1961年の登場以来、世界中で長きにわたり愛され続けているギブソンSG。この特集では、ロック史にサウンドを残してきた伝説のSGたちを、ギタリストとの物語をとおしてお届けしよう。今回は、“ギブソンSGと言えば”誰もが思い浮かべるであろう男、アンガス・ヤングが所有するSGの一部をご紹介。
文=細川真平 写真=Michael Ochs Archives/Getty Images
初めて手に入れた、ウォルナット・フィニッシュのSGスタンダード
1976年にAC/DCのギタリストとしてインターナショナル・デビュー(オーストラリアでは前年にデビュー)して以来、“アンガス・ヤングと言えばギブソンSG”と誰もが認めるほど、両者は切っても切れない関係にある。
ヘヴィでアグレッシブでありながら、キレもあって艶もあるそのサウンドは、AC/DCになくてはならないものであり、兄のマルコム・ヤングがグレッチで奏でるリズム・ギターとの絡みもまた、ほかにはない独自のバンド・サウンドを形作った。
それまで、兄マルコムのお下がりのヘフナーのギターを使っていたアンガスがSGスタンダードを初めて買ったのは1970年か1971年、15〜16歳ごろのこと。豪シドニーの実家近くの楽器店でのことだった。
それを見つけたマルコムが、アンガスに“店へ行って試してみるように”と薦めたのだという。試してみて、特にその軽さと弾きやすさが気に入ったアンガスは、そのウォルナット・フィニッシュのSGを入手した。
これはおそらく1970年か1971年製の、つまり当時の現行モデルだった。ボリュート(ヘッドの付け根部分を山型に加工してヘッドの強度を高める仕様)ありの3ピース・ナロー・マホガニー・ネック、ラージ・ピックガード、ステッカード・ナンバードPAFピックアップ、マエストロ・ヴァイブローラ・ユニット搭載が特徴だ(ただし彼はアームははずしている)。
このSGは、AC/DCのデビュー・アルバム『High Voltage』のジャケット(1976年の世界デビュー盤のほう)にもアンガスと共に登場している(写真は加工が施されているようだが)。
彼はこのSGを使用し始めて1年程度で、ピックアップをギブソン製のほかのモデルに交換したようだ。ピックアップ・カバーは、デビュー時期にはフロント/リア共にはずされていたが、そのすぐあとにリアだけカバーが付けられた。また、ジャックがボディ・サイドに増設され、元のジャックはガムテープ状のもので蓋をされる。
理想のSGへたどり着くための試行錯誤
その次に登場するのが、1977年の初のUSツアーの際に、ニューヨークの楽器屋街である48丁目のショップで購入したSGだ。この時、彼は何本かのSGをまとめ買いしたが、その中でこれが最も良かったそうだ。ギターの裏に“2”と書いてあるから、B級品だと店員に言われたそうだが、“イエス、それはまさに俺だ!”とアンガスはこたえたという。
このSGは1970年代のモデルと言われているが、何年かまでは特定できていない。ただ、最初のSGと非常に似ており、違いはフィニッシュがチェリーであることぐらい。また、SGは1972年からスモール・ピックガードに戻るので、それも考え合わせると、やはり1970年か1971年製だろう。このSGもフロント・ピックアップだけカバーがないが、購入後にアンガスがはずして初号機と同じにしたものと思われる。同じように、ジャックもボディ・サイドに増設され、元のジャックは蓋をされた。
このSGは、AC/DCの大出世作となった1979年のアルバム『Highway To Hell』で使用され、その後のツアーでもメインで使われている。多くのロック・ファンが初めてアンガス・ヤングという存在を認識した時、同時に目に入ってきたのがこのSGだったことが多いかもしれない。
ちなみに、『Highway To Hell』ツアーでは、1970年代製のSGカスタムも使用している。ブラック・フィニッシュにホワイトのラージ・ピックガード、ゴールド・パーツ、ヘッドのダイヤモンド・インレイが特徴で、2ピックアップ仕様だ。これは、1977年にニューヨークでまとめて何本か買った中の1本らしい。ただ、ややこしいことに、1980年のメガ・ヒット・アルバム『Back in Black』のあとのツアーでは、元はウォルナット・フィニッシュで、3ピックアップ仕様、ヴァイブローラ搭載のSGカスタムを、上記SGカスタムとまったく同じようにモディファイした個体も使用している。
80年代に登場した“稲妻”インレイのSGスタンダード
1985年あたりから登場してくる、ウォルナット・フィニッシュで、ヴァイブローラが搭載されておらず、指板インレイが稲妻のデザイン(1フレット部分にも入っている)の個体もよく知られている。年式は不明だが、ラージ・ピックガードであることから、1966〜1971年製であることは間違いない(アンガスの好みからすると1970〜1971年製である可能性も高い)。これは、ボディの傷の具合などからして、1980年の『Back in Black』ツアーで使用されたSGをモディファイしたものと思われる(元はと言えば、1977年にニューヨークで購入した1本の可能性もある)。
このモディファイを行なったのは、イギリスのギター・ルシアーであるジョン・ディギンス。彼は、1981年にAC/DCがイギリスのモンスターズ・オブ・ロックに出演する時にアンガスに、自ら製作したSGタイプのギターをプレゼントし、アンガスはそれをライブで使用したのだが、そのギターのインレイが稲妻だった。このギターはその後それほど使われていないが、アンガスは稲妻インレイを気に入り、ジョンに自分のSGのモディファイを依頼したようだ。ただし、ネック自体を替えたのか(ヘッドにはギブソン・ロゴが入っているが)、指板だけを貼り替えたのかなどの詳細は不明だ。いずれにしても、デビュー以来、AC/DCのロゴに使用されている稲妻のモチーフがアンガスのSGを飾るのは、非常に似つかわしいことだと思える。また、この稲妻インレイは、2009年にギブソン・カスタムショップから、その後レギュラー・ラインからも発売されたアンガス・ヤング・シグネチャーSGにも採用されることとなった。
アンガスのSGの本数はあまりに多いため、すべてを紹介するわけには到底いかないのだが、こうして見てきただけでも、彼の強い“SG愛”が伝わるのではないだろうか。
もちろん今でも、SGをプレイし続けているアンガス。間違いなく、彼は死ぬまでSGを、SGだけを、ハイ・ボルテージで弾き続けるはずだ。
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