Ichika Nitoが日本人アーティストとして初めてアイバニーズからシグネチャー・モデルをリリースした、というのは記憶に新しいだろう。2021年に生まれたヘッドレス・モデルのICHI10は、彼の音楽と同様に世界中のギタリストから歓迎された。そして2023年には、彼の代名詞でもあったTalmanをベースに、新たなシグネチャー・モデルとしてICHI00を発表。これらのこだわりを、本人のコメントとともに紹介していこう。
文=福崎敬太 撮影=小原啓樹
Ibanez/ICHI10
初のシグネチャーは“オタク”な仕様に
アイバニーズにとって日本人初のシグネチャー・モデルであるICHI10(読み:イチテン)は、2021年に発売された。世界中で大きな反響があったようで、その人気はIchika Nito(以下Ichika)のファン以外にも広がっていった。その売れっぷりについて本人がこんなエピソードを教えてくれた。
Ichika テキサスに地元の人たちしか来ないようなオールドスクールな楽器店があって。店主のおじさんが“Ichikaっていうのは知らんが、これは人気らしいな”ってことでたくさん仕入れたら、それが全部売れたらしいんです。
僕のことは知らなくても、ギターが面白いから、良いから買ってくれている。楽器として人気になっているのがありがたいです。
こだわり抜いた仕様が、多くのギター・ファンに刺さっているようだ。多種多様なギターを弾いてきた彼は、どのようなポイントを意識して本器を作っていたのだろうか。
Ichika 自分にとっても初めてのシグネチャー・モデルで、日本人初でもある。なので、せっかくならぶっ飛んだことをやりたいと思って、ヘッドレスを選びました。
ほかにも色々無茶を言って、3シングル、24フレット、ヘッドレスっていうオタクなギターになりましたね(笑)。
あと、めっちゃ軽いんですよ。座って弾いていても疲れないし、立って弾くのも凄くラクです。
これを色んな人が手にできるような価格で出せるのは、アイバニーズ以外だとできないですよ。
プレイアビリティにも優れ、さらにコストパフォーマンスの高さも実現している。そのサウンドはどのようにチューニングされているのかを聞いた。
Ichika ソロで使うことをイメージして音を追い込んでいきました。具体的に言うと、ローが膨れすぎずに、ハイの天井が高くて、ミッドの気持ち良い部分も残す。わりとハイファイな音ですね。
タップ・スイッチでミックス・ポジションがシリーズ接続になるんですが、ハムバッカー・サウンドになるというより、シングルコイルとハムバッカーの間くらいの音になるイメージです。
シングルコイル側は重心が軽めになるんですよね。それが馴染みすぎずに、しっかりと際立った音になる。
IchikaがSNSでアップしているようなソロ・ギター・スタイルでの使用を想定したそうだが、Diosでもメイン・ギターとして活躍している。彼自身はどのような使い方をしているのだろうか。
Ichika ミックス・ポジションを使うことが多くて、太くしたい時はフロントとセンターのシリーズにしています。ブリッジとセンターはバンドのリフものなど、アンサンブルに馴染ませたい時に選びます。センターだけを使うことはソロの時にはないですね。
で、トーンは絞っていることが多いです。サウンドシステムにもよりますけど、もともと天井を高く設定したギターなので、過剰に出ているところを下げて使うようなイメージです。ボリュームはフルですね。
Ibanez/ICHI00
自身の“原点”に立ち戻った、新シグネチャー
Ichikaのメイン・ギターの1本として活躍してきたアイバニーズのTalman。2023年5月に発売された2本目となるシグネチャー・モデルは、そのTalmanをベースに作られており、自身の原点という意味を込めて前作ICHI10よりも番号の若いICHI00(読み:イチゼロ)というモデル名がつけられた。
Ichika Talmanを弾き始めてから、「I Miss You」をきっかけに認知が広がっていったんです。このギターが自分のヒストリーの始まりでもあるので、ここで原点に立ち返ろうと。だから、“10”よりも前の“00”をつけたんです。
彼が使用してきたTalmanと比較すると、指板がメイプルではなくローズウッドになり、マッチング・ヘッド仕様になっているのが確認できる。そのほかにはどのような違いがあるのだろうか。
Ichika ピックアップをこのモデル用に作ってもらったんです。ICHI10よりも少しトラディショナルな要素を残そうと思って、ICHI10とTalmanの間を狙った感じですね。
マッチング・ヘッドは色々と試してたどり着いたんです。真っ白ではないビンテージ・ホワイトも気に入っています。
アイバニーズとの共同開発で生まれたオリジナルのICHI-Sピックアップにより、Ichikaの好みのサウンドを実現した。そのサウンドの方向性について本人はこう語る。
Ichika これはかなり悩みました。今回一番大事にしたのは“コードの分離感”で、アルペジオが綺麗に響く楽器にしたかったんです。なので、1〜6弦のバランスを大事にしてもらいました。
綺麗に全部の音が出て、なおかつタッピングの音もちゃんと出る。弦ごとの棲み分けがしっかりするようにチューニングしてもらいましたね。
作品データ
『&疾走』
Dios
Dawn Dawn Dawn Records/DDDR-1004/2023年9月6日リリース
―Track List―
- 自由
- アンダーグラウンド
- &疾走
- 渦
- また来世
- 花束
- Struggle
- ラブレス
- 裏切りについて
- 王
―Guitarist―
Ichika Nito