ギター・スクール“Soul Guitar Lab”を主宰し、noteやYouTubeチャンネルでギターが上手くなりたい人に向けて日々情報を発信しているギタリスト、Toshiki Soejima(ソエジマトシキ)。彼がソロ・アルバム『True』を発表した。“ありのままのサウンド作りを意識した”という全8曲は、自身のルーツでもあるジャズやブルースの要素も取り入れた、オシャレなサウンドを堪能できる作品に仕上げられている。“本物のアーティストになる”という決意を込めた新作のレコーディングをふり返ってもらった。
取材・文:白鳥純一(ソウ・スウィート・パブリッシング)
クラプトンのカッコ良さがわかるようになって、ブルースを好きになっていった
ギター・マガジン初登場ということで、まずはソエジマさんがギターを始めたきっかけから教えて下さい。
ギターを始めたのは、14歳の時でした。最初はゲームセンターにあるドラムのゲームがきっかけで、“ドラムをやりたい”と思ったんですけど、どうやって始めればいいのかまったくわからなくて。たまたまその時、父親が使っていたグレコのSTタイプが家にあったので、まずはギターをやってみることにしたんです。
ギターを始めた当時、練習していた曲は?
「大きな古時計」ですね。父親にコードを教えてもらいながら少しずつ練習し始めたんですけど、その時は特に弾いてみたい曲が思い浮かばなかったので、後天的に好きな音楽を発見していくタイプでした。
その後は、どんなアーティストに興味を持ちましたか?
最初に好きになったのはB’zでしたね。それと父親が薦めてくれたエリック・クラプトン(以下、クラプトン)です。当時の僕にクラプトンの音楽はさすがに渋過ぎて、ピンとこなかったんですけど、聴き続けているうちにB’zとの共通点を見つけていって、クラプトンのカッコ良さが少しずつわかるようになってきたんです。それがきっかけで、中学3年の頃にはブルースが好きになっていましたね。
お父さんに教えてもらったペンタトニック・スケールが、ソエジマさんのギターの原点になっているそうですね。
中学生の時に、父が“ペンタトニック・スケールを覚えるといいよ”と教えてくれてたんですけど、このスケールがどうやって演奏につながるのかが、結びつかない時期が続きました。
でもある日、Eマイナー・ペンタの練習をしている時に、クラプトンの「Cocaine」のEとDがくり返されるリフがたまたま流れてきて。この時にペンタトニック・スケールでアドリブを弾くことの意味を理解できたんです。
そして中3の春休みには、ギターが弾ける友達にEとDのコードをくり返し弾いてもらいながら、僕がペンタでソロを弾くという練習をやるようになりまして。これが僕にとって初めてのバンド活動で、アドリブでギターを弾くことの原体験でもありました。
高校生、大学生の頃のソエジマさんはどんな音楽に傾倒していましたか?
高校生の頃はハードロックをやっていました。B’zの松本さんに影響されて、スティーヴ・ルカサーやジョー・サトリアーニを聴いたり、ちょうどその頃に復活したMR. BIGのライブを観に行ったりもしました。当時は、音が歪んでいて、綺麗な響きのハードロックが好きでしたね。
そして、大学の入学と同時に上京して音楽サークルに入るんですけど、その頃はフュージョンの曲をやったり、ジャム・セッションに通ったりして、幅広いジャンルの音楽に触れていったような気がします。
当時使っていたギターについても教えて下さい。
最初は父親のグレコのSTタイプを使っていましたけど、そのあとにトニー・スミスのエレアコを手に入れて、高校入学時にはフェンダー・ジャパンのテレキャスターを買ってもらいました。そして大学の時に “プロになりたい”と思ったタイミングでジェームス・タイラーのJim Burstを買って、しばらくはその1本だけで活動してましたね。
その後、25歳の時に、アディクトーンのセミアコを購入し、“だいぶ板についてきたかな”と思った時、今度はブルーノのTN-295を手に入れて。それ以降はメイン・ギターとして今も愛用しています。
ソエジマさんがネオソウルと出会ったのは、いつ頃ですか?
大学を卒業して、ミュージシャンとしての活動を始めた時期です。ちょうどトム・ミッシュの『Geography』(2018年)が流行し出して。“自分がやりたかった音楽をやっている人がいる”ことに気づかされたことが、出会いのきっかけです。
ソエジマさんが、YouTubeやSNSを使った活動を始められた理由についても聞かせて下さい。
SNSを運用するようになったのは、大学卒業後の2018年頃でした。いただける仕事を待ちながら、ひとまず食いつないでいくっていう待ちのスタンスが、僕としては何となく辛くて。まずは食えるようになるために、“何でもいいから、自分で集客しないといけない”と思うようになったんですよ。
最初は、その頃に盛んだったブログを始めて、ジャム・セッションの悩みや練習方法に関する記事を地道に書き続けていくと、“ブログを見た”という知らない人が、僕のレッスンに申し込んでくれるようになって、現在のような活動スタイルを築くきっかけになりました。
手癖のようなものを曲に昇華すれば、自分の代表的なメロディになると思った
ギター・スクールの講師もしているソエジマさんが、アーティストのToshiki Soejimaとして、アルバムを制作するに至った経緯を教えて下さい。
シングルを配信するのが主流の世の中で、“アルバムを出すことに何の意味があるのかな?”とずっと考えていたんですけど、アルバムはそのミュージシャンのライフ・スタイルが、丸ごと凝縮されている感じがあるんですよね。
その時代にしか出せない音が収められたアルバムの存在意義は、なくなるどころか、より魅力的なものになっていると個人的に感じていて。 アルバムを出さない限りは時の経過による淘汰を乗り越えられないだろうなと思ったことも、今作の発表に至った理由です。
どんなアルバムを作ろうと思いましたか?
実は、リットーミュージックから出したギター教則本『ネオ・ソウル・ギター入門』(2021年1月発売)がアルバムを作るきっかけになっているんです。
『ネオ・ソウル・ギター入門』
著/演奏:ソエジマトシキ
この本の課題曲として作った「Life」と「Crying」をきちんとした形で音源にして、“ネオ・ソウル・ギタリスト”としてのキャリアをスタートさせようという気持ちがあったので、まずはこの2曲から制作を始めました。
その後はYouTubeの活動や知り合いを招いて作ったお気に入りのオリジナル曲、新たに作った4曲を加えて1枚のアルバムに仕上げたという流れです。
グルーヴ感や音の余韻が印象的な作品だと思いました。
ギターは余韻がとても大事だと思っているので、リバーブの効かせ方や歪んだ音の作り方、ギターの音と距離を感じられるようなアンビエンスにはこだわりました。
様々な楽器が登場しますが、アンサンブルを作り上げていく中で意識したことはありますか?
『ネオ・ソウル・ギター入門』で作ったトラックをそのまま使うことと、歌野ヨシタカ君に弾いてもらったキーボードの音作りには特にこだわりました。
1曲目の「Life」のリフは、どのように作りましたか?
これは僕の手癖のようなフレーズなんです。手癖のフレーズを敬遠する人も多いと思うんですけど、自分の個性が一番出ている箇所だと思うし、癖のようなものを曲に昇華していくからこそ、自分の代表的なメロディになるんじゃないかなという思いがあって、このような形で仕上げました。
「Yours, Truly」はボーカリストのKOTETSUさんとのコラボレーション曲ですが、曲のイメージはどのように共有しましたか?
普段、僕らが聴いている洋楽と並べても、違和感なく聴けるような曲を作ろうというところから制作が始まりました。
歌メロは僕が作ったんですが、自分が普段からギターで弾いているメロディをあまり崩さないように意識していて。“ソエジマがメロをとっていそうな雰囲気”を残したかったので、ボーカルとしてやや特殊なメロディ・ラインになったとしても、自分がよく弾いているペンタの歌い回しなどはあえてそのまま残しましたね。
終盤でギター・ソロとKOTETSUさんのハミングが絡み合う箇所もありますね。
僕が“ギター・ソロと一緒に歌って下さい”とKOTETSUさんに伝えたら、わざわざギターよりも少しだけうしろのタイミングに声を入れてくれて。KOTESUさんによるアレンジの素晴らしさを感じましたね。
ソエジマさんが自分で歌おうという気持ちはなかったんですか?
今回は、“今の僕が表現できるものだけで作る”というコンセプトだったので、歌おうとは思っていませんでしたね。今後、チャレンジしていく可能性はあるかもしれませんが、直近はボーカリストの方とコラボしながら曲を作っていくことが多いのかなと思います。
「Snow」と「Yozora」では、クリーン・トーンを軸にエフェクトを加えたサウンドも聴けますが、どのように音作りをしましたか?
これはLogicのエンベロープ・フィルターを使っています。この曲だけプラグインを使いたかったので、LogicのAmp Designerっていうアンプ・シミュレーターで音作りしていますね。
でも基本的にはアンプ直の音で、ユニバーサル・オーディオのOX(ロードボックス)をつないで録りましたね。アンプのゲインを使って音をコントロールするのが、今回の音作りにおける最大のポイントなんですよ。アンプ・シミュレーターではクリーン気味のクランチを作るのが難しかったので、アンプ側でゲインの量を細かく調整して音を作り込んでいきました。
一転して煌びやかな「Beautiful in Tokyo」のアイデアは、どのように思いつきましたか?
僕がTwitterで開催している“おしゃれペンタ選手権”に、この曲で三味線を弾いてくれたCHiLi GiRLの川嶋志乃舞(以下、川嶋)さんが応募してくれたんですけど、その時に川嶋さんが弾いていたリフのメロディが、僕の中でずっと印象に残っていて。その音源を元に曲に仕上げたという感じですね。
テーマのフレーズに対して、どのようにギターを重ねようと思いましたか?
サステインがない三味線を補うようにギターがユニゾンしていくアレンジにしようと思っていたので、フロント・ピックアップで弾いたサステインのある暗めの音で、三味線の音を支えるような感じに仕上げました。
レコーディングの使用機材について聞かせて下さい。
ギターは、アディクトーンのセミアコ、ブルーノのTN-295、PRSのWood Library Custom24の3本が活躍しました。「Snow」のテーマだけはD’Angelicoのフルアコで弾いています。アンプはフェンダーのBlues Junior Ⅳです。
エフェクターはどういったものを使いましたか?
「Beautiful in Tokyo」のリード・ギターでは、ヴェムラムのJan Ray(オーバードライブ)を使いましたけど、基本的にはアンプのボリュームでゲインを調整してます。あとは、ストライモンのEl Capistan(エコー・シミュレーター)とFLINT(トレモロ&リバーブ)も使いました。
レコーディングで特に活躍した機材を挙げるとしたら?
ユニバーサル・オーディオのOXですね。マイクのシミュレーションの秀逸さももちろんですけど、ルーム・アンビエンスの臨場感が僕にとっては魅力的で。
実は、「Life」と「Crying」を録音していた時に音作りに関して悩んでいたんですけど、OXを導入したことで解消されたんです。OXのおかげで、今回のギター・サウンドが仕上げられたなと思っています。
3月には初のライブ・ツアーを終えられましたが、感想を聞かせて下さい。
大きな音で何もかもを伝えられるライブは本当に楽しかったですし、達成感もありました。
“ずっとライブをやっていたい”と思いましたけど、それができるのは、ネットで活動しているからこそでもあるんです。だから、ネットとライブのどちらに対しても真摯に向き合っていきたいと改めて感じました。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
今後は、様々な国内外のアーティストさんとコラボしながら、曲をたくさん出していく予定です。ギターを構えながらだけじゃなく、ちょっとした通勤の時とかにも聴いてもらえると嬉しいですね。
作品データ
『True』
Toshiki Soejima
配信/2023年3月18日リリース
―Track List―
- Life(True Ver)
- Yours, Truly
- Snow
- Slow Down
- Yozora
- Beautiful in Tokyo
- Crying
- Bright Sunny Day
―Guitarists―
Toshiki Soejima