ジミ・ヘンドリックス自身がペイントした最後のギター 1967年製ギブソン・フライングV ジミ・ヘンドリックス自身がペイントした最後のギター 1967年製ギブソン・フライングV

ジミ・ヘンドリックス自身がペイントした最後のギター 
1967年製ギブソン・フライングV

ジミ・ヘンドリックスとギブソンの関係を紐解く特集『ジミ・ヘンドリックスとギブソン〜天才ギタリストが老舗ブランドに求めたもの〜』。1本目はサイケデリック柄にペイントされた、印象的な1967年製フライングVとの物語。

文=fuzzface66 Photo by Tom Copi/Michael Ochs Archives/Getty Images

ジミが初めてステージに起用したギブソン

ジミにとって初のギブソン製ギターであるこのフライングVは、1967年7月初旬にニューヨークで入手したと思われる(モンタレー・ポップ・フェスティバルでの鮮烈なアメリカ凱旋から、まだ2週間ほどである)。おそらくデビュー前からの行きつけだった、マニーズ・ミュージック・ショップあたりで購入したのではないだろうか?

アメリカ全土にまでいたる活動範囲の広がりと、憧れであるブルースの巨匠の1人、アルバート・キングを意識して投入したと思われる1本だ。

フライングVを手にするジミ・ヘンドリックス
1967年8月15日、米LAのフィフス・ディメンション・クラブでの写真。

購入後すぐにジミ自らがマニキュアなどでサイケデリック柄のペイントを施しており、ジミのペイント・ギターとしてはこれが3本目かつ最後の作品である(1本目はロンドンのサヴィル・シアターで破壊されたキャンディ・アップル・レッドのストラトキャスターで、2本目がモンタレーで燃やされたフィエスタ・レッドのストラトキャスター)。

レコーディングで使用された可能性も?

このフライングVは、1967年7月5日のNYセントラル・パーク公演から使用開始したと思われる。当日の滞在先ホテルで行なわれたフォト・セッションの1枚には、はにかんだ笑顔で、まだ弦も張られていない真新しい状態のペイント・フライングVを掲げるジミが写っている。

そのすぐあと、悪名高きマネージャー、“マイク・ジェフリー”がザ・モンキーズとのミス・マッチなパッケージ・ツアー公演(7月8日~16日)をブッキング。ここでの写真にも、モンタレー公演の序盤でも着用していたサイケデリック柄のジャケットを羽織り、頭にスカーフを巻いたジミがこのペイント・フライングVをプレイしている姿が残っている。

しかし、モンキーズ目当てのロー・ティーンおよびその保護者たちの目には、とてつもなく奇抜で異様な光景に映っていたことだろう(客層があまりにも違い過ぎるため、ジミたちは早々にこのツアーを降りた)。

そして、使用開始時期が「The Burning Of The Midnight Lamp」、「The Stars That Play With Laughing Sam’s Dice」のレコーディング期間とも重なっているため、これらのナンバーのどこかでこのフライングVが使用された可能性も否定できない。

同ナンバーがA/B面となってシングル・リリースされて以降にプロモーションとして出演した、ドイツやフランスのTV番組では、ほぼこのフライングVを使用している(ただし、いずれも生演奏ではなくレコード音源に合わせたリップ・シンク・パフォーマンス)。

ペイント・フライングV、その後

ステージでの使用は、モンキーズとのツアーの失敗を仕切り直すかのように組まれたクラブ・ギグ(ザ・サルヴェーションやザ・カフェ・ア・ゴー・ゴー)から再開。イギリス、スウェーデン、フランス、そして翌68年2月から始まった大規模なアメリカ・ツアーの中盤頃までプレイしている。

おもに「Catfish Blues」などのブルース・ナンバーで多用していたが、4月に入ってからジャズマスターやレス・ポール・カスタムなどがサブ器として投入され、そのタイミングで使用されなくなった。

その後このフライングVは、1969年1月にミック・コックスへと譲渡される。当時ジミがマネジメント・サイドからプロデュースを頼まれていた、アイルランド出身のバンド、エール・アパレントのギタリストだ。そして、ユーライア・ヒープのケン・ヘンズレーの手へとわたった。

しかしなんと、どこかのタイミングでジミが施したペイントの上から真っ黒にリペイントされてしまっていたのだ。

そこで、ザ・ケイン・ギャングの元メンバーでロック・スター・ギターズの創設者であるデヴィッド・ブリュースが、指板の傷や模様などからこのフライングVを特定し、当時の写真家やレストア職人、アーティストなどに依頼してジミが使用していた頃の状態へと見事に復元。現在でも欧米を中心にギター・ショウやミュージアムなどで展示が行なわれているという。

また、2006年には、この復元されたフライングVを雛型にしたリイシュー・モデルがギブソン・カスタムショップの“Inspired by”シリーズとしてリリースされた。