島袋優(BEGIN)に聞く、初のソロ・アルバム『55rpm』のアレンジと“スライドの流儀” 島袋優(BEGIN)に聞く、初のソロ・アルバム『55rpm』のアレンジと“スライドの流儀”

島袋優(BEGIN)に聞く、初のソロ・アルバム『55rpm』のアレンジと“スライドの流儀”

BEGINのギタリスト、島袋優が初のソロ・アルバム『55rpm』をリリースした。親交のあるミュージシャンたちに“島袋優という人間を使って、音楽で遊んでほしい”とオファーをして完成した本作のギターには、彼のルーツであるブルースや沖縄音楽はもちろん、ハワイアンやレゲエ、ラテンまで、様々なアプローチが詰め込まれている。そんな新作のアレンジの話に加え、彼の代表的なプレイ・スタイルの1つである“スライド”についても深く話を聞いた。

インタビュー=福崎敬太

“島袋優っていう人間を使って、音楽でたくさん遊んでほしい”

初のソロ・アルバムである『55rpm』は歌モノの作品ですが、ギターはどのような立ち位置で考えていましたか?

 ギターありきではありましたね。ただ、僕はブルースがめっちゃ好きで、自分が作る曲はそういう曲を中心にやろうと思っていたんです。とにかくそういうギターが弾きたくて、最初はどブルースみたいな曲を作っていたんですよ。

 そしたら、全然歌えなくて。コブシとかそういうニュアンスが全然出せていなくて、ダサくなっちゃうんです。

ブルース愛が強くて、自分の声に納得できなかった?

 それもあるかもしれない。(比嘉)栄昇が歌っているイメージで自分でも歌ってみるんだけど、ああいうふうには全然表現できていなくて。“うわ、どうしよう”っていうところから、自分が作る曲に関しては始まったんです。

歌が大きな鍵になっていったんですね。

 そもそもBEGINをやっていて、自分がボーカルをやるっていうのを全然考えたことがなかったんですよ。「海の声」(2015年)がauのコマーシャルで使われて、栄昇から“優、この曲はお前が歌え”って言われて歌ったのが、自分がメインで歌う初めての曲ぐらいで。まぁ、アルバムで1〜2曲歌うっていうことはありましたけど。

 とにかく、ボーカルのとらえ方がや考え方が、アルバムの制作に入ってから180度変わったんです。それで、今自分の歌が一番表現できるメロディで作っていって、それと平行してどブルースみたいなギターがちょっとずつ減っていくわけですよ。アレンジによって入れたりはしましたけどね。

そのアレンジはどのように進めていったのですか?

 まず自分がアレンジしたものに関しては、どうやったら自分のボーカルが活きるのか、どういう表現をしたら聴いてくれる人に届くような歌い方ができるのかを考えて。ギターも含めて、何回もやり直しをしながら作っていきましたね。

 例えばスキマスイッチの(大橋)卓弥が書いてくれた「貝がらの唄」は、もとはバラードだったんです。で、まずデモテープが届くんですけど、もうスキマスイッチなんですよ(笑)。

デモでは大橋さんが仮歌を入れているんですか?

 そうなんです。だから“うわ〜、やばい! 俺、ここまでのクオリティ出せるかな……”みたいなプレッシャーがあって(笑)。でも、自分なりのアプローチでアレンジをすれば、きっと面白くなるはずだって思って、ちょっとハワイアン・レゲエっぽい感じにしたんです。

アレンジをほかの方にお願いした曲については?

 それは本当に完全にお任せでやっていました。みんなには“島袋優っていう人間を使って、音楽でたくさん遊んでほしい”っていうオーダーしかしていないんですよ。

 キヨサク(MONGOL800)がアレンジしてくれた「シージャー GO GO!」は、初期の頃のモンパチっぽい感じになっているのが面白いなって思ったり。

 あと、NAOTO(ORANGE RANGE/g)がアレンジしてくれた「タピオカとパンケーキ」は、彼が作ったベーシックから展開していったりもしましたね。

 オケに仮のボーカルを入れに行った時に、“アタマにプロローグみたいなパートをつけたいな”って話をしていたんですよ。“スパニッシュ・ギターみたいなものを入れて、HIROKI(ORANGE RANGE/vo)にインチキ・スペイン語でやってもらおうか?”みたいな話になって。そこで“いや、アルベルト(城間/DIAMANTES)がいるじゃん!”ってことで、すぐにお願いして冒頭のスペイン語を入れてもらったり(笑)。

“こういうメロディがきてほしい”ってイメージして、コード進行をつけたりしています

「ラブソングを歌ってみるよ」のソロは儚く歌い上げるメロディですが、どのように考えていきましたか?

 実はギター・ソロを組み立てる時、最初は全部アドリブから入るんですよ。とにかくスタジオに入って、その時に感じたものを一度バーっと弾いて、それでどんどん決め込んでいく。

 ただ、アドリブで出てきたフレーズを組み合わせているから、すぐ忘れちゃうんです(笑)。ライブをやる時にまた思い出さないといけない。

 このソロは、トレモロをかけないと、歌詞の内容とギターがリンクしない感じがあって。ローズのトレモロとぶつからないか心配だったんですが、やってみたら案外いけましたね。

アドリブを弾く時に、コード進行やスケールについてはどの程度意識していますか?

 うーん……でも、伴奏のコード進行は自分で決めているじゃないですか。その時に、“こういうメロディがきてほしい”っていうものを目指して、コード進行をつけたりしています。ハーフ・ディミニッシュからマイナーにいくようなところも、フレーズはまだ頭の中でも聴こえていないけど、“ここで泣きのギターが入れられるな”っていうイメージで進行を作っている。

 例えば、「今日は明日のイエスタデイ」はサビだけEからGに転調するんですけど、間奏で徐々にGまで転調させようっていうイメージの組み方で。マーヴィン・ゲイの「What’s Going On」の世界観をもう少し細かくとって、少しずつEからGに転調していくようなことを考えていたり。で、それを考えてからフレーズを考えていく。

なるほど〜、ソロの流れをイメージしたコード進行を組むことから始まるんですね。

 そうですね。ただ、BEGINの場合はヘッド・アレンジが多いので、ピアノもギターも一緒にやるから、もっとざっくりしていると思う。“ギター・ソロはこういうコード進行で”って言うこともありますけど。

 今回は“ギターでどうやって届けられるようなメロディになるかな”っていうことを考えて、普段よりもそういう意識があったかもしれないですね。もちろん、あえて歌のコード進行をそのまま使っていることもありますし。

「シージャー GO GO!」や「青のまま」、「歓びのブルース」は、ブルースやブルース・ロックを基調にしたアプローチです。ブルージィな音使いでプレイする時に考えていることはありますか?

 僕は音楽やギターを習ったことがなくて、いまだに譜面があまり読めないんですよ。一度ジャズを勉強しようと思って教則本を買ってきたんですけど、もう全然……(笑)。そういうくらいなので、感覚でしかないんですよね。

 例えばキーがGの曲で、Am7からD7に戻る時に、Aマイナーのアルペジオでメロディを弾いて、GマイナーにいったりEマイナー(Gメジャー)にいったり。そういう普通のブルースやジャズの奏法があるじゃないですか。その感じを沖縄の感じとごちゃまぜにできないかなって思っていた時はありました。メジャー・セブンスとセブンスを面白く混ぜたくて、めっちゃ考えていましたね。「島人ぬ宝」(2002年)ではうまいことやれたかなって思っているんですけど。

 ただね、自分が今まで聴いてきた音楽の感覚、“ここにいったら泣ける”とか、そういう感覚でしか弾いていない気がします。

本当にスライドが好きでめっちゃ聴いてきたんです

ソロや上モノのアプローチだと、スライドも島袋さんの定番アプローチだと思います。「ドミナント色のレコード」だとブルージィだけどキャッチーな、内田勘太郎さんのような雰囲気があったり。

 勘太郎さんのスライドにはめちゃくちゃ影響を受けましたよ。一度2人で(ギター・デュオ“Two Tones”として)ツアーを回ったこともあって。僕の中でアイドルのような存在だったので、凄く影響を受けたし、色んな刺激を受けましたね。

「converse」だとメイン・メロはキャッチーで、シモブクレコードの「Come back Jerry!!」(2009年/『Looking South West』収録)だとデュアン・オールマンっぽい感じもあります。

 よく知ってますね(笑)。

スライドで影響を受けたのは勘太郎さん以外にどういうギタリストがいますか?

 それこそデュアン・オールマンはめっちゃ好きだし、ジョニー・ウィンターみたいな激しいのも好きです。で、一番影響を受けたのはライ・クーダーかな。

 本当にスライドが好きでめっちゃ聴いてきたんです。スライド・ギターだけを集めたマニアックなレコードがあって、それを聴いたり。

どのように今のスライド・スタイルは作られていったのでしょうか?

 もちろん黒人ブルースマンのオープンGやオープンEのスライドも好きなんですが、いまだに研究中なのはペダル・スティール。自分なりに一生懸命やったんだけど、やっぱりあのニュアンスはあれでしか出せなくて、行き着いたのが普通のラップ・スティールだったんですよ。チューニングも色んなものを見ながら勉強してやって。

 たぶん、そういったものの集大成として、今のスタイルに行き着いたんですよね。ブルージィだし、ハワイアンっぽさもあるような。

スライド・バーは小指につけてピックで弾いていますが、バーをはめる指やピッキング、チューニングなどのセットアップは曲によって変わりますか?

 普通のコードも弾きやすいように小指につけていたんですけど、レコーディングでスライドしか弾かない時も小指につけてしか弾けなくなっちゃいましたね。

 で、右手だけはたまに指じゃないと雰囲気が出ない時があって。ピックだとコンって鳴ってしまう時とか、2弦を弾きたいのに1弦と3弦も共鳴しちゃったりする時とかは指で弾いたりします。だから、スライドは右手が難しいと思います。

 チューニングはオープンGにしたり、1弦だけDに落としたりしますけど、基本はレギュラーですね。オープンDとかは自分の音楽に取り入れたことはないんですよ。

ずばり、スライドの秘訣を聞かせて下さい!

 スライドって何より、自分が一番気持ち良いところでパンと止められるかどうかだと思うんですよ。あとはビブラートだと思う。押弦で言ったらハンマリング・オンみたいなプレイと、ビブラート。自分が一番気にしているのはそういうところですね。

 ニュアンスが凄く大事で、それによって大きく音楽性が変わるのがスライドの面白いところなんですよ。同じフレーズでも、緩やかに弾いたらハワイアンっぽくなったり、激しくやったらブルースっぽくなったりしますから。

ありがとうございます。では最後に、今作のギターについて一言お願いします。

 アルバムを買ってくれた人に“カッコ良いな”って思ってほしくてギターを弾いていますけど、逆に“何かカッコ悪いな”って思ってほしいところもあるんです。俺がブルースマンのギターを聴いてそうだったんけど、変なところでチョーキングが止まったり“何でここで止まるの? ちょっと低くない?”みたいなブルースっぽいニュアンスを、あえて残したりしているんですよ。そういう、へたっぴで面白くて泣いているギターを届けられたら良いなって思います。

作品データ

『55rpm』
島袋優

テイチク/TECI-1817/2024年2月21日リリース

―Track List―

  1. 今日は明日のイエスタデイ
  2. タピオカとパンケーキ
  3. ラブソングを歌ってみるよ
  4. ドミナント色のレコード
  5. シージャー GO GO!
  6. 太平洋音頭
  7. converse
  8. スターリリー
  9. 海の声 (Mighty Crown Reggae Remix ver.)
  10. 貝がらの唄
  11. 青のまま
  12. 歓びのブルース
  13. からっぽカタツムリ

―Guitarists―

島袋優、下地イサム、川満祐揮、Kuboty