毎週、ひとりのブルース・ギタリストに焦点を当てて深掘りしていく新連載『ブルース・ギター・ヒーローズ』が本日よりスタート！ 記念すべきひとり目は“キング・オブ・ザ・ブルース”、B.B.キングから！
文：久保木靖
教会の聖歌隊に加わり、牧師からギターのイロハを教わる
ダウンホームなブルースをモダン／アーバン化し、さらにはポップスへと昇華させたスーパースター。
さほど興味のない人でもその名を聞けば“ブルースの人！”と言えてしまう、まさに“ブルースの代名詞”でもある。
ギター弾きにとっては、その存在を知るや知らずや、彼が開発したフレーズを弾いている、なんてことも。
そう、数々のブルース・ギター常套句の生みの親でもあるのだ。それが長きに渡って王座に君臨し続けたB.B.キング。「3 O’Clock Blues」がヒットした1951年から、89歳で亡くなる2015年まで、少なくともブルース界において、B.B.以上の存在感を示せる者はいなかった──。
B.B.キング（本名Riley B. King）は1925年9月16日、ミシシッピ州イッタベナのプランテーションに小作人夫妻の子供として生まれた。
4歳の時、両親が離婚し母親が家を出ていってしまったため、B.B.は州内のキルマイケルに住む母方の祖母のもとに預けられるが、その祖母も数年後に他界。まだ幼いB.B.は小作人用の小屋での一人暮らしをしながら、インディアノーラのプランテーションで働いた。
そんな彼を慰めたのが何を隠そう音楽で、6歳頃には母方の従兄弟であるデルタ・ブルースマンのブッカ・ホワイトからギターを譲り受けている。
やがて地元の教会の聖歌隊に加わると、牧師からスリー・コードなどギターのイロハを教わった。12歳の時には、プランテーションの雇用主がより良いギターを買い与えてくれたが、その後2ヶ月間は給料から代金が差し引かれたという。
彼が夢中になっていったのはご当地ブルースであるデルタ・スタイルではなく、テキサスのスターであったブラインド・レモン・ジェファーソンや、洗練されたギター・テクニックを駆使してジャズ・ミュージシャンとの交流もあったロニー・ジョンソンだったというのが興味深い。この頃、10セント硬貨を稼ぐために街角で演奏をすることもあったという。
1941年にはサニー・ボーイ・ウィリアムスンのラジオ番組『キング・ビスケット・タイム』がスタートし、B.B.はそこから流れてくるロバート・ロックウッド・ジュニアのギターを夢中で聴いた。
また1943年頃には、トラクター運転手として仕事をする傍ら、ゴスペル・グループでのギター伴奏をこなしていたという。ちなみに、第二次世界大戦前後に徴用されるも、“州の労働者としてトラクター運転手は不可欠”と判断され、海外派兵を免れている。
T-ボーン・ウォーカーに衝撃を受けてエレキへシフト
1946年、B.B.は音楽で一本立ちしようと、ヒッチハイクでメンフィスへ。そして、母方の従兄弟であるデルタ・ブルースマンのブッカ・ホワイトと10ヶ月ほど行動を共にする。
B.Bはのちに“ボトルネック奏法が上手くできないことから、その効果が得られる別の弾き方としてスクイーズ系チョーキングを開発した”と語っているが、その原点はホワイトと過ごしたこの期間にあるのではないだろうか（ホワイトはボトルネック奏法の名手）。
その2年後、ラジオ局KWEMのサニー・ボーイ・ウィリアムスンの番組でパフォーマンスを披露し話題となる。これを機に別のラジオ局WDIAで番組『King’s Spot』のDJとして職を得ると、当初10分間だったこの番組はまたたく間に人気を集め、放送時間が拡大されるほどだったという。
DJとしての人気者となったB.B.（この時はまだ本名を名乗っていた）はキャッチーなラジオ名が必要となり、メンフィスの目抜きどおり“Beale Street”にちなんで当初“Beale Street Blues Boy”と名乗るが、それが略されて“Blues Boy”となり、最終的に“B.B”となった。
このDJ時代、B.B.は初めてT-ボーン・ウォーカーに会っている。
T-ボーンがエレクトリック・ギターで奏でる洗練されたブルースを目の当たりにしたB.B.は、“なんてことだ、もっと早くにエレキを入手しておくべきだった！”と言ったとか。かねてよりダウンホームなブルースよりもスタイリッシュなものに魅力を感じていたB.Bだったが、この時進むべき道がはっきりと眼前に立ち現れたわけだ。
そして1949年、ナッシュビルのBulletレーベルにて初レコーディングの機会を得て「Miss Martha King」など4曲を吹き込む。
この時B.B.はボーカルのみで、ギターはカルヴィン・ニューボーン（ジャズ・ピアノのフィニアス・ニューボーンJr.の弟で、のちにジャズ・ギタリストとして活動）が担当した。B.B.の初々しいボーカルと、こなれたジャンプ・バンドのような伴奏のアンバランスが不思議な魅力を放つ。
この頃すでにB.B.は、ビール・ストリートのブルース・シーンの一翼を担う存在に成長していた。のちに“ビール・ストリートは、私にとってすべてが始まった場所だった”と語っている。（後編へ続く）
