2年ぶりとなる13枚目のアルバム『HELL』をリリースした、おとぎ話。インタビュー第2弾では、「恋は水色」、「MARY」、「美」の3曲について、ギター・フレーズの構築方法を語ってもらった。
取材・文=小林弘昂 人物撮影=星野俊
今回はウィーザーの1stみたいに
ズンズン歪ませるのかと思ってた。
──牛尾健太
楽曲についても聞かせて下さい。1曲目「恋は水色」ですが、おとぎ話の恋は“水色”なんですね。
有馬 桃色ではないです。水色。
牛尾 それ、初めて言われたかも。
有馬 シャンソンに「恋はみずいろ」(1967年)っていう曲があって。ポール・モーリアとかがカバーしてたりさ。
牛尾 そうなんだ! それは知らなかったな。
この曲は初っ端からチョーキングが炸裂しています。
有馬 おとぎ話のファンの人たちは最近ずっと我慢していたから、あれはみんなが聴きたかったはず。だから大サービスですよ。
たしかに、おとぎ話のレコーディング作品でロックっぽくチョーキングしているのは久しぶりですよね。
牛尾 ライブではチョーキングしていますけど、たしかに音源ではそうですね。最近はほかのバンドのギタリストも全然チョーキングしてないし。
有馬 でも一番テンション上がるじゃん! あれだけは最初から入れようって決めてたんだよね。
この曲には低音弦を使ったリフも出てきます。有馬さんが作曲する時は、そういうフレーズを入れる余白も思い浮かべているんですか?
有馬 今回は全部思い浮かんでいたんですよ。今までは牛尾がフレーズを思いつくまで待つ時間もあったんですけど、今回は自分の頭の中に“こうしたい”というものがあったから、それを伝えて再現してもらった感じ。再現以外が必要な曲はあんまりなかったかな。
牛尾 1音1音を指定されるわけではなくて、有馬のイメージを自分が汲み取って、それをフィードバックする。最近はずっとそんな感じですね。
有馬 ダサいフレーズとか、“これはないな”っていうフレーズは自分の中に明確にあるから、それだけ牛尾に言う。そしたら良い感じのアレンジにしてくれますからね。
サビ裏のアルペジオが凄くキレイですよね。これも有馬さんがイメージを伝えてこうなったんですか?
牛尾 有馬は普通のアルペジオを嫌がるんですよ。Aメロのアルペジオはテンションが入っているんですけど、それは有馬が“入れたほうがいい”と言っていて。
有馬 ギタリストがアルペジオを組み立てる時って、全部のコードにちゃんと音を乗せたがるんですよ。でも有馬はアレンジャーだから、ある程度のループ感があって、おいしいところだけを残したものが好きなんです。
牛尾 それは僕も面白いなと思いましたね。
おいしい部分っていうのは、コード・トーン外のテンション・ノートということ?
有馬 そうそう!
牛尾 「恋は水色」だと、Aメロの最初はFメジャー・コードなんですけど、その時の5音の“タラララ〜ラ”っていうアルペジオにはGの音が入っていて。それで埋もれないというか、存在感がある。
有馬 存在感があるよね。曲にもよるけど、牛尾は“有馬はこれが好きなんだな”っていうところがわかってると思う。
牛尾 それはわかるけど、すぐにフィードバックするのは難しい。
有馬 手癖じゃないことをしてもらうからね。
牛尾 このアルペジオもそうなんですけど、“こんな感じかな?”というものを弾いて、有馬が“それいいね!”となったら、そこからまた自分で構築していきます。
この曲の歪みって、中域に癖がある、ちょっと鼻詰まったような音ですよね。
有馬 J. Rockett Audio DesignsのArcher Ikonを使ったかな。今はシティ・ポップみたいなバンドが多すぎて、しかもそのギタリストたちはみんな値段が高いオーバードライブを、歪みを抑えて使っているじゃないですか? でも、“そういうの、もうめんどくせえな”と思って。今まではArcher Ikonを歪ませて使うことはなかったんですけど、今回は思いっきり歪ませました。
牛尾 そうそう。
有馬 だからリッチな歪みになってるはず(笑)。
牛尾 僕はてっきり、今回はウィーザーの1st(『Weezer(Blue Album)』/1994年)みたいにズンズン歪ませるのかと思ってたら、レコーディングの時に有馬が普通のオーバードライブの音で弾いていて、“え、そうじゃないんだ”って。
ディストーションが合いそうな曲ばかりですけどね。
有馬 牛尾はずっと歪ませたがってた(笑)。80’sにデビューしたバンドがグランジ・ブームの時にアルバムを出したら、ギターの音がリッチなまま歪んでいたことがあったじゃん? そういう大人な感じ!
牛尾 例えばRATとかBOSSのディストーションを使ってパワー・コードを弾いていたら、アルバムの印象が違ったかもね。それはそれで良いんだけど。
「恋は水色」の最後のギター・ソロでは左右でギターのフレーズを分けていますが、これはどういう意図が?
牛尾 レコーディングの前日に“最後のギター・ソロはこんな感じでいい?”って聞いたら、有馬が“それを左右に分ければ?”って言ってきたんですよ。
有馬 “左右に分けて、3人が弾いているようにすればいいんじゃない?”みたいな。それで試しにやってみたら、フレーズを追っかけたほうが気持ち良くなったんです。
牛尾 そうそう。最初はフレーズを全部分けるつもりはなくて、普通に弾こうと思ってたんですけどね。
『HELL』はこういうギミックが多いですよね。
有馬 そういうのばっか! おとぎ話は技術がないから、もともとそういうところでカバーしていたんですよ。でもストイックなアルバムを作り続けてきたことでスキルが上がったから、色々選択することができるようになった。だから今回は全部を詰め込んでいるんじゃなく、一番良いところで止められています。
非の打ちどころがないくらい
良いフレーズだった。
──有馬和樹
2022年の台風がもとになった「MARY」ですが、この曲は90’sオルタナ直球のサウンドですね。
有馬 最初はジェリーフィッシュとか、レモン・ツイッグスとか、トッド・ラングレンみたいな感じにしたかったんですよ。
バロック・ロックというか、少しプログレの匂いがするロックというか。
有馬 そうそう。そしたら牛尾がめちゃくちゃオルタナなギターを入れてきて。でも、非の打ちどころがないくらい良いフレーズだったから、“もういいや!”と思ってそのままにしました(笑)。
牛尾 レコーディング前から有馬に“この曲はブラーの……”って、またブラーの話してるな!
(笑)。
牛尾 “ブラーの「Country Sad Ballad Man」(1997年)みたいにギターがザラついていて、そのうえで空間を活かしたい”と言っていたんです。
有馬 もう、“それでいいよ”って。本当はコーラスをたくさん入れたりしたかったんだけど、牛尾のギターがそうさせてくれなかった(笑)。だからジェリーフィッシュ感はイントロだけに残っています。
牛尾 すみません(笑)。それは今知った!
有馬 あれは奇跡だよ。最高。しかも調子に乗って、イントロのフレーズのあとに歪んだリフを入れちゃったりして。
牛尾 この曲の僕のギターは1テイクなんですよ。しかも僕はテレキャスターとRATでレコーディングしたので、録り終わったあとにエンジニアの人から“ギターの音がレディオヘッドの2nd(『The Bends』/1995年)みたいだね”って言われて(笑)。
テレキャスターとRATはまんまですね(笑)。
有馬 まんますぎて笑っちゃったよ。“あ、やりたかったんだな〜”って(笑)。
牛尾 有馬はそういうのを許してくれる(笑)。
ラストの歌の裏でメロディを弾いていますけど、あれはどんなイメージだったんですか?
牛尾 あそこは決めていなくて、とりあえず曲を最初から最後まで弾いてみたんですよ。それがそのまま使われた感じです。
有馬 最後のフレーズはリズムが合わないとダメだから、ちゃんと弾いてもらいましたけど。
牛尾 そうですね。フレーズはそのままで。
「ミックスナッツ」を聴いたら
“これだ!”とひらめいて。
──有馬和樹
「美」は昔のおとぎ話が持っていたポップス感と、『REALIZE』(2019年)以降のサイケデリック感が上手く調和した楽曲だと思いました。
有馬 「美」はめっちゃムズいですからね。
牛尾 コードがムズい。
有馬 凄く可愛い歌詞で、サビがスピッツみたいにわかりやすい曲を作りたかったんです。どうしようかなと思った時に、実はOfficial髭男dismの「ミックスナッツ」(2022年)が大好きなんですけど、それを聴いたら“これだ!”とひらめいて。
元ネタはヒゲダンだったんですか!
牛尾 僕はその曲を知らなかったんですけど、誰でも知ってる曲ですよね。
有馬 「ミックスナッツ」は元気な曲で良いんですよ。で、おとぎ話が「ミックスナッツ」を作ろうとしたら70年代のパワー・ポップになっちゃうんですよね。それを想像した時に“最高じゃん!“と思って、そのイメージだけで作りました。
サウンドメイクはどのように?
有馬 この曲もArcher Ikonを歪ませて、キレイな感じにしたかな。ギターはテレキャスターを弾いた気がする。
牛尾 今回のアルバムでは有馬が持ってるメキシコ製のテレキャスターをけっこう使ったかも。
有馬 あのテレキャスはピックアップを直列配線にできるから、ハムバッカーみたいな音にしたよね。
サビ前では牛尾さん得意の横移動のダブル・ストップを弾いています。
牛尾 “テーン、テーン、テーン”っていうやつね。
有馬 “ジョージ・ハリスンっぽいの入れてくれてラッキー!”と思った(笑)。
牛尾 1弦と2弦、もしくは1弦と3弦のダブル・ストップが好きだから、ああいうのはよく入れます。それと有馬が作ったデモを聴いた時、間奏のフレーズがトッド・ラングレンっぽかったというのもあって、ジョージ的なフレーズを入れようかなと。
言われてみれば、間奏のフレーズは「I Saw The Light」(1972年)ですね。
有馬 そうなんです!
最後のギター・ソロはダブルで重ねていますよね?
牛尾 ダブルで重ねていますし、後半はオクターブ上を弾いていますね。
有馬 あれ良いよね。デモの段階からあのフレーズを入れていたんですよ。
牛尾 本当はスライドで弾きたかったんですけど。
有馬 でも、“ムジい……”とか言ってて(笑)。
牛尾 “時間ねえわ!”ってなって、普通に弾きました(笑)。
有馬 普通に弾いたら早かったよ〜(笑)。
作品データ
『HELL』
おとぎ話
felicity
MARY-001 / felicity cap-372
2024年5月29日リリース
―Track List―
01.恋は水色
02.MARY
03.美
04.ね。
05.I♡PIG
06.闇落ち
07.絵画
08.繊細
09.です愛
10.正義の味方
―Guitarists―
有馬和樹、牛尾健太