米国ビルボードによる、音楽業界に携わる女性たちに光を当てたイベント“Billboard Woman In Music”。その日本版オムニバス・ライブ・イベント“Billboard JAPAN Women In Music vol. 1”の模様をレポートしていこう。
取材/文=近藤正義 写真=興梠真穂
米国ビルボードが2007年から主催するイベント“Billboard Women In Music”は、音楽業界に多大な貢献があり、その活動を通して女性たちをエンパワーメントしたアーティストを表彰してきた。日本でも“Billboard JAPAN Women In Music”として2022年9月に発足し、女性アーティスト・音楽業界で働く女性へのインタビューやライブ、トーク・セッションを開催。よりインクルーシブな社会を目指すプロジェクトとしての発信を続けている。
そして、その日本版ライブ“Billboard JAPAN Women In Music vol. 1”が、2023年11月3日(金・祝)、100周年を迎えた日比谷公園大音楽堂で行なわれた。会場に流れるBGMは、シンディ・ローパーの「ガールズ・ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン」、ドリー・パートンの「ナイン・トゥ・ファイヴ」、シャナイア・トゥエインの「フィール・ライク・ア・ウーマン」など、洋楽女性アーティストの有名ヒット曲。このコンサートのコンセプトを強調する選曲だ。
今回の出演者は次の3組。
Spotifyが注目する次世代アーティスト応援プログラムである“RADAR:Early Noise”に選出され、優しくも儚く中毒性のある歌声と心地よいメロディ、センスあふれる歌詞で同世代から熱い支持を集めている“にしな”。
俳優、アーティストとして音楽、映像、アートを通して自らを追求・発信し続ける“のん”。
そして、2006年の結成以来、現在に至るまで“同一メンバーによる最長活動ロック・バンド(女性)”としてギネス世界記録に認定された“SCANDAL”。
MCは、お笑いトリオの“3時のヒロイン”から、福田麻貴とかなでの2人が務めた。観客を穏やかでフラットな気持ちにさせてくれる彼女たちの喋りは、とても良い味を出していた。
攻めたギター・サウンドが彩る、にしなの音世界
トップバッターは、にしな。1曲目の「スローモーション」ではエピフォン・カジノでリズム・ギターを弾きながら伸びやかなボーカルを聴かせる。どこかアンニュイでありながら力強さを兼ね備えた、中毒性のある声、メロディ、歌詞、そしてエレクトロ・ポップなバンドのサウンド。少しずつ日が沈みながら周りの色が変化していく夕暮れ時の野音と、彼女の魅力とが溶け合っているかのようだ。
2曲目「東京マーブル」から彼女はしばらくギターを弾かずにハンドマイクとなり、バブルガンでシャボン玉を飛ばしながら歌い、ステージ上を動き回る。
サポート・ギタリストを務めた元RAMMELLSの真田徹は、ナッシュ・ギターズのSTタイプを主体に、ワウ・ペダルを使ったカッティングや、オーバードライブに揺れ系や空間系エフェクターを加えたソロ、スライドなどで細部にわたってメリハリをつけながら楽曲を彩る。全体的にかなりノイジーなトーンで攻めていたのが印象的だった。
にしなはライブの終盤になると、フェンダー・ムスタングを弾いたり、ラスト曲「青藍遊泳」ではアコギ(テイラー114ce JPN LTD)でコード・ストロークしながら歌った。彼女の切れ味のあるリズム・ギターが、ラウドなバンド・サウンドの中で一服の清涼剤のように感じられるのが心地よい。
おそらく彼女は、ギターの弾き語りだけでも自分の世界を作ってしまえるアーティストなのだろう。しかし、バンド・サウンドとの融合があってこそ、その歌の世界に秘められた様々な感情が増幅され、より心に残る歌、印象に残る曲、として形を成したに違いない。独自の世界観を持っており、これから目を離せないアーティストだ。
のん&ひぐちけいによる阿吽の呼吸
2番手は、のん。赤い衣装にトレードマークの赤いカスタム・テレキャスターで登場し、「Beautiful Stars」でライブはスタート。2曲目の「やまないガール」では淡いサーフ・グリーンのストラトキャスターに持ち替えた。メイプル指板にラージヘッド、リア・ピックアップはハムバッカー、という仕様のAmerican Performer Stratocaster HSSだ。
3曲目の「Oh! Oh! Oh!」、5曲目「荒野に立つ」、6曲目「この日々よ歌になれ」がギターを弾かずにハンドマイクでのパフォーマンスだったが、4曲目からまた赤いテレキャスターを手にする。そして8曲目「夢が傷むから(Inspired by 東京百景)」で2ハムバッカーのAmerican Vintage II 1972 Telecaster Thinlineが登場。
のんは基本的にコード弾きに専念しており、音色は適度なクランチ状態。ザクザクと斬り込んでくる、独特のタイム感による彼女ならではのグルーヴがバンドの土台を支えていた。
また、バンドのリード・ギタリスト、ひぐちけいはムーンのレゲエ・マスターを使用。ライブの出だしはいくぶん控えめな印象だったが、3曲目の「Oh! Oh! Oh!」からオーバードライブ+ディレイによるギター・ソロも登場し、エンディングではフィードバックをキメていた。
4曲目「薄っぺらいな」ではさらに揺れ系のエフェクト(ロータリー・スピーカー・シミュレーター)も加わり、そのスペイシーなサウンドは日の暮れた野音にピッタリだった。さらに「荒野に立つ」以降のライブ後半になると、歌のうしろで別のメロディがうごめくように、幾何学的に構築されたようなリード・ギターがうねりを上げ始める。
「こっちを見てる」でもその傾向は顕著に見られ、それがさり気なく派手な、ひぐちけいの個性だと確信した。最後の曲「鮮やかな日々」ではクリーン・トーン+ディレイによるサーフ・サウンドを思わせる空間系エフェクトが、懐かしくも新しい。
ひぐちのリード・ギターは、のんの弾くリズム・ギターのクランチな響きと相性が抜群。しかも曲に上手くマッチしていた。この2人のコンビネーションには今後も注目したい。
安定感バツグンのMAMI&HARUNAによるギター・アンサンブル
トリを務めたのは女性4人組バンドのSCANDAL。派手なSEの中、黒の衣装に身を包んだメンバー4人がダンス・パフォーマンスさながらに登場。そして、それぞれの楽器をスタンバイするやいなや、2023年の最新シングル「ハイライトの中で僕らずっと」が迫力の音圧で始まった。
10代より活動を続け、結成17周年を迎えた彼女たち。メンバー・チェンジもなく、活動休止もなくコンスタントに活動し、29枚のシングルと10枚のオリジナル・アルバムをリリースしてきた。また、長年にわたり単独で大ホールやスタジアムを満杯にしながらツアーを続けてきただけに、しなやかなライブのパフォーマンスとしっかりしたバンド・サウンドには抜群の安定感がある。
力強い躍動感でバンドを引っ張るリズム・セクションもさることながら、リード・ボーカルのHARUNAが弾くリズム・ギターは、バンド・サウンドの中域を埋める役割を果たしながらリズム・セクションと一体になって曲のベーシックな部分を形成している。
彼女が弾くのはフェンダーのHARUNA Telecaster。ゴールド・バインディングのホワイト・ボディで、シンライン・タイプをモチーフしたピックガードが特徴。ピックアップはディマジオでリアはハム構造のChopper-T、ゴールド・パーツ、6連サドルのブリッジという1本だ。2曲目の「最終兵器、君」がハンドマイク、6曲目の「CANDY」がエレアコだった以外は、すべてこのギターで通していた。
リード・ギターのMAMIは、フェンダーの赤いMAMI Stratocasterとともに登場。マッチング・ヘッド、パーロイド・ピックガード、ゴールド・パーツ、ピックアップはテキサス・スペシャル×3、という仕様のシグネイチャー・モデルである。
そして2曲目から登場したのは、ギブソン・カスタムショップ製のレス・ポール・スタンダード。独特のブルーにフィニッシュされたボディ・カラーが美しい。
今回のステージで彼女は多くの曲をこのレス・ポールで弾いており、重低音で攻めるパワー・コードではハイゲインなディストーション・サウンドを、カッティングでは音抜けの良いクランチ・トーンを聴かせてくれた。また、ディレイによる空間的広がりとそれを突き破るかのように充分なボリュームを持ったディストーション・サウンドでのソロ・パートも披露。
この日のSCANDALのセットリストは、これまでのシングル曲から厳選されたものに、ステージでの定番曲を加えたスペシャルなプログラム。ライブで聴いたこれらの曲は、CDで聴くよりもかなりラウドかつハードなギター・サウンドで迫ってきた。ハードロック的なライブ・バンドとしての魅力を堪能。
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2024年2月8日(木)には本イベントの第2回となる“Billboard JAPAN Women In Music vol. 2”がTOKYO DOME CITY HALLで開催されることが決定している。出演者は家入レオと加藤ミリヤ。オーケストラとのコラボレーションも行なわれる予定だ。
これからこのイベントを通して、音楽シーンで活躍する女性アーティストへの注目が集まるに違いない。それをきっかけに女性の社会進出や様々なジェンダー/立場の人が活躍できる社会が作られていくことを願い、この運動の輪が大きく広がることを期待したい。
Billboard JAPAN Women In Music vol. 2
会場
東京・TOKYO DOME CITY HALL
日程
- 2024年2月8日(木)
18:00開場/19:00開演
出演
- 家入レオ
- 加藤ミリヤ
チケット情報
- S席:10,500円(税込)
- A席:9,000円(税込)
一般販売:2023年12月3日10時〜
※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や詳細はBillboard JAPAN Women In Music公式HPをチェック!
https://www.billboard-japan.com/wim/