ポリフィアやCHON、Ichika Nitoやマテウス・アサトなど、新世代のテクニカル・ギタリストたちに影響を受けた森 大翔。10代にして世界レベルのテクニックを身につけた彼が、その技術やセンスを存分に発揮しながらも見事に“ポップス”へと昇華させた1stアルバム、『69 Jewel Beetle』を完成させた。今回は、その会心の作品で聴けるギターについて、森にたっぷりと語ってもらおう。
インタビュー=福崎敬太 写真=瀬能啓太
故郷を思い出しながらギターを弾く時間を確保しているんです
デビュー・アルバム『69 Jewel Beetle』は歌モノのポップスとしてはかなりギター度が高い、我々としては大歓迎な1枚です。ギタリストとしてはどのような作品になったと感じていますか?
自分の中では、とにかくギタリストとシンガーソングライターのバランスを考えて作ったアルバムなんです。だからギタリスト単体の視点で見るとどうだろう……でも、新しいギターは弾けているのかな。
自分が今まで吸収してきたものが出せているし、“ポップスを作る”っていう考えに引っ張られて生まれてきたギターもありますし。
シンガーソングライターとギタリストのバランスは、具体的にどういう点を意識しましたか?
ギターはめちゃめちゃ弾いているんですけど、ソロを弾き過ぎないとか。それは尺の話だったり、テクニック的にフレーズがくどくなり過ぎないようにしたり。
あとは逆に、譲れない部分もあって。裏で鳴るシンセ的なアプローチは、ギターで弾いてみたりとか。
オープニングとエンディングがソロ・ギターの楽曲になっています。よく15〜30秒くらいでのアルバムのイントロ的な演出はありますが、どちらもしっかりと楽曲として楽しめるものに仕上がっていますね。
これはどちらもまったく別の出発点から生まれているもので。1曲目の「Prologue~drift ice~」は、僕としてもどちらかというと30秒くらいのプロローグ的なイメージです(笑)。“ギタリスト、森 大翔です。よろしくお願いします”っていう自己紹介のような感じ。
でも、その中にも楽曲として聴いてもらえそうなフレーズも入れつつ、テクニックを盛り盛りに……(笑)。
1分ある素晴らしい展開になりましたね(笑)。では「Epilogue~evening calm~」は?
これは、チューニングが6弦からDADEADで、普段からこういうのを弾いていて。日常的に、自分の故郷を思い出しながらギターを弾く時間を確保しているんです。それにつながるような曲ををどうしても入れたかったんです。ちなみに「Prologue~drift ice~」はドロップDですね。
チューニングやキーはどう決めているんですか?
運です(笑)。ただ、僕はカポを付けるのが好きで。カポを付けなかったら響き過ぎちゃうのかな? 言葉で説明するのが難しいんですけど。で、「Epilogue~evening calm~」は3カポですけど、1フレット、2フレット、3フレットってカポを移しながら、響きで決めましたね。
ドラマティックなものを今まで聴き過ぎたからか、単調にしたくない
「たいしたもんだよ」は最初がガット・ギターのスリー・フィンガーで、歌が入るとロックなエレキが入ってきます。
最初は“イエイエ〜”っていう部分と、スリー・フィンガーから始まるフォークっぽい部分をつなげようとしたんです。だからこの曲のギターを考えるのは大変でしたね。
途中にはボサノバ的なアプローチがあったり、“イエイエ〜”のところはファンキーなカッティングで、ギター・ソロはかなりテクニカルで……。
確かに凄い曲ですね(笑)。
こういう多様なギター・スタイルをつなげるために何か意識していることや、気をつけていることはありますか?
恐れないこと。サビが来るのも遅いし、色んな展開が盛り盛りだし、ラップもしてるし、自分でも“どうだろう?”っていうのもあったんですけど、自分の感覚を信じて。自分が今まで聴いてきたものにも、そういう展開がある音楽が多かった。それこそプログレッシブ・メタルもそうですし。その美しさを信じることですね。
「剣とパレット」は、イントロから聴けるテーマ的なフレーズが印象的です。
このテーマが決まったのが、本当に最後の最後なんですよ。もともとは違うフレーズで。これは別の曲であったイントロなんです。このフレーズを作った時は、裏打ちのリズムから決めたかな。
ここはオクターバーを使っていますか?
あれはどちらも弾いています。オクターブ上もダブルで弾いてるけど、“オクターバーみたい”って言われるくらいガッチリ合わせて弾いて(笑)。
間奏でこのフレーズが再度出てくる時に、4小節目から拍をズラして、また戻るような展開をさせています。こういうフックとなるようなアレンジはどう考えているんですか?
本当に感覚なんですけど、でも、“こうきたら、カッコ良いな”っていう。で、いいのか悪いのかわからないですけど、“くり返し恐怖症”があって(笑)。ギターのフレーズだけじゃなく、サビも2回くらいしか出てこない。3回サビをくり返すのは、まだちょっと怖くてできてないんですよ。
プログレが染み付いてますね(笑)。
(笑)。ドラマティックなものを今まで聴き過ぎたからか、単調にしたくない。でも、ただ“カッコ良くしたい”っていう気持ちだけなんですよ。
ソロを作る前に、必ずドリーム・シアターの「Another Day」を聴くんですよ(笑)
「オテテツナイデ」ではブルージィなアプローチが聴けます。こういったものはアドリブから始まるんですか?
オブリはほとんど手グセで弾いてますね。
それではレコーディングの時に何テイクか弾いたとしたら、毎回変わる?
いや、変わらないです。フレーズを決める時に手グセで弾いていって、“これだな”っていうのを決めたら、それをキッチリやります。
楽曲のギター・フレーズの中で、アドリブ的な要素は1つもない?
そうですね。ゼロ・アドリブです(笑)。
特にギター・ソロはかっちり作っていくと思いますが、どのようにフレーズを決めていますか?
まずはバック・トラックを先に作って、そのうえでギター・ソロを考えています。なので、あらかじめ尺が決まっていることがほとんど。“後半から4つ打ちになる”みたいなリズムの展開も決まっています。で、もう永遠に弾きます(笑)。そのバック・トラックを流しながら、6時間くらい(笑)。
ストイック(笑)。
ずっとアドリブで弾いて、“このフレーズ使える”っていうのをチマチマチマチマ集めていくんです。それをつなげて覚えて、最後に録る。だから、ギター・ソロを作る時は、めちゃめちゃ上達します(笑)。
弾く時に特定のギタリストを思い浮かべることはありますか?
ギター・ソロだとけっこうありますね。僕はソロを作る前に、必ずドリーム・シアターの「Another Day」を聴くんですよ(笑)。
僕の中のゴッド・ギター・ソロで、シュレッドと味、パッションのバランスが完璧なんですよね。いちギタリストとして、最初から最後まで速弾きしているのは“ちょっと……”という感じで、バランスを凄く意識しているので。
ルーティンみたいな?
そうですね(笑)。意外と大切にしています。で、ニュアンスの面だと、マテウス・アサトやガスリー・ゴーヴァンが好きで、チョーキングやパッキリ弾くところは影響を受けています。
今作の中で、最も気に入っているギター・ソロは?
ギター・ソロはいっぱいあるんですけど、「いつか僕らは~I Left My Heart in Rausu~」のアウトロですね。
サブ・タイトルにもあるんですけど、僕の地元の羅臼は、世界自然遺産で自然豊かな場所で。“音楽でそこを目指したい”っていう、1つの目標があるんです。
この最後のアウトロは、その思いにギターが乗っかってくれたような気がしていて。どこまでも果てしなく続いていく壮大な感じだったり、僕の中では知床の空を飛んでいるようなイメージがあるんです。
ギターが音楽につながってる瞬間で……“この曲を完成させるために必要なギター・ソロだった”って思っているので、特別なソロですね。
“ギターの魅力をたくさん詰めた”って自信を持って言える
使用ギターについても教えて下さい。
基本的にはShikagawa Musical InstrumentsのTLタイプで弾きました。ただ、「明日で待ってて」のイントロがシングルコイルだと線が細くなっちゃうのと、「たいしたもんだよ」のサビで音の壁が欲しくて、ハムバッカーのギターを使いましたね。それは、お借りしたESPのVIPERとギブソンのレス・ポール。アコギはTaylorで、ガットはK.Yairiです。
メイン・ギターのTLタイプについて聞かせてもらえますか?
あれはShikagawaさんのところにあったプロト・タイプで、最初は貸してもらったんです。キハダっていう木を使っている情報だけ、なぜかうちのお母ちゃんから入手しました(笑)。
ほかのギターと比べると、より素直な音という印象で、その分弾きこなすのが少し難しかったですね。
アンプやエフェクトは?
宅録がメインで、だいたいラインで録っています。そこから、ミックスの時とかにも色々しているらしいんですが、あまりよくわかってないです(笑)。
ハムバッカーを使った時は“かけ録りしましょう”ってなって、SUHRのRiot Distortionを借りて、フェンダーのTwin Reverbで鳴らしたかな?
あと、「いつか僕らは~I Left My Heart in Rausu~」のギター・ソロも、Twin Reverbで録りました。だから、ここだけ全然音が違くて、それが好きですね(笑)。
自宅で録音する時は、どういう環境でやっているんですか?
オーディオ・インターフェースはオーディエント(AUDIENT)のiD22で、DAWはSonarです。モニターする時は、ニューラルDSPから出ている、プリニっていうギタリストのシグネチャー・アンプのモデリング(Archetype: Plini)を使っています。ずっとプリニが好きなんですよ。で、エフェクトはリバーブくらいですね。
ライブではHELIXを使っていましたよね?
そうですね、ライブの時はアンプとおさず、HELIXからラインで出力しています。それまでマルチ・エフェクター、ムーアー(MOOER)のGE200を使ってたんですけど今はHELIXを導入して。でも、まだ買ったばかりで、できることを把握できていないですね。
さて、今作はギター・ソロが満載で、かなり難易度の高いフレーズが盛り込まれています。森さん的にコピーにチャレンジしてほしい曲を選ぶなら?
「台風の目」を弾いて欲しいです。これはアコギですけど、エレキで弾いてもかっこ良い。リズムも豊かでキャッチーさもあって、自分も大好きなフレーズなので弾いてほしいですね。
最後に、本作を作り終えた感想を一言お願いします。
アコギ・ソロをめちゃくちゃ頑張ったんですよ。自分でも信じられないくらい、よくわかんないことをやっていて。「すれ違ってしまった人達へ」、「台風の目」、「歌になりたい」は、アコギでエレキみたいなことをやっている。それを聴いてほしいですね。
このアルバム1枚の中に“ギターの魅力をたくさん詰めた”って自信を持って言えるような気がしていて。“やっぱりギターって、最高だぜ!”と伝えたいですね。
森 大翔1st Tour「Mountain & Forest」公演概要
- 2023年11月17日(金)/札幌PLANT
- 2023年11月22日(水)/渋谷WWW
- 2023年11月24日(金)/梅田 Shangri-La
※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や公演詳細は森 大翔公式HPをチェック!
作品データ
『69 Jewel Beetle』
森 大翔
A-Sketch/AZNT-75/2023年5月31日リリース
―Track List―
- Prologue〜drift ice〜
- たいしたもんだよ
- 剣とパレット
- 明日で待ってて
- オテテツナイデ
- すれ違ってしまった人達へ
- 歌になりたい
- 台風の目
- 最初で最後の素敵な恋だから
- いつか僕らは〜I Left My Heart in Rausu〜
- Epilogue〜evening calm〜
- 日日(CDのみ収録)
- 君の目を見てると(CDのみ収録)
―Guitarist―
森 大翔