ロックバンド=MUCCが、2023年に結成25周年を記念したアニバーサリーツアーを開催。2003年のアルバム『是空』から2012年の『シャングリラ』まで、計8枚のアルバムに収録された楽曲を再現していく趣向のツアーだ。そこで今回は、L’Arc〜en〜CielのKenが当時プロデュースした「アゲハ」(『球体』収録/2009年)と「フリージア」(『カルマ』収録/2010年)の2曲について、MUCCのミヤとKenの両名に話を聞いた。どのようなアレンジやディレクションがなされたのか、制作当時をふり返ってもらおう。
取材/文=村上孝之 写真=石川浩章
“メタルっぽい激しい曲”を誰にプロデュースしてほしいかってなった時に、Kenさんしか思い浮かばなかった
──ミヤ
2008年にリリースされたMUCCのシングル「アゲハ」のプロデュースをKenさんにお願いすることにした経緯などを、改めて話していただけますか。
Ken まず、お願いされたかどうかだよね。俺が事務所に行ったら、当時のMUCCのマネージャーに“Kenさん、MUCCが今新曲のリハをしているんですけど、プロデュースとかどうですか?”と言われて、メンバーの本意は知らないままに引き受けたという(笑)。
ミヤ KenさんはよくMUCCのスタジオに遊びに来てくれていたので、改まって“プロデュースをお願いします”みたいな話をすることはなかったですね。
Ken やっぱり頼んでないじゃん(笑)。
ミヤ (笑)。当時はずっと岡野ハジメさんがプロデュースしてくれていたんですけど、MUCCが海外ツアーにガンガン行くようになった時期に“次はメタルっぽい激しい曲を出そう”という話になったんです。そこで、メタルを通っていて、人柄の面でシックリきて、音楽的な相談もできて……となった時に、Kenさんしか思い浮かばなかったんですよね。
Ken でも言うてもさ、俺は6弦の時代のメタルだから7弦のメタルとかはあんまり通ってないよ。だって俺ミヤくんに、“ニューメタルって何?”って聞いたくらいだから(笑)。人選ミスったんじゃないの(笑)?
ミヤ いや、その辺は時代の違いで、気にしていなかったですよ(笑)。要は、時代は違えど音楽の根本的な部分はあまり変わらないじゃないですか。どういう音域を使っていようが、メロディとコードのマッチングとかは普遍的なものがありますから。
俺は“こういう匂いを出したい”というのが自分の中にあったけど、その出し方をあまり知らなかったから、それをKenさんに助けてもらいたいなと思ったんです。だから、Kenさんが来てくれて凄く嬉しかったですよ。
当時KenさんはMUCCにどんな印象を持たれていましたか?
Ken なんて言うんだろうな……。簡単な言葉で言うと“激しい”と“優しい”が同居している感じ。根本はそういうイメージだった。だから、その印象の部分をメインにプロデュースするつもりでいましたね。
プロデュースは制作のすべてを仕切るやり方もありますが、そういう関り方ではなかったわけですね?
Ken そう。ただ、フレーズのタイミングやタイム感という面では仕切りたがるかもしれない。だから、そこに対してはしっかり伝えるけど、例えばミヤくんが“こういう音を入れたい”とか、“こういう風にしたい”っていう部分は尊重していたことが多いですね。
ミヤ うちらはそれまで“激しい曲”となると“全員激しく行きます!!”みたいな感じだったんですよ(笑)。岡野さんは、それに対してフレーズでメリハリをつけていく感じのプロデュースだった。Kenさんは“この曲のキモはここなので、一番激しく聴かせたい”と伝えた時に、“このパートがもうちょっとうしろに下がると、ほかが聴こえてもっと激しく聴こえるんじゃない?”みたいなアドバイスをしてくれたんです。
そういったMUCCになかったバランス感覚をバンドに持ってきてくれたんです。曲作りのやり方とかも、“ほかにも楽しい方法があるんじゃない?”というアイディアをたくさん教えてくれて。うちらはスタジオに入っても“はい! 朝6時までに5曲作ります!!”というような体育会系な作り方しかしていなかったので(笑)。Kenさんはそれを見て“ちょっと待て”と。“曲のデモがDTMで完成するまでリハスタ禁止!”とまで言われました。
Ken そうだっけ?(笑)。
ミヤ 言ってくれましたね。“試しにやめてみて。合わなかったら合わなかったでいいし”と。
Ken よく覚えてるね。
ミヤ めっちゃ覚えています。それが2008年頃だったんですけど、MUCCは活動を始めて10年は経っていたので、そういう“気づけそうだけど気づけていない部分”というのがけっこうあったんです。そこにKenさんが来てくれたことで、“そういう考え方もあるんだ”ということを知ったんです。Kenさんは最初から、“とりあえずトライして、それから考えよう”みたいなスタンスでしたね。
楽器はしっかり鳴らすための“何か”が確実にある
──Ken
そういった新しいアイディアを、角が立たないような伝え方ができるのはさすがですね。
Ken そうなのかな? だって、無理強いしても仕方ないし。
ミヤ Kenさんが一番最初に来てくれたプリプロの時は、気を遣わせて申し訳なかったことを覚えています。曲はできていて、アレンジを詰めていこうとなった時に、演奏がまともにできなかったんですよ。
その時の対応の仕方も、俺らだけだと“できるまで何度でもやるぞ!”とやっていたのを、“ちょっと待って。こういうやり方もあるんじゃない?”みたいな切り口の提案をしてくれたんです。そういった道があるんだということはそこで初めて知ったので、Kenさんと一緒に作業するのはいつも楽しくて。
例えば、演奏が上手くできない時に、それぞれの楽器の演奏を見るかと思いきや、Kenさんはプレイ中の姿勢だったり、使ってるアイテムの種類とかにいくんですよ。
Ken ギターを弾く時もピックを変えるだけで色々変わるしね。どう弦が震えるのかなとか。そういった部分に意識を向けていたというのがあった。“どうやったら音が鳴るのか”ってところを意識するのも大事だし。
ギターだったら6弦の鳴らし方と1弦の鳴らし方がそもそも違う。6弦と同じ感覚で1弦を弾いたら、ピックが深く入り過ぎてしまったりする。それと同じで、スネアとシンバルの鳴らし方も違う。例えば、ハイハットは触った瞬間に“チッ”ていうけど、スネアは触っても“パスッ”としか鳴らない。ということは、ギターもベースもドラムも、しっかり鳴らすための“何か”が確実にある。
では、本番のレコーディングのディレクションなどは、どういう流れだったのでしょうか?
ミヤ それまでは自分と岡野さんで一緒に作っていく感じでしたけど、Kenさんが来てくれてからは全部任せていました。でも、自分は“どうしてもこうしたい”というポイントがあるので、そこは相談しつつ、ベーシックな骨組みやテイクのセレクトはKenさんに任せました。
だから、Kenさんと一緒にやるようになってからは自分がディレクションに関わる割合は減って、より演奏に向き合えるようになりましたね。
いい関係性ですね。ミヤさんは、Kenさんにプレッシャーを感じたりはしませんでしたか?
ミヤ それはなかったです。でも、俺のギターをもっと“ギタリストっぽくしてほしい”という気持ちはありました。
あとは、ちょっと速いフレーズとか、俺が今まであまりやっていないタイプのプレイが合うかもという提案をしてくれて。なので、Kenさんと作るようになってからは速弾きを取り入れたり、わかりやすいリードパートが増えていたりするんです。
それまではそういうスタイルを楽しむ術を知らなかったので、その経験がきっかけでもっと楽しく弾けるようになったというか。
自分の中にあるイメージをKenさんが具現化してくれたんです
──ミヤ
「フリージア」(2009年)のギターソロはそれこそ新鮮味がありました。
Ken このソロ凄く良いよね。今思い出したんだけど、ミヤくんがこのソロを弾いている時に“ここでもう1つ上の音にいってみたら?”と言ったんだけど、ミヤくんはいかないんですよ。それで“なんでいかないの?”と聞いたら、“Kenさん、もうフレットがないです”って(笑)。
ミヤ ありましたね(笑)。
Ken でもやってもらったよね。
ミヤ もう、無理やりチョーキングで持っていきました(笑)。
リクエストしたKenさんも、それに応えたミヤさんもさすがです。
Ken あれはわるいことをしたなと思う。
ミヤ でも、あのギリギリ感も良い方向に出ている気がしますよ。
Ken そんな思い出もありつつ「フリージア」は凄く好きだな。最高。関われて良かったなと今でも思っているよ。
ミヤ 「フリージア」は自分が作っていったデモのイメージから、Kenさんがさらに広げてくれたんですけど、自分が想像していなかった方向に広がっていって、それが凄く良かった。デモの状態では自分の中にあるイメージを完全に具現化しきれていないような感じだったので、それをKenさんが表現してくれて凄く嬉しかったです。
Ken この曲は100回聴いたら、100回鳥肌が立つ。そのわりに、ライヴであまりやらないんだよね(笑)。
ミヤ いや、やっていますよ(笑)。
Ken 俺が行った時に、たまたまやらなかったのかな。
ミヤ 当時よりも人気曲になっています。「フリージア」は名曲だと言ってもらえることが多いんですよ。
Ken 不思議だよね。なんか、俺が鳥肌立った曲って、リリースした直後は人気が出ないことが多いんだ(笑)。
ミヤ でもMUCCはそういう曲多いですよ(笑)。
Ken そうなんだ。俺と感性が合っているのかな(笑)。
LIVE INFORMATION
『MUCC 25th Anniversary TOUR 「Timeless」〜志恩・球体〜』
- 2023年6月9日(金)LINE CUBE SHIBUYA
- 2023年6月24日(土)三郷市文化会館
- 2023年6月30日(金)メルパルクホール大阪
- 2023年7月21日(金)高崎芸術劇場スタジオシアター
- 2023年7月26日(水)Zepp Shinjuku
- 2023年8月1日(火)浅草花劇場
- 2023年8月2日(水)浅草花劇場
- 2023年8月21日(月)水戸市民会館
NIGHTMARE×MUCCツーマンツアー『悪夢69』
- 2023年8月17日(木)Zepp Nagoya
- 2023年8月18日(金)Zepp Osaka Bayside
- 2023年8月24日(木)Zepp Haneda
『MUCC 25th Anniversary TOUR 「Timeless」〜カルマ・シャングリラ〜』
- 2023年10月1日(日)仙台 GIGS
- 2023年10月4日(水)渋谷 CLUB QUATTRO
- 2023年10月7日(土)松山W studio RED
- 2023年10月9日(月・祝)広島 CLUB QUATTRO
- 2023年10月14日(土)長野 CLUB JUNK BOX
- 2023年10月15日(日)金沢EIGHT HALL
- 2023年10月21日(土)札幌PENNY LANE 24
- 2023年10月22日(日)札幌PENNY LANE 24
- 2023年10月24日(火)青森Quarter
- 2023年10月28日(土)福岡BEAT STATION
- 2023年10月29日(日)福岡BEAT STATION
- 2023年11月4日(土)名古屋ボトムライン
- 2023年11月5日(日)名古屋ボトムライン
- 2023年11月11日(土)なんばHatch
『MUCC 25th Anniversary TOUR Grand Final Bring the End to「Timeless」&「WORLD」』
- 2023年12月28日(木)国際フォーラム ホールA
※詳細後日発表
※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や公演詳細はMUCC公式HPをチェック!
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