毎週、ひとりのブルース・ギタリストに焦点を当てて深掘りしていく新連載『ブルース・ギター・ヒーローズ』がこの4月よりスタート! 今回は“キング・オブ・ザ・ブルース”、B.B.キングの愛用したギター、ルシールについて。
文:久保木靖
歴代の愛器をすべて“ルシール”と名づけ、愛用
B.B.キングは様々な歴代ギターを“ルシール”と名づけて愛用してきた。まずは、そのルシール誕生のいきさつから。
1949年の冬、B.B.キングがアーカンソー州のダンスホールで演奏していた時、灯油ランタンが倒れ、建物が炎上。慌てて逃げ出したB.B.だったが、ギターを置き忘れたと気づくや、燃え盛る屋内に戻って愛器を救出。
その翌日、火事の原因がホールで働く“ルシール”という名の女性を巡って2人の男が争ったことが原因と知る。
この出来事を通し、火災の際に無茶をしない(=命を大事にする)、女性を巡って争ったりしない、そんな思いから、以後すべての愛器を“ルシール”と呼ぶようになった。
この時のギターがギブソンのL-30で、これが初代ルシール。
L-30は1930年代〜1940年代前半までのわずかな期間にのみ製造していた14インチボディの小振りなアコースティック・アーチトップ・モデル(ノン・カッタウェイ)で、B.B.はディアルモンド製のピックアップを装着して使っていた。
出演していたラジオ局“W.D.I.A”と放送時間“530 PM”という文字が派手にボディ・トップに書かれている。
その後、B.B.はキャリアを重ねるに従って高級なギターを手にしていく。
P-90が3つ搭載されたギブソンES-5、そして1951年の最初のヒット曲「3 O’Clock Blues」の時は、すでにP-90が1つのES-125を手にしていたようだ。
さらにギブソンByrdland、ES-175Dのほか、1950年代にはLes Paul(ゴールドトップ)やフェンダーEsquireといったソリッド・ギターも手にした。
代名詞とも言えるセミアコを使い始めたのは1960年代からで、最初に愛用したのは1958年に発売されたギブソンES-335TD。
ポジション・マークは基本仕様のドットだが、バリトーン・スイッチとビグスビー・アームが搭載されたレアなモデルであった。これは名盤『Live At The Regal』で使われたことから、2023年に“B.B. King Live at the Regal ES-335”としてリイシューされている。
1960年代後半になると、ウォルナット・フィニッシュのES-355TD-SV(ES-355TDにステレオとヴァリトーンの回線を追加したもの)がメインとなるが、並行してチェリー・フィニッシュのES-355などを手にすることも。
1978年にギブソンがB.B.に敬意を表してヘッドに“Lucille”の文字のインレイのある特別仕様のES-355を贈ると、これがきっかけとなって1980年にシグネチャー・モデルであるB.B. King Lucilleが開発された。
これはES-355のスペックをベースに、ネックはマホガニーからメイプルに変更され、ハウリング防止のためにfホールを塞ぎ、ストップ・テイルピースを採用したもの。
ピックアップはPAFではなく490T & 490R という、やや中音域が強調されたタイプ。
ヘッドにはもちろん“Lucille”がインレイされた。その後も、節目節目に豪華な仕様のLucilleが製作され、晩年までB.B.のステージを飾った。