ブライアン・メイが破壊した、レッド・スペシャル・レプリカの修復エピソード。 ブライアン・メイが破壊した、レッド・スペシャル・レプリカの修復エピソード。

ブライアン・メイが破壊した、レッド・スペシャル・レプリカの修復エピソード。

ブライアン・メイの愛器として知られる“レッド・スペシャル”。そのスペアとしてルシアーのジョン・バーチが手掛けたレプリカ・モデルがある。これは1975~82年まで使用されたのち、ブライアンによって破壊されることに……。そして時が過ぎ、2004年にバラバラの状態で発見されたジョン・バーチ・ギターの修理依頼が、ビルダーのアンドリュー・ガイトンのもとに届いた。その歴史的な修復作業について、アンドリューに語ってもらおう。

質問作成=ashtei 翻訳=トミー・モリー 写真=本人提供

ギター・マガジン2024年3月号表紙

ギター・マガジン2024年3月号
『特集:ブライアン・メイ(クイーン)

ギター・マガジン2024年3月号では、アンドリュー・ガイトンがレッド・スペシャルの実器を解析した際のことを回想したインタビュー記事を掲載。

貴重な体験談と、彼だからこそ語れるレッド・スペシャルの魅力は本誌でチェック!

少しブライトかつハードな印象で、アメイジングでしたよ

アンドリュー・ガイトン
アンドリュー・ガイトン

あなたは2004年にジョン・バーチ(John Birch)のギターを修理しています。この時のエピソードを聞かせて下さい。

 あれはバラバラの状態でアメリカで発見されたんです。私がブライアンと仕事をするようになっていた頃に送られてきたようで、ブライアンはあえて修理するつもりはなかったようでした。でも私が、“もし自分が製作者だったら修理してもらいたいな”と伝えて、修理をすることになったんです。

ボディ前面
ボディ前面。ネック部が折れている。
ボディ背面
ボディ・バック。

 ただ、このギターに入った傷は歴史の一部でもあり、“気立ての良いブライアンがフラストレーションのあまり壊してしまった”というストーリーも大切な部分じゃないですか? だから“このギターを再びプレイできるような状態にするけど、過去のダメージはひと目見てわかるようにそのまま残しておくべきだ”と伝えました。

 なので接着剤で再びつなげただけですし、手の込んだ処置は可能な限りせずに再び使えるように修理しました。

復活したジョン・バーチ・ギターはどんなサウンドでしたか?

 少しブライトかつハードな印象で、アメイジングでしたよ。オリジナルのレッド・スペシャルと比べると、少しロック向けでモダンなサウンドに感じられました。

ジョン・バーチ・ギターは、ブライアン・メイがスペア用として所持していたバーンズ製トライソニック・ピックアップ(Burns Tri-sonic Pickup)が搭載されている以外、情報がありません。ボディやネックの材は何でしたか?

 ネックとボディは全体的にメイプルでできていて、けっこう重たかったです。ただ、それがブライトなサウンドにつながっていたのでしょうね。指板は黒くペイントされていましたが、おそらくエボニーだと思います。

ピックアップ
3基のバーンズ製トライソニック・ピックアップ。
指板
指板は黒く塗装されている。

“自分らしさ”をどこかに残したい誘惑にかられてしまうんです

オリジナルのレッド・スペシャルと比べて、どのようなギターでしたか?

 スケールこそ同じでしたが、全体的に異なっていて、正直なところバーチのギターのほうが劣っていました。“どうしてこんなことをしたんだ?!”と思うようなものも所々にありましたね。ただ、ギターを製作していると、“自分らしさ”をどこかに残したい誘惑にかられてしまうんです。それゆえのことだったのでしょう。

 でも私は、ブライアンがかつてレッド・スペシャルの製作で行なったことのすべてがパーフェクトだと考えているので、そういった処置が必要だったとは思えません。ひょっとしたらジョン・バーチは改良しようとした、もしくは何かを試そうとしたのだけれど、それがうまくいかなかったのかもしれません。

具体的にどのような点が異なっていたのでしょうか?

 まず、ヘッドストックに角度がついていたため、0フレットにより大きなテンションがかかるようになっていました。ロック式のペグでもなかったので、チューニングが狂いやすくなるように作られていたと言わざるを得ませんでした。

 ピックアップも実は少し異なっていて、少なくともどれか1つには小さなロッド状のセラミック・マグネットが入っていました。

  そしてトレモロ・ユニットもスチールを折り曲げて作ったものだったので、ピッチを安定させることはありませんでした。だから叩き壊されてしまったのでしょう。

ヘッド
オリジナルよりもヘッド角が大きい。
指板
指板は黒く塗装されている。

ブライアンはチューニングの狂いやすさが気になったのでしょうね。

 ブライアンが気に入ることはありませんでしたが、多くの人が興味を抱いたギターであることは間違いありません。ブライアンが興味を失っていたので、詳しく分析する必要もないと考えていましたが、もっと調べておけばよかったと少し後悔しています。

 このギターを直したのも、あくまでも私がそうしたいと考えたからで、ブライアンは気にかけてすらいませんでしたからね。バラバラの状態でケースに入れたままでも彼はハッピーだったのですが、クイーンの歴史の一部であることを考えるとそれではあまりにも残念だと私には思えてしまったのです。

修復後のジョン・バーチ・ギター。Photo by Guitarist Magazine/Future via Getty Images
修復後のジョン・バーチ・ギター。Photo by Guitarist Magazine/Future via Getty Images

ギター・マガジン2024年3月号表紙

ギター・マガジン2024年3月号
『特集:ブライアン・メイ(クイーン)

ギター・マガジン2024年3月号では、アンドリュー・ガイトンがレッド・スペシャルの実器を解析した際のことを回想したインタビュー記事を掲載。

貴重な体験談と、彼だからこそ語れるレッド・スペシャルの魅力は本誌でチェック!