新世代のプログレッシブ・フュージョン・バンド、アーチ・エコーが新作『Final Pitch』をリリース。本作はテクニカルなアプローチや複雑なアレンジが満載だが、あくまでも主役となるキャッチーなメロディは損なわない、絶妙なバランス感覚が見事な1枚に仕上がっている。ということで今回は、ギタリストのアダム・ラフォウィッツとアダム・ベントレーの2人に、制作の話や使用機材などについて詳しく聞いていこう。
質問作成/文=福崎敬太 インタビュー/翻訳=トミー・モリー
※同名のため、実際のインタビュー中の“アダム”という発言は“ラフォウィッツ”もしくは“ベントレーと表記した。
リターン・トゥ・フォーエヴァーのライブを観た時は、凄まじい音楽に触れた気分になったよ
──アダム・ラフォウィッツ
ベントレーさんは2019年にジャクソン・ギターについてインタビューした以来ですね。今回はまず、初登場となるラフォウィッツさんの音楽的な経歴から聞かせて下さい!
アダム・ラフォウィッツ(以下:R) OK! 僕は6歳の頃にプレイし始めて、2023年で31歳だから……長いよね(笑)。最初はAC/DCやレッド・ツェッペリンといったクラシック・ロックに影響を受けたよ。
フュージョンやメタルなどとの出会いは?
R 僕の父(アイヴァン・ラフォウィッツ)がキーボーディストで、彼がよく聴いていたハービー・ハンコックやマイルス・デイヴィスが入り口だった。特に、16歳の時にリターン・トゥ・フォーエヴァーのライブを観た時は、凄まじい音楽に触れた気分になったよ。
チック・コリア(k)、スタンリー・クラーク(b)、レニー・ホワイト(d)、アル・ディメオラ(g)の初期ラインナップの時だけじゃなく、フランク・ギャンバレにギターが交代して、ジャン・リュック・ポンティがバイオリンとして加わった時も観たんだ。
英才教育ですね(笑)。
アハハ(笑)。でも本当に、あのクリエイティブさを目の当たりにして、自分が追求する道が決まったようなものだよ。
それからギタリストとしてのキャリアを求めてバークリー音楽大学に進学し、ファンク・メタルのバンドを組もうとする友人と出会ったんだ。それまでの僕はファンクやフュージョンに馴染みはあったけど、メタルは弾いてこなかった。それで、20歳の時にジョーイ(イッゾ/k)とジョー(カルデロン/b)と一緒にサウンド・ストラグル(Sound Struggle)というファンク・メタル・バンドを組んだんだ。
で、卒業後にジョーイとバンドを組もうということになって、ベントレーとジョー、そしてリッチー(マルティネス/d)に加わってもらった。それからは知ってのとおり、アーチ・エコーでプレイしながら、ギターを教えているって感じだね。
さて、新作『Final Pitch』の話に入る前にもう1つ聞かせて下さい。2022年にドリーム・シアターのツアー“TOP OF THE WORLD TOUR”への参加がついに実現しましたね。それぞれにとってどういう体験だったか教えてもらえますか?
B クルーやトラックの数が違ったし、スケジュールもかなり詰まっていて、すべてにおいて準備されている感じだった。僕らみたいな小さなバンドが見習うべきことがたくさんあったね。良い意味で圧倒されたうえに、“もっとプロフェッショナルにならなきゃ!”って大きな刺激を受けたよ。それはパフォーマンスに関することだけじゃなく、そこにいたるまでの準備も含めてね。
R 相当な経験をさせてもらったし、僕らはベストを尽くしたよ。彼らはみんな素晴らしい人たちで、ジョーダン(ルーデス/k)なんて僕たちとの制作を申し出てくれた。
「Aluminosity」ですね?
R そうだね。以前からジョーダンと僕はつながりがあって、何度か彼から音楽のアイディアを送ってもらい、“2日あげるからギターを入れて送り返してくれ!”みたいな感じでビデオを作ったこともあった。だけど、ツアーをとおして僕ら全員と仲が深まって、「Aluminosity」での共演が実現したんだ。彼は次世代の若いアーティストにも手を差し伸べてくれる素晴らしい人物だよ!
今作はこれまでとは異なる分野にも足を踏み込んだ気がする
──アダム・ベントレー
新作『Final Pitch』はテクニカルでプログレッシブな要素が多くありながらも、とてもキャッチーなメロディで構成されたアーチ・エコーらしい1枚です。まず最初に、制作を終えた感想から聞かせて下さい。
R バンドとしての自然な進化も感じるし、個人的に満足しているよ。ベントレーはリフを中心に多くの作曲を担当していて、かつてとは違う新しいものも生み出してくれたよね。
B 今作はこれまでよりもオープンに向き合ったものが多くて、今までとは異なる分野にも足を踏み込んだ気がする。「SUPER SUDDEN DEATH」はまさにそうで、強烈なまでにキャッチーなメロディ・パートがあって、テクニカルなプレイよりも記憶に残るだろう?
僕はラフォウィッツほどテクニカルなプレイはできないから、自分の強みをどう発揮できるか考えた結果、曲の構造を考えることなどにつながったんだ。
R そうは言っても、彼もかなりテクニカルなプレイヤーだよ。リフはかなり独創的だしね。僕らはツールとして十分なテクニックは持っているから、1stアルバムの頃から作曲の重要性を意識しているんだ。
タイトル・トラックがボーカル曲なのには驚きました。アンソニー・ヴィンセントのメロディアスな歌とハードで複雑なアレンジがマッチしていますね。
B この曲は何年も前に書いたもので、構造やカウンター・メロディはインストゥルメンタルな形ですでに存在していたんだ。僕ららしくなるようにジョーイと僕で色々と試してみたんだけど、どうもうまくいかなくてね。
それで、“いっそのこと誰かに歌ってもらわない?”という感じになったんだ。ジョーイが個人的にアンソニーと知り合いだったこともあって声をかけたんだよ。
R でも最初のリフはドリーム・シアターとのツアー中に思いついたんじゃなかったっけ? ボストンでジョーとジョーイが曲の前半部を作って、君がサビの部分を持ってきたんだよね? イイ感じの共作になったよ。
B あぁ、そしてブレイクの部分を俺たちで作ったんだよね。
パートごとにそれぞれで作っていくんですね。先ほど話に出た「Aluminosity」はジョーダンのソロにつながるまでの展開がスリリングで素晴らしいものですが、これはどういう流れで作られていったのでしょうか?
R この曲は、メロディやソロよりも先に、構造ができあがっていたんだ。で、最初にソロを入れたのはジョーダンだった。だからそれを受けてから加えていったアイディアもあったし、そこからどこまで持っていけるかを考えていった。僕の場合、ソロを入れるのって最後になることが多いんだよね。
B 君がソロをプレイする部分はリッチーのドラムが盛り上げていて、それに呼応するようにリズミカルなフレーズをプレイしているよね。
こんな具合にいくつかのステップが絡み合っていて、ほかの楽器による偶発的な装飾からメロディやソロが触発されることもあるんだよ。
最も大事なのはビブラートとアタック感だね
──アダム・ラフォウィッツ
キャッチーなメロディを重要視する一方で、テクニック、プログレッシブな構成、ヘヴィな要素などのバランスはどう考えていますか?
B 僕がよく考えているのは“何を補うべきか”。例えばたくさんのヘヴィなものがプレイされている時は、少し落ち着いたものや美しいものを欲する時もあるし、その逆も然りだ。
もしメロディックな曲なら、ヘヴィなものを投入してコントラストを出そうとする。「Aluminosity」はそういう風に考えていて、壮大で密度のあるメロディックな曲だけど、エンディングに向かってダークになっているんだ。
やっぱりインストゥルメンタル音楽だから、聴き手を引き込む要素が必要なんだよ。シンガーがいてその歌唱法を変えさせるのとは話が違うのさ。
ギターにおける歌唱法というと、アーティキュレーションの付け方は特に重要だと思います。“どう歌わせるか”という点において、意識していることはありますか?
R 最も大事なのはビブラートとアタック感だね。アームを使ったりもするし、タッピングをするにしても、音をタップするだけじゃなくてベンドさせたりもする。
ギターでエモーショナルなものを表現するうえで、ピッチを揺らすっていうのは有効な方法なんだ。ベンドしたあとにスライドを組み込むっていうのもあるよね。
で、自分で“これだ!”という感覚が得られるまで、20通りくらいの弾き方を試して、メンバーに“こんな感じはどう?”って聞くこともある。これはソロをプレイするにしても同じことで、自分では気づかなかったことを指摘してもらえた時は、ちゃんとメモることにしているよ。
「Battlestar Nostalgica」や「Cloudsplitter」など、複雑なリズム・アレンジも多いですが、これらはどのように考えていますか?
R “どうカウントするんだ?”なんて意識することはほぼないね。「Battlestar Nostalgica」だったら、4/4のようにアプローチしながらも、32分音符の音を何個か追加で挟み込むような感覚でチャレンジしている。
B 僕らはあらゆるリズムの感覚を自然と身につけてきたんだと思う。一般的に複雑なリズムと呼ばれるようなタイプの音楽をたくさん聴いてきたからね。
では、変拍子でソロ・プレイをする際はそこまで拍を意識せず、リターン・トゥ・フォーエヴァーのようなバンドを聴いて培った感覚で自然と弾いている?
R そうだね。自分の中で解釈をしながら感じているという感覚かな。例えばEP『Story I』収録の「Strut」という曲では15/8でプレイしているパートがあるんだけど、ここのリズムはリッチーにドラムのアイディアを求めた時に作ってもらったんだ。それで、ジョーイと“これでなんとかしようぜ!”ってコード進行を考えて、ジョーから“タッピングを入れてみてくれ”と言われたからやってみた。
そうしたら、“これってどうカウントするんだ?”っていうフレーズになって、無理やり頭の中でグルーピングしたんだけど、ヘンな感じがするんだ。そこで、結局は感じて理解すれば良いってことに気づいたんだよ。
B 要はグルーヴを感じられるかで、そこに違和感があればそれは違うってことだ。そのうえでキチンとフレーズが乗っていて聴けるものであれば良いってことだね。
ニューラルDSPは革命的なテクノロジーを持っているよ
──アダム・ベントレー
使用機材についても教えて下さい。
B 僕はジャクソンのDinky Modern EverTuneの7弦モデルで、ブリッジが固定されているものとフロイドローズのものをそれぞれ使ったね。後者はおもにソロでプレイしていて、両方ともツアーに持っていくお気に入りだよ。
R 僕は2014年からストランドバーグを使い続けていて、フィッシュマンのFluenceピックアップを搭載したPROG NX 7と、特注のBoden 7をおもに使ったね。
あとは日本のSAITO(サイトウギターズ)のクラシックスタイル(S-622CS)もかなり気に入って使っている。僕らはともに1本ずつ持っていて、良く出来たグッドなサウンドのギターなんだ。
アンプやエフェクトはどういったものを使っていますか?
R フラクタル・オーディオ・システムズのAxe FxII XL+(ギター・プロセッサー)を使ってほぼすべてのサウンドを作っているね。フリードマンのHBEとBEモデルをリード・プレイでよく使った。ライブではその2つをブレンドしているんだ。で、クリーンにはDeluxe ReverbやVibroluxのモデルを使ったかな。
ただ、数週間前にAxe FxIIIを手に入れて、ダンブルのODS100によるダイナミックなサウンドを楽しんだり、色々と試しているところなんだ。実は父のアルバムでダンブルの実機を弾く機会があってね。グレイトなアンプだけど、3万5千ドルも払えないから……(笑)。
エフェクトは、テープ・ディレイによってハイを少し削ってローを通すことで邪魔しないサウンドを作り出すのが好きで使っているね。
B 僕のトーンは基本的にニューラルDSPのアンプのプラグインで作っている。彼らは革命的なテクノロジーを持っているよ。Quad Cortexも素晴らしいと聞いているからいつか欲しいね。
アンプ・モデルは5150や5153といったマーシャルをベースにしたものを使ったね。リズムはほとんどが5150かな。リードはハイゲインに設定したヘッドにTS系の歪みを組み合わせて、そのうしろにエフェクトを加えたりしたよ。
4分音符のモジュレーション・ディレイや、ピッチがちょっと揺らぐテープ・ディレイ、あとリードをプレイする時に上下のオクターブ音を加えるのが好きで、そういったプレイも多いと思う。
さて、ベントレーさんはサウンド・エンジニアとの両立のためにツアーから離脱するそうですが、9月の来日公演には来てくれるんですよね? 最後に来日公演への意気込みをそれぞれ聞かせて下さい!
B うん、それに関しては絶対にプレイしに行くよ。単独公演は僕らを目当てで1曲でも多く観たい人たちが来てくれるからね。
それに僕たちの音楽はインストゥルメントだから、言葉の壁を超えられるんだ。僕たちは日本語は喋れないけれど、オーディエンスと対話ができる。これは僕たちなりの楽しみ方だね。
R 僕らの単独公演だから新譜からたくさんプレイするし、昔の曲も数曲プレイするよ。僕はサポート・アクトのジャック・ガーディナーとオウェイン(ジャック&オウェイン)のファンだから、彼らがどんなプレイをするのか楽しみだね。前回の日本でのライブも素晴らしかったから楽しみでしょうがないよ!
作品データ
『Final Pitch』
アーチ・エコー
VAG/ZLCP-0428/2023年7月28日リリース
―Track List―
- Angry Sprinkles
- Aluminosity (feat. Jordan Rudess)
- Red Letter
- Final Pitch (feat. Anthony Vincent & Adrian Terrazas-Gonzalez)
- Cloudsplitter
- Battlestar Nostalgica
- Bet Your Life
- Gold Dust
- SUPER SUDDEN DEATH
―Guitarists―
アダム・ラフォウィッツ、アダム・ベントレー