザ・キング
- スタンド・アップ・アンド・シャウト
- カントリー・ガール
- マン・オン・ザ・シルバー・マウンテン
- ホーリー・ダイヴァー
- ヘヴン・アンド・ヘル
- ロング・リヴ・ロックンロール
- レディー・エヴィル
- ドント・トーク・トゥ・ストレンジャーズ
- スターストラック
- ザ・ラスト・イン・ライン
- ラヴ・イズ・オール(日本盤CDボーナス・トラック)
―Guitarist―
ポール・ギルバート