L’Arc~en~Cielが2月8日から4月14日にかけて“ARENA TOUR 2024 UNDERGROUND”と銘打った全国ツアーを行なった。今回のツアーは“UNDERGROUND”というワードが示すように、これまでライヴであまり演奏される機会が少なかった楽曲を軸にしたセットリストを組み、いつもとはまた一味違ったL’Arc~en~Cielの顔を披露するというコンセプトのもとに開催。“スペシャル”という言葉が似つかわしいアプローチに加えて、2年2ヵ月ぶりのツアー、さらにコロナ禍以降初の声出し解禁ライヴということで、全公演揃ってチケットは瞬く間に完売となった。
始動から30年を超えた今なお2Days パッケージのアリーナ ツアーを即完させるというL’Arc~en~Cielのモンスターぶりには圧倒されずにはいられない。そんな彼らが3月7日に国立代々木競技場第一体育館で行なった東京公演の模様をお伝えしよう。
取材/文=村上孝之 ライヴ写真=Yuki Kawamoto、Takayuki Okada、Hideaki Imamoto、Viola Kam
シネマライクに幕を開けたディープな1日
ライヴ当日、代々木競技場第一体育館に入場するとアリーナ中央に古城や教会などを彷彿させる円形のステージが組まれ、ステージから四方に長いランウェイが伸びているという情景が目に飛び込んできた。話には聞いていたが、実際に目の当たりにすると壮大な意匠に思わず気持ちが上がる。アリーナはもとより、スタンド席のオーディエンスもL’Arc~en~Cielと近い距離で接することができる形態に、客席では“えっ、近くない?”、“凄い! 目の前までメンバーが来てくれるのかな?”といった声があちこちで飛び交い、場内は開演前から浮き立った空気に包まれていた。
開演に向けて場内が徐々に暗くなっていき、完全に暗転すると同時に重厚なオープニングSEが流れ、ステージ上方に設置された巨大なLEDスクリーンに漆黒のマントをまとったメンバー4人の映像が映し出される。シネマライクな幕開けに惹き込まれていると、場内に澄んだピアノの音が響き、力強く疾走する「THE BLACK ROSE」からライヴは始まった。ステージ全面に降ろされた紗幕に映るメンバーたちのシルエットと躍動感をたたえたサウンド、オーディエンスが手にしたL’ライトの幻想的な光で染まる客席の情景などが折り重なって、広大な代々木競技場第一体育館の場内は瞬く間に非日常の空間へと変貌した。
「THE BLACK ROSE」が終わると同時にステージ前の紗幕が落ちて場内が騒然となる中、デカダンスをたたえた「EXISTENCE」と「THE NEPENTHES」が演奏された。
力強さとエモさをあわせ持った歌声を聴かせつつ楽曲の世界観を一層深める退廃的なステージングを織り成すhyde。ワイルドなロックオーラを放ち、指板を見ることなくスリリングなギターソロを弾きまくる姿が最高にカッコいいken。華やかな立ち居振る舞いと凝ったフレージングを活かしたベースプレイでオーディエンスを魅了するtetsuya。引き締まった表情でスクエアかつテクニカルなドラミングを展開して、サウンドのグルーヴを牽引するyukihiro。個性の異なる4人でいながら、彼らがひとつになることで生まれるケミストリーは唯一無二の魅力をたたえていて、L’Arc~en~Cielは不思議なバンドだなとあらためて思わずにいられなかった。
その後はメロディアスかつ抒情的な「砂時計」、kenが奏でるE-BOWの滑らかな音色やエモーショナルなギターソロなどが楽曲の哀愁を深化させる「a silent letter」、hydeが奏でるメロウなサックスやkenのスパニッシュが香るガットギターをフィーチュアした「Ophelia」などをプレイ。こういったかげりを帯びたナンバーの惹き込み力は圧倒的だし、オーディエンスを浸らせたあと、アッパーかつ妖艶な「Taste of love」を炸裂させる構成も実に見事で、場内はさらに色濃くL’Arc~en~Cielの世界へと染まっていった。
ライヴ中盤では『DUNE』(1993年)に収録されていた「Voice」を皮切りに、鮮やかさとせつなさがない交ぜとなった「Vivid Colors」(1995年)や、キャッチーな「flower」(1996年)といった初期のナンバーが続けて披露された。透明感をたたえた憂いや抒情性、スタイリッシュな洗練感などをまとったこれらの楽曲を聴くと、L’Arc~en~Cielが当時からハイクオリティーかつ独創的な楽曲を作っていたことがわかる。そして、30年を経た今でも色褪せない魅力を放っていることにも大いに驚かされた。
楽曲のエモーションを増幅させるkenのギタープレイ
その後も「It’s the end」(『ray』1999年収録)や「Cureless」(『heavenly』1995 年収録)、「Blame」(『Tierra』1994年収録)といった往年のナンバーを相次いでプレイ。ライヴ中盤では楽曲が始まると同時に客席から大歓声やどよめきが湧き起こり、オーディエンスが今日のライヴを心の底から楽しんでいることが如実に伝わってきた。
メンバーがステージから去り、L’Arc~en~Cielに関するマニアックなクイズがいくつも出題されるという“THE L’ArQuiz”で場内を大いに沸かせたインターバルを経て、ライヴは後半へ。ここでは華やかなファスト チューンの「GOOD LUCK MY WAY」やtetsuyaのファットにドライヴするベースと、yukihiroのタイトなビートのマッチングが心地いい「Killing Me」、どこかモータウンを思わせるウォームなテイストと、レズリー トーンを用いたkenのギターソロの取り合わせが印象的な「Bye Bye」などが届けられた。
今回のライヴを観てあらためて実感したことだが、kenは楽曲のエモーションを増幅させるギターを弾くことに非常に長けているし、プレイ、アプローチの引き出しも多い。そして、ピッキング コントロールの巧みさや、右手と左手のシンクロ率の高さ、歌心に溢れたビブラートやチョーキングのニュアンス、ソリッドでいながら艶やかさも備えた上質なギタートーンなども注目。ギタリストとしての秀でたスキルやセンスの良さと、王道的なロック感をあわせ持った彼は本当に魅力的な存在と言える。
客席から大合唱が起こった「ミライ」や澄んだ夏の青空を彷彿させるサビを配した「Link」などでオーディエンスを完全にひとつにまとめ上げたあと、ラストに「MY HEART DRAWS A DREAM」をプレイ。代々木競技場第一体育館の場内はロマンチックな雰囲気と温かみに包まれ、感動的な余韻を残してライヴは幕を降ろした。
レアな楽曲にスポットをあてるという、ある意味リスキーなコンセプトのライヴでオーディエンスを熱狂させたL’Arc~en~Ciel。クオリティーの高さと幅広さを兼ね備えた楽曲群や高度な演奏力、アリーナ公演にふさわしい大がかりなステージや演出、そしてメンバー4人が放つ強大な存在感などが折り重なった彼らのライヴの観応えは圧倒的で、深く惹き込まれずにいられなかった。
また、今回の円形ステージは間隔を空けて90度ずつ回るため、ステージを後ろから見る時間が必ず訪れるわけだが、それを補うべくメンバーたちは積極的にランウェイに出ていってプレイ。さらに、巨大なLEDスクリーンの設置やインターバルの“THE L’ArQuiz”など、ライヴを通してオーディエンスを楽しませたいという彼らの強い思いが伝わってきた。マニアックな世界観を保ったうえで上質なエンターテメントを成立させるL’Arc~en~Cielという存在に、深い感銘を抱かされたライヴだった。