GLIM SPANKYの新作『The Goldmine』は、2020年の『Walking On Fire』、2022年の『Into The Time Hole』から連なる、ポップスの世界的なトレンドを強く意識した作品群の集大成とも言える1枚だ。今回は、柔軟なアイディアで作品を彩ったギタリストの亀本寛貴に、各楽曲でのアプローチやサウンドメイク、使用機材について話を聞いていこう。
インタビュー=福崎敬太 写真=上飯坂
一番こだわったポイントは、“短いイントロでまとめる”っていうところ
最新作『The Goldmine』は、打ち込みやエレクトロな要素も取り入れた『Walking On Fire』(2020年)、『Into The Time Hole』(2022年)の流れにありながら、オールドスクールな要素も絶妙なバランスで昇華した1枚になった印象です。ギター的にはどのような1枚に仕上がったと感じていますか?
今作は、生楽器か打ち込みか、ギターかシンセかなど、曲に対して良いと思う音を、より自然に選択できたと感じていますね。
あと今作でギタリスト的に一番こだわったポイントは、“短いイントロでまとめる”っていうところで。前作までは、キャッチーなリフのプリ・イントロみたいなものがあって、そこからバンドのイントロに展開してAメロにいく、みたいな構成が多かったんです。前作のリード曲(「シグナルはいらない」)がそうですよね。
イントロを短くしようと思ったのには、何かきっかけがあったんですか?
ここ数年はイントロが短い曲、歌始まりの曲がとにかく多くて。僕も音楽を聴いている時に、バンドの曲でプリ・イントロからイントロBに入った時に“ちょっと消そうかな”って思ったことがあったんです。リスナーとして“この構成はもう良いわ”って。これって、自分の曲にも起こりうるなって思ったんですよ。
今作で短いイントロが効果的な曲を挙げるとしたら?
例えば「Odd Dancer」は、今までならバンドのイントロを歌の前に8小節くらいつけていたと思うんですよ。でも、あのギターのアルペジオで“なんだ?”って思わせていきなり歌にいく。これは今だからこそ作れたものだと思います。
イントロは楽曲の顔でもありますが、短い中で印象的なフレーズを作ることで意識したことは?
まず取っ掛かりとして非常に重要な要素は、インパクトのある音色。あと「The Goldmine」や「Glitter Illusion」がそうですけど、短い尺になってくるとリズムが大事ですね。リズム的にキャッチーで音がヤバければ、曲もヤバくなる(笑)。
「The Goldmine」のリフで4拍目のB♭音からクロマチックで上がるポイントはチョーキングですよね?
この曲は半音下げにしていて、そこは2弦2フレットのチョーキングですね。で、次は6弦開放(E♭)から1フレット、2フレットを押弦しています。
先ほど言っていた、音色やリズムも耳を掴む要素として重要ですが、そのチョーキングによる音程変化もフックになっていると感じました。
単純にチョーキングはギターの美味しい奏法なので、リフとかには絶対に入れる。やっぱりキャッチーに感じますし。それに人間って、カクカクしたピッチよりも、ヌメっと動いているピッチに耳がいくようになっているので、意識的にそういう音を入れていますね。
それに加えて、あそこはファズだけだと単調だったので、フィルターが掛かった音色も入れていて。フィルターで“うにょ〜ん”って鳴っていると、退屈感が緩和されるんですよね。
今作はワウやエンベロープ・フィルターなどのエフェクトが多いですよね。
リズムやフレーズを退屈にさせないためにも多用しましたね。そこでもグルーヴを作るというか。歪んだギターって弾いたら“ジャー”って鳴るだけで、音色としてはグルーヴがない。でもそこにワウをかければ、“ジャーゥワゥワ”ってリズムを作れる。クリーンだったらカッティングとかでグルーヴを作れますけど、なにせ歪ませないと怒られちゃうので(笑)。
そうなんですか(笑)?
はい、松尾(レミ/vo,g)さんに“ファズにして”って言われてしまうので。あとは綺麗なクランチもNGで、“ヤバい倍音”が出ていないとダメなんですよね(笑)。
松尾さんの歌い方と“ピッチが揺れているスライド”は相性が良い
今作は「Glitter Illusion」のオブリや「光の車輪」のソロなど、スライドの登場率も高いですよね。
それも意図的で、まずさっき言ったように、ピッチが動いているものには耳が反応する。あと、松尾さんはメロディをパキパキって移動する歌い方が多いので、それとの対比としてピッチが揺れているものは相性が良い。
それにルーツ感のある奏法で、ゴーが出やすいんですよ。というのも、そこをピッチが動くシンセでやる場合、当然僕らがOKを出せるものにしなくちゃいけないんですけど、それはけっこう大変なんですよね。でもスライドなら僕が弾くので、いくらでも入れやすい。
「ラストシーン」でも一瞬スライドが入ってきますよね?
あ、そうだ! メロディに対して寄り添っていくみたいなスライドですよね。場面転換して、ちょっとエモーショナルなメロディのところにも乗せがちかもしれないです。
「真昼の幽霊(Interlude)」のアコギや「Summer Letter」のシタールっぽい音、「Odd Dancer」のイントロなどに、ビートルズ的な要素を感じたのですが、何か意識した部分はありましたか?
いや、何かインスピレーションがあったというよりは、思いつきでぽんぽん音をはめていく感じでしたね。
「Summer Letter」に関しては、ああいうサイケデリック・ロックみたいなアプローチがエレキとしては必要な曲だっただけで。あのシタールみたいな音も、ストラトキャスターかテレキャスターをライン直で録って、アンプ・モデリングなどもせずに、(ネイティブ・インストゥルメンツの)Guitar Rigについているフェイザーとかを掛けているだけなんです。
「Odd Dancer」のイントロは何のギターで弾きましたか?
リッケンバッカーの12弦ですね。曲中で12弦らしい音はそれで弾いています。ただ、ボーカルとユニゾンしているところは12弦じゃなくて、エレクトロ・ハーモニックスのシタール・シミュレーター(Ravish Sitar)をラインで録って、それをいっぱい重ねています。あれは自分的にはけっこう好きなアプローチでしたね。これはサイケデリックかどうかとは関係なく、ロックの曲でボーカルのメロディをよりパンチーに聴かせるのに良いですよ、みなさん(笑)!
「真昼の幽霊(Interlude)」は松尾レミさんによる演奏ですが、アコースティック・ギターによるインスト曲ですので、この曲についても聞かせてもらえますか?
アルバムの1曲1曲がメッセージや展開もしっかりあるものなので、どこかに水を飲むタイミングが欲しいと思っていたんです。良い曲だらけだとしても、10曲くらい聴くのってちょっとキツいんですよね。
で、「Summer Letter」のオープニングにアコースティックのパートを入れたいと言っていたので、それを並べて入れたら雰囲気が変わって良いのかなと思っていたんです。それで録音することになったんですけど、松尾さんが家でデモを作ってきてくれて。それを聴いたら凄く演奏が良かったんですよ。
3本くらい鳴っていますけど、どれも良い塩梅で混ざっていて、緊張感や窮屈さもなくリラックスした感じで自然体に音を鳴らせている。“今からクリック流しながら録ります”ってやっても、これより良いものになる気がしなかったので、そのまま収録することにしたんです。
誰かGuitar Rig 7の使用感を教えて下さい(笑)!
では使用機材について、まずはギターから聞かせて下さい。
ES-345とレス・ポール・カスタムが多くて、フェンダー系を使いたい時はローディさんのストラトキャスターとテレキャスターを借りましたね。トゥルースのJMタイプは、「光の車輪」のカラッとしたメインのエレキで使っていたかもしれないです。
あと多用したのは、61リイシューのギブソンSGスタンダード。松尾さんが借りているものなんですけど、使ってみたら弾きやすくて良い感じで。半分くらいのギター・ソロはSGで弾きましたね。実はMVでも結局そのギターを持っているという(笑)。
そのSGが活躍した曲を挙げるとすると?
「Summer Letter」のギター・ソロ、あとは「The Goldmine」もメインはSGですね。ファズを使った太いサウンドはSGが多いです。
アコギは何を使いましたか?
「真昼の幽霊(Interlude)」と「Summer Letter」は、ローディさんが持っているエピフォンのTexan FT-79。あとは自分のギブソンJ-45とHP 835 Supreme、松尾さんのHummingbirdも使っていますね。
アンプやペダルはどうですか?
アンプは、メインのファズとかを掛ける時はSHINOS(SW-1 THE BUILDING)が多くて。バッキングを録る時は、フェンダーの’57 Deluxe “Knotty Alder”とトーン・キングのMetropolitan。あとはマーシャルのJCM800も使いました。
ファズはオーガニック・サウンドのOrga Toneとマンレイ・サウンドのRonno Benderっていうトーン・ベンダーMK1のクローン、あとはEQDのBlack Ash。オーバードライブはBenson Preampくらいです。
エンベロープ・フィルターはプラグインということですが、ワウなどは?
フィルター系はプラグインで、ワウはゲイリー・クラークJr.モデルのCry Baby(GCJ95)。ピッチシフターはWhammyですね。
ギター関連のプラグインやソフトウェアでお気に入りは?
デモの時はネイティブ・インストゥルメンツのGuitar Rigが好きで使っていますね。あとは気分でUADのツイードのモデリングもたまに使いますけど、それは変な音を狙った時くらい。色々とデモを試してはいるんですけど、ピンとくるものがないんですよね。
逆にプラグイン系で良いのがあったら教えてほしい。あと、Guitar Rigもバージョン7になったんですけど、それで良くなったっていうのを知っている人がいたら教えてほしいんですよね。新しく増えたエフェクトでめっちゃ良いのがある、とか聞きたいんですけど、周りに使っている人がいなくて。
本記事を読んでくれた方からのコメントを待ちましょう!
誰か使用感を教えて下さい(笑)!
(笑)。さて、『Walking On Fire』からの3部作という感覚もありますが、改めて完成した感想を聞かせて下さい。
前の2枚を作り終わった時は“よし、次はこう!”っていう感じでしたけど、今回は“さて、次はどうしよっかな”っていう感じで。仕上がりのサウンドも満足度が高くて達成感があるんですよ。次はまた違う、グレードアップしたところにいける感覚が、今はしていますね。
11月のリリース・パーティーのあと、2024年1月から本格的に“The Goldmine Tour 2024”が始まります。最後にツアーに対する意気込みを聞かせて下さい。
新型コロナ・ウイルスが5類に移行するっていう時期に制作していたので、“これは盛り上がり必至の曲を入れなくちゃいけない!”って思っていて、そういう雰囲気が出ていると思うんです。で、ライブのアレンジも一生懸命に再現するというより、パフォーマンスも含めてみんなで一緒に楽しめるものにできたらいいなって思っています。
The Goldmine Tour 2024
- 2023年11月30日(木)/東京・恵比寿 LIQUIDROOM ※The Goldmine Release Party
- 2024年1月20日(土)/神奈川・横浜ベイホール
- 2024年1月27日(土)/高知・X-pt.
- 2024年1月28日(日)/愛媛・松山サロンキティ
- 2024年1月30日(火)/香川・高松DIME
- 2024年2月01日(木)/滋賀・滋賀U☆STONE
- 2024年2月03日(土)/鹿児島・CAPARVO HALL
- 2024年2月04日(日)/熊本・熊本B.9 V1
- 2024年2月06日(火)/静岡・浜松窓枠
- 2024年2月09日(金)/千葉・柏PALOOZA
- 2024年2月10日(土)/福島・郡山HIPSHOT JAPAN
- 2024年2月15日(木)/鳥取・米子AZTiC laughs
- 2024年2月17日(土)/岡山・YEBISU YA PRO
- 2024年2月18日(日)/広島・広島CLUB QUATTRO
- 2024年2月20日(火)/京都・磔磔
- 2024年2月24日(土)/新潟・NIIGATA LOTS
- 2024年2月25日(日)/石川・金沢EIGHT HALL
- 2024年3月01日(金)/北海道・札幌PENNY LANE24
- 2024年3月03日(日)/宮城・仙台Rensa
- 2024年3月08日(金)/福岡・DRUM LOGOS
- 2024年3月10日(日)/愛知・名古屋市公会堂 大ホール
- 2024年3月20日(水祝)/大阪・NHK大阪ホール
- 2024年3月24日(日)/東京・日比谷野外大音楽堂
- 2024年3月30日(土)/⻑野・⻑野市芸術館 メインホール
※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や詳細は公式HPをチェック!
GLIM SPANKY 公式サイト
http://www.glimspanky.com
作品データ
『The Goldmine』
GLIM SPANKY
Virgin Music/TYCT-60219/2023年11月15日リリース
―Track List―
- The Goldmine
- Glitter Illusion
- 光の車輪
- ラストシーン
- 真昼の幽霊(Interlude)
- Summer Letter
- Odd Dancer
- 愛の元へ
- 不幸アレ
- Innocent Eyes
- 怒りをくれよ (jon-YAKITORY Remix)
―Guitarist―
亀本寛貴