ジミ・ヘンドリックスが世界を席巻する前、サポート・ギタリストとしてバックを務めたバンドのうちの1つが、アイズレー・ブラザーズだった。当時10代前半だったアーニー・アイズレーは、ジミとステージで一緒に演奏することこそなかったが、その後のギター・スタイルを見れば、彼から絶大な影響を受けて育ったことは明白だ。今回はアーニーが幼少期に味わった“ジミ・ヘンドリックス”というエクスペリエンス=経験を語ってもらった。
文/質問作成=福崎敬太 インタビュー/翻訳=トミー・モリー Photo by Don Paulsen/Michael Ochs Archives/Getty Images
ジミのプレイが凄まじくて笑ってしまったのを覚えているよ
アイズレー・ブラザーズといえばジミ・ヘンドリックスが在籍していたことでもお馴染みです。彼との思い出を聞かせて下さい。
アイズレー・ブラザーズは1964年の3月、俺がまだ12歳の頃にジミ・ヘンドリックスを雇ったんだ。彼にとっての最初のフェンダー・ギターを買い与えたのも、アイズレー・ブラザーズだった(編注:フェンダーのデュオ・ソニックをオケリー・アイズレーから買い与えられた。ちなみに、入手して数ヵ月後に盗難にあってしまう)。彼はそれまでフェンダーのギターを所有したことがなかったんだ。
兄貴たちはラディックやセルマー、アンペグといった様々なメーカーと知り合いで、フェンダーともつながりがあった。それで、ジミを雇う時に“どんなギターが欲しいんだ? お前が今持っているギターは見すぼらしいから、カッコ良いヤツを買ってやるよ”と伝えたら、“本当に? フェンダーが欲しいんだ”と答えたんだよ。
彼が在籍していた頃、あなたはまだ幼かったと思いますが、彼の演奏は聴いていましたか?
土曜の朝の子供向け番組を俺が観ている傍らで彼はギターを弾いていて、そのプレイが凄まじくて笑ってしまったのを覚えているよ。俺はいつもジミのことを1人の人間として見てしまうし、まだミュージシャンになる前の12歳の子供として見た時のことを思い出してしまうんだ。
1966〜67年頃には誰もがジミのことを話していて、学校でも“ジミ・ヘンドリックはギターを逆に持って弾くんだ。背中にも回して弾くらしいぜ!”みたいに話しているヤツがいたよ(笑)。で、俺は何も言わずにいたけど、ある日ジミがアイズレーとプレイしていたことを雑誌で知った連中が、“ジミがアイズレー・ブラザーズとプレイしていただと?!”と血相を変えて俺に聞いてきたね。
(笑)。それは誇らしいですね。
俺は“そうだよ”とだけ答えたら、“どうして何も言ってくれなかったんだ!”と言われたよ(笑)。
あと当時の話だと、“最高なギター・プレイヤーって誰だと思う?”と聞かれたこともあった。その時に“エレキ・ギターならジミだろうな。お前らがヘッドフォンから聴いているサウンドじゃなくて、アンプにつなぎもせず彼がプレイしているものを目の前で聴いたからそう言えるんだ”と答えたら、みんな黙ってしまったよ。
彼と初めて会った時のことは覚えていますか?
俺たちの家で初めて会ったんだ。俺は12歳という年齢のわりには音楽をよく知っていたほうだったけど、彼のようにプレイする人を見たり聴いたりしたことはなかった。それは驚きだったね。
常に最先端をいっていたんだ
ジミがアイズレー・ブラザーズを去った時のことは覚えていますか?
1965年の10月頃になって、俺はジミを見かけなくなったんだ。オケリーに“ジミはどこにいるんだ?”と聞いたら、“話し合ったんだが、ジミは「今までのもてなしを感謝している」と言って去っていった。彼は違うことを今からやろうとしているみたいだ”と言われたよ。
その後、世の中が“Are You Experienced?(お前は体験したか?)”と言い始めた。でも俺はすでに体験していたんだ。彼は俺たちと一緒に家にいたし、彼の最初のレコードはアイズレー・ブラザーズの「Testify」で、グッドなギター・ソロも披露しているんだ。
ジミが世界的スターになった1967年以降、彼のステージを観たことはありますか?
ノーだね。その理由は、観る必要がなかったからだ。だって俺は、彼がリビングでプレイする姿を間近で観ていたから(笑)。
あなたがギタリストとしてジミから受け継いだことは?
ジミは本を持っていてそこから何か学んでいたようだけど、俺はその本には目もくれずに、彼のことばかり目で追っていた(笑)。彼はもうあれ以上必要なかっただろうけど、ひたすら練習していたよ。大切なのは同じ部屋で俺たちが一緒に過ごしていたことなんだ。
もし「That Lady」が世の中に出た1973年に彼が生きていたら、俺に抱きついてきてタックルを食らわせていたかもしれない。“アーニーよ、どうやってあんなプレイを編み出したんだ?”って(笑)。そしたら俺は、“だって君は俺たちの家のリビングで弾いていただろう? キッチンでもプレイしていたじゃないか”って答えただろうね。
それでは最後に、あなたが思うジミの魅力を教えて下さい。
ジミがペダルにギターをつないで弾いた音を初めて聴いた人は、“お前はなんてサウンドでプレイしているんだ、出ていけ!”と言ったことだろう(笑)。そして“ギターを弾いている人間が1人しかいないけど、ほかの5〜6人はどこかに行ったのか?”なんて思っただろうね。彼はリズムとリードを同時にプレイしていて、それだけのスキルを持った素晴らしいミュージシャンだったんだ。
それに彼が何かプレイを編み出すたびに、それはいつも誰にも似つかないものとなっていた。常に最先端をいっていたんだ。アイズレー・ブラザーズのショウを観た人から“お前らのライブでギターを弾いていたヤツは誰だ? 右利きのヤツじゃない、あの左利きのヤツだよ”なんて聞かれたのはしょっちゅうだったよ。それだけ彼は飛び抜けた存在だったんだ。
作品データ
『Make Me Say It Again, Girl』
アイズレー・ブラザーズ
配信/2022年9月30日リリース
―Track List―
- Make Me Say It Again, Girl (ft. Beyoncé)
- Long Voyage Home
- The Plug (ft. 2 Chainz)
- Sexy Face
- My Love Song
- Great Escape (ft. Trey Songz)
- Last Time
- Keys To My Mind (ft. Quavo & Takeoff)
- There’ll Never Be (Ft. Earth, Wind and Fire & El DeBarge)
- Disappear
- Consolidate
- Right Way
- Friends and Family (ft. Snoop Dogg)
- Biggest Bosses (ft. Rick Ross)
―Guitarist―
アーニー・アイズレー