極上のトーンで奏でるブルージィなプレイで根強い人気を誇るギタリスト、是方博邦が音楽生活45周年記念アルバム『Waves』をリリースした。レコーディングには野獣王国のメンバー、T-スクエアのリズム・セクションなど気心の知れた仲間たちが参加している。ブルージィに、ハードに、そして時にはメロウな音色でリスナーの心を揺さぶるオリジナリティ溢れるメロディ、これぞ是方節。ギター・インストの原点に立ち戻った快作である。さっそく作品でのギター・プレイについて話を聞いていこう。
取材=近藤正義 写真=横井明彦
華やかなリゾート地ではなく、
身近な海のイメージなんです。
デビュー45周年おめでとうございます。このタイミングでのニュー・アルバムをとても嬉しく思います。
今年は45周年と言う節目でもあるので、作らなくてはと思ってました。ソロ・アルバムとしては通算10枚目なんですよ。
前作『LIVE OF LIFE』が2013年3月のリリースでしたから、もう7年も経つんですね。
当時はボーカリストとのライブが多かったので、その集大成ということであのアルバムの半分はボーカル曲だったんです。「歌モノとインストの垣根を超えよう」というのがコンセプトでした。僕はもちろんギターを弾いていたのですが、いろんなゲスト・ボーカリストを招いて、全体をプロデュースするというスタンスが濃かったですね。逆に、今回は全曲がインストゥルメンタルで、僕のギターが中心です。
レコーディングはいつ頃からされたんですか?
8月の下旬から、ミュージシャンのスケジュールを合わせながら飛び飛びに。トラックダウンは10月の半ばで、マスタリングは英国アビーロード・スタジオでやってもらいました。
アビーロード・スタジオでのマスタリングの効果はいかがでしたか?
最初に試しに1曲やってもらって聴いたサウンドの広がり具合がアグレッシブ過ぎたので、少し抑えてもっとまとまりのあるバンド感を出してもらうようにお願いしました。その結果、しっかりとしたバンド・サウンドの真ん中に骨太なギターが浮かび上がるように仕上がったと思います。
今回収録された10曲は全て書き下ろしの新曲ですね。
今年の初めの段階ではまだ1曲も存在していなくて、家にあった作りかけのデモテープの山から曲の断片をピックアップして再構築したりしながら、考えに考えていろんなテイストの曲を10曲仕上げました。
アルバム・タイトルやそれぞれの曲名に「海」や「波」が出てくるのは、是方さんとしては珍しいのでは?
「海の見える窓から」、「夜の波打ちぎわ」、「風と海と坂道と」と、たしかに多いですね(笑)。実は“海”という単語をタイトルに使ったのは初めてなんですよ。高中正義さんのような華やかなリゾート地の海ではなくて、鎌倉や千葉みたいなもっと身近な海のイメージなんです。
10曲がとてもバラエティに富んだ曲調で、しかも見事にギター・ミュージックとして統一感があります。
1枚のアルバムとして聴いていただくからには、いろんなタイプの曲を作ったうえで曲順を決めて、1枚の流れとして聴けるように工夫しなくてはなりません。僕の場合、ベースになるのはやはりブルース/ロックですが、ファンキーな曲、ポップなメロディや可愛らしいメロディ、リズムに工夫を加えた曲、これまでには入れたことのないボサノヴァ調の曲など、さまざまな表情を持った曲をそろえました。こんなふうに“いろんな波があってもいいのでは?”と思って、アルバム・タイトルを『Waves』に決めたんです。
45年間で蓄積されたモノを
信じてみようと思ったんです。
作曲はどのような手順でされるのですか?
近年、ギター1本でソロ・ライブをよくやっている影響で、コード・ボイシングを考えるのが好きなんですよ。そうやってまずコード進行を考えて、それを弾きながらスキャットでメロディをつけていきます。ブルース系の曲は3コードではなく発展させて、なるべく斬新なコード進行にしてモダンな印象に仕上げています。
アルバム制作を開始するにあたって、今回考えたことなどがありましたら聞かせて下さい。
いつもなら巷の音楽からインスパイアされて作ることが多いのですが、今回はあえて周りから聴こえてくる流行りの音を一切遮断しました。逆に自身の内面に45年間蓄積されたモノを信じてみようと思ったんです。そして、今こそギター中心のアルバムをきちんと作っておこうと……。83年の1stソロ・アルバムを作った時と近い気持ちでした。
サウンドが生々しく、あたかも目の前で演奏しているように聴こえます。
今はリモートでレコーディングすることもできますが、やはりメンバーとスタジオに入って演奏する緊張感は大事だと思うんです。クリック一発で、打ち込みは一切なしという完全人力演奏。ある意味時代に逆行する、本当に昔ながらのやり方です(笑)。
是方さんはミュージシャンの交流が広いので、メンバーの人選が大変なのでは?
やはり絞るのは難しいです。今回はまず長い付き合いで演奏も阿吽の呼吸である野獣王国の鳴瀬喜博(b)と難波弘之(k)、そして僕が一緒にやっているトリオのサウンドが気に入っているT-スクエアの坂東慧(d)と田中晋吾(b)、あとよくライブでご一緒している石川俊介(b)と佐野康夫(d)。大儀見元(perc)はレコーディングではとても古い付き合いなんです。そんな気心知れたメンバーばかりなので、曲とメンバーの組み合わせを考えた時点でできあがりのサウンドは見えていました。このメンバーの皆さんにはレコーディングの最中に本当にいろんな意味で助けられていました。感謝しています。
使用したギターや機材を教えて下さい。
デビュー前からずっと愛用している1963年製のストラトキャスターとマーシャルのアンプ・ヘッドDSL100H+スピーカー・キャビネットJCM-800 LEAD1960です。一番好きなギターとひとつと決めたアンプだけで表情をつけたかったんです。それで“どこまで歌えるか?”という勝負ですね。最初はギターやアンプもいろんなものを使おうかとも考えていたのですが、結局こうなってしまいました(笑)。エフェクターは歪みとワウ・ペダル、たまにコーラスくらいかな。「夜の波打ちぎわ」のアコースティック・ギターはいつもステージでも弾いているKヤイリです。
是方さんが、今も影響を受けているギタリストはいますか?
このアルバムにも表われていると思いますが、師匠の大村憲司さんのギター・サウンドはいつも心にあります。そして、今も現役で素晴らしいギター・サウンドを聴かせてくれるジェフ・ベックやカルロス・サンタナやエリック・クラプトン。「夜の波打ちぎわ」ではサンタナ、「Dead Fish」ではジェフ・ベックなどの影響も出ていますね。
ちょうど世の中が落ち着かない時期だけに、このアルバムはファンの皆さんにとってもグッド・タイミングなプレゼントになったのではないでしょうか?
この状況下において緊張感を持って曲を作り、思いどおりのミュージシャンをスタジオにブッキングすることができて、しかもマスタリングはアビーロード・スタジオ。これは奇跡的なアルバムだと思います。気合を込めて作りましたから、できるだけたくさんの人に聴いていただきたいです。
作品データ
『Waves』
SHINKO MUSIC RECORDS/SMHK-1001/2021年1月13日リリース
SHINKO MUSIC RECORDS SHOPで買うと、限定特典として『Waves』オリジナル・サムピック(本人使用モデル)が付いてくる!
―Track List―
01. Engine
02. Sunflower Blues
03. 花火
04. 海の見える窓から
05. 夜の波打ちぎわ
06. Rainy Day
07. Dead Fish
08. 風と海と坂道と
09. Shooting Star
10. 夕べの色
―Guitarist―
是方博邦