Ichika Nitoが語る、Diosのギタリストとしての個性 Ichika Nitoが語る、Diosのギタリストとしての個性

Ichika Nitoが語る、Diosのギタリストとしての個性

Diosの新作『&疾走』は、たなか(vo)、ササノマリイ(k)、そしてIchika Nito(g)という、それぞれが異なるキャラクターを持つメンバーたちの強い個性がぶつかり合い、拮抗した絶妙なバランスで共存した1枚だ。ソロ・アーティストとしても世界を股にかけるIchika Nitoに、自身の活動から新作の制作や各楽曲のこだわりまで語ってもらった。

インタビュー=福崎敬太 ライブ写真=Yukitaka Amemiya

当時自分が憧れていた場所にいるんですけど、自分の心はまだそこにない

Ichika Nito

ギタマガWEBが始まってすぐの頃に奏法動画記事でご一緒した以来です。どんどん世界的なギタリストになっていますね……。

 あはは(笑)。来年(2024年)にはスティーヴ・ヴァイのギター・キャンプ(ヴァイ・アカデミーの企画)に参加することになったんですよね。ヴァイとマテウス・アサト、ポリフィアのティム・ヘンソンとスコット・ルペイジとかと一緒に。

おぉ、すげぇ……。ここ数年で世界からの評価が一気に高まっていったと思いますが、Ichika Nito(以下Ichika)さんご自身ではどのような変化を感じていますか?

 それこそ3年前くらいは、まだ“新進気鋭の面白いギタリストが出てきたな”っていうくらいだったんですよ。それが、ある程度中堅どころになってしまって……。

あはは(笑)。

 インスタのフォロワーも100万人を超えて、当時自分が憧れていた場所にいるんですけど、自分の心はまだそこにないんですよね。まだ当時の駆け上がっている状態なんです。なので、現状の立ち位置と自分の気持ちがマッチしていなくて、その壁を破りたいっていう状態なんですよね。

Ichikaさんが理想としているのはどんなギタリストですか?

 あまり既存のギタリスト像というものにとらわれず、ただ自分の音楽をギターをとおして自由に表現したいんです。

今、国外での活動はどのように考えていますか?

 ファンが一番多い国が、今も昔も変わらずUSAなんです。その次がインドネシアを始めとしたアジア周辺国で、ヨーロッパが続いていく。USA以外にもアプローチしていけば、もっと自分の音楽を好きになってくれる人が増えてくれると思っていて。

 で、インターネットを通じた活動だけでは限界があるので、まず近いアジアから現地でライブをしてみようっていうことで演奏して、実際さらにファンを獲得できてきたんですよね。

Ichikaさんのソロ活動では、2023年9月にヨーロッパ・ツアーもありますよね(取材は2023年8月)。

 ヨーロッパに行くこと自体が初めてなので楽しみです。ノスタルジーを感じるコードの響きの美しさとか、そういう自分の音楽性はヨーロッパの人たちに刺さるんじゃないかなって思っているんですよ。それを実際に聴いてもらえるのが嬉しいですね。

Ichika Nito

3人が1つの生命体として成長していっている感覚がある

2ndフル・アルバム『&疾走』は前作『CASTLE』に比べて、よりメンバーそれぞれの個性が生きた形で一体感が生まれたような印象を受けました。Ichikaさん個人としてはどのようなアルバムに仕上がったと感じてしますか?

 前作までは、3人の個性を1つの曲に落とし込もうとするがあまりに、それぞれの特徴が削れて、平坦なつるっとした音になりがちで。それはそれで曲としての完成度は高いんですけど、せっかくの3人の個性が整えられてしまって、もったいなかったというか。

 なので、今回はテトリスのように無理やりはめていくわけではなく、いびつな形になろうとも、個性をちゃんと残そうっていうのがテーマとしてあったんです。そういったことが「自由」や「&疾走」、「Struggle」でしっかりと反映できたかなって思っています。

Ichikaさんはフィーチャリングなどでバンドの中で客演することも多いですが、Diosという自身のバンドでのプレイは、それらとどのような違いがありますか?

 やっぱり自分のバンドでやっていくというのは、長い時間をかけてお互いを知っていって、そこから生まれる阿吽の呼吸ができてくる。なんとなく、3人が1つの生命体として成長していっている感覚があるんです。これはショットで入って仕事としてギターを弾く、というのでは得られない感覚や経験だと思う。なので、この“生き物”としてじゃないとできない自分のプレイはあると思っています。

それぞれが1人でも曲を完成させられるメンバーですが、作曲からアレンジはどのような流れで進むんですか?

 色々な方法があるんですけど、半分くらいは僕のギターからで。インスタで出しているようなソロ・ギターで、メロディやコード、リズムをピアノ・ソロのような形で作って、ササノマリイ(k)に渡すんです。それを彼がカットアップしたりいじったりして、1コーラス分のトラックになって、そこにたなか(vo)が歌詞とメロディを載せる、っていう流れ作業のように形になっていきますね。

 そこから、トラックを僕が見直して、ササマリが手直しをしたり。たなかが歌のレコーディングをしたあとに、それに合わせてまたトラックを調整したりもします。3人で重ねて、重ねて、という感じですね。

Diosでのバッキングはまだ模索中なんです

Ichikaさんはギターのフレーズを考える時に、情景を思い浮かべながら作ると言っていましたが、そのイメージはメンバーと共有するんですか?

 いや、何も共有しないです。あえて伝えないことで、あまり世界観を固めず、各々が音だけを聴いて感じた世界観を乗せてほしい。

それで思いがけない世界観になった曲はありますか?

 世界観というところとは違うかもしれないですけど、「Struggle」という曲。

 流れとしては、たなかのラップに合わせて僕がギターを弾いて、“VS”みたいな形にしてからササマリが臨場感を持たせるようなトラックを作るっていう流れだったんです。

 で、歌もラップでサビっぽい部分がないので、ササマリもセクションのアタマがどこかがわかりづらかったみたいで。そしたら、僕が意図していたところとズレたところでサビが始まっていたんです。

サビではないと思っていたところがそうなった?

 いや、そうではなくて。僕としては3小節目だったところをセクションの1小節目としてトラックを作っていたんです。だから、コード進行の認識とかも全然変わってしまって。僕は違和感が凄くあるんですけど、結果的に良かった。

そういう違和感は全然感じませんでしたが、そうすると弾きづらいですよね?

 そうなんですよ! まだ感覚がズレるから、今、練習していて(笑)。例えば、(弾きながら)A-B-C♯m-G♯mでAがアタマだと思って弾いているんですけど、トラック的にC♯m-G♯m-A-Bっていう流れになっているんですよね。これは綺麗なコード進行なのでまだわかりやすいですけど、「Struggle」はけっこう変なコードを使うので……どうする?って(笑)。

(笑)、それは認識し直すのが大変ですね。その「Struggle」のフレーズはどのように作っていったんですか?

 これは一番最後に作った楽曲で、さっき言った“個性を削ぎ落とさないように”っていうテーマが究極の形になったと思っていて。たなかがラップで全力を出してくれたので、僕は“歌に合わせよう”っていう考えはせずに弾いていったんです。ただただ、思いを書き殴るように、衝動的に作ったようなフレーズですね。

「自由」は左右で2本のギターが絡み合っていますが、このアンサンブルはどのように考えていきましたか?

 ギターは全部で8本くらい入れているんですけど、アルペジオとコードが綺麗に絡むように考えています。ソロだと1本で弾くために制約ができてしまって、弾けないところや表現できないことが出てきてしまうんですけど、それをちゃんと全部を入れられるように分散して弾いた感じです。バンドだからこそできる手法ですね。

「自由」のバッキングでは、献身的にリズムを支えるようなカッティングも聴けます。Diosにおけるバッキング・ギターというのはどのように考えていますか?

 そこはまだ模索中なんです。いわゆるベーシックなギター・フレーズも入れるんですけど、“僕の個性はそこじゃない”って弾いているうちに思うようになってきていて。もちろん僕も弾けますけど、スタジオ系のミュージシャンのほうがうまいし、それに合ったサウンドも試行錯誤した機材で出していると思うんです。だったら得意なことをやろうって。

 で、「自由」や「ラブレス」はその途中で、「また来世」、「花束」、「Struggle」あたりで考えがほぐれてきた印象ですね。アルバムの初期のほうに作った曲は、まだ“バッキングらしいフレーズにのっとって”という考えが少しあった。

たなか(右)、Ichika Nito(左)
2023年8月30日、Spotify O-EASTにて「Struggle」を演奏するたなか(vo/左)とIchika Nito(右)

アルペジオに対する研究熱が上がった感じがあります

「ラブレス」はソロなどもありますが、これはピックを使ったプレイですよね?

 そうです。「ラブレス」もさっき言ったように“途中”なので、“らしいこと”をやってますよね(笑)。ブリッジのソロではアーミングのプレイなども入っているし、今思うと自分らしくないかもしれない。

そうですか(笑)? でも、Diosを始めてからフル・ピッキングやスウィープなど、ピックを使った右手の表現が増えたような印象があります。

 それは増えましたね。最近、ピッキングを練習しているんですよ。バスティアン・マルティネス(Bastian Martinez)っていうチリのギタリストがいて、彼のフレーズを練習しているんです。

(インスタの動画を見る)やばいですね……。ピッキングの練習をするようになったきっかけは?

 僕はフル・ピッキングがめちゃくちゃ苦手で。苦手だっていう理由で敬遠していたんですけど、そろそろ見つめてみようって思いまして(笑)。

さて、前作は「残像」でハープを弾いていましたが、今作では弾いていないですよね?

 ないですね。

ハープを始めてギターにフィードバックはありましたか?

 ありますね。もともとアルペジオが好きなことは自覚していましたけど、漠然としか理解していなくて。よりアルペジオに対する研究熱が上がった感じがあります。

 ギターは6弦だし押さえる指は左手の5本しかないけど、左右10本の指を使って47弦でアルペジオを弾いていると物凄く自由度が高いんです。それで、ギターをもうちょっと拡張したくするために、右手のタッピングで音を足すんですけど、それを前よりちゃんと自覚してやるようになったかな。今までは“音が良いから”、“響きが美しいから”やっていたんですけど、ちゃんと動線が見えるようになったというか。

Ichikaさんは理論的な部分はあまり考えてこなかったと言っていましたが、ハープをやるようになってからも変わらず?

 そこは変わらないです。ハープも楽譜を読んでいるわけではなくて、耳で聴いて弾いているので。今もコード譜を見ながらは弾けないです。

では最後に、Diosとして10月にツアーを控えていますが、意気込みを聞かせて下さい。

 曲が前作からガラッと変わったと思うんですけど、ライブもガラッと変わると思っていて。より3人のフィジカルが生かされるようになると思うし、本当に無理に混ざらない、ぶつかり合っているさまも見てほしいと思っています。

Ichika Nito

作品データ

Dios『&疾走』

『&疾走』
Dios

Dawn Dawn Dawn Records/DDDR-1004/2023年9月6日リリース

―Track List―

  1. 自由
  2. アンダーグラウンド
  3. &疾走
  4. また来世
  5. 花束
  6. Struggle
  7. ラブレス
  8. 裏切りについて

―Guitarist―

Ichika Nito