北欧フィンランドが世界に誇る、ルオカンガス・ギターズのすべて。 北欧フィンランドが世界に誇る、ルオカンガス・ギターズのすべて。

北欧フィンランドが世界に誇る、
ルオカンガス・ギターズのすべて。

ルオカンガス・ギターズの工房を訪ね、
GM編集部、北欧フィンランドへ行く。

まずはルオカンガス・ギターズの基本情報を簡単に紹介。欧州屈指のハンドメイド・ブランドを育んだ背景と彼らが歩んできた道のりを、フィンランドの風景とともにたどっていこう。

取材/文/撮影=福崎敬太
※本記事はギター・マガジン2020年4月号に掲載された『北欧フィンランドが世界に誇るルオカンガス・ギターズのすべて。』に書き下ろしを加え再編集したものです。


母国フィンランドを始めとしたヨーロッパや北米ではその高いクオリティで広く認知されているものの、それと比べると日本でのルオカンガス・ギターズの知名度はまだまだ低い。しかし、マスター・ルシアーのユハ・ルオカンガスは、世界中のギター・ビルダーたちからその一挙手一投足が注目される傑物なのである。近年一般的になった“サーモ・トリートメント”や“ローステッド〜”のような、木材の熱処理をギター製作に持ち込んだのも彼らが先駆けで、今やハイエンド・ブランドでは当然のように行なわれている、フレットの両端を滑らかに削る加工なども他ブランドより早くから始めていた。このような先見の明を持ったルシアーが、業界内で注目されるのはごく自然なことだろう。さらにユハは、フィンランドのギター・ビルダー協会で理事を務め、ヨーロッパのギター・ビルダー協会(EGB)でも副理事を務めているルシアー界のカリスマなのだ。そんな彼が自身の名を冠して1995年に立ち上げたブランドがルオカンガス・ギターズである。

ヘルシンキの街並み。奥に見えるのはウスペンスキー寺院。

ルオカンガス・ギターズの拠点フィンランドは、北欧にある人口500万人ほどの小さな国。多くの人が思い浮かべるイメージとしては、“幸福度の高い国”、“IT先進国”、“ムーミン”、“かもめ食堂”、“サウナ”あたりだろう。音楽好きにとっては“北欧メタル”が真っ先に出てくるかもしれない。実は、日本の5%程度とかなり少ない人口ながらエレクトリック・ギターのブランドが70以上もあり、世界基準のバンドを多く輩出する隠れた音楽大国なのである。

取材班が渡欧したのは2月の初旬。例年ならマイナス20度を下回ることも少なくない時期が、今年は記録的暖冬のようで、最低気温はマイナス7度程度だった(それでも寒い!)。首都ヘルシンキには歴史のある建造物が多く、中央駅の駅舎も1919年に完成したものだそう。しかし内部は快適にリノベーションされており、伝統を重んじる精神と“IT先進国”らしいイノベーティブな姿勢を感じた。このようなフィンランド人の気質と“高い幸福度”というのが、ルオカンガス・ギターズを語るうえでひとつの鍵となってくる。

ヘルシンキから電車で1時間ほどの街、ハメーンリナ。郊外に位置するこの街に、ルオカンガス・ギターズの工房がある。

1890年代に建設された建物を利用した、ルオカンガス・ギターズの工房。

駅に到着するとビンテージの日本車で駆けつけたユハが出迎えてくれた。そこから車で30分ほど走ると、バーチの森に囲まれた道の先に工房が見えてくる。1890年代から貴族の使用人たちが暮らしていた歴史ある建物で、それを改装して使っているそう。そして、工房の内部を簡単に案内してもらったあと、ルシアーのユルキ・コスタモ、トミ・ニヴァラ、ヤニ・リンタカトゥリを紹介してもらった。その時ユハから、“15時には帰ってしまうからユルキから先に取材してほしい”と頼まれた。理由を聞くと、“小さな子供がいるから勤務時間が違う”とのこと。ストレスなく働けるこういったフレキシブルな環境も、ルオカンガス・ギターズのクオリティに関わっているのだ。というのも、ユハは“A happy guitar maker makes better guitarsーーthat’s a fact(幸福な製作家は良いギターを作る)” と語っている。そんな考えから、“作業”にならないように生産数を限定し、1本1本と向き合いながら丁寧にギターを製作することで、確かなクオリティを保っているのだ。

さて、ブランドの歴史についても話をしよう。

ユハ・ルオカンガスは1972年生まれの現在48歳(2020年2月時点)。音楽に目覚めたのは10歳の頃で、友達の家にあったジミー・ペイジのポスターを見て“なんてカッコ良いんだ!”と衝撃を受け、ロックにのめり込んでいく。そして、当時持っていたコモドール64(初期のコンピューター)を売り、母親からもお金を借りて、メール・オーダーで最初のギターを手に入れた。初めてのギターはSTタイプで、それが届くとなんと、まず真っ先に部品を分解して“どう動いているか確かめた”そうだ。その後はロック・スターを目指しバンド活動を行なっていく。バンドは国内で少なからず人気を博すが、高校を卒業する頃に将来について考え始める。しかし、やりたいことが見つからないため職業案内所に行くと、職員の女性から“若いんだから学校に行くべきよ”と言われた。“では何を学ぶべきか?”と考えたユハは、趣味として行なっていたギターのリペアを追い求めることに決める。すぐにフィンランド唯一のギター・ビルダー専門学校=イカリネンへ入学し、楽器製作の知識を深めていった。そして卒業後の1995年、自身のブランドとしてルオカンガス・ギターズを立ち上げたのだ。

基本的にオーダーメイドのハンドメイド・ブランドであるルオカンガス・ギターズ。主要なシェイプにはダブル・カッタウェイのデューク(Duke)、シングル・カッタウェイのユニコーン(Unicorn)、STシェイプに近いVSOP、TLスタイルのモジョ(MOJO)などがあり、木材やパーツ、カラーなどはさまざまな仕様から選ぶことが可能である。公式サイトからインストールできる“Guitar Creator”というアプリでは、そのカスタマイズを詳細かつ直感的に行なうことができるので、興味を持った方はぜひ一度チェックしてみてほしい。